CBAMのスクラップの抜け穴:プレコンシューマーとポストコンシューマーの違い、EU3機関の案、日本の輸出者への影響

CBAMのスクラップの抜け穴を解説します。

このページの内容

EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)のスクラップの抜け穴により、世界のアルミニウム生産の約4分の1が、EUの生産者が負担する炭素コストを免れ続けるおそれがあります。業界団体のEuropean Aluminiumが、2026年7月7日のプレスリリースでこう指摘しています。

欧州委員会は、2028年からプレコンシューマースクラップ(製造工程で発生するスクラップ)に排出量を割り当てる案を示していますが、ポストコンシューマースクラップ(使用済み製品から回収されるスクラップ)は対象外のままです。

この問題への対処をめぐり、EUの3機関の案は分かれています。欧州委員会の提案と2026年6月12日の理事会の一般的アプローチは、プレコンシューマースクラップだけを数えます。2026年9月15日の欧州議会の立場は、アルミニウムのスクラップをすべて前駆体とし、鉄スクラップをリストから外します。2026年11月4日時点で、いずれも法令として採択されていません。2026年10月20日の第1回三者協議(トリローグ)は全体合意に至りませんでした(報道による)。

根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。本ページでは、2つのスクラップの区分、各機関の案、交渉の状況を特定の業界に偏らずに整理し、日本の鉄鋼・アルミニウムの輸出者への影響を説明します。

キャプション:アルミニウムの塊(CNコード 7601)と製品はCBAM対象製品ですが、アルミニウムのくず(CNコード 7602)は付属書Iに含まれていません。


CBAMのスクラップの抜け穴とは何ですか

CBAMのスクラップの抜け穴とは、輸入する鉄鋼やアルミニウムにポストコンシューマースクラップが含まれると申告することで、EUの国境で確認されないまま、CBAM証書の必要数を減らしたりゼロにしたりできる状態です。

CBAMはすでに、スクラップの投入分を体化排出量ゼロとして扱っています。ポストコンシューマースクラップは、いったん溶解すると他の金属と物理的に見分けがつきません。そのため、ポストコンシューマースクラップの比率を高く申告すれば、その出荷に必要な証書数を減らしたりゼロにしたりでき、税関がその申告を確かめる確実な方法はありません。

この抜け穴は起草上のミスではありません。EUは、実際のリサイクルについてはCBAMの負担を軽くしたい一方で、EU域外の生産者が一次金属をリサイクル材と偽ることは防ぎたいと考えています。2026年11月4日時点で、欧州委員会の提案と理事会の一般的アプローチが対処するのはプレコンシューマーの側だけで、欧州議会の立場はアルミニウムのポストコンシューマースクラップも対象にします。


プレコンシューマースクラップとポストコンシューマースクラップの法的な違い

プレコンシューマースクラップは、製品が買い手に届く前に工場内で発生する金属くずで、ポストコンシューマースクラップは、製品が使用され廃棄された後に回収される金属くずです。

この区別がCBAMで重要なのは、欧州委員会の提案が2つの区分を別々に扱うからです。プレコンシューマースクラップは2028年から排出量を数える前駆体になり、ポストコンシューマースクラップは現行の扱いのまま据え置かれます。2つの区分の扱いを、現行ルールと3機関の案で比べると次の表のとおりです。

スクラップの区分 主な発生源 例 現行のCBAMでの扱い 欧州委員会提案と理事会の一般的アプローチ 欧州議会の立場(2026年9月15日)
プレコンシューマースクラップ 製鉄所、鋳造所、製造工場の内部 切削くず、切れ端、湯口、プレスの打ち抜きくず、成形くず 体化排出量ゼロ 2028年1月1日から排出量を数える前駆体(鉄鋼とアルミニウム) アルミニウム:排出量を数える前駆体。鉄鋼:排出量は報告するが数えない
ポストコンシューマースクラップ 使用後に回収 使用済みの飲料缶、解体した窓枠、使用済み自動車の部品、廃家電 体化排出量ゼロ 体化排出量ゼロのまま:前駆体として扱う非CBAM製品のリスト(新しい付属書VIII)で除外 アルミニウム:前駆体のリストに入る(CNコード 7602全体)。鉄鋼:リストに入らない

日本の鉄源の業界用語に置き換えると、工場内で出る自家発生スクラップや、自動車部品のプレス加工などで出る加工スクラップはプレコンシューマーの側に、使用済みの製品や建物から回収される市中スクラップ(老廃スクラップ)はポストコンシューマーの側におおむね当たります。これは当サイトの整理で、法的な定義は交渉の結果によります。

現在は、どちらの区分にも体化排出量が割り当てられていません。電炉法(EAF)でスクラップから製造する鋼にも同じ考え方が適用されており、スクラップの由来がプレコンシューマーかポストコンシューマーかにかかわらず、投入量が多いほど電炉の申告排出量は下がります。欧州委員会の提案は、プレコンシューマー材に限って、この同じ扱いをやめるものです。


欧州委員会が2025年12月に提案した内容

2025年12月17日の欧州委員会提案COM(2025)989(提案、法律ではありません)は、鉄鋼とアルミニウムのプレコンシューマースクラップを2028年1月1日から排出量を数えるCBAMの前駆体とし、ポストコンシューマースクラップは体化排出量ゼロのまま残す内容です。

この欧州委員会の提案は、スクラップの規定を、CBAMの川下製品への対象拡大や、濫用的な行為を防ぐ新しいルールとあわせて盛り込んでいます。法的には、規則(EU)2023/956に新しい第7条第2a項を加えます。原文は "Embedded emissions in input materials (precursors) listed in Annex VIII shall be considered in the determination of embedded emissions in goods." です(当サイト仮訳:付属書VIIIに掲げる投入材料(前駆体)の体化排出量は、製品の体化排出量の算定において考慮される)。

提案の付属書IIIは、前駆体として扱う非CBAM製品のリストである付属書VIIIを加えます。行は2つで、鉄鋼のくず(ex 7204)とアルミニウムのくず(ex 7602)です。どちらにも "except post-consumer scrap"(当サイト仮訳:ポストコンシューマースクラップを除く)と書かれています。提案の第2条により、両方の規定は2028年1月1日から適用されます。

スクラップそのものは付属書I(CBAM対象製品のリスト)に加わらないため、スクラップを輸入する場合は引き続きCBAM証書は不要です。なお、規則の付属書III(適用除外の国と地域のリスト)はスクラップのルールとは関係がなく、提案の付属書IIIとは別のものです。

欧州委員会は、その理由を前文第19項と第20項、提案理由説明書で述べています。EU域内ではプレコンシューマースクラップが発生する工程の排出にEU ETSの炭素価格がかかる一方、CBAMでは同じスクラップの排出量がゼロとされるため、そのスクラップから作られた輸入品はEU製品より炭素価格が低くなる、という説明です。

影響評価では、ポストコンシューマースクラップも含める選択肢を検討したうえで、採用を見送っています。提案理由説明書によると、その選択肢は "could disincentivise the circular economy"(当サイト仮訳:循環経済への意欲をそぐおそれがある)とされました。

前文第20項はこの弱点を明示し、"misreporting pre-consumer scrap as post-consumer scrap"(当サイト仮訳:プレコンシューマースクラップをポストコンシューマースクラップと偽って報告すること)を防ぐよう欧州委員会に求めています。抜け穴を生んでいるのは技術的な見落としではなく、この政策上の選択です。


理事会の一般的アプローチの内容

2026年6月12日の理事会の一般的アプローチ(文書10423/26)は、第7条第2a項、ポストコンシューマースクラップを除外した付属書VIIIの2つの行、2028年1月1日の適用開始という欧州委員会のスクラップの設計を、そのまま維持しています。

理事会の案でも、両方の金属のポストコンシューマースクラップは体化排出量ゼロのままです。理事会が加えた点は2つあります。

  • 証拠の要件:理事会の前文第20項は、スクラップがポストコンシューマーであるという主張は "robust, reliable, and verifiable evidence of origin"(当サイト仮訳:確実で信頼でき、検証可能な原産の証拠)で裏付けるべきだとし、その証拠がなければプレコンシューマースクラップとして扱うべきだとしています。
  • 見直しの範囲:第30条に基づく欧州委員会の見直し報告で、プレコンシューマースクラップへの排出量の割り当てが、カーボンリーケージ(炭素漏出)や、EU域内と世界のスクラップの入手可能性、リサイクルの慣行に与える影響を評価するとしています。

ポストコンシューマースクラップをCBAMに組み込むのが難しい理由

アルミニウムや鉄鋼は、いったん溶解すると、リサイクル材の含有率をEUの国境で確実に検証できません。

これが欧州委員会の設計の背景にある技術的な制約であり、抜け穴が成り立つ理由でもあります。一次アルミニウムと、実際にリサイクルされたポストコンシューマーのアルミニウムは、再溶解後には見分けがつきません。スクラップとして申告するためだけに製錬された新地金と、消費者向け製品として使われリサイクルの流れを実際に経た金属を、化学的な特徴で区別することはできません。

一次金属を使い証書のコストを負う輸出者には、実際の配合にかかわらず、ポストコンシューマースクラップの比率を高く申告する経済的な動機があります。一方、EUの税関には、国境でその申告を否定できる実用的な検査手段がありません。

議論されている対策は、化学的な検査ではなく、原産の追跡を軸にしています。理事会の前文第16項は、特定の製品について、金属が最初に液体の状態で生産され鋳造された施設の証拠(ミルシートなど)を求めます。

欧州議会の修正案は、同じ考え方に業界用語の「溶解・鋳造地(melt and pour)」を使い(第6条第2項(e)、第19条第2a項)、ポストコンシューマーのアルミニウムスクラップから作られた製品には、現地での確認に基づく検証報告書という、スクラップに特有の証拠を加えます。2026年11月4日時点で、これらの規定はいずれも採択された法令ではありません。


欧州議会の採決で抜け穴は塞がれたのですか

抜け穴を塞いだ採択済みの法令はまだありませんが、欧州議会の立場はアルミニウムについて抜け穴を塞ぐ内容です。

環境委員会(ENVI)は2026年7月6日の採決でアルミニウムのポストコンシューマースクラップの除外を残しましたが、本会議は2026年9月15日にこの除外を削除しました。

環境委員会は報告書(A10-0201/2026)を賛成56、反対11、棄権12で採択しました。委員会の採決に続く報告書は、付属書VIIIの鉄鋼の行を削除し、ポストコンシューマーのアルミニウムスクラップの主張に証拠を求めましたが、アルミニウムの行とその除外はそのまま残しました。

European Aluminiumは翌日に反応しました。2026年7月7日のプレスリリースで、環境委員会の採決は "key aluminium loopholes unresolved"(当サイト仮訳:アルミニウムの主要な抜け穴を未解決のまま残す)としました。

さらに、スクラップのルールを変えなければ "around one quarter of global aluminium production could continue to avoid the carbon costs faced by European producers"(当サイト仮訳:世界のアルミニウム生産の約4分の1が、欧州の生産者が負う炭素コストを免れ続けるおそれがある)と述べました。環境委員会の案がアルミニウムのポストコンシューマーの除外を残したことを、業界として最も明確に指摘した声明です。

同じプレスリリースでは、同団体が求める対策も示されています。プレコンシューマーかポストコンシューマーかを問わず、前駆体として使うすべてのアルミニウムスクラップにデフォルト値を適用し、検証できないスクラップ含有率の申告が実質的な割引として機能しないようにする、という内容です。そのためには、新しい前駆体リストを作る "Annex III of the Commission's proposal"(欧州委員会提案の付属書III)にポストコンシューマースクラップを含める必要があるとしています。

ポール・フォス(Paul Voss)事務局長はさらに踏み込み、9月の本会議までにこの抜け穴と50トン基準の両方が未解決のままなら、アルミニウムについてCBAMの本格実施期間を一時停止するよう欧州委員会に求めました。鉄鋼や肥料の業界の要求との比較は、9月の本会議を前にした業界の反応(英語)のニュースで紹介しています。

本会議は2026年9月15日、提案への修正案を賛成464、反対50、棄権159で採択し(採択文書P10_TA(2026)0276)、理事会との交渉のために案件を委員会に差し戻しました。欧州議会の立場は、スクラップのルールを次の5点で変更します。最初の2点は環境委員会の報告書によるもので、残りの3点は本会議で加わりました。

  • 鉄スクラップをリストから外す(修正案84):付属書VIIIのex 7204の行を削除します。修正後の前文第20項では、プレコンシューマーの鉄スクラップの排出量は "should be reported but not be taken into account"(当サイト仮訳:報告するが考慮しない)とされます。
  • 証拠(修正案47と48、第6条第2項の新しい(da)と(db)):ポストコンシューマーのアルミニウムスクラップを使って生産した製品には、現地での確認の後にポストコンシューマースクラップであることを確認する検証報告書を求めます。鉄鋼やアルミニウムのスクラップを含むすべての製品には、スクラップの量と種類の申告を求めます。
  • すべてのアルミニウムスクラップを前駆体に(修正案112と136):付属書VIIIのアルミニウムの行を、ポストコンシューマースクラップの除外なしで "7602 Aluminium waste and scrap"(当サイト仮訳:7602 アルミニウムのくず)とします。
  • 単一のデフォルト値(修正案111、新しい前文第14b項):すべてのアルミニウムの塊に、"regardless of whether it contains pre- or post-consumer scrap"(当サイト仮訳:プレコンシューマーまたはポストコンシューマーのスクラップを含むかどうかにかかわらず)1つのデフォルト値を適用し、その値は製錬国の一次アルミニウム生産の平均CO2原単位に基づきます。
  • アルミニウムに5トンの基準(修正案97、113、133、付属書VIIの新しい第1a項):第2a条の質量基準を、アルミニウム製品については正味重量5トンとします。

採択された文書は、アルミニウムの2つの区分をすべての箇所で同じには扱っていません。修正後の前文第20項はプレコンシューマーのアルミニウムスクラップの排出量を数えると述べ、新しい第3条第35a号はプレコンシューマーのアルミニウムスクラップだけを定義しています。一方で、ポストコンシューマーであるとの主張に証拠を求めるルールは、対象を広げた付属書VIIIの行と併存しています。これらの規定をどう整合させるかは、交渉に委ねられています。

欧州議会は第7条第2a項も、2028年1月1日の適用開始日も修正していません。同じ日に採択されたもう1つの文書、暫定脱炭素基金に関するP10_TA(2026)0277には、スクラップの規定はありません。


迂回のリスクはどの程度ですか

アルミニウム業界は、迂回のリスクを関係する金属の量で示しており、ポストコンシューマースクラップを世界のアルミニウム供給の約25%としています。

European Aluminiumは世界の生産に占める割合で影響を示し、交渉の結果に直接の競争上の利害を持つ生産者兼リサイクル事業者のHydroは、コストと設備能力の数値を示しています。2つの業界の情報源による次の3つの数値は、いずれも同じ懸念を表しています。

  • 世界のアルミニウム生産の約4分の1が「欧州の生産者が負う炭素コストを免れ続けるおそれがある」(European Aluminium、2026年7月7日のプレスリリース)。Hydroは2026年4月15日に公表した声明で、ポストコンシューマースクラップを "around 25 percent of global aluminium supply"(当サイト仮訳:世界のアルミニウム供給の約25%)としています。
  • 欧州のアルミニウムのリサイクル能力の最大3分の1が、抜け穴に対処しなければ危うくなるとする推計を、Hydroは同じ声明で引用していますが、推計の出所は示していません。
  • アルミニウム1トン当たり200ユーロを超えるコスト上の不利:Hydroは、2035年には欧州のリサイクル事業者の投入コストが、EU域外の競合より10%以上高くなるおそれがあるとしています。

これらは業界の主張に基づく数値で、EUの影響評価の数値ではありません。欧州委員会が検証した予測ではなく、一方の当事者による推計として読む必要があります。2026年7月時点で、スクラップに関するカーボンリーケージのリスクを欧州委員会が公式に定量化した資料は公表されていません。


50トン基準が問題を大きくする理由

アルミニウムは重量当たりの価値が高いため、年間50トンの少量免除の基準(英語)では、鉄鋼やセメントのような重い製品に比べて、はるかに多くの取引が免除の対象になります。

電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。免除は税関申告で申告する必要があります。取引額の大きい出荷でも、この質量基準を十分に下回ることがあります。

業界がよく挙げる具体例があります。200室のホテル改修で使うアルミニウム製のドア一式は、アルミニウムの重量で約9.2トンにすぎません。その年に他に何も輸入しない輸入者であれば基準を大きく下回るため、実際の体化排出量やスクラップ含有率にかかわらず、この出荷はCBAMの義務を負わずにEUに入ります。

鉄鋼やセメントでは、50トンは通常の出荷のごく一部です。一方、アルミニウムの完成品では、1つのプロジェクト全体が50トンに収まることがあります。これはスクラップの区分とは別の弱点ですが、問題をさらに大きくします。基準を下回る製品には、証書のコストも、スクラップ含有率の申告義務もかかりません。

欧州議会の立場は、アルミニウム製品の基準を正味重量5トンに引き下げ、9.2トンのドア一式も対象に含めるものです。欧州委員会の提案と理事会の一般的アプローチには、アルミニウムに特有の基準はありません。

規模の目安として、同じ9.2トンのドア一式が日本製(CNコード 7610 10 00、ドア、窓とその枠)で、輸入者が基準を超えている場合を2026年の値で計算すると、次のとおりです。

日本のデフォルト値1.290 × 1.10 = 1.419、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 0.152 = 0.1482、差し引き製品1トン当たり1.2708枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり104.61ユーロ、9.2トンで962.43ユーロです(2026年11月4日に当サイトの計算ツールで計算)。

規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。


産業界の立場は一致していません

スクラップの規定への産業界の反応は、CBAMへの賛否という単純な線ではなく、生産ルートによって分かれています。

一次アルミニウムの生産者、リサイクル事業者、鉄鋼メーカーは、スクラップの区分にそれぞれ異なる利害を持っています。主な団体と企業の立場は次の表のとおりです。

団体・企業 代表する業界 スクラップの規定に対する立場
European Aluminium 一次アルミニウムと川下のアルミニウムの生産者 前駆体として使うすべてのアルミニウムスクラップにデフォルト値を適用し、ポストコンシューマースクラップを提案の前駆体リスト(新しい付属書VIIIを作る提案の付属書III)に加えること、検証の信頼性が確立するまで、すべてのアルミニウムの塊に一次アルミニウムのカーボンフットプリントに基づく単一のデフォルト値を適用することを求めています
Hydro アルミニウムの生産者兼リサイクル事業者 溶解・鋳造地の検証の空白が大規模な虚偽申告を可能にすると警告し、抜け穴が残ればEUのリサイクル能力が危うくなるとしています
EUROFER EUの鉄鋼生産者 川下製品への対象拡大のパッケージは全体として歓迎しましたが、2026年6月12日の理事会の一般的アプローチへの反応で、専用の影響評価なしにプレコンシューマーの鉄スクラップを前駆体に含めることを "regrets"(遺憾とする)と述べています

この対立は、日本語でも報じられています。JETROは2026年1月16日のビジネス短信(ブリュッセル発)で、European Aluminiumが「今回提案された製造工程で発生するものだけでなく、製品として使用された後に回収されるスクラップも対象に含めるべきだと主張した」と伝えました。同じ記事は、EUROFERが「アルミニウム業界が要望した製造工程で発生するスクラップをCBAM計算に組み込むことは、鉄鋼業界にとっては逆効果を生むと否定的な見解を示した」と報じています。

この対立は、交渉の行方を見通すうえで重要です。European AluminiumとHydroは、ポストコンシューマーの除外を狭めるか削除することを求めています。EUROFERの異議はこれと逆方向で、プレコンシューマーの前駆体化が発効する前に欧州委員会がより慎重に検討するよう求め、スクラップ市場とEU自身の循環経済の目標への意図しない影響を警告しています。

欧州議会の立場は両方の要求を取り入れ、アルミニウムの行を広げ、鉄鋼の行を削除しました。欧州委員会の提案と理事会の一般的アプローチは、どちらも取り入れていません。CBAMをめぐるスクラップの争いは、産業界と環境団体の対立ではなく、各業界のサプライチェーンの内側で起きています。


CBAMニュースレター(英語)

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日本の鉄鋼・アルミニウム輸出者への影響

日本の輸出者にCBAMの法的義務はありませんが、スクラップのルールは、EUの買い手に検証済みの実排出量を提供する日本の電炉メーカーとアルミニウムの生産者に直接関係します。

証書の購入、CBAM申告、納付の義務を負うのは、EUの認可CBAM申告者(EUの輸入者またはその間接的通関代理人)です。日本の生産者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に登録し、検証済みのデータを提供できます。そのデータの中で、スクラップの区分がどう扱われるかが問題になります。

日本からEUへの輸出に占める鉄鋼とアルミニウムの規模

EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象製品(付属書Iのコード)14億4,820万ユーロのうち、鉄鋼(鉄鉱石を除く第72類と第73類)が12億4,590万ユーロ、アルミニウムが1億9,500万ユーロです(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。

スクラップの規定が関係する2つの部門の規模は、次の表のとおりです(Eurostat Comext、2025年)。

区分 2025年の金額 2025年の数量 EU域外輸入に占める割合(金額ベース/数量ベース)
鉄鋼(鉄鉱石を除く第72類と第73類) 12億4,590万ユーロ 80万9,223トン 2.04%/1.40%
アルミニウム(全体) 1億9,500万ユーロ 4万2,260トン 0.64%/0.46%
うちアルミニウムの塊(7601) 210万ユーロ 122トン 0.01%/0.00%
うちアルミニウム製品 1億9,280万ユーロ 4万2,139トン 1.39%/1.50%
 うち板・シート・ストリップ(7606) 1億1,360万ユーロ 3万4,692トン 2.89%/3.20%
 うちはく(7607) 3,010万ユーロ 3,624トン 2.30%/1.28%

日本のアルミニウムの対EU輸出は、ほぼすべてが製品で、塊はわずかです。スクラップの前駆体ルールが採択されれば、実排出量で申告する場合に、日本の圧延メーカーなどが製造工程で投入するプレコンシューマースクラップが、板やはくの体化排出量に影響することになります。

デフォルト値で申告される限り、スクラップの区分は証書数に影響しません

デフォルト値は国とCNコードごとに1つの値で、スクラップの投入比率を反映しないため、スクラップの区分が証書数に影響するのは実排出量で申告する場合だけです。

日本の表(実施規則(EU)2025/2621付属書I、実施規則(EU)2026/1740により差し替え)では、生産ルートが記載された鉄鋼の行はすべて高炉・転炉法(炭素鋼のルートC、低合金鋼のルートF、または両方を示すC/F)で、電炉法の行はありません(ステンレス鋼、銑鉄、合金鉄などの行にはルートの記号がありません)。スクラップを使う日本の電炉メーカーの製品も、検証済みの実排出量を提供するまでは、熱延鋼板(CNコード 7208)で2.100 tCO2e(CO2換算トン)の高炉材と同じデフォルト値で評価されます。

キャプション:電炉法では、スクラップは排出量ゼロで投入され、直接還元鉄(DRI)と銑鉄は前駆体として体化排出量を持ち込みます。

日本の表のアルミニウムの行は、すべて二次アルミニウム(ルートL)で記載されています。2026年の輸入分をデフォルト値で計算すると、塊(CNコード 7601 10 90)は製品1トン当たり25.29ユーロで、ルートK(一次アルミニウム)で記載された国より低くなります(2026年第3四半期の価格82.32ユーロ、2026年11月4日に当サイトの計算ツールで計算)。

原産国 付属書Iのルート デフォルト値(tCO2e/t) 2026年(マークアップ10%) 無償割当調整 証書数(製品1トン当たり) 2026年のコスト(製品1トン当たり)
日本 L(二次アルミニウム) 0.360 0.396 0.975 × 0.091 = 0.088725 0.307275 25.29ユーロ
韓国 L(二次アルミニウム) 0.360 0.396 0.088725 0.307275 25.29ユーロ
インド、アラブ首長国連邦 K(一次アルミニウム) 1.870 2.057 0.975 × 1.423 = 1.387425 0.669575 55.12ユーロ
その他の国(付属書Iの「Other Countries」の表) K(一次アルミニウム) 2.203 2.4233 1.387425 1.035875 85.27ユーロ
中国 K(一次アルミニウム) 3.000 3.300 1.387425 1.912575 157.44ユーロ

日本のアルミニウム製品のデフォルト値は、板・シート・ストリップ(7606)とはく(7607)が1.730、棒と形材(7604)が1.280から1.290で、板(CNコード 7606 12 99)の2026年のコストは製品1トン当たり144.78ユーロです。

欧州議会の単一のデフォルト値の案(前文第14b項)は、製錬国の一次アルミニウム生産の平均CO2原単位に基づく値を、スクラップ含有率にかかわらず適用するものです。日本のように付属書Iの表がルートLで記載されている国にこの案がどう当てはめられるかは、交渉の結果と、その後の実施ルールによります。

実排出量で申告する日本の生産者への影響

検証済みの実排出量で申告する日本の電炉メーカーやアルミニウムの再溶解・圧延メーカーにとって、プレコンシューマースクラップの前駆体化は、2028年からの体化排出量の増加要因になり得ます。

欧州委員会と理事会の案が採択されれば、購入した加工スクラップなどのプレコンシューマースクラップの体化排出量が、第7条第2a項により製品の体化排出量の算定で考慮されます。欧州議会の案では、鉄鋼についてはプレコンシューマースクラップの排出量を報告するだけで数えず、アルミニウムについてはポストコンシューマーも含むすべてのスクラップを数えます。

理事会と欧州議会の案は、どちらもポストコンシューマーの主張に証拠を求めており、欧州議会の案はスクラップの量と種類の申告も求めています。日本の生産者が今から用意できる記録は次の4つです。

  1. スクラップの購入記録:仕入れ先、数量、品種(加工スクラップ、市中スクラップなど)を、施設とロットごとに残します。
  2. 発生源の証拠:ポストコンシューマーと主張するスクラップについて、回収元を示す書類を保存します。理事会の案では、証拠がなければプレコンシューマーとして扱われます。
  3. 溶解・鋳造地の記録:金属が最初に溶解され鋳造された施設を、ミルシートなどで示せるようにします。
  4. モニタリング計画への反映:スクラップの投入をシステム境界と前駆体の記録に含め、認定検証機関が確認できる形にします。検証の要件はCBAMの検証(輸出者向け)で説明しています。

今後の流れ

スクラップの規定は採択された法令ではなく、審議中の立法提案の中にあり、3機関は異なる案を持って交渉に臨んでいます。

欧州議会は2026年9月15日に賛成464、反対50、棄権159で修正案を採択し、理事会との機関間交渉のために案件を環境委員会に差し戻しました。手続の段階は、順に次のとおりです。

  1. 2026年6月12日(完了):理事会が一般的アプローチ(文書10423/26)に合意しました。
  2. 2026年9月15日(完了):欧州議会の本会議が、7月6日の環境委員会の採決を踏まえ、修正案(P10_TA(2026)0276)を賛成464、反対50、棄権159で採択しました。
  3. 2026年10月20日:欧州議会、理事会、欧州委員会の第1回の政治的な三者協議が開かれ、報道によると全体合意には至りませんでした。金属スクラップの扱いは、技術的な作業に回された4つの論点の1つです(報道のまとめ、英語)。第2回は2026年11月30日と報じられています。
  4. 2028年1月1日:川下製品への対象拡大とスクラップの前駆体ルールの適用開始の予定日です。それまでに最終合意に達し、正式に採択されることが条件です。

三者協議で調整が必要なスクラップの論点は、次の表のとおりです。

論点 欧州委員会提案(2025年12月17日) 理事会の一般的アプローチ(2026年6月12日) 欧州議会の立場(2026年9月15日)
鉄スクラップ(CNコード 7204) 前駆体、ポストコンシューマースクラップを除く 前駆体、ポストコンシューマースクラップを除く 行を削除。プレコンシューマーの排出量は報告するが数えない
アルミニウムスクラップ(CNコード 7602) 前駆体、ポストコンシューマースクラップを除く 前駆体、ポストコンシューマースクラップを除く 前駆体、すべてのアルミニウムのくず
ポストコンシューマーの主張への証拠 欧州委員会が虚偽報告を防ぐ(前文第20項) 検証可能な原産の証拠、なければプレコンシューマーとして扱う(前文第20項) アルミニウムは現地での確認後の検証報告書。スクラップの量と種類を申告
アルミニウムの塊のデフォルト値 スクラップに特有のルールなし スクラップに特有のルールなし スクラップ含有率にかかわらず単一のデフォルト値(前文第14b項)
アルミニウム製品の基準 50トンのまま 50トンのまま 正味重量5トン
適用開始 2028年1月1日 2028年1月1日 日付の修正なし

ポストコンシューマーのアルミニウムスクラップが前駆体になるか、鉄スクラップがリストに残るかは、交渉で決まる未解決の問題です。3つの案のいずれも、最終的な結果を保証するものではありません。川下製品への対象拡大の全体像はCBAMの川下製品への対象拡大で説明しています。


EUの輸入者と日本の輸出者が2026年に取るべき対応

現行の本格実施期間のルールではプレコンシューマーとポストコンシューマーのどちらのスクラップも体化排出量ゼロで、3つの案のいずれも2028年より前にスクラップの前駆体ルールを適用しないため、2026年のCBAMの実務は何も変わりません。

輸入者も輸出者も、この提案を理由に現在の申告を変える必要はありません。実務上のポイントは2つあります。第一に、スクラップ含有率の申告でCBAMの負担を下げている輸入者は、現在は国境での検証が求められていなくても、裏付けの書類を今から保存しておくべきです。理事会と欧州議会の案は、どちらもポストコンシューマーの主張に証拠を求めています。

第二に、結果は金属によって異なります。欧州議会の案では、すべてのアルミニウムスクラップが前駆体として数えられ、プレコンシューマーの鉄スクラップは報告されるだけで数えられません。欧州委員会と理事会の案では、両方の金属のプレコンシューマースクラップだけが数えられます。

第27条のCBAMの迂回防止規定は、製品の軽微な変更と輸入の人為的な分割を例示しており、欧州委員会がすでに持つ手段(監視、調査、税関データとCBAM登録簿の照合)を示しています。


CBAMのスクラップの抜け穴に関するよくある質問

CBAMのスクラップの抜け穴はすでに塞がれていますか

いいえ。2026年11月4日時点で、スクラップの抜け穴を塞ぐ法令は採択されていません。 2025年12月の欧州委員会の提案と2026年6月12日の理事会の一般的アプローチは、プレコンシューマースクラップだけを前駆体として数えます。2026年9月15日の欧州議会の立場は、ポストコンシューマースクラップを含むすべてのアルミニウムスクラップを前駆体として扱います。

案件は立法手続の途中で、2026年10月20日の第1回三者協議は全体合意に至らず(報道による)、第2回は2026年11月30日と報じられています。

CBAMでプレコンシューマースクラップに当たるのは何ですか

プレコンシューマースクラップは、製品が消費者に届く前の製造工程で発生する金属くずです。 製鉄所や鋳造所の内部で出る切削くず、切れ端、湯口、プレスの打ち抜きくずが含まれます。欧州委員会の提案では、この区分が鉄鋼とアルミニウムについて2028年から排出量を数えるCBAMの前駆体になり、現在の体化排出量ゼロの扱いが終わります。欧州議会の立場では、数えるのはアルミニウムだけです。

CBAMでポストコンシューマースクラップに当たるのは何ですか

ポストコンシューマースクラップは、製品が使用され廃棄された後に回収される金属くずです。 使用済みの飲料缶、解体した窓枠、使用済み自動車の部品が含まれます。欧州委員会の提案と理事会の一般的アプローチでは体化排出量ゼロのままで、前駆体として扱う非CBAM製品の新しいリスト(付属書VIII)は、鉄鋼とアルミニウムのくずを「ポストコンシューマースクラップを除く」形で掲げています。

2026年9月15日の欧州議会の立場は、アルミニウムのスクラップについてこの除外を削除します。欧州委員会の提案理由説明書は、ポストコンシューマースクラップを含めると循環経済への意欲をそぐおそれがあるとしています。

スクラップの抜け穴は鉄鋼にも関係しますか

はい。ただし3つの案は鉄鋼を異なる形で扱います。 欧州委員会の提案と理事会の一般的アプローチはプレコンシューマーの鉄スクラップを前駆体とし、EUROFERはこれに反対して、先に専用の影響評価を行うよう求めました。欧州議会の立場は前駆体リストから鉄スクラップの行を削除し、プレコンシューマーの鉄スクラップの排出量は報告するが数えない形にします。ポストコンシューマー材の検証の難しさは、両方の金属に共通です。

プレコンシューマースクラップの前駆体ルールはいつから適用されますか

適用開始の予定日は2028年1月1日です。 COM(2025)989の第2条に定められ、理事会の一般的アプローチも欧州議会の修正案も変えていません。この日付は、欧州議会と理事会が合意に達し、正式に採択することが前提です。2026年10月20日の第1回の政治的な三者協議は、報道によると全体合意に至らず、第2回は2026年11月30日と報じられています。2026年11月4日時点で、このルールは採択された法令ではありません。

日本の電炉メーカーやアルミニウムの生産者に影響はありますか

影響があるのは、主にEUの買い手に検証済みの実排出量を提供する日本の生産者です。 日本の表のデフォルト値は国とCNコードごとに1つの値で、スクラップの投入比率を反映しないため、デフォルト値で申告される限りスクラップの区分は証書数を変えません。日本の鉄鋼の行で生産ルートが記載されたものはすべて高炉・転炉法で電炉法の行はなく、アルミニウムの行はすべて二次アルミニウム(ルートL)で記載されています。

欧州委員会と理事会の案が採択されれば、2028年から、購入したプレコンシューマースクラップの体化排出量が実排出量の算定に加わります。スクラップの購入記録と発生源の証拠を今から残しておくことが、どの案にも備える方法です。

スクラップそのものをEUに輸出する場合、CBAM証書は必要ですか

必要ありません。 鉄鋼のくず(CNコード 7204)とアルミニウムのくず(CNコード 7602)は、規則(EU)2023/956付属書IのCBAM対象製品ではありません。欧州委員会の提案もスクラップを付属書Iに加えず、前駆体として扱う非CBAM製品のリスト(付属書VIII)に載せるだけです。

スクラップの輸入者に証書の義務はなく、影響を受けるのは、そのスクラップから作られた鉄鋼やアルミニウムの製品の体化排出量です。対象製品の一覧はCBAM対象製品リストにあります。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。