
EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)の検証を受けるかどうかで、日本の施設の実排出量がEUの輸入者のCBAM申告書でそのまま使われるか、マークアップ(2026年10%、2027年20%、2028年以降30%)を上乗せしたデフォルト値に置き換えられるかが決まります。実排出量を使いたい施設は、初めて検証を受ける年に、認定検証機関による現地訪問を受けなければなりません(実施規則(EU)2025/2546第2条)。
日本からの影響は小さくありません。EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象製品(付属書Iのコード)は14億4,820万ユーロで、そのうち鉄鋼が12億4,590万ユーロ、アルミニウムが1億9,500万ユーロです(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。
本ページでは、現地訪問を担当できる検証機関の条件、訪問時の確認項目、準備すべき書類、期間と費用、検証に失敗した場合のコストを、日本の鉄鋼・アルミニウム輸出者の立場から順に解説します。
キャプション:CBAM検証の現地訪問では、検証機関が生産施設に赴き、工程を確認し、データ記録を抽出して照合します。
CBAMの検証とは何か、なぜ日本の輸出者に関係するのか
CBAMの検証は、EU域外の施設が申告する特定体化排出量が実際の排出を真実かつ公正に表しているかを、独立した第三者が確認する手続きです。
検証の枠組みは、委任規則(EU)2025/2551(検証機関の認定)と実施規則(EU)2025/2546(検証の原則、現地訪問、検証報告書)に定められています。検証が必要なのは、体化排出量を実排出量で算定する場合だけで、デフォルト値で申告する場合は不要です(規則(EU)2023/956第8条第1項)。
CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。日本の輸出者にCBAMの法的な義務はなく、義務を負うのはEUの認可CBAM申告者です。ただし、輸出者のデータが検証されていなければ、輸入者はデフォルト値を使わざるを得ず、その追加コストを購入価格の引き下げとして輸出者に求めるか、検証済みデータを提供できる供給者に切り替えます。
マークアップ分には、証書価格が満額でかかります。トルコ産の熱延鋼板(CNコード 7208)の場合、デフォルト値は2.428 tCO2e(CO2換算トン)で、30%のマークアップは0.728 tCO2eに当たり、2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で製品1トン当たり59.96ユーロです。日本産の熱延鋼板(デフォルト値2.100)では、マークアップ分は2026年に0.21 tCO2e(製品1トン当たり17.29ユーロ)、2028年以降に0.63 tCO2e(同51.86ユーロ、82.32ユーロ一定で計算)です。
法的な義務は輸入者にありますが、CBAMの検証を通じて、EU域外の生産者はEUの申告手続きに直接組み込まれます。CBAM係数は2026年の97.5%から2030年の51.5%に下がり、2034年からは適用されません(指令2003/87/EC第10a条第1a項)。検証を終えた輸出者はEU市場での立場を維持できます。一方、無償割当調整が縮小するにつれて、検証済みデータを提供できない輸出者への価格圧力は強まります。
CBAMの現地訪問を行えるのは誰ですか
CBAMの検証機関は、EU加盟国の国家認定機関(NAB)が委任規則(EU)2025/2551に基づき、EN ISO/IEC 17029:2019に照らして認定した法人です(規則(EU)2023/956第18条)。
認定検証機関の条件は、次の3つです。
- EU加盟国の国家認定機関から、EN ISO/IEC 17029:2019に照らしてCBAMの認定を受けていること
- 検証する施設から独立していること(検証結果に経済的な利害を持たないこと)
- CBAM登録簿に登録していること。検証機関の登録は2026年9月1日に始まっており、認定から2か月以内に申請します(規則(EU)2023/956第10a条第1項)
登録は2段階で進みます。まず欧州委員会がEU Accessで技術ユーザーとしてのアクセスを処理し、次にCBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)で申請して、認定国の管轄当局が可否を決定します(欧州委員会の手続き文書、2026年8月28日)。
日本、中国、インド、トルコなどの輸出国の検証機関は、自国の認定機関からCBAMの認定を受けることができません。そのため、域外からの申請を受け付けるEUの国家認定機関に申請することになります。2026年10月21日の欧州委員会の状況表によると、該当するのは、COFRAC(フランス)、ESYD(ギリシャ)、Accredia(イタリア)、RvA(オランダ)、PCA(ポーランド)、SNAS(スロバキア)、Swedac(スウェーデン)の7機関です。
同じ状況表によると、CBAMの認定を提供する国家認定機関は24、申請受付の準備が整った機関は20です。欧州委員会の税制・関税同盟総局(DG TAXUD)は2026年6月30日に「CBAM排出量の検証」のページを、2026年8月24日に検証機関と認定機関向けのガイダンスを公表しました。検証報告書は2027年1月からCBAM登録簿で発行されます。
認定を確認できる検証機関は5件、日本の法人は含まれず
国家認定機関の登録簿で確認できるCBAMの認定は、2026年10月13日時点で5件で、いずれもEU域内の法人です。
認定の範囲は、委任規則(EU)2025/2551付属書Iに定める11の活動グループ単位で決まります。主なグループは、V(焼結鉱、銑鉄、直接還元鉄、粗鋼)、VII(アルミニウムの塊)、VIII(鉄鋼製品とアルミニウム製品)、L(CCUS)、LI(EUに輸入される電力)、LII(間接排出量)です。5件の認定の範囲は、次の表のとおりです(各国家認定機関の登録簿、2026年10月19日確認)。
| 認定を受けた法人 | 国家認定機関 | 認定の範囲(活動グループ) |
|---|---|---|
| EmiCert S.A. | ESYD(ギリシャ) | 11グループすべて(I~VIII、L、LI、LII) |
| Bureau Veritas Italia S.p.A. | Accredia(イタリア) | I~VIII、L、LII(輸入電力LIを除く) |
| RINA Services S.p.A. | Accredia(イタリア) | 11グループすべて |
| SGS ICS Italia S.r.l. | Accredia(イタリア) | I、II、IV、VI、VIII、L、LI、LII(硝酸III、粗鋼などV、アルミニウムの塊VIIを除く) |
| Intertek Certification AB | Swedac(スウェーデン) | I~VIII、LI、LII(CCUSのLを除く) |
認定の効力は記載された活動グループにしか及ばないため、検証機関は案件ごとに範囲を確認します(委任規則(EU)2025/2551付属書II第2.2項)。高炉一貫製鉄所のように粗鋼から圧延製品までを生産する施設では、V(粗鋼)とVIII(鉄鋼製品)の両方を含む認定かどうかを、契約前に確かめてください。2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。各機関の範囲はCBAM認定検証機関で追跡しています。
JETROは2026年10月27日の記事で、Bureau VeritasとSGSがCBAMの認定を取得したと報じていますが、認定を受けたのはグループ全体ではなく、上の表にあるイタリアの法人です。日本のグループ会社が認定を受けているわけではありません。
日本の認定機関やGX-ETSの検証機関はCBAMの検証ができますか
日本の認定機関はCBAMの検証機関を認定できず、GX-ETSやGXリーグの検証の資格もCBAMの検証資格にはなりません。
GX-ETSの「登録確認機関」(経済産業省のリスト)とGXリーグの「登録検証機関」は、日本国内の制度上の役割です。CBAMの検証機関は、EU加盟国の国家認定機関から、記載された活動グループについて認定を受けた法人に限られます。経済産業省は2025年5月の「CBAMへの対応に関する委員会」の資料で、EU域外の認定機関の活用をEUに求める論点を挙げていますが、2026年11月4日時点でその仕組みはありません。
JETROは2026年10月27日、日本で活動する検証機関の一部が事前検証(プレ検証)を提供し、CBAMの認定の取得を目指していると報じています。事前検証は正式な検証ではなく、検証報告書の代わりにはなりません。日本の支援事業者の情報は日本のCBAMコンサルタントにまとめています。
検証サービス各社は、施設1か所当たり5,000ユーロから5万ユーロの費用を提示しています。これは市場推計で、欧州委員会の数値ではありません。費用は施設の複雑さ、対象製品の数、施設の規模によって変わり、日本の施設では検証チームの渡航費が加わる場合もあります。早めに検証機関を確保した生産者は、順番待ちの競合他社より有利な立場に立てます。
現地訪問で検証機関が確認する5つの項目
施設が初めて検証を受ける年には、物理的な現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条)。
検証機関は施設内を実際に見て回り、主な排出工程の観察、設置された計測機器の確認、データ記録の抽出を行います。2年目以降にバーチャル訪問や訪問の省略が認められる条件は、次の表のとおりです。
| 訪問の形 | 条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 物理的な現地訪問 | 施設が初めて検証を受ける年は必須 | 実施規則(EU)2025/2546第2条 |
| バーチャル訪問 | 直前の報告期間に物理的な訪問があり、その後に重大な変更がないこと | 同第3条 |
| 訪問の省略 | 直前の2つの報告期間に物理的な訪問があること | 同第3条 |
| 例外的なバーチャル訪問 | 事業者の管理の及ばない、重大で異常かつ予見できない事情で物理的な訪問ができないこと | 同第4条 |
検証機関が現地訪問で共通して確認するのは、次の5項目です。
- 活動量データの正確さ:燃料(ガス、石炭、重油)の消費記録、電力の請求書、原料の請求書を、排出量計算の入力値と突き合わせます。検証機関はメーターの読み値を購入請求書や生産日誌と比べ、欠落や不整合を探します。
- 排出係数の妥当性:燃料や原料ごとの係数が、実際に使った物質の化学組成を反映しているかを確認します。認定試験所の分析値や公表済みの認証された係数は認められますが、汎用的な値や古い国別平均値を使う場合は根拠の説明が必要です。
- モニタリング方法の正しさ:モニタリングは実施規則(EU)2025/2547付属書II第B項に従う必要があります。計算に基づく方法(標準法は第B.3.1項、マスバランス法は第B.3.2項)、測定に基づく方法(第B.6項)、または施設の部分ごとの組み合わせ(第B.2項)です。移行期間中に2024年末まで認められていた他制度のルールは、もう使えません。
- モニタリング計画の完全さ:モニタリング計画はシステム境界を定め、生産に関係するすべての工程を含める必要があります。セメントのクリンカーや尿素肥料のアンモニアのような前駆体の体化排出量も含みます。重要な排出源を除いたシステム境界は、重大な誤りとみなされます。
- 過去の期間との整合性:過去の生産データがある場合は、申告された排出量が過去の期間と整合しているかを確認します。排出原単位に説明のつかない急な変化があれば、追加確認の対象になります。
日本の施設に特有の注意点もあります。GX-ETSや省エネ法の報告のために整備した燃料・エネルギーのデータは活用できますが、CBAMのシステム境界と計算方法は実施規則(EU)2025/2547のルールに従います。国内報告の数値をそのまま流用せず、CBAMの方法で計算し直した根拠を説明できるようにしてください。
検証機関の到着前に準備する10種類の書類
CBAMの現地訪問の前に、日本の施設は次の10種類の書類をそろえる必要があります。
書類の種類と、検証機関がそれぞれを必要とする理由は次の表のとおりです。どれか1つでも欠けていると、検証が遅れる原因になりがちです。
| 書類の種類 | 内容 | 検証機関が必要とする理由 |
|---|---|---|
| モニタリング計画 | システム境界、データの出所、排出係数、計算方法 | 検証の基準となる方法の枠組みを示す |
| 燃料の購入請求書 | 数量、供給者、納入日、発熱量の証明 | 燃料消費の活動量データを照合する |
| 電力の請求書と電源の証明 | 月ごとの消費量、供給者、該当する場合は電源別の排出係数 | 電力に関する入力値を確認する |
| 原料の受入記録 | 鉄鉱石、石灰石、ボーキサイトなどの重量、組成、炭素含有量 | マスバランス計算と前駆体の追跡に必要 |
| 試験所の分析結果 | 報告期間に使った燃料と原料の化学分析 | 排出係数を実際の組成と照合する |
| 生産記録 | 製品の種類別、生産ルート別、報告期間別の生産トン数 | 製品1トン当たりの特定体化排出量の計算の基礎 |
| 計測機器の校正記録 | 流量計、はかり、分析計の校正証明書 | 計測機器の精度とトレーサビリティを確認する |
| 上流の供給者の前駆体データ | 前駆体ごとの検証済みの特定体化排出量 | 輸出品がCBAM対象製品を投入材として使う場合に必要 |
| 炭素価格の書類 | 税の賦課決定、排出量取引制度の登録簿の記録、炭素コストの請求書 | 第9条の控除の申請を裏付ける |
| 過去の検証報告書(ある場合) | 前期の検証結果、重大な指摘、是正措置 | 整合性の確認の基準になる |
事業者の排出量報告書のサマリーは16項目で(実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)、2026年8月14日のガイダンス第3号による3文書の構成で、英語により提供します(同実施規則第10条第4項)。日本語の請求書や日報を検証機関が読めるよう、日本語に対応できる検証チームを選ぶか、翻訳の手順を事前に決めておくと、訪問中の確認が速く進みます。
CBAM申告書は暦年(1月から12月)単位です(規則(EU)2023/956第6条第1項)。エネルギーや生産のデータを年度(4月から翌年3月)単位で管理している日本企業は、暦年で集計し直せるよう、月次のデータを保存してください。
GX-ETSの記録を炭素価格の書類として用意することはできますが、2026年11月4日時点で日本の炭素価格は第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です(未採択)。GX-ETSの無償割当分は、実際に支払われた炭素価格になりません。詳しくはCBAMの炭素価格控除をご覧ください。
申告期限までに記録しておくべき事項を、各項目の根拠規定とともにまとめています。英語版をすぐにダウンロードできます。
このお知らせのために保存するのは、メールアドレスだけです。 プライバシーポリシー(英語)
CBAMの現地訪問と検証にかかる期間
単一製品で生産ルートが単純な施設の現地訪問は、通常2日から3日です。
ポルトランドセメントのキルンや、単一の鋼種を生産する電炉がこれに当たります。生産ルートが複数ある施設、別の施設から前駆体を受け入れる施設、異なるCBAM部門の製品を併産する施設では、現地で5日から10日に加え、訪問の前後に遠隔での書類審査が必要です。
検証機関との契約から最終的な検証報告書の受領までは、多くの施設で6週間から12週間です。内訳の目安は次のとおりです。
- 書類の提出と事前の書類審査:1週間から2週間
- 現地訪問:2日から10日
- 検証機関による指摘事項のまとめと確認依頼:2週間から4週間
- 生産者の回答と最終報告書の発行:1週間から2週間
複数のEUの買い手に輸出する生産者は、施設ごとに1回の検証で足ります。検証済みのデータをCBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)にアップロードすれば、その施設と取引するすべての認可申告者と共有できるため、買い手ごとに検証を繰り返す必要はありません。登録の手順はCBAMの事業者用ポータル(O3CI)で説明しています。
CBAMの検証に失敗した場合はどうなりますか
検証に失敗した場合の正式な結果は2種類あり、その違いが計画を左右します。
限定付きの検証報告書は、検証機関が重大な誤りを見つけたものの、範囲が限られている場合に発行されます。報告書には具体的な誤りが記載され、生産者は基礎データを修正できます。修正後の報告書が2027年9月30日の申告期限までに間に合い、輸入者が修正後の数値を受け入れれば、CBAM申告書に使えます。
否定的な検証報告書(完全な不合格)は、申告データを裏付けられない場合、モニタリング計画に根本的な欠陥がある場合、システム境界の欠落が大きく信頼できる特定体化排出量を確認できない場合に出されます。この場合、輸入者は使える検証済みの実データを持たず、その施設の製品はすべてデフォルト値で申告されます。デフォルト値のマークアップは2026年10%、2027年20%、2028年以降30%です。
デフォルト値での申告に戻ると、コストは大きく膨らみます。中国産のスラブ(CNコード 7207 12 10)を2026年にデフォルト値で輸入する場合、デフォルト値3.169 tCO2eはマークアップ10%で3.4859になり、そこから0.975 × ベンチマーク1.364を差し引くと、82.32ユーロで製品1トン当たり177.48ユーロです。年10万トンを出荷する生産者では、年間約1,775万ユーロ(10万トン × 177.48ユーロ)が購入価格の引き下げ要求として跳ね返ります。
日本産の熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)では、2.100 × 1.10 = 2.310、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575、差し引き製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。年10万トンなら約802万ユーロです。検証済みデータでどれだけ節約できるかは、施設自身の検証済み排出量と、実排出量の場合に差し引く基準(Column Aのプロセスベンチマークに前駆体の無償割当を加えたもの)で決まります。
高炉・転炉法(BF-BOF)の鉄鋼の排出原単位として製品1トン当たり1.8から2.1 tCO2eという概算がよく引用されますが、デフォルト値でもベンチマークでも検証済みの数値でもないため、ここではコストを計算しません。貴社の製品とトン数での推計はCBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
一度検証に失敗しても、それで終わりではありません。初回に失敗した生産者は、モニタリングの仕組みを改善し、モニタリング計画を作り直したうえで、次の報告期間に改めて検証を依頼できます。最初の基準になるのは2027年9月までに検証を受ける2026年のデータで、2027年のデータは2028年9月30日が期限の申告に向けて検証を受ける必要があります。
キャプション:検証報告書の結果によって、EUの輸入者のCBAM申告書で実際の体化排出量が使われるか、デフォルト値が使われるかが決まります。
デフォルト値では、日本の電炉メーカーも高炉ルートで評価されます
日本のデフォルト値の表で鉄鋼の行に記載された生産ルートは高炉・転炉法(C、F、C/F)だけで、電炉法のルートの行はありません。
ルート記号の意味は実施規則(EU)2025/2620付属書のとおりで、Cは高炉・転炉法の炭素鋼、Fは高炉・転炉法の低合金鋼です。電炉法は、炭素鋼のD(直接還元鉄・電炉)とE(スクラップ・電炉)、低合金鋼のGとH、高合金鋼のJで、いずれも日本の表にはありません(2026年11月4日に実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740による改正後)の日本の表で確認)。
デフォルト値を使う場合、ベンチマークは国の表に記載されたルートで決まります(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.1項)。このため、スクラップを使う日本の電炉メーカーの製品も、検証済みの実排出量を提供するまでは高炉材と同じデフォルト値2.100(熱延鋼板)で評価されます。電炉法の低い排出を価格に反映させる方法は、検証を受けることだけです。詳しくは電炉法(EAF)とCBAMをご覧ください。
いつ始めるべきか:2026年の報告期間の検証スケジュール
2026年にCBAM対象製品をEUに輸出する日本の生産者は、2026年中に検証機関と連絡を取る必要があります。
2026年分の検証から申告までの主な日付は、次の表のとおりです。
| 日付 | 出来事 | 根拠 |
|---|---|---|
| 2026年1月1日 | 本格実施期間の開始、2026年の報告期間の開始 | 規則(EU)2023/956第36条第2項(b) |
| 2026年9月1日 | 検証機関のCBAM登録簿への登録開始 | 規則(EU)2023/956第10a条第1項 |
| 2026年9月30日 | 認定検証機関の登録簿での実務アクセス開始 | DG TAXUD、2026年7月31日 |
| 2027年1月 | CBAM登録簿での検証報告書の発行開始 | 欧州委員会、2026年8月24日 |
| 2027年2月1日 | CBAM証書の販売開始 | 第20条第1項 |
| 2027年9月30日 | 2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限 | 第6条第1項、第22条第1項 |
検証機関の登録開始から申告期限までは13か月あります。ボトルネックになるのは検証能力です。2026年10月13日時点で認定を確認できる検証機関は5件で、欧州委員会のリストは未公表です。検証には6週間から12週間かかるため、2026年末までに検証機関と連絡を取っていない生産者は、2027年9月30日の期限までに検証報告書を受け取れない恐れがあります。規則には、検証機関の不足に対する不可抗力条項、善意による免除、適用除外はありません。
検証機関と契約する前に済ませておく項目は、次のとおりです。
- 生産品が規則(EU)2023/956付属書I(鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素)に該当するかを確認し、CNコードを特定する
- 事業者の排出量報告書とそのサマリーを、実施規則(EU)2025/2547付属書IVの構成で英語により準備する(移行期間の任意様式のコミュニケーションテンプレートは使われなくなりました)
- 生産ルート(高炉・転炉法、電炉法、乾式セメント、ホール・エルー法によるアルミニウム、ハーバー・ボッシュ法による肥料、水蒸気メタン改質による水素)を文書化する
- システム境界、データの出所、計算方法を定めたモニタリング計画を作成する
- 報告期間の燃料、電力、原料の記録を少なくとも12か月分集める
- 前駆体を特定し、上流の供給者から特定体化排出量のデータを入手する
- 流量計、はかり、分析計に、報告期間内の日付の校正証明書があることを確認する
- EUの国家認定機関からEN ISO/IEC 17029:2019に照らしてCBAMの認定を受け、貴社の製品の活動グループを範囲に含み、CBAM登録簿に登録済みの検証機関を選ぶ
日本の輸出者のCBAM対応全体における検証の位置づけ
CBAMの現地訪問は、日本での生産とEUでの輸入申告をつなぐデータの流れの一部です。
検証済みの実排出量をCBAMの事業者用ポータル(O3CI)で提供する生産者は、EUの買い手の証書コストを下げて買い手の価格競争力を守り、2034年に向けて段階的に下がるCBAM係数への備えがあることも示せます。
検証費用(施設1か所、1回当たり5,000ユーロから5万ユーロ)は出荷量にかかわらず発生する固定費で、出荷する製品のマークアップを回避することで回収します。日本産の熱延鋼板では、2026年のマークアップ分(製品1トン当たり17.29ユーロ)だけで、5,000ユーロは約289トン、5万ユーロは約2,892トンの出荷分に相当し、マークアップが30%になる2028年以降はそれぞれ約96トン、約964トンです。実際に回収できるかは、施設の検証済み排出量がデフォルト値をどれだけ下回るかで決まります。
トルコ産のグレークリンカーは、デフォルト値で2026年に輸入すると製品1トン当たり74.22ユーロです(マークアップ込みで1.551 tCO2e、0.975 × ベンチマーク0.666を差し引き、82.32ユーロで計算)。上記の範囲の検証費用は、数千トン分のデフォルト値のコストと比べれば小さな額です。トルコのセメント協会Türkçimentoが示すグレークリンカー1トン当たり0.88 tCO2は協会の数値で、検証済みの実排出量ではないため、ここではコストを計算しません。
検証機関が来る前に集めて整理すべき排出量データの分類は、CBAMの輸出者のデータ要件で、排出量報告書のサマリーの16項目、モニタリング方法、第9条の控除に必要な炭素価格の書類とともに説明しています。日本の製品別のコストは日本の鉄鋼輸出とEU CBAMとアルミニウムの各ページにあります。
日本の公的な情報源としては、経済産業省の「炭素国境調整措置」のページ(2026年6月1日更新)と、検証のQ&Aを含む「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月)、JETROの算定実務マニュアル(2026年3月)と貿易投資相談があります。日本の状況はCBAMと日本にまとめています。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。
CBAMの検証は、EU域外のすべての輸出者に義務付けられていますか
CBAMの検証は、デフォルト値ではなく検証済みの実排出量を使いたい輸出者にだけ必要です(規則(EU)2023/956第8条第1項)。EUの買い手がデフォルト値を使うことを受け入れる輸出者に、検証の義務はありません。
ただし、デフォルト値には付属書Iの値に対して2026年10%、2027年20%、2028年以降30%(肥料は1%)のマークアップが加わり、EUの輸入者のCBAMコストを押し上げます。このコストは通常、購入価格の引き下げとして輸出者に返ってきます。実排出量がデフォルト値を下回る輸出者には、検証を受ける直接の経済的な理由があります。
日本の検証機関をCBAMの検証に使えますか
EU域外の施設は、どの国に拠点を置く検証機関でも使えます。ただし、その検証機関が委任規則(EU)2025/2551に基づき、EN ISO/IEC 17029:2019に照らして、EU加盟国の国家認定機関からCBAMの認定を受けている必要があります。
日本、中国、インド、トルコ、韓国の認定機関はCBAMの検証機関を認定できないため、日本に拠点を置く検証機関は、域外からの申請を受け付けるEUの7つの国家認定機関のいずれかに申請します。拠点にかかわらず、検証機関は2026年9月1日から開かれているCBAM登録簿に登録する必要があります。
GX-ETSの登録確認機関はCBAMの検証ができますか
GX-ETSの登録確認機関やGXリーグの登録検証機関であることは、CBAMの検証資格になりません。これらは日本国内の制度上の役割です。CBAMの検証機関は、EU加盟国の国家認定機関から、委任規則(EU)2025/2551付属書Iの活動グループについて認定を受けた法人に限られます。2026年10月13日時点で認定が確認できる5件に、日本の法人は含まれません。
期限までに認定検証機関が見つからない場合はどうなりますか
2027年9月30日の申告期限までに、特定の国や施設に対応できる認定検証機関が見つからず、検証済みの排出量報告書を入手できない場合、EUの輸入者はその施設の製品をデフォルト値で申告しなければなりません。規則(EU)2023/956には、この場合の不可抗力による免除、善意による免除、期限の延長はありません。輸入者はマークアップとそのコストを負い、輸出者はそのコストを購入価格の引き下げとして求められます。
CBAMの検証に合格すればコストはゼロになりますか
CBAMの検証に合格しても、CBAMのコストはなくなりません。検証によって変わるのは、デフォルト値の代わりに実際の特定体化排出量が使われるという点です。実排出量がマークアップ込みのデフォルト値を下回れば、検証はコストを下げます。節約額は両者の差と、それぞれの方法で差し引くベンチマークで決まります。
無償割当調整を差し引いた後に残る検証済み排出量には、CBAM証書の価格(2026年第3四半期の公式価格は1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ)が適用されます。義務がゼロになるのは、検証済み排出量が無償割当調整以下の場合か、自国で実際に支払った炭素価格が第9条で認められた場合だけです。2026年11月4日時点で、日本を含めどの国の炭素価格も認められていません。
CBAMのデフォルト値は常に実排出量より高いのですか
いいえ。デフォルト値はCNコードごとの国別の値にマークアップを加えたもので、多くの生産者の実排出量はそれを下回りますが、国のデフォルト値より効率の低い施設は上回る場合があります。また、2つの方法では差し引くベンチマークも異なります。デフォルト値では実施規則(EU)2025/2620のColumn B、実排出量ではColumn Aに前駆体に含まれる無償割当を加えたものです。どちらが安くなるかは製品と施設によるため、輸出者とEUの買い手は、選ぶ前に両方の方法で試算してください。