
EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)のもとで、日本からEUに輸出される熱延鋼板(CNコード 7208)は、デフォルト値を使う場合、2026年輸入分で製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書が必要です。2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で計算すると、製品1トン当たり80.20ユーロになります。
同じ条件で計算すると、トルコ産の半製品(CNコード 7207 11 14)は製品1トン当たり99.70ユーロ、中国産スラブ(CNコード 7207 12 10)は177.48ユーロです。
鉄鋼は、EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象製品(付属書Iのコード)14億4,820万ユーロのうち12億4,590万ユーロ、約86%を占めます(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。
CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。日本の鉄鋼メーカーや商社に法的な義務はありませんが、EUの買い手の証書コストは、出荷ごとに示される体化排出量で決まります。本ページでは、日本の主要な鉄鋼製品ごとのコスト、日本の炭素価格の扱い、提供すべきデータ、2026年からの対応策を順に説明します。
キャプション:CBAMの鉄鋼コストは生産ルートによって変わります。高炉・転炉法とスクラップ電炉法では、体化排出量に大きな差があります。
日本からEUへの鉄鋼輸出:CBAM対象の製品と金額
EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象の鉄鋼製品は12億4,590万ユーロ、80万9,223トンで、EU域外からの輸入に占める割合は金額ベースで2.04%、数量ベースで1.40%です。
日本は金額ベースで第13位、数量ベースで第16位の供給国です(鉄鉱石を除く第72類と第73類の付属書I製品、Eurostat Comext、2025年)。2023年の22億1,790万ユーロ、185万9,395トンから、金額で44%、数量で56%減っています。内訳は、第72類の完成品が8億810万ユーロ(74万8,767トン)、第73類の製品が4億2,580万ユーロ(5万1,354トン)、粗鋼と半製品が730万ユーロ(6,221トン)、銑鉄・合金鉄・直接還元鉄が470万ユーロ(2,881トン)です。
日本からの主な鉄鋼製品を2025年の金額順に並べると、次の表のとおりです(Eurostat Comext、2025年)。
| CNコード(4桁) | 製品 | 2025年の金額 | 2025年の数量 | EU域外輸入に占める割合(金額/数量) | 日本の順位(金額ベース) |
|---|---|---|---|---|---|
| 7208 | 熱延鋼板(非合金鋼、幅600mm以上) | 2億1,673万ユーロ | 34万6,721トン | 3.30%/3.02% | 9位 |
| 7225 | 合金鋼(ステンレス以外)の圧延鋼板(電磁鋼板を含む) | 1億7,762万ユーロ | 6万215トン | 11.31%/4.55% | 4位 |
| 7318 | ねじ、ボルト、ナット類 | 1億7,643万ユーロ | 2万1,127トン | 2.68%/1.15% | 10位 |
| 7326 | その他の鉄鋼製品 | 1億4,382万ユーロ | 1万4,720トン | 1.97%/0.78% | 8位 |
| 7209 | 冷延鋼板(非合金鋼、幅600mm以上) | 1億1,888万ユーロ | 18万4,504トン | 7.45%/7.48% | 7位 |
| 7210 | めっき・被覆鋼板(非合金鋼、幅600mm以上) | 9,436万ユーロ | 10万6,305トン | 1.77%/1.65% | 11位 |
| 7304 | 継目無鋼管 | 5,737万ユーロ | 1万204トン | 4.75%/1.97% | 6位 |
| 7220 | ステンレス鋼の圧延鋼板(幅600mm未満) | 5,098万ユーロ | 2,408トン | 11.85%/3.35% | 3位 |
| 7229 | 合金鋼(ステンレス以外)の線 | 4,039万ユーロ | 1万3,675トン | 12.24%/4.28% | 3位 |
日本は、電磁鋼板を含む合金鋼板(7225)、幅の狭いステンレス鋼板(7220)、合金鋼線(7229)で、EUへの供給国として上位4位以内に入ります。いずれもトン当たりの単価が高い製品です。ねじとボルト(7318)は、経済産業省が専用のCBAM算定ガイドラインを作成した製品でもあります。
熱延鋼板(7208)の数量は、2023年の134万1,700トンから2025年には34万6,721トンへと74%減りました。要因の一つと考えられるのは、EUが2025年9月26日に日本産を含む熱延鋼板に課した6.9%から30%の確定反ダンピング関税です(欧州委員会通商総局、2025年9月26日)。ただし、統計だけで因果関係を証明することはできません。また、反ダンピング関税はCBAMのコストではありません。
日本産鉄鋼のCBAMコスト:製品別の計算(2026年と2030年)
CBAMで必要な証書数は、製品1トン当たりの体化排出量から無償割当調整を差し引き、製品の質量を掛けて求めます。
計算式は、証書数=max[0,特定体化排出量-無償割当調整-第9条の炭素価格分]×質量です(規則(EU)2023/956第6条第2項(c)、第31条)。製品1トン当たりの無償割当調整は、CBAM係数×部門横断補正係数(CSCF)×CBAMベンチマークで、ベンチマークは実施規則(EU)2025/2620に定められています。CBAM係数は2026年が97.5%、部門横断補正係数は2026年から2030年まで100%です(実施決定(EU)2026/1862)。
2026年のCBAM係数97.5%は、EUの生産者が維持する無償割当の割合です。無償割当調整は製品1トン当たりの固定量なので、ベンチマークを上回る排出量は、デフォルト値のマークアップ分も含めて、2026年から全額が証書の対象になります。
前掲の表で輸出額が最も大きい熱延鋼板について、CNコード 7208 51 20で計算すると次のとおりです。デフォルト値2.100 × 1.10 = 2.310、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575、差し引き製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。
日本の主要な鉄鋼製品7品目について、同じ方法で計算した結果を次の表に示します。デフォルト値は実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の日本の表の「総排出量」の値、ベンチマークは高炉・転炉法(ルートC)のColumn Bの値です。計算は2026年11月4日に当サイトの計算モジュールで行いました。
| 製品(CNコード) | 日本のデフォルト値(tCO2e/t) | 2026年(マークアップ10%) | ベンチマーク(Column B、ルートC) | 2026年の証書数(製品1トン当たり) | 2026年のコスト(製品1トン当たり) | 2030年のコスト(製品1トン当たり) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 半製品(7207 11 14) | 2.100 | 2.310 | 1.364 | 0.9801 | 80.68ユーロ | 166.91ユーロ |
| 熱延鋼板(7208 51 20) | 2.100 | 2.310 | 1.370 | 0.97425 | 80.20ユーロ | 166.65ユーロ |
| 冷延鋼板(7209 16 90) | 2.143 | 2.3573 | 1.458 | 0.93575 | 77.03ユーロ | 167.52ユーロ |
| めっき鋼板(7210 49 00) | 2.130 | 2.343 | 1.491 | 0.889275 | 73.21ユーロ | 164.73ユーロ |
| 無方向性電磁鋼板(7225 19 90) | 3.530 | 3.883 | 1.488 | 2.4322 | 200.22ユーロ | 314.68ユーロ |
| ラインパイプ用継目無鋼管(7304 19 10) | 2.110 | 2.321 | 1.383 | 0.972575 | 80.06ユーロ | 167.17ユーロ |
| ボルト・ねじ(7318 15 42) | 2.800 | 3.080 | 1.364 | 1.7501 | 144.07ユーロ | 241.82ユーロ |
2030年の列は、同じデフォルト値、ベンチマーク、価格(82.32ユーロで一定)に、2030年輸入分のマークアップ30%とCBAM係数51.5%を当てはめた数値です。実施規則(EU)2025/2620の前文第10項は2027年1月1日以降の輸入品についてベンチマークの更新を予定しているため、2030年の数値は目安です。
熱延鋼板のコストは、マークアップとCBAM係数の変化によって年ごとに上がります。同じ価格82.32ユーロで比べると、製品1トン当たり2026年80.20ユーロ、2027年100.31ユーロ、2028年123.23ユーロ、2030年166.65ユーロです。貴社の製品とトン数での推計は、CBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
他の供給国と比べた日本のデフォルト値
日本の熱延鋼板のデフォルト値2.100 tCO2e(CO2換算トン)は、韓国の2.118、トルコの2.428、中国の3.187、インドの4.280より低く、米国の1.400より高い水準です。
同じ熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)を2026年にデフォルト値で輸入した場合のコストを、供給国別に比べると次のとおりです(82.32ユーロ、実施規則(EU)2025/2621および2025/2620、2026年11月4日計算)。
| 原産国 | デフォルト値(tCO2e/t) | 2026年の証書数(製品1トン当たり) | 2026年のコスト | 2030年のコスト |
|---|---|---|---|---|
| 米国 | 1.400 | 0.20425 | 16.81ユーロ | 91.74ユーロ |
| 日本 | 2.100 | 0.97425 | 80.20ユーロ | 166.65ユーロ |
| 韓国 | 2.118 | 0.99405 | 81.83ユーロ | 168.58ユーロ |
| トルコ | 2.428 | 1.33505 | 109.90ユーロ | 201.75ユーロ |
| 中国 | 3.187 | 2.16995 | 178.63ユーロ | 282.98ユーロ |
| インド | 4.280 | 3.37225 | 277.60ユーロ | 399.95ユーロ |
日本のコスト面での優位は、トルコ、中国、インドに対しては大きく、韓国とはほぼ同水準です。JETROは2026年9月18日の記事で、米国のデフォルト値が低い理由の一つに電炉比率の高さを挙げています。
デフォルト値では、日本の電炉メーカーの製品も高炉ルートで評価されます
デフォルト値を使う場合、輸出者は生産ルートを選べず、ベンチマークは日本の表に記載されたルートで決まります(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.1項)。
日本の表の鉄鋼の行に記載されているルートは、炭素鋼の高炉・転炉法(C)、低合金鋼の高炉・転炉法(F)、両者の併記(C/F)だけで、電炉法(D、E)の行は1つもありません。このため、スクラップを使う日本の電炉メーカーの製品も、検証済みの実排出量を提供するまでは高炉材と同じデフォルト値で評価されます。
熱延鋼板(CNコード 7208)のColumn Bのベンチマークは、高炉・転炉法(C)が1.370、直接還元鉄(DRI)を使う電炉法(D)が0.481、スクラップ電炉法(E)が0.072です。CNコード 7207 11 14と7207 12 10では、それぞれ1.364、0.475、0.066です。実排出量で申告する場合、差し引く量はColumn Aのプロセスベンチマークに、前駆体に含まれる無償割当を加えたものになります。マークアップは2026年10%、2027年20%、2028年以降30%です。
鉄鋼のCBAM体化排出量はどのように算定されますか
鉄鋼の体化排出量は、生産した製品1トン当たりの直接排出量で、実施規則(EU)2025/2547の方法により施設単位で算定します。
規則(EU)2023/956付属書IIに掲げる第72類と第73類の製品では、電力消費による間接排出量は算定に含まれません。間接排出量を含めるのは、付属書IIに記載のない凝結させた鉄鉱石(焼結鉱やペレットなど、CNコード 2601 12 00)だけです(第7条第1項)。体化排出量の定義は第3条第22号にあります。
実施規則(EU)2025/2547付属書II第B.2項は、EU域外の施設事業者に2つのモニタリング方法を認めています。計算に基づく方法は、活動量データと計算係数を使い、標準法(第B.3.1項)またはマスバランス法(第B.3.2項)で算定します。マスバランス法では、燃料と原料で投入される炭素から、製品、スラグ、廃棄物で出ていく炭素を差し引きます。測定に基づく方法(第B.6項)は、排ガス中のCO2濃度と流量を連続測定します。
事業者は、最も正確で信頼性の高い結果が得られる方法を選び、施設の部分ごとに方法を組み合わせることもできます。どの方法でも、関連するすべての生産工程にわたるシステム境界を定めたモニタリング計画に記載します。
鉄スクラップ(CNコード 7204)は付属書Iの対象外で、前駆体として体化排出量を持ち込みません。高炉・転炉法の施設がスクラップの配合を増やすと、算定上の特定体化排出量は下がります。CBAM係数が2027年以降に下がるにつれて、スクラップの使用を記録し、増やすことの経済的な意味は大きくなります。
輸出者のデータがEUの輸入者に届く経路は2つあります。CBAM登録簿に登録した事業者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に施設のデータを一度アップロードすれば、検証を受けた後、すべてのEUの買い手と共有できます。登録していない事業者は、同じ報告書を買い手ごとに直接送ります。検証済みのデータがなければ、EUの輸入者はマークアップ付きのデフォルト値を使い、その追加コストを購入価格の引き下げとして輸出者に求めます。
CBAMが日本の鉄鋼輸出者に与える実務上の影響
日本の鉄鋼輸出者にCBAMの法的義務はなく、証書の購入、申告、納付の義務はEUの認可CBAM申告者が負います。
義務を負うのは、EUの輸入者またはその間接的通関代理人です。JETROは2026年9月18日の記事で、日系企業のEU子会社自身が認可申告者となり、報告義務を負う場合もあると指摘しています。商業上の影響はすぐに表れます。検証済みの低い排出量を示せる輸出者は買い手に選ばれ、デフォルト値に頼る輸出者は価格競争力を失います。
日本の鉄鋼輸出者にとってのCBAMの商業上の影響は、次の4点です。
- EUの買い手は、出荷ごとの体化排出量で証書の必要数を計算します。 検証済みの低い数値は買い手のコストを下げ、取引関係を強くします。
- デフォルト値は、データ提供を促すため意図的に高く設定されています。 実施規則(EU)2025/2621のマークアップは2026年10%、2027年20%、2028年以降30%で、マークアップ分には、証書価格が満額で適用されます。
- 検証済みデータは、すべてのEUの買い手に使えます。 事業者用ポータル(O3CI)に一度登録すれば、施設の製品を輸入するすべてのEUの輸入者とデータを共有できるため、検証への投資が無駄になりません。
- 2028年から2030年にかけてコストの圧力は強まります。 CBAM係数は2028年の90%から2030年の51.5%に下がり、無償割当調整が縮小します。日本の熱延鋼板は、82.32ユーロ一定で製品1トン当たり2028年123.23ユーロから2030年166.65ユーロに上がります。
鉄鋼部門全体の背景、CNコード(第72類と第73類)、熱延コイルの前駆体ルール、鋼管や形鋼などの川下製品の扱いは、CBAM 鉄鋼部門ガイドで説明しています。
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日本の炭素価格はCBAMの第9条で控除されますか
2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。
第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)に関する実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は2026年6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で未採択です。どの国の炭素価格もまだ認められていません。控除の対象は、実際に支払われた炭素価格に限られ、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。
日本の主な炭素価格制度と、第9条との関係は次の表のとおりです(各制度の出典は表内に記載、2026年11月4日確認)。
| 制度 | 対象と価格 | 開始・状況 | 鉄鋼のCBAMとの関係 |
|---|---|---|---|
| 地球温暖化対策のための税(温対税) | 化石燃料全般、CO2 1トン当たり289円(環境省) | 2012年10月1日から段階導入、2016年4月1日に最終税率 | 鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭は免税(経済産業省の令和9年度税制改正要望)。高炉の排出の大部分を占める石炭には課されていません |
| 排出量取引制度(GX-ETS) | 直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者(経済産業省) | 2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化 | 鉄鋼にはベンチマーク方式で無償割当(ICAP)。無償割当分は実際に支払われた価格になりません |
| 化石燃料賦課金 | 化石燃料の輸入者などにCO2量に応じて課金(JETRO) | 2028年度から、未施行 | 2026年と2027年の輸入には何も主張できません |
| 東京都・埼玉県の排出量取引制度 | 主に大規模な建物と事業所(ICAP、埼玉県) | 東京都2010年、埼玉県2011年 | 鉄鋼のCBAM製品にはほとんど関係しません |
まだ答えの出ていない論点は、次の4つです。
- 欧州委員会がGX-ETSを「実際に支払われた」炭素価格として扱うか、無償割当分と上限価格での支払いをどう評価するか(JETROも同じ論点を挙げています)
- 日本の年度(4月から3月)を、CBAMの暦年にどう対応させるか
- 上流で課され燃料価格に転嫁される温対税や化石燃料賦課金が、施設の事業者が支払ったものとみなされるか
- GX-ETSで2026年度の排出分に排出枠を充てる期限、つまり2026年度の炭素コストが実際に支払われる時期
デフォルト値で申告する場合、2027年から欧州委員会が国ごとに定めることのできる年次のデフォルト炭素価格を参照してのみ控除を請求できます(第9条第4項)。日本についてはまだ定められていません。証拠書類は、申告者からも第三国の当局からも独立した者が認証し(第9条第2項)、申告書を提出した年(または提出すべきであった年)の後4年目の終わりまで保存します(第9条第3項)。
英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに載せました。英国CBAMは独立した税制度で、無償割当分は軽減の対象外です。これはEU CBAMの扱いとは別の判断であり、そこからEUでの控除を推測することはできません。詳しくはCBAMの炭素価格控除をご覧ください。
キャプション:主要な鉄鋼供給国のCBAMの影響を、生産ルートと炭素価格の状況で比較した図です。
日本の鉄鋼メーカーがEUの買い手に提供すべきデータ
EUの輸入者がデフォルト値を避けるには、製品を生産した施設ごとの特定体化排出量のデータが必要です。
事業者の排出量報告書のサマリーは16項目で(実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)、2026年8月14日のガイダンス第3号による3文書の構成で英語により提供します(同実施規則第10条第4項)。移行期間中に使われていた任意様式のコミュニケーションテンプレートは、この構成に置き換えられました。
日本の鉄鋼施設が用意するデータは、次の5つの分類にまとめられます。
- 施設の識別情報:事業者名と登録番号、施設名と所在地、UN/LOCODE、小数点以下6桁の地理座標、登録済み施設の場合はCBAM登録簿の固有識別番号
- 生産ルートの区分:欧州委員会が定めるルート(高炉・転炉法、DRIを使う電炉法、スクラップ電炉法)のいずれに当たるかと、スクラップの投入比率
- 特定直接体化排出量:製品1トン当たりのtCO2eで、実施規則(EU)2025/2547付属書IIの計算に基づく方法(標準法またはマスバランス法)または測定に基づく方法で算定した値
- モニタリング計画:システム境界、対象となるすべての排出源、使用する計測機器、データ品質の手順を定めた文書
- 炭素価格のデータ(該当する場合):第9条の控除のため、国内制度で実際に支払った炭素価格(無償割当を差し引いた後のCO2換算トン当たりの額)の書類
検証は、実排出量で申告する場合に必須で(規則(EU)2023/956第8条第1項)、デフォルト値での申告には不要です。CBAM検証機関を認定できるのはEU加盟国の国家認定機関(NAB)だけで、委任規則(EU)2025/2551に基づき、EN ISO/IEC 17029:2019に照らして認定します。施設が初めて検証を受ける年には現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条)。
国家認定機関の登録簿で確認できる認定は、2026年10月13日時点で5件です。EmiCert S.A.(ギリシャのESYD)、Bureau Veritas Italia S.p.A.、RINA Services S.p.A.、SGS ICS Italia S.r.l.(いずれもイタリアのAccredia)、Intertek Certification AB(スウェーデンのSwedac)で、日本の法人は含まれません。2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。
日本の検証機関は、域外からの申請を受け付ける7つの国家認定機関(フランス、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキア、スウェーデン、2026年10月21日の欧州委員会の表)のいずれかに申請します。JETROは2026年10月27日、日本で活動する検証機関の一部が事前検証を提供し、認定の取得を目指していると報じています。GX-ETSの登録確認機関であることは、CBAMの検証資格になりません。
検証費用として、検証サービス各社は施設1か所、報告期間1回当たり5,000ユーロから5万ユーロを提示しています。これは市場推計で、施設の複雑さと移動の要否で変わります。認定済みの機関の一覧はCBAM認定検証機関にまとめています。
日本の鉄鋼輸出者はCBAMにどう対応すべきですか
日本の鉄鋼輸出者がとれる対応は4つあり、期間、必要な資金、現在の排出原単位によって選び方が変わります。
対応1:実排出量を今から測定し、検証を受ける。 実排出量が日本のデフォルト値とマークアップの合計を下回る施設は、初年度からコスト面で有利になります。ベンチマークを上回る分は全額が証書の対象だからです。経済産業省の「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月)は、CNコード 7318 15 42について2026年の証書数を1.750としており、本ページの計算(1.7501)と一致します。
同ガイドラインの円建ての数値(2026年に製品1トン当たり29,139円)は、EU ETSの価格90ユーロ、1ユーロ185円を前提にしています。2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロでは、ユーロ建てで製品1トン当たり144.07ユーロです。実排出量での節約額は、施設自身の検証済み排出量と、ベンチマークの基準(実排出量ではColumn Aと前駆体の無償割当、デフォルト値ではColumn B)の違いで決まります。
対応2:スクラップの配合を増やす。 スクラップは体化排出量を持ち込まないため、高炉・転炉法でも電炉法でも、リサイクルスクラップの比率を上げれば申告する体化排出量が直接下がります。新しい製造技術は必要ありません。
対応3:DRIを使う電炉法や水素DRIの設備に投資する。 天然ガスDRIを使う電炉法の排出は、高炉・転炉法よりはるかに少なく、熱延鋼板(CNコード 7208)のColumn Bのベンチマークは電炉法(D)0.481、高炉・転炉法(C)1.370です(実施規則(EU)2025/2620)。水素DRIでは体化排出量がゼロに近づきますが、大規模な設備投資と長い準備期間が必要です。
対応4:国内の炭素価格制度の整備を後押しする。 第9条は、国内で実際に支払われた炭素価格の分だけ、EUの輸入者が納付する証書数を減らす仕組みです。経済産業省は2025年5月の委員会資料で、GX-ETSや化石燃料賦課金を含む日本の炭素価格を、課金方法にかかわらず考慮するようEUに求めています。2026年11月4日時点で実施規則は案の段階で、日本の炭素価格は認められていません。
輸出先をEU以外の市場に振り替えることも、2026年と2027年の選択肢になります。ただし英国では、5部門を対象とする別の税制度である英国CBAMが2027年1月1日に始まります。英国が2026年10月16日に公表した鉄鋼の試算税率はCO2換算トン当たり9.69ポンドで、納税義務は生じない参考値です。カナダは2026年10月12日時点で国境炭素調整を制定していません。振り替えに頼る前に、各市場の制度を確認してください。英国CBAMの詳細は英国CBAM(英語)にあります。
EUの鉄鋼輸入者から見たCBAM:輸出者との違い
日本の鉄鋼輸出者とEUの鉄鋼輸入者は、同じ取引の両側に立ちます。
輸出者は体化排出量のデータを作り、輸入者はそれを申告し、CBAM証書を保有し、毎年9月30日までに納付します。2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。輸出者にとっての課題は、検証済みの排出量をどこまで下げ、価格競争力をどう保つかです(CBAM 輸出者ガイド)。
輸入者にとっての課題は、証書の調達、四半期末の証書保有義務、申告の正確さです。2027年から、認可申告者は各四半期末に、その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上に相当するCBAM証書を口座に保有する必要があります(第22条第2項)。算定には第31条の無償割当調整が考慮されます。2026年の輸入には四半期末の保有義務はありません。輸入者向けの詳細は輸入者向けCBAM鉄鋼ガイド(英語)にあります。
CBAMのほかに日本の鉄鋼輸出にかかるEU規制はありますか
日本の鉄鋼輸出には、CBAMとは別の3つのEU規制がかかります。反ダンピング関税(熱延鋼板に6.9%から30%、2025年9月26日)、2026年7月1日から適用される鉄鋼規則(EU)2026/1384の関税割当(年間合計1,834万5,922トン、枠外輸入には50%の関税)、2026年10月1日から適用される実施規則(EU)2026/1963の溶解・鋳造地(melt and pour)の証明(主にヒート番号付きのミルシート)です。日本への国別割当はこのページでは確認していません。
これらはCBAMのコストではなく、CBAM証書の数にも影響しません。ただし、輸出1件ごとの書類準備では、CBAMの排出量データと溶解・鋳造地の証明を一緒に整えると効率的です。
川下製品への対象拡大は日本の輸出にどう影響しますか
川下製品への対象拡大は欧州委員会提案(COM(2025)989、法律ではありません)で、適用開始を2028年1月1日としています。対象品目数は欧州委員会案が約180、理事会案が約200、欧州議会案が約457(推計)です。2026年10月20日の第1回三者協議(トリローグ)では全体合意に至らず、第2回は11月30日と報じられています。
JETROは2026年9月18日、電力中央研究所の分析として、提案された川下製品のコードが日本の対EU輸出の5.0%を占め、現在のCBAM対象製品の2.9%を上回ると紹介しています。特に影響が懸念される品目として、自動車用変速機とその部品が挙げられています。欧州委員会、理事会、欧州議会のいずれの案にも、化学品や樹脂は含まれていません。
CBAMは鉄鋼輸入に対する税ですか
CBAMは鉄鋼輸入に対する税ではありません。CBAMは規則(EU)2023/956に基づく証書制度で、EUの輸入者(日本の輸出者ではありません)に、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入を求めます。 2026年の輸入には、EU ETSの排出枠のオークション価格の四半期平均が適用されます(第21条第1a項)。週次価格は2027年の輸入からです。輸出者への影響は間接的で、EUの買い手は値下げを求めるか、排出量の少ない供給者に切り替えます。
CBAMはすべての鉄鋼製品に適用されますか
CBAMは、規則(EU)2023/956付属書Iに掲げる鉄鋼の15項目、第72類と第73類のCNコードに適用されます。対象には、銑鉄(7201)、半製品(7207)、圧延鋼板(7208から7212)、棒鋼と線材(7213から7217)、鋼管(7303から7307)が含まれます。鉄スクラップ(CNコード 7204)は対象外です。電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。免除は税関申告で申告する必要があります。
日本の鉄鋼のデフォルト値はいくつですか
日本の熱延鋼板(CNコード 7208)と半製品(CNコード 7207 11 14)のデフォルト値は製品1トン当たり2.100 tCO2eで、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)に定められています。冷延鋼板(7209)は2.143、めっき鋼板(7210)は2.130、ボルト・ねじ(7318 15)は2.800、無方向性電磁鋼板(7225 19 90)は3.530です。
2026年はマークアップ10%を加えるため、熱延鋼板の証書数は、2.310から無償割当調整1.33575を差し引いた製品1トン当たり0.97425枚で、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。国別の一覧はCBAM デフォルト値(輸出者向け)をご覧ください。
EUの輸入者は日本で支払った炭素価格を控除できますか
EUの輸入者は、生産国で実際に支払われた炭素価格について、リベートなどの補償を差し引いたうえで、第9条に基づく減額を請求できます。証拠書類は、申告者と第三国の当局から独立した者が認証します(第9条第2項)。2026年11月4日時点で第9条の実施規則は案の段階で、日本のGX-ETSや温対税を含め、どの国の炭素価格も認められていません。自主的なカーボンオフセット、社内炭素価格、エネルギー補助金は、実際に支払われた炭素価格になりません。
CBAMについて日本で相談できる窓口はありますか
経済産業省は「炭素国境調整措置」のページ(2026年6月1日更新)で概要と関連資料を公開し、JETROは貿易投資相談の窓口、算定実務マニュアル(2026年3月)、セミナーを提供しています。2026年11月4日時点で、日本の輸出者向けのCBAM専用の補助金は確認できません。日本の状況はCBAMと日本にまとめています。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。