
日本からEUへのCBAM対象製品(付属書Iのコード)の輸入は、2025年に14億4,820万ユーロ、85万8,614トンでした。内訳は鉄鋼が12億4,590万ユーロ(80万9,223トン)、アルミニウムが1億9,500万ユーロ(4万2,260トン)です(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。2023年は24億4,810万ユーロ、2024年は18億6,080万ユーロでした。
日本の輸出者が知りたいのは、次の2点です。1つは、日本のデフォルト値で申告された場合に、EUの輸入者が製品1トン当たりいくら負担するのか。もう1つは、2026年4月に義務化された排出量取引制度(GX-ETS)や地球温暖化対策のための税によって、EU炭素国境調整措置(CBAM)の第9条に基づきその負担を減らせるのか、という点です。
本ページでは、貿易データ、日本の国別デフォルト値による試算、国内のカーボンプライシングの制度別評価、経済産業省とJETROの資料をもとに、この2つの問いにお答えします。
日本の一貫製鉄所の高炉・転炉設備。高炉・転炉法(BF-BOF)による直接排出量は、2026年1月1日からCBAMの対象です。
EU CBAMで日本はどのような立場にありますか?
日本は鉄鋼とアルミニウムに輸出が集中する中規模の対象国で、デフォルト値は主要アジア輸出国の中で低い水準にありますが、国内の炭素価格は2026年11月4日時点でCBAMの控除に認められていません。
CBAMの根拠法は、「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。本格実施期間は2026年1月1日に始まりました。JETROや欧州委員会の日本語資料では「炭素国境調整メカニズム」とも呼ばれます。制度の全体像はEU CBAMの解説にまとめています。
対象は鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素の6分野です。2025年の日本からのCBAM対象製品の輸入額のうち、鉄鋼が86.0%、アルミニウムが13.5%を占めます(Eurostat Comext、2025年)。セメント(480万ユーロ)と肥料(約250万ユーロ)はわずかで、水素と電力の輸入は記録されていません。したがって日本にとって重要なのは、鉄鋼・アルミのデフォルト値、ベンチマーク、第9条の扱いの3点です。
日本の輸出者自身には、CBAM上の法的義務はありません(規則(EU)2023/956第3条第15号、第17号)。義務を負うのはEUの輸入者、またはその間接的通関代理人です。ただし、日系企業のEU子会社が自ら認可CBAM申告者となる場合もあります(JETRO、2026年9月18日)。
日本からEUへのCBAM対象製品の輸入額はどれくらいですか?
2025年の輸入額は14億4,820万ユーロで、2023年から金額ベースで41%、数量ベースで55%減少しました。
EU域外からのCBAM対象製品の輸入に占める日本の順位は、2025年に金額ベースで22位(シェア1.30%)、数量ベースで24位(同0.72%)でした。分野別の推移は下表のとおりです。出典はすべてユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409(2026年10月12日抽出)で、シェアは免除対象国を含むEU域外輸入に占める割合、順位はEU域外の輸出国の中での順位です。
| 分野 | 2023年 | 2024年 | 2025年 金額 | 2025年 数量 | 2025年 シェア(金額/数量) | 2025年 順位(金額/数量) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| CBAM対象製品の合計 | 24億4,810万ユーロ | 18億6,080万ユーロ | 14億4,820万ユーロ | 85万8,614トン | 1.30%/0.72% | 22位/24位 |
| 鉄鋼(第72類・第73類) | 22億1,790万ユーロ | 17億2,520万ユーロ | 12億4,590万ユーロ | 80万9,223トン | 2.04%/1.40% | 13位/16位 |
| うち第72類の最終製品 | 17億7,650万ユーロ | 12億7,310万ユーロ | 8億810万ユーロ | 74万8,767トン | 3.19%/2.37% | 10位/11位 |
| うち第73類の製品 | 4億3,400万ユーロ | 4億4,110万ユーロ | 4億2,580万ユーロ | 5万1,354トン | 1.58%/0.51% | 11位/18位 |
| アルミニウム | 2億1,920万ユーロ | 1億2,700万ユーロ | 1億9,500万ユーロ | 4万2,260トン | 0.64%/0.46% | 23位/29位 |
| セメント | 660万ユーロ | 660万ユーロ | 480万ユーロ | 5,701トン | 0.45%/0.04% | 19位/23位 |
| 肥料 | 440万ユーロ | 190万ユーロ | 250万ユーロ | 1,431トン | 0.03%/0.01% | 35位/35位 |
| 水素・電力 | 3,000ユーロ(水素のみ) | 89ユーロ(水素のみ) | 0 | 0 | 0% | なし |
金額上位の品目は、熱延鋼板から合金鋼線までの鉄鋼製品と、アルミ板・はくです。下表は2025年の金額上位11品目(CNコードの4桁項)です。合金鋼やステンレス鋼の特殊な鋼材では、日本はEU域外の輸出国の中で3位から4位に入っています。
| CNコード | 品目 | 2025年 金額 | 2025年 数量 | シェア(金額/数量) | 金額順位 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7208 | 熱延鋼板(非合金、幅600 mm以上) | 2億1,670万ユーロ | 34万6,721トン | 3.30%/3.02% | 9位 |
| 7225 | 合金鋼の板(ステンレス以外、電磁鋼板を含む) | 1億7,760万ユーロ | 6万215トン | 11.31%/4.55% | 4位 |
| 7318 | ねじ、ボルト、ナット等 | 1億7,640万ユーロ | 2万1,127トン | 2.68%/1.15% | 10位 |
| 7326 | その他の鉄鋼製品 | 1億4,380万ユーロ | 1万4,720トン | 1.97%/0.78% | 8位 |
| 7209 | 冷延鋼板(非合金、幅600 mm以上) | 1億1,890万ユーロ | 18万4,504トン | 7.45%/7.48% | 7位 |
| 7606 | アルミニウムの板、シート、ストリップ | 1億1,360万ユーロ | 3万4,692トン | 2.89%/3.20% | 10位 |
| 7210 | めっき・被覆鋼板 | 9,440万ユーロ | 10万6,305トン | 1.77%/1.65% | 11位 |
| 7304 | 継目無鋼管 | 5,740万ユーロ | 1万204トン | 4.75%/1.97% | 6位 |
| 7220 | ステンレス鋼の板(幅600 mm未満) | 5,100万ユーロ | 2,408トン | 11.85%/3.35% | 3位 |
| 7229 | 合金鋼の線(ステンレス以外) | 4,040万ユーロ | 1万3,675トン | 12.24%/4.28% | 3位 |
| 7607 | アルミニウムはく | 3,010万ユーロ | 3,624トン | 2.30%/1.28% | 10位 |
熱延鋼板(CNコード 7208)の数量は、2023年の134万1,700トンから2025年には34万6,721トンへ74%減りました。一因と考えられるのは、EUが2025年9月26日に日本産熱延鋼板に課した6.9%から30%の確定アンチダンピング税です(欧州委員会貿易総局、2025年9月26日)。ただし、データから因果関係が証明されているわけではありません。また、アンチダンピング税はCBAMのコストではありません。
これらは貿易統計であり、CBAM申告の数値ではありません。財務省貿易統計の対EU輸出額は評価方法が異なる別の統計です。2026年7月1日からは、日本の鉄鋼にも鉄鋼規則(EU)2026/1384の関税割当が適用されていますが、これもCBAMとは別の制度です。

このインフォグラフィックのテキスト版
- 約14.5億ユーロ:日本からのCBAM対象製品のEU輸入額(2025年) (数量は約85.9万トン。CBAM申告ではなく貿易統計の数値)
- 22位:金額ベースの順位(EU域外の原産国中) (数量ベースでは24位)
EUが日本から多く輸入する品目
- 熱延鋼板(7208):347
- 冷延鋼板(7209):185
- めっき鋼板(7210):106
- 合金鋼の板(7225):60
- アルミニウム板(7606):35
2025年の数量(千トン)、CNコード別。濃い色のバーは下の計算例の品目です。
製品1トン当たりのコスト(2026年)
熱延鋼板(CNコード 7208) (2026年に日本から輸入、デフォルト値を使用。数値は製品1トン当たりのtCO₂e)
- デフォルト値(日本の表): 2.100
- 2026年のマークアップ10%を加算: 2.310
- 無償割当調整を差し引き(97.5% × ベンチマーク 1.370): −1.33575
- 製品1トン当たりのCBAM証書: 0.97425
製品1トン当たりのコスト(2026年第3四半期の価格82.32ユーロで換算): €80.20
旧来の簡便法「総額の2.5%」では4.75ユーロになりますが、これは誤りです。差し引けるのはベンチマークまでで、それを超える排出量は全額が証書の対象です。
日本には独自のデフォルト値があります。付属書Iの日本の表には上記5品目すべての値があるため、「その他の国・地域」のデフォルト値は適用されません。
現時点で控除はありません。日本の排出量取引制度(GX-ETS)は2026年4月から義務化されていますが、第9条の炭素価格控除には認められていません(2026年10月23日時点)。
日本製品のCBAMコストは2026年にいくらになりますか?
日本のデフォルト値で申告された熱延鋼板(CNコード 7208)の場合、2026年の輸入に必要なCBAM証書は製品1トン当たり0.974枚で、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで換算すると製品1トン当たり80.20ユーロです。
必要な証書数は、特定体化排出量から無償割当調整を差し引いて求めます(規則(EU)2023/956第31条、実施規則(EU)2025/2620付属書)。無償割当調整は、CBAM係数×部門横断補正係数×ベンチマークです。2026年のCBAM係数は97.5%で、これは無償割当のうち維持される割合です(指令2003/87/EC第10a条第1a項)。部門横断補正係数は2026年から2030年まで100%です(実施決定(EU)2026/1862)。
計算例(CNコード 7208 51 20、日本、2026年、デフォルト値)は次のとおりです。2.100 × 1.10 = 2.310、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575、差し引き製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。これは無償割当調整前の190.16ユーロの42%に当たります。
ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。日本の主要品目について、日本の国別デフォルト値(実施規則(EU)2025/2621付属書I、実施規則(EU)2026/1740による差し替え後)で同じ計算を行った結果を下表に示します。
| 品目(CNコード) | デフォルト値(tCO2e/t) | 2026年マークアップ後 | ベンチマーク | 2026年の証書数/t | 2026年のコスト/t(82.32ユーロ) | 2030年のコスト/t(価格一定) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 半製品(7207 11 11) | 2.100 | 2.310 | 1.364 | 0.980 | 80.68ユーロ | 166.91ユーロ |
| 熱延鋼板(7208 51 20) | 2.100 | 2.310 | 1.370 | 0.974 | 80.20ユーロ | 166.65ユーロ |
| 冷延鋼板(7209 16 90) | 2.143 | 2.357 | 1.458 | 0.936 | 77.03ユーロ | 167.52ユーロ |
| めっき鋼板(7210 49 00) | 2.130 | 2.343 | 1.491 | 0.889 | 73.21ユーロ | 164.73ユーロ |
| 無方向性電磁鋼板(7225 19 90) | 3.530 | 3.883 | 1.488 | 2.432 | 200.22ユーロ | 314.68ユーロ |
| ボルト・ねじ(7318 15 42) | 2.800 | 3.080 | 1.364 | 1.750 | 144.07ユーロ | 241.82ユーロ |
| アルミ地金(7601) | 0.360 | 0.396 | 0.091 | 0.307 | 25.29ユーロ | 34.67ユーロ |
| アルミ板・シート・ストリップ(7606 12 99) | 1.730 | 1.903 | 0.148 | 1.759 | 144.78ユーロ | 178.86ユーロ |
2026年の前提:マークアップ10%、CBAM係数97.5%、部門横断補正係数100%。日本の鉄鋼の行は高炉ルート(C)、アルミの行は二次ルート(L)で、この記号が付属書の列Bのベンチマークを決めます。2030年はマークアップ30%、CBAM係数51.5%で、価格とベンチマークを一定としています(ベンチマークは2027年から更新される可能性があります)。証書数は小数第3位で四捨五入し、コストは丸める前の数値から計算しています。計算は、法令の算定方法を実装した当サイトの計算ライブラリで2026年11月4日に行いました。
円に換算すると、熱延鋼板の2026年のコストは製品1トン当たり約14,191円、2030年は約29,489円、ボルト・ねじは2026年に約25,493円です(ECB参照レート1ユーロ=176.95円、2026年11月3日)。いずれも規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
ボルト・ねじ(CNコード 7318 15 42)の1.750枚は、経済産業省の「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月)付属書IVの2026年の数値と一致します。同ガイドラインの円建て額(2026年29,139円、2034年60,606円、いずれも製品1トン当たり)は、EU ETS価格90ユーロ、1ユーロ185円という経済産業省の前提に基づきます。品目と数量を変えて試算する場合は、CBAMコスト計算ツール(英語)をご利用ください。
日本のデフォルト値は他国と比べてどの水準ですか?
日本の熱延鋼板のデフォルト値は製品1トン当たり2.100 tCO2e(CO2換算トン)で、韓国の2.118、トルコの2.428、中国の3.187、インドの4.280より低く、米国の1.400より高い水準です。
同じ計算を他国のデフォルト値で行うと、日本産との差が製品1トン当たりのコスト差として表れます。ただし、アルミ板(CNコード 7606)には注意が必要です。日本の行は二次ルート(L)で小さいベンチマーク0.148と組み合わされるため、一次ルート(K)のトルコ産や米国産よりもコストが高くなります。
| 原産国 | 熱延鋼板 7208 51 20 デフォルト値 | 2026年コスト/t | アルミ板 7606 12 99 デフォルト値(ルート) | 2026年コスト/t |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 2.100 | 80.20ユーロ | 1.730(L) | 144.78ユーロ |
| 韓国 | 2.118 | 81.83ユーロ | 1.950(L) | 164.70ユーロ |
| トルコ | 2.428 | 109.90ユーロ | 2.714(K) | 126.57ユーロ |
| 中国 | 3.187 | 178.63ユーロ | 4.120(K) | 253.89ユーロ |
| インド | 4.280 | 277.60ユーロ | 4.126(K) | 254.43ユーロ |
| 米国 | 1.400 | 16.81ユーロ | 2.730(K) | 128.02ユーロ |
出典:実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740による差し替え後)、実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項。2026年、マークアップ10%、2026年第3四半期の価格82.32ユーロ、2026年11月4日計算。
日本のカーボンプライシングはどのような仕組みですか?
日本には2026年11月4日時点で、地球温暖化対策のための税(CO2換算トン当たり289円)と、2026年度に義務化された排出量取引制度(GX-ETS)の2つの全国制度があり、化石燃料賦課金は2028年度から導入予定です。
ここでいう年度は日本の会計年度で、2026年度は2026年4月から2027年3月までを指します。一方、CBAMの期間は暦年(1月から12月)です。制度ごとの概要は下表のとおりです。
| 制度 | 対象 | 価格水準 | 開始 | 2026年11月4日時点の状況 | 出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 地球温暖化対策のための税(石油石炭税への上乗せ) | すべての化石燃料(輸入者・採取者に上流で課税) | CO2換算トン当たり289円 | 2012年10月1日から段階導入、2016年4月1日に最終税率 | 施行中 | 環境省 |
| 同税の免税措置 | 鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭 | 免税 | 該当なし | 施行中(恒久化を2027年度(令和9年度)税制改正で要望) | 経済産業省の税制改正要望 |
| 排出量取引制度(GX-ETS) | 直近3年度平均の直接CO2排出量が10万トン以上の事業者(ICAPによれば300から400社) | 経済産業省が告示で参考上限取引価格と調整基準取引価格を設定 | 2026年度(2023年度から2025年度はGXリーグで任意参加) | 施行中。排出枠は無償割当(鉄鋼、セメント、電力、製紙、石油精製はベンチマーク方式、その他はグランドファザリング) | 経済産業省、ICAP |
| 化石燃料賦課金 | 化石燃料の輸入者・採取者 | 未設定(低い負担から段階的に引き上げ) | 2028年度 | 法定済み、未施行 | JETRO、経済産業省 |
| 特定事業者負担金(発電部門の有償オークション) | 排出量の多い発電事業者 | 未設定 | 2033年度 | 法定済み、未施行 | JETRO、ICAP |
| 東京都の総量削減義務と排出量取引制度 | 約1,200の大規模事業所(主にオフィス・商業ビル) | ICAP推計で平均約585円(2025年8月。相対取引のため正確な平均価格は算出できないとICAPは注記) | 2010年4月 | 施行中、排出枠は無償 | ICAP |
| 埼玉県の目標設定型排出量取引制度 | 大規模事業所 | 公表価格なし | 2011年 | 施行中(努力義務型) | 埼玉県 |
J-クレジットやJCMは排出削減のクレジット制度で、排出に価格を付ける制度ではありません。第9条の実施規則案(未採択)は、国際クレジットの利用を10%までとし、パリ協定第6条第2項または第4項に基づく単位に限っています。
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日本の炭素価格はCBAMの第9条で控除されますか?
2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、第三国で支払われた炭素価格の控除に関する実施規則も2026年11月4日時点で案の段階です。
第9条は、原産国で実際に支払われた炭素価格の分だけ、認可申告者が納付する証書を減らせる仕組みです。どの国の炭素価格もまだ認められていません。欧州委員会の実施規則案(未採択)は2026年5月13日に公表され、排出量取引制度、排出源課税型の炭素税、燃料課税型の炭素税、混合型の4つの承認経路と、控除の算定方法を定めています。意見募集は2026年6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で採択されていません。
第9条そのものが定める控除の条件は、次の4つです。
- 申告した体化排出量について、第三国で炭素価格が実際に支払われていること(第9条第1項)。
- その炭素価格を減らすリベートその他の補償が考慮されること(第9条第1項)。
- 申告者と第三国当局から独立した者が認証した書類と、実際の支払いの証拠を保有すること(第9条第2項)。記録は、CBAM申告書を提出した(または提出すべきであった)年の後4年目の末まで保存します(第9条第3項)。
- 実際に支払った価格で控除するには、体化排出量を実排出量で算定すること。デフォルト値を使う場合は、年ごとのデフォルト炭素価格だけを参照できます(第9条第4項)。
日本にとっての壁は条件1と2です。GX-ETSの排出枠はベンチマーク方式とグランドファザリングで無償割当されています(ICAP)。欧州委員会の日本語ガイダンスは、排出量取引制度では「無償割当はリベートとみなされる」と明記しています。控除の対象になり得るのは、無償割当を超えて購入した排出枠や、上限価格で支払った分に限られます。義務化初年度におけるその額は、まだわかっていません。
地球温暖化対策のための税は燃料課税型で、実施規則案の承認経路の1つに当たります。しかし、高炉製鉄とセメントの排出の大部分を占める石炭は、鉄鋼、コークス、セメント製造用の特定石炭として免税です。CO2換算トン当たり289円は約1.63ユーロ(ECB参照レート、2026年11月3日)で、2026年第3四半期の証書価格82.32ユーロの約2%にすぎません。
化石燃料賦課金(2028年度)と特定事業者負担金(2033年度)は未施行のため、2026年と2027年の輸入について控除を申請する余地はありません。東京都と埼玉県の制度は主に建物が対象で、無償割当または努力義務型のため、CBAM対象製品への影響はほとんどないと考えられます。
まだ答えの出ていない論点は次のとおりです。
- 欧州委員会がGX-ETSを「実効的な炭素価格」と認めるか、無償割当分をどう扱うか、排出枠価格をどう証明するか(JETROが2026年9月18日に挙げた3つの論点)。
- 4月から3月までの日本の年度を、CBAMの暦年にどう対応させるか。
- 上流で課され燃料価格に転嫁された税や賦課金(温対税、化石燃料賦課金)を、施設の事業者が支払ったものとみなすか。
- 2026年度の排出に対するGX-ETSの排出枠の提出期限、つまり2026年度の炭素コストが実際にいつ支払われるか。
なお、英国歳入関税庁(HMRC)は2026年8月27日、英国CBAMの炭素価格軽減措置の対象となる適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リスト(16制度)に「Japan GX-ETS」を載せました。英国CBAMは税であり、無償割当分は軽減の対象外です。この扱いはEU CBAMとは別です。詳しい仕組みは第9条の炭素価格控除で解説しています。
日本の輸出者はCBAMにどう備えるべきですか?
日本の輸出者にCBAM上の法的義務はありませんが、検証済みの実排出量データを提供できなければ、EUの顧客はデフォルト値で申告し、そのコストが価格交渉で輸出者に戻ってきます。
日本の生産施設が今から取り組める準備は、次の4つです。
- CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に登録します。 O3CIはCBAM登録簿の一部で、EUログイン(EU Login、二要素認証が必要)でアクセスします。施設ごとの排出量データを、その施設の製品を購入するEUの認可申告者と共有できます。手順はCBAM事業者用ポータルで説明しています。
- モニタリング計画を作成します。 モニタリング計画は、システム境界、排出源、計測機器、算定方法を定める文書です。実施規則(EU)2025/2547に基づいて作成し、検証の基礎になります。
- 排出量報告書のサマリー(16項目)を準備します。 事業者の排出量報告書のサマリーは16項目で(実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)、2026年8月14日のガイダンス第3号による3文書の構成で英語により提供します。
- 認定検証機関に検証を依頼します。 検証機関の認定は委任規則(EU)2025/2551に基づきEU加盟国の国家認定機関が行い、初回の検証では施設への現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条から第4条)。検証費用については1施設当たり5,000ユーロから5万ユーロという業者の見積りがありますが、これは市場の推計であり、欧州委員会の数値ではありません。
2026年からは実施規則(EU)2025/2547に基づくEUの算定方法だけが認められ、移行期間の第三国の手法による代替算定は使えません。データの提供は、2027年から特に重要になります。CBAM証書は、2027年2月1日から、設立地の加盟国が共通中央プラットフォームで販売します(第20条第1項)。2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。
CBAM検証機関を認定できるのはEU加盟国の国家認定機関だけです。日本の検証機関は、域外からの申請を受け付ける7つの国家認定機関のいずれかに申請します(欧州委員会の状況表、2026年10月21日、24機関中7機関)。
2026年10月13日時点で各国の登録簿で確認できた認定は5件で、EmiCert S.A.(ギリシャ、ESYD)、Bureau Veritas Italia S.p.A.、RINA Services S.p.A.、SGS ICS Italia S.r.l.(いずれもイタリア、Accredia)、Intertek Certification AB(スウェーデン、Swedac)です。日本の法人はありません。2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。最新の状況はCBAMの認定検証機関一覧で確認できます。
GX-ETSの「登録確認機関」やGXリーグの「登録検証機関」は国内制度の役割で、CBAMの検証機関ではありません。JETRO(2026年10月27日)によれば、日本で活動する複数の検証機関が事前検証を提供し、EUでの認定取得を目指しています。日本の輸出者を支援する事業者は日本向けCBAMコンサルタント一覧で比較でき、紹介を希望する場合はCBAM支援の依頼フォームから無料で依頼できます。
日本政府はどのようなCBAM関連情報を提供していますか?
CBAMについて日本語で公式情報を発信しているのは、主に経済産業省とJETROで、EUが公表している日本語の公式文書は、移行期間向けの欧州委員会ガイダンス1点だけです。
規則(EU)2023/956と実施規則は、EUの24の公用語でのみ公表されており、日本語の正文はありません。条文番号はEUの番号で引用します。主な情報源は下表のとおりです。
| 機関 | 資料 | 内容と注意点 |
|---|---|---|
| 経済産業省 GXグループ 地球環境対策室 | 「炭素国境調整措置」ページ(最終更新2026年6月1日) | 概要と関連リンク。簡素化の部分は2025年2月の法案段階の内容で、採択後の規則(EU)2025/2083とは数値が異なります |
| 経済産業省(委託事業) | 「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月) | 収集すべきデータ、デフォルト値と実測値、検証のQ&A、2026年から2034年までの証書数の計算例 |
| 経済産業省 | 「CBAMへの対応に関する委員会」 | 算定負担、日本の炭素価格の控除、域外の認定機関の活用をEUに求める論点(2025年5月の資料) |
| JETRO | 特集「EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)の動向と各国の反応」、算定実務マニュアル(2026年3月)、特集記事(2026年9月18日、10月27日) | 解説、記入例付きの算定マニュアル、ブリュッセル発のビジネス短信、貿易投資相談の窓口 |
| GX推進機構 | 排出量取引制度ポータルサイト | 国内のGX-ETSの手続き。EU CBAMの窓口ではありません |
| 欧州委員会 | 「EU域外の施設事業者のためのCBAM実施に関するガイダンス文書」日本語版 | EUによる唯一の日本語公式文書。内容は移行期間のもので、拘束力はありません |
経済産業省とJETROの資料のうち、2024年2月のJETRO「基礎編」は規則(EU)2025/2083による改正前の内容です。申告期限、四半期の保有割合、買い戻しの上限などの数値は、必ず改正後の規則で確認してください。2026年11月4日時点で、日本の輸出者向けのCBAM専用の補助金は、経済産業省とJETROの資料には見当たりません。
他のアジア諸国と比べて日本の位置づけはどうですか?
日本のCBAM対象製品の対EU輸出額は、中国、トルコ、韓国に比べて小さく、カーボンプライシングの成熟度では韓国と中国の中間に位置します。
2025年のEUのCBAM対象製品の輸入額は、中国が170億9,000万ユーロ(シェア15.4%)、トルコが108億3,000万ユーロ(9.7%)、韓国が41億2,000万ユーロで、日本の14億4,820万ユーロ(1.3%、22位)を大きく上回ります(Eurostat Comext、2025年)。
韓国の排出量取引制度(K-ETS)は2015年に始まり、2026年に第4期に入りました。アジアの主要輸出国の中で最も歴史の長い全国制度です。それでも2026年11月4日時点で第9条の承認はなく、2025年の二次市場の平均価格は9,393ウォン(6.60米ドル)でした(ICAP)。中国の全国排出量取引制度は2025年3月に鉄鋼、セメント、アルミニウムへ対象を広げましたが、総量ではなく原単位に基づく制度です。
日本の鉄鋼は、中国やインドの高炉材よりデフォルト値が低く、実排出量でも優位に立てる可能性があります。ただし、その優位がコストに反映されるのは、検証済みデータを提出した場合だけです。欧州委員会は2025年12月16日の見直し報告書(COM(2025) 783)で、日EUグリーン・アライアンスをCBAMについて協議した場の1つに挙げ、日本をCBAM実施に関する派遣団の訪問先の1つとしています。
2030年に向けてCBAMのコストとGX-ETSの関係はどう変わりますか?
無償割当調整の基になるCBAM係数は2029年から2030年にかけて急減し、日本産熱延鋼板のコストは価格一定でも2026年から2030年までに2倍を超えます。
CBAM係数は、2029年の77.5%から2030年には51.5%に下がります(指令2003/87/EC第10a条第1a項)。日本のデフォルト値による熱延鋼板(CNコード 7208)のコストは、2029年の輸入で製品1トン当たり137.33ユーロ、2030年の輸入で166.65ユーロです。いずれもマークアップ30%、ベンチマーク1.370、価格82.32ユーロ一定の前提で、ベンチマークは2027年から更新される可能性があります。
GX-ETSの炭素価格が第9条で認められた場合、その額は証書の計算式で別の項として差し引かれます。ただし価値を決めるのは、公表される上限価格ではなく、無償割当を差し引いた後に実際に支払われた額です。
川下製品への対象拡大は日本にどう影響しますか?
欧州委員会は2025年12月に、鉄鋼・アルミの川下製品約180品目を2028年からCBAMの対象に加える案(COM(2025)989)を提出しましたが、これはまだ提案(法律ではありません)の段階です。
欧州議会は2026年9月15日に交渉方針を464対50(棄権159)で採択し、2026年10月20日の第1回三者協議(トリローグ)は全体合意に至りませんでした。第2回は2026年11月30日と報じられています。JETRO(2026年9月18日)が紹介した分析によると、追加候補の品目は日本の対EU輸出の5.0%で、現行のCBAM対象製品の2.9%を上回り、特に自動車用変速機とその部品への影響が懸念されています。
CBAMの鉄鋼ベンチマークはどう使われますか?
ベンチマークは、証書数から差し引く無償割当調整を計算するためだけに使われ、CBAMの負担に上限を設けるものではありません。
ベンチマークは実施規則(EU)2025/2620で定められ、デフォルト値の規則とは別です。デフォルト値を使う場合は列Bのデフォルト・ベンチマーク、実排出量を使う場合は列Aのプロセス・ベンチマークに前駆体に含まれる無償割当を加えたものを用います。熱延鋼板(CNコード 7208)の列Bのベンチマークは次のとおりです。
| 生産ルート | ベンチマーク(tCO2e/t) |
|---|---|
| 高炉・転炉法(BF-BOF、ルートC) | 1.370 |
| 直接還元鉄・電炉法(DRI-EAF、ルートD) | 0.481 |
| スクラップ電炉法(EAF、ルートE) | 0.072 |
詳しくは鉄鋼のCBAMベンチマークと鉄鋼輸出者へのCBAMの影響で解説しています。
デフォルト値と実測値のどちらを使うべきですか?
どちらが安いかは施設によって異なるため、輸入者は両方を試算すべきです。
マークアップは2026年の10%から2027年に20%、2028年から30%に上がるため、検証済みの排出量が2.100 tCO2eを下回る施設では、デフォルト値との差が毎年広がります。実測値による節約額は、排出量の差に証書価格を掛け、ベンチマークの基準の違い(デフォルト値は列B、実測値は列Aと前駆体分)を調整したものです。検証費用はこの差額で回収する必要があります。
アルミニウムでは、その余地はより小さくなります。地金(CNコード 7601)のデフォルト値は0.360、板(CNコード 7606)は1.730です。
電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。免除は税関申告で申告する必要があります。CBAMのデフォルト値も参照してください。
第9条の控除は誰がどのように申請しますか?
控除を申請するのは日本の輸出者ではなく、EUの認可申告者で、2026年分は2027年9月30日までに提出するCBAM申告書の中で行います。
日本の輸出者の役割は、GX-ETSの排出枠に支払った費用(無償割当を差し引いた後の実際の支払額を含む)を示す書類を用意し、申告者を支援することです。実施規則案(未採択)では、この書類は認定を受けた「独立した認証者」が認証する炭素価格報告書で、CBAMの検証機関とは別の役割です。欧州委員会がGX-ETSを正式に認めるまでは、書類の質にかかわらず控除は適用されません。
脱炭素投資はいつまでに進めるべきですか?
排出削減は、CBAM係数が急減する2029年から2030年より前に実現するほど、コスト削減の効果が大きくなります。
無償割当調整が縮小するほど、実排出量の削減はCBAM証書のコスト削減に直結します。水素直接還元、電炉の増設、炭素回収などの投資計画をCBAM係数の引き下げスケジュールに合わせることが、商業上の優位につながります。投資時期の考え方は輸出者のCBAM戦略で整理しています。
GX-ETSの排出枠とCBAM証書コストの推移。第9条の控除には、CO2換算トン当たり実際に支払われた炭素価格の証明が必要です。
よくある質問
日本のGX-ETSはCBAMの第9条控除の対象ですか?
2026年11月4日時点で、GX-ETSは第9条の控除に認められておらず、どの国の炭素価格も認められていません。欧州委員会の実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で採択されていません。GX-ETSは2026年4月に義務化され、排出枠はベンチマーク方式とグランドファザリングで無償割当されています。地球温暖化対策のための税はCO2換算トン当たり289円で、2026年第3四半期の証書価格82.32ユーロの約2%です。
CBAMの影響を最も受ける日本の産業はどこですか?
日本の対EUのCBAM対象製品輸出の大部分は、鉄鋼(第72類)、鉄鋼製品(第73類)、アルミニウムおよびその製品(第76類)です(JETRO、2026年9月18日)。高炉一貫製鉄所を持つ日本製鉄(Nippon Steel)とJFEスチール(JFE Steel)の鋼板に加え、中小企業の比率が高いねじ・ボルト業界も対象で、経済産業省は同業界向けの算定ガイドラインを公表しています。
日本からEUへのCBAM対象製品の輸入額はいくらですか?
2025年は14億4,820万ユーロ、85万8,614トンで、鉄鋼が12億4,590万ユーロ、アルミニウムが1億9,500万ユーロでした(Eurostat Comext DS-045409、2026年10月12日抽出)。2023年は24億4,810万ユーロ、2024年は18億6,080万ユーロです。日本はEU域外の輸出国中22位、シェアは1.3%で、中国は15.4%、トルコは9.7%でした。これは貿易統計で、CBAM申告の数値ではありません。
日本産の高炉鋼の2026年のCBAMコストはいくらですか?
日本のデフォルト値による熱延鋼板(CNコード 7208)は、2026年の輸入で製品1トン当たり80.20ユーロです(2026年10月5日公表の第3四半期の公式価格82.32ユーロ)。デフォルト値2.100にマークアップ10%を加えて2.310、無償割当調整はCBAM係数97.5%×ベンチマーク1.370で1.33575、差し引き製品1トン当たり0.974枚の証書です。価格一定なら、2030年の輸入では166.65ユーロになります。
日本からの輸出分を含む最初のCBAM申告の期限はいつですか?
2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)による改正後)。この申告に必要な証書の販売は2027年2月1日に始まります。全体の日程はCBAMのタイムラインにまとめています。