CBAMのデフォルト値が日本の輸出者に不利な理由と、検証済みデータでコストを下げる方法

CBAMのデフォルト値には2026年10%、2028年から30%のマークアップが加わります。

このページの内容
図:EU域外の施設からデータがないと、EUの買い手はデフォルト値にマークアップ(2026年10%、2027年20%、2028年から30%)を加えて証書を納付し、コストは輸出者に戻ります。検証済みの実排出量ならマークアップはかかりません。

EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)のデフォルト値には、2026年に10%、2027年に20%、2028年から30%のマークアップが上乗せされます。日本産の熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)のデフォルト値は製品1トン当たり2.100 tCO2e(CO2換算トン)で、マークアップを加えると2026年は2.310 tCO2eになります。EUの買い手が負担するCBAM証書は製品1トン当たり0.97425枚、金額にして80.20ユーロです(2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで計算)。

同じ熱延鋼板でも、トルコ産はデフォルト値2.428、マークアップ後2.6708で、製品1トン当たり109.90ユーロです。根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」で、デフォルト値とマークアップは実施規則(EU)2025/2621に定められています。

検証済みの実排出量を提供すれば、マークアップ分と、デフォルト値が実排出量を上回る部分の負担はなくなります。このページでは、日本の輸出者の立場から、デフォルト値の仕組み、日本製品のどこに負担が生じるか、2034年までのコストの推移、検証済みデータへ切り替える手順を、条文番号と出典を添えて説明します。

キャプション:測定を行わない輸出者にとって、デフォルト値と検証済みの実排出量の差は、年々大きくなるCBAM証書のコスト負担になります。


CBAMのデフォルト値とは何か:日本の輸出者への影響

CBAMのデフォルト値とは、欧州委員会が原産国と製品ごとに定めた排出原単位で、EUの輸入者が生産施設から検証済みの実排出量を入手できない場合に、マークアップを加えて使います。

定義は規則(EU)2023/956第3条第27号、使用の根拠は第7条第2項(b)と付属書IV第4.1項、実施権限は第7条第7項です。値は国ごとの平均的な排出原単位を基に設定され、そこに意図的に高いマークアップが加わります。マークアップの目的は、輸出者に実排出量の提供を促すことです。マークアップの段階は次の表のとおりです。

年 総排出量のデフォルト値に加えるマークアップ 対象
2026年 +10% 鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素
2027年 +20% 鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素
2028年以降 +30% 鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素
2026年以降 +1%のみ 肥料

出典:実施規則(EU)2025/2621付属書I導入部(実施規則(EU)2026/1740による差し替え後)。

付属書は2026年半ばに訂正されました。2026年7月20日に採択され、7月31日にEU官報に掲載された実施規則(EU)2026/1740は、実施規則(EU)2025/2621の付属書IとIVの数値と品目コードの誤りを訂正し、2026年1月1日に遡って適用されます。このため、EUの買い手が2026年の輸入全体に使うのは訂正後の値です。算定方法は変わっていません。

訂正後の値はExcel形式でも入手できます。欧州委員会の税制・関税同盟総局(DG TAXUD)は2026年8月10日、訂正版のExcelファイル「Default values definitive period」をCBAMの法令・ガイダンスのページに掲載し、実施規則(EU)2025/2621の統合版を近く公表するとしています。フィンランド税関は2026年8月3日に国内通知を出しました。詳細は実施規則2026/1740によるデフォルト値の訂正(英語)にあります。

訂正の傾向も明らかになっています。steelnews.bizに2026年8月13日に掲載された市場ブリーフィング「Stainless Espresso」の分析によると、実質的な数値の差し替え46件はすべてデフォルト値の引き下げで、実質的な引き上げは付属書IVのアルミニウム前駆体(約47.5%増)だけでした。値が下がれば検証済みデータで得られる差は小さくなりますが、アルミニウム前駆体では検証済みデータの価値が高まります。数値は訂正版Excelの分析(英語)にあります。

日本の生産者には、規則(EU)2023/956上の法的義務はありません。CBAM証書の購入と納付の義務を負うのは、EUの輸入者である認可CBAM申告者(またはその間接的通関代理人)です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。

ただし商取引の上では、追加の証書コストは、購入価格の引き下げや供給者の切り替えという形で輸出者に跳ね返ります。このコストの流れはEU CBAMの解説で詳しく説明しています。日本の生産者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に登録し、検証済みのデータを提供することで、この流れを変えられます。

2026年の負担も小さくありません。2026年のCBAM係数は97.5%で、これは無償割当のうち維持される割合です。必要な証書数は、体化排出量から無償割当調整(CBAM係数×部門横断補正係数×ベンチマーク)を差し引いて求めます。ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。

日本産熱延鋼板をデフォルト値で輸入する場合、証書価格が82.32ユーロのまま変わらないと仮定すると、製品1トン当たりのコストは2026年の80.20ユーロから、マークアップが30%、CBAM係数が51.5%となる2030年には166.65ユーロに上がります(トルコ産は109.90ユーロから201.75ユーロ)。2030年の数値は現行のベンチマークによる目安で、ベンチマークは2027年以降の輸入品について更新される可能性があります(実施規則(EU)2025/2620前文第10項)。コストは無償割当がなくなる2034年まで上がり続けます。


デフォルト値の決まり方と、効率のよい日本の施設が不利になる理由

デフォルト値は個々の施設の性能ではなく国の平均的な排出原単位で決まるため、排出量の少ない施設ほど実態より高く評価されます。

デフォルト値は、国の排出インベントリや部門統計を用いて、国と生産ルートごとの施設の加重平均排出原単位を求め、そこにマークアップを加えて設定されます。同じ国で同じルートの2つの施設は、一方が省エネ設備やスクラップ配合、工程の改善に投資していても、同じデフォルト値で評価されます。この平均化から抜け出す手段が、実排出量の測定です。

日本ではこの問題が電炉材に集中します。日本の表で値のある鉄鋼の行のうち、ルートの記載は炭素鋼の高炉・転炉法(C)が103行、低合金鋼の高炉・転炉法(F)が32行、両者の併記(C/F)が6行で、残る57行はルートの記載がありません。電炉法(D、E)の行は1つもありません(実施規則(EU)2025/2621付属書I、実施規則(EU)2026/1740による差し替え後、2026年11月4日に当サイトのデータで集計)。

このため、スクラップを使う日本の電炉メーカーの製品も、デフォルト値を使う限り高炉材と同じ値で評価されます。デフォルト値を使う場合、ベンチマークは各国の行に記載されたルートで決まり、輸出者は選べません(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.1項)。スクラップ電炉法の排出原単位は一般に製品1トン当たり約0.4から0.6 tCO2とされますが、これは参考値で、デフォルト値でもベンチマークでも検証済みの数値でもありません。

逆に、排出量の多い施設ほどデフォルト値で得をします。この逆転は、検証済みの実排出量を提供したときに初めて解消されます。電炉法の算定については電炉法(EAF)のCBAM算定をご覧ください。

アルミニウムでは別の形で不利が生じます。日本の表で値のあるアルミニウムの24行はすべて二次アルミニウム(L)のルートで、差し引かれるベンチマークが小さくなります。アルミニウム合金の板(CNコード 7606 12 99)では、日本のデフォルト値1.730はトルコの2.714より低いにもかかわらず、ベンチマークが0.148(L)と1.485(K)で異なるため、2026年のコストは日本が製品1トン当たり144.78ユーロ、トルコが126.57ユーロです。

検証済みの特定体化排出量(製品1トン当たりのtCO2e)を提供すれば、デフォルト値は完全に置き換えられ、EUの輸入者はその数値に基づいて証書を納付します。実排出量を使う場合に差し引かれるのは、実施規則(EU)2025/2620付属書のColumn A(工程ベンチマーク)に前駆体に含まれる無償割当を加えた量です。コストの低下は、買い手との価格交渉を通じて輸出者に反映されます。


コストの比較例:日本とトルコの熱延鋼板

デフォルト値によるコストは事前に計算できますが、実排出量によるコストは施設自身の検証済みデータがなければ計算できません。

EUの買い手が日本またはトルコから熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)を輸入する場合を考えます。買い手は規則(EU)2023/956の義務を負う認可CBAM申告者です。日本とトルコのデフォルト値を使う2つのケースと、実排出量を使うケースを、次の表で比較します。

ケース 特定体化排出量(tCO2e/t) 無償割当調整 2026年の証書数(製品1トン当たり) 2026年のコスト(製品1トン当たり、82.32ユーロ)
日本、デフォルト値(2.100+マークアップ10%) 2.310 0.975 × 1.00 × 1.370(Column B、ルートC)= 1.33575 0.97425 80.20ユーロ
トルコ、デフォルト値(2.428+マークアップ10%) 2.6708 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575 1.33505 109.90ユーロ
検証済みの実排出量 施設自身の検証済みの数値 Column A(CNコード 7208は0.044)と前駆体に含まれる無償割当 施設のデータ次第 ここでは計算できません

計算:当サイトの計算モジュール(当サイトの計算ツール)、2026年11月4日。デフォルト値は実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740による差し替え後)、ベンチマークは実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項。

日本産のデフォルト値による計算は、2.100 × 1.10 = 2.310、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575、差し引き製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。同じ価格で、2027年は100.31ユーロ、2028年は123.23ユーロ、2030年は166.65ユーロ、CBAM係数が適用されなくなる2034年からは224.73ユーロです(2027年以降はベンチマークが更新される可能性があります)。

検証による節減額は2つの経路の差ですが、実排出量の経路は、施設自身の検証済みの数値がなければ1つの金額に定まりません。実排出量の経路で差し引くのはColumn Aと前駆体の無償割当で、デフォルト値の経路(Column B)とは基準が異なるためです。

日本の熱延鋼板では、マークアップ分だけで、2026年に製品1トン当たり0.21 tCO2e(82.32ユーロで17.29ユーロ)、2028年からは0.63 tCO2e(51.86ユーロ)になります。実排出量が日本のデフォルト値に近い施設では、これが節減の中心です。実際の節減額は、Column AとColumn Bの違いで増減します。

検証費用については、検証サービス各社が施設1か所・報告期間1回当たり5,000ユーロから5万ユーロを提示しています。これは市場推計で、施設の複雑さと移動の要否で変わります。EUに年間数千トンを出荷する施設なら、製品1トン当たり80.20ユーロというデフォルト値のコストに比べて小さな額です。

計算には、2026年10月5日に公表された2026年第3四半期のCBAM証書の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、第1四半期75.36ユーロ、第2四半期75.28ユーロ)を使っています。価格が上がれば、無償割当調整を上回る排出量1トンごとのコストは比例して上がります。貴社の製品とトン数での推計はCBAM計算ツール(英語)で確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。

同じ考え方は、輸入者側から見たCBAMのデフォルト値にも当てはまります。輸出者から検証済みデータを受け取った輸入者は、納付する証書が少なくなり、デフォルト値に頼る輸入者より有利になります。


デフォルト値の影響が大きい部門と製品

デフォルト値によるコストの水準は、部門と原産国によって、2026年に製品1トン当たり約27ユーロから約177ユーロまで大きく異なります。

次の表は、英語版で取り上げている4つの製品と原産国の組み合わせに、日本の主要品目を加えて、2026年のデフォルト値によるコストを比べたものです。

製品(CNコード) 原産国 付属書Iのデフォルト値(tCO2e/t) 2026年のマークアップ後 2026年のコスト(製品1トン当たり)
鋼片(7207 12 10) 中国 3.169 3.4859 177.48ユーロ
ねじ・ボルト(7318 15 42) 日本 2.800 3.080 144.07ユーロ
アルミニウム合金の板(7606 12 99) 日本 1.730(L) 1.903 144.78ユーロ
熱延鋼板(7208 51 20) 日本 2.100 2.310 80.20ユーロ
グレークリンカー(2523 10 00) トルコ 1.410 1.551 74.22ユーロ
未加工アルミニウム、一次(7601) アラブ首長国連邦 1.870(K) 2.057 55.12ユーロ
無水アンモニア(2814 10 00) エジプト 2.050 2.0705 48.28ユーロ
ポルトランドセメント(2523 29 00) 日本 0.890 0.979 27.14ユーロ

デフォルト値:実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740による差し替え後)、2026年のマークアップ10%(肥料は1%)。コスト:実施規則(EU)2025/2620のColumn Bベンチマーク(鋼片とボルト1.364、熱延鋼板1.370、日本のアルミ板0.148、クリンカーとセメント0.666、一次アルミニウム1.423、アンモニア1.522)、CBAM係数97.5%、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロ。トルコのクリンカーの行はダッシュのため「その他の国・地域」の値が適用されます。

検証済みデータでどれだけ下がるかは、施設自身の検証済み排出量と、Column Aと前駆体の無償割当を差し引く実排出量の経路によって決まります。日本からのEUのCBAM対象製品(付属書Iのコード)の輸入は、2025年に金額ベースで14億4,820万ユーロで、そのうち鉄鋼が12億4,590万ユーロ、アルミニウムが1億9,500万ユーロを占め、セメントは480万ユーロ、肥料は250万ユーロでした(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。

セメントでは、トルコの生産者が厳しい立場にあります。トルコのグレークリンカーとグレーポルトランドセメントの行はダッシュのため「その他の国・地域」の値が適用され、マークアップ前でそれぞれ1.410と1.440、2026年は1.551と1.584です。トルコのセメント業界団体Türkçimentoは、会員のグレークリンカーを1トン当たり0.88 tCO2と報告していますが、これは業界団体の数値で、検証済みの実排出量でもデフォルト値でもありません。

トルコ産グレーポルトランドセメントのデフォルト値によるコストは、82.32ユーロで2026年に製品1トン当たり76.94ユーロ、2030年に125.87ユーロです(現行ベンチマークによる目安)。日本のポルトランドセメントには独自のデフォルト値0.890(直接0.830、間接0.060)があり、2026年のコストは27.14ユーロです。ただし日本からEUへのセメント輸出は2025年に480万ユーロで、規模は小さいままです(Eurostat Comext、2025年)。

肥料は例外です。マークアップは1%だけで、他部門の10%から30%と大きく異なります。2025年のEUの尿素輸入の上位3か国であるエジプト、ロシア、アルジェリア(Eurostat Comext、2025年)では、測定の動機はマークアップよりも、国のデフォルト値(尿素、CNコード 3102 10 19で1.390、1.470、1.410 tCO2e)と施設の実際の数値の差にあります。エジプト産尿素はデフォルト値で2026年に製品1トン当たり43.17ユーロです。


デフォルト値ワークシート(英語)

CBAMの公式デフォルト値をすべて1つのスプレッドシートに収録しています。マークアップ、ベンチマーク、2026年の製品1トン当たりのコスト付きで、英語版をすぐにダウンロードできます。

このお知らせのために保存するのは、メールアドレスだけです。 プライバシーポリシー(英語)

日本の輸出者が検証済みの実排出量を提供する方法

日本の生産者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)を通じて、検証済みの実排出量をEUの輸入者に提供します。

移行期間中に使われていた任意様式のコミュニケーションテンプレートは、現在は使われていません。事業者の排出量報告書のサマリーは16項目で(実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)、2026年8月14日のガイダンス第3号による3文書の構成で英語により提供します(同実施規則第10条第4項)。報告書は報告期間ごとに1回作成すれば、すべてのEUの買い手に共通して使えます。ポータルの使い方は事業者用ポータル(O3CI)にまとめています。

検証済みデータがデフォルト値に置き換わるまでの3つの手順は、次のとおりです。

  1. モニタリング計画を作ります。 施設での体化排出量の測定方法、システム境界、すべての排出源、算定方法を、実施規則(EU)2025/2547に従って文書にします。
  2. 報告期間の活動量データを集めます。 燃料の使用記録、電力の請求書、原材料の投入量、生産量を、施設単位で記録します。
  3. 認定検証機関に検証を依頼します。 検証機関は、委任規則(EU)2025/2551に基づき、EN ISO/IEC 17029:2019に照らしてEU加盟国の国家認定機関(NAB)が認定した機関でなければなりません。施設が初めて検証を受ける年には現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条)。

検証機関は、申告された特定体化排出量が生産段階の実排出量を適正に表しているかを確認し、検証報告書を発行します。この報告書が輸出者のデータに添えられ、規則(EU)2023/956上の証拠になります。検証は実排出量を使う場合に必須で(第8条第1項)、デフォルト値には不要です。検証の流れは輸出者のためのCBAM検証で説明しています。

CBAM登録簿への検証機関の登録は2026年9月1日に始まりました。CBAM検証機関を認定できるのはEU加盟国の国家認定機関だけで、日本の認定機関は認定できません。日本の検証機関は、域外からの申請を受け付ける7つの国家認定機関(フランス、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキア、スウェーデン)のいずれかに申請します。2026年10月21日の欧州委員会の表では、24の機関がCBAMの認定を提供し、20が申請受付の準備を終えています。

国家認定機関の登録簿で確認できる認定は、2026年10月13日時点で5件です。EmiCert S.A.(ギリシャのESYD)、Bureau Veritas Italia S.p.A.、RINA Services S.p.A.、SGS ICS Italia S.r.l.(いずれもイタリアのAccredia)、Intertek Certification AB(スウェーデンのSwedac)で、それぞれ認定された活動グループに限られ、日本の法人は含まれません。2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。

JETROは2026年10月27日、日本で活動する検証機関の一部が事前検証を提供し、認定の取得を目指していると報じています。GX-ETSの登録確認機関やGXリーグの登録検証機関であることは、CBAMの検証資格になりません。一覧はCBAM認定検証機関にあります。

部門ごとのデータの作り方は、2026年8月14日に欧州委員会が公表した部門別ガイダンス5aから5f(セメント、水素、肥料、鉄鋼、アルミニウム、電力)が示しています。各ガイダンスは算定方法を部門ごとの生産ルートに当てはめて解説したもので、EUの買い手にデフォルト値から実排出量へ切り替えてもらいたい施設にとって手引きになります。全体は10本のCBAMガイダンス文書(英語)にまとめています。


CBAMのデフォルト値はいつ競争上の脅威になりますか

デフォルト値が競争上の脅威になるのは、EUの買い手が、検証済みデータでより低い排出原単位を示す供給者から同等の製品を調達できるようになった時点です。

時期は部門と買い手の行動で異なりますが、次の3つの構造的な契機により、多くの輸出者にとって2027年と2028年が分かれ目になります。

  • 2027年2月:CBAM証書の販売が2027年2月1日に始まり(第20条第1項)、義務が実際の支出に変わります。買い手は、どの供給者なら証書コストを抑えられるかを早い段階で見極めるようになります。
  • 2028年:マークアップが20%から30%に上がり、検証済みの供給者とそうでない供給者の差がさらに10ポイント広がります。
  • 2028年から2030年:CBAM係数が90%から51.5%に下がり、無償割当調整が縮みます。デフォルト値で82.32ユーロ一定とすると、日本産熱延鋼板は製品1トン当たり123.23ユーロから166.65ユーロに、トルコ産は158.33ユーロから201.75ユーロに上がります(現行ベンチマークによる目安)。

2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。2026年中にモニタリングと検証の準備を始めた輸出者は、最初の申告に間に合うデータを用意できます。2027年まで着手しない輸出者は、2026年分に検証済みデータを間に合わせることが難しく、買い手に1年分のデフォルト値のコストを負わせることになります。

競争上の影響は証書コストだけにとどまりません。EU ETSの価格上昇で利幅が圧迫されるEUの輸入者は、検証済みの低い排出量を示せる供給者を優先します。日本産熱延鋼板の場合、2026年のマークアップ後のデフォルト値2.310を下回る検証済みの数値を示せることは、規制対応にとどまらず、商談での差別化要因になります。

キャプション:マークアップは2028年から30%になり、CBAM係数は2034年から適用されなくなるため、検証済みデータを持たない輸出者の不利は重なって大きくなります。


EUの輸入者が検証済みデータの代わりにデフォルト値を使うとどうなりますか

輸出者からデータが届かなければ、EUの輸入者は自動的にデフォルト値を使い、実排出量なら不要だった追加の証書コストがサプライチェーンの損失になります。

輸入者が納付するCBAM証書の数は、マークアップ付きのデフォルト値から無償割当調整を差し引き、輸入量を掛けたものです。損失を誰が負担するかは交渉力で決まります。輸入者の対応は次の4通りで、それぞれ輸出者に跳ね返ります。

  • 利幅で吸収する:輸入者が追加の証書コストを自ら負担します。利幅の圧迫は、より安い供給者を探す動機になります。
  • 輸出者に転嫁する:輸入者が購入価格を下げます。輸出者の製品1トン当たりの手取りは、マークアップ分などの追加コストだけ減ります。
  • EUの顧客に転嫁する:輸入者が販売価格を上げます。時間がたつにつれて需要が減ります。
  • 供給者を切り替える:デフォルト値の低い国の供給者か、検証済みデータを出す供給者に乗り換えます。

利幅での吸収を除き、どの対応も直接または間接に輸出者の不利益になります。影響が大きいのは、中国(鋼片のデフォルト値3.169)やトルコ(「その他の国・地域」のグレーポルトランドセメント1.440を適用)のようにデフォルト値の高い国の輸出者です。日本の鉄鋼のデフォルト値はこれらより低いものの、米国の熱延鋼板(1.400)のようにデフォルト値が日本より低い国の供給者は、実際の生産コストが同等でも、CBAM上の評価額で日本製品より有利になる場合があります。


検証済みデータとCBAMの義務の関係

検証済みデータを提供すると、日本の輸出者にCBAM上の責任が生じますか

生じません。EUの輸入者に検証済みの実排出量を提供しても、日本の輸出者が規則(EU)2023/956上の義務を負うことはありません。CBAM証書の購入と納付の義務は、すべてEUの認可CBAM申告者にあります。輸出者の役割は施設単位の正確なデータの提供で、証書の口座も納付義務もありません。データの誤りに対する責任が問題になる場合、それはCBAM規則の執行ではなく、輸出者と輸入者の間の契約の問題です。

日本で支払った炭素価格の控除を受けられますか

控除を請求できるのは、EUの輸入者の申告を通じてだけです。2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。第9条第1項により、認可申告者は生産国で実際に支払われた炭素価格について、リベートなどの補償を差し引いたうえで減額を請求できます。輸出者は、制度の内容、CO2換算トン当たりの支払額、受けた無償割当やリベートを書類で示す必要があります。

日本の制度に当てはめると、GX-ETS(2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化)は鉄鋼とセメントにベンチマーク方式で排出枠を無償割当しており(ICAP)、欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」としています。地球温暖化対策のための税(CO2 1トン当たり289円、環境省)では、鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭が免税になっています。

デフォルト値を使う場合、控除は2027年から欧州委員会が国ごとに定めることのできる年次のデフォルト炭素価格を参照するときに限られ(第9条第4項)、日本についてはまだ定められていません。韓国のK-ETSを含め、どの国の炭素価格も認められていません。自主的なカーボンオフセット、社内炭素価格、補助金は、実際に支払われた炭素価格になりません。詳しくはCBAMの炭素価格控除をご覧ください。

デフォルト値のほうが検証済みデータより有利な場合はありますか

施設によって異なるため、両方の経路を試算してください。デフォルト値の経路は、マークアップ付きのデフォルト値からColumn Bのベンチマークを差し引きます。実排出量の経路は、検証済みの排出量からColumn Aの工程ベンチマークと前駆体に含まれる無償割当を差し引きます。検証済みの排出原単位が日本のデフォルト値とマークアップの合計を上回る施設では、実排出量に切り替える利点はなく、買い手はデフォルト値のままでかまいません。

それでも測定には意味があります。実排出量をデフォルト値の水準より下げるために、どれだけの投資が必要かが分かるからです。日本の熱延鋼板では、2026年の判断の目安は2.310 tCO2e、2028年からは2.730 tCO2eです。

日本の輸出者は測定をどのように始めればよいですか

まずモニタリング計画を作ります。モニタリング計画は、生産施設で体化排出量をどう測定、算定、記録するかを定めた文書で、システム境界、すべての排出源、実施規則(EU)2025/2547から選んだ算定方法、データ収集の担当者を記載します。検証機関が最初に確認するのもこの計画です。2026年の輸入分に検証済みデータを出すには、その報告期間の生産が始まる前に計画を用意する必要があります。

日本語の資料としては、経済産業省の「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月)と、JETROの「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル」(2026年3月)があります。経済産業省のガイドラインは、CNコード 7318 15 42について2026年の証書数を1.750としており、当サイトの計算(1.7501)と一致します。16項目のデータと前駆体のデータについては日本の輸出者向けデータ要件をご覧ください。


CBAMのデフォルト値に関するよくある質問

輸出者にとってCBAMのデフォルト値とは何ですか

CBAMのデフォルト値は、国の平均的な排出原単位に、2026年10%、2027年20%、2028年から30%(肥料は毎年1%)のマークアップを加えた値で、生産施設から検証済みデータが届かない場合にEUの輸入者が使います。原産国とCNコードごとに実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)で定められ、日本には独自の表があります。無償割当調整は申告する排出量に応じて増えないため、マークアップ分は全額が証書の対象になります。

CBAMのデフォルト値は輸出者と輸入者のどちらに適用されますか

デフォルト値が適用されるのは、EUの輸入者の証書の計算です。日本の輸出者に直接の法的義務はありません。ただし、その証書コストは購入価格の引き下げや供給者の切り替えという形で輸出者に跳ね返るため、実際の負担は輸出者にも及びます。

デフォルト値は検証済みデータと比べてどれだけ高くなりますか

差は製品、原産国、証書価格で決まります。デフォルト値の場合、日本産熱延鋼板(CNコード 7208 51 20、デフォルト値2.100、2026年は2.310)は2026年の輸入で製品1トン当たり80.20ユーロ、中国産鋼片(CNコード 7207 12 10、3.169、2026年は3.4859)は177.48ユーロです(2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロ)。

検証済みデータによる節減額は、マークアップ付きのデフォルト値と検証済みの数値の差に証書価格を掛け、実排出量の経路のベンチマークの違いで調整した額です。調整前の目安として、差0.1 tCO2eごとに、82.32ユーロで製品1トン当たり8.23ユーロになります。

日本の輸出者はCBAMの事業者用ポータルを自分で使えますか

使えます。CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)では、EU域外の施設事業者が検証済みの排出データをアップロードし、特定のEUの輸入者と共有できます。実排出量を報告する事業者は、実施規則(EU)2025/2547付属書IVの構成で排出量報告書とそのサマリーを英語で作成します。一度アップロードしたデータは、すべてのEUの買い手との取引に同時に使えます。

デフォルト値のマークアップは恒久的なものですか

マークアップの段階は法令で定められています。2028年以降の30%は実施規則(EU)2025/2621に基づき、同規則が改正されない限り、鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素に適用され続けます。肥料の1%も現行法で固定されています。

2026年11月4日時点で実施規則(EU)2025/2621を改正した法令は、実施規則(EU)2026/1740(2026年7月20日採択、7月31日公表)だけです。付属書IとIVを訂正後の値に差し替え、2026年1月1日に遡って適用されますが、マークアップの段階と算定方法は変えていません。同日時点で、欧州委員会のCBAM法令ページにほかの改正法令は掲載されていません。

見直しは予定されています。実施規則(EU)2025/2547第11条第5項は、欧州委員会に遅くとも2027年12月までにデフォルト値を見直すよう求めています。見直しの対象は値で、マークアップの率の変更は採択されていません。

日本の輸出者はいつ排出量の測定を始めるべきですか

2026年の輸入分を対象とする最初の申告期限(2027年9月30日)に間に合わせるには、2026年の報告期間の初めにモニタリング計画を用意し、輸入者の申告前に検証報告書を完成させる必要があります。CBAM登録簿への検証機関の登録は2026年9月1日に始まりました。測定、検証、データ提出の順序はCBAM輸出者ガイドで説明しています。

日本のデフォルト値はどこで確認できますか

日本の値は、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の日本の表にあり、283行のうち254行に値があります。主な値は、熱延鋼板(7208)と半製品(7207 11 14)が2.100、冷延鋼板(7209)が2.143、めっき鋼板(7210)が2.130、ボルト・ねじ(7318 15)が2.800、無方向性電磁鋼板(7225 19 90)が3.530、アルミニウム合金の板(7606)が1.730 tCO2eです。品目別の一覧とコストはCBAMデフォルト値(日本の国別値)にあります。


CBAMのデフォルト値は、輸出者が何もしないままでいるより測定を選ぶように、意図的に不利な水準に設定されています。実排出量がデフォルト値を下回る施設、つまり効率よく操業する鉄鋼、セメント、アルミニウムの施設の多くは、検証で直接の利益を得ます。とくに、高炉ルートで評価される日本の電炉材と、ベンチマークの小さい二次アルミニウムのルートで評価される日本のアルミニウム製品では、検証済みデータの価値が大きくなります。

実排出量がデフォルト値を上回る施設には、排出を減らすか、EU市場から撤退するかという別の判断が残ります。検証済みデータで示す体化排出量は、2034年までの段階的な移行のどの時点でも、証書コストを左右する数値です。算定の範囲と前駆体のルールはCBAMの体化排出量で説明しています。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。