
EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)の体化排出量は、EUの輸入者が購入して納付するCBAM証書の枚数を決める数値です。CBAM申告書で使うのは特定体化排出量(SEE)、つまり生産した製品1トン当たりの排出量をtCO2e(CO2換算トン)で表した値で、生産施設ごとに1つ算定されます。
施設がこの値を正しく示せば、その値で証書の義務が決まります。示せない場合は欧州委員会のデフォルト値を使い、2026年は10%、2028年からは30%のマークアップが上乗せされ、その上乗せ分にも証書価格が満額でかかります。
日本の輸出者にとって、この違いは具体的な金額になります。日本産の熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)をデフォルト値で輸入すると、2026年は製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。
CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。このページでは、体化排出量の法的な定義、直接排出量と間接排出量の区別(どの部門で両方が対象になるか)、実施規則(EU)2025/2547による算定手順、計算例、デフォルト値と実排出量のコストの違いを、日本の数値とともに説明します。制度全体の基本はEU CBAMガイドで解説しています。
この算定方法について、欧州委員会の公式な支援資料は2026年8月14日に出そろいました。欧州委員会税制・関税同盟総局(DG TAXUD)が本格実施期間向けに公表した10件のガイダンスです。
内訳は、一般ガイダンス4件(第1号:CBAMの基本概念、第2号:EU域外の事業者向けクイックガイド、第3号:体化排出量の算定方法、第4号:納付する証書数に対する無償割当調整の計算)と、セメント、水素、肥料、鉄鋼、アルミニウム、電力の部門別ガイダンス第5a号から第5f号で構成されます。
このページに最も関係が深いのはガイダンス第3号です。10件はいずれも法的拘束力のない、2026年の報告年に向けた支援資料で、最初の申告期限は2027年9月30日です。JETROも2026年8月26日のビジネス短信でこの公表を伝えています。各文書の概要は10件のガイダンスの公表(英語)にまとめています。
キャプション:体化排出量は生産施設からCBAM証書の義務へとつながります。直接排出量(スコープ1)は6部門すべて、間接排出量(スコープ2の電力)はセメント、肥料、凝結させた鉄鉱石に適用されます。
CBAMの体化排出量とは
体化排出量とは、製品の生産時に排出される温室効果ガスのうち、CBAM証書の計算のためにその製品に割り当てる量で、生産量1単位当たりで表します。
法的な定義は規則(EU)2023/956第3条第22号にあり、体化排出量は直接体化排出量と、該当する場合の間接体化排出量を合わせたものです。直接排出量は生産工程そのもの(燃料の燃焼、化学反応、施設内での熱の生成)から、間接排出量は生産中に消費した電力から生じます。どちらを算入するかは部門ごとに固定されており、選ぶことはできません。
セメントと肥料は直接排出量と間接排出量の両方を含みます。鉄鋼、アルミニウム、水素は直接排出量だけです。例外は凝結させた鉄鉱石(焼結鉱やペレットなど、CNコード 2601 12 00)で、付属書Iの鉄鋼製品でありながら付属書IIに記載がないため、間接排出量も算入します。電力は独立した区分で、発電時点のMWh当たりで評価します。
単位は常に製品1トン当たりのtCO2e、電力ではMWh当たりのtCO2eです。この比率が特定体化排出量で、CBAM申告書と、それに添付する検証報告書に記載されます。
CBAMの対象は鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素の6部門です。これらの製品の輸入では、製品を供給した生産施設ごとに特定体化排出量を報告します。排出量を証書の義務に換算する全体の流れはCBAMの計算方法で説明しています。多数の施設から数値を集める輸入者向けのツールは、CBAMソフトウェアの比較(英語)で比べられます。
直接排出量と間接排出量の法的な区別
直接体化排出量(第3条第21号)とは、生産施設での生産工程中に放出される温室効果ガスで、燃料の燃焼、工程の化学反応、施設内で消費する熱と冷却の生成による排出を含みます。 一般的な炭素会計でいうスコープ1に当たります。
間接体化排出量(第3条第34号)とは、製品の生産中に消費した電力の生産に伴う排出です。 スコープ2に当たります。CBAMで算入するかどうかは部門の指定で決まり、施設が実際に使う電力の量では決まりません。
部門ごとの区分は、直接排出量だけを考慮する製品を列挙した規則(EU)2023/956付属書IIで固定されています(第7条第1項)。部門別の対象は次の表のとおりです。
| 部門 | 直接排出量 | 間接排出量 | 対象の温室効果ガス |
|---|---|---|---|
| 鉄鋼(第72類と第73類) | 対象 | 対象外 | CO2 |
| 凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00) | 対象 | 対象 | CO2 |
| セメント | 対象 | 対象 | CO2 |
| アルミニウム | 対象 | 対象外 | CO2+PFC(CF4、C2F6) |
| 肥料 | 対象 | 対象 | CO2+N2O |
| 電力 | 対象 | 該当なし | CO2 |
| 水素 | 対象 | 対象外 | CO2 |
セメントと肥料が間接排出量を含むのは、付属書IIに記載されていないためです。理由としては一般に、電力消費が総排出量の中で無視できない割合を占め、電力分を除くと価格のゆがみが大きくなることが挙げられます。鉄鋼とアルミニウムではCBAMの段階で間接排出量が除かれ、実施規則(EU)2025/2621付属書Iの鉄鋼(第72類と第73類)とアルミニウム(第76類)のデフォルト値にも間接排出量の値はありません。
凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)は鉄鋼の中の例外です。付属書IIに記載がないため間接排出量が体化排出量に含まれ、デフォルト値にも間接排出量の値が記載されています。たとえばアルジェリアの表では製品1トン当たり0.030 tCO2eです。
日本のデフォルト値に見る直接排出量と間接排出量の内訳
日本のデフォルト値の表でも、セメントと肥料には間接排出量の値があり、鉄鋼とアルミニウムの行には「N/A」と記載されています。
実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の日本の表から、主な製品の値を抜き出すと次のとおりです(マークアップ前、製品1トン当たりtCO2e)。
| 製品(CNコード) | 直接排出量 | 間接排出量 | 総排出量 |
|---|---|---|---|
| グレーポルトランドセメント(2523 29 00) | 0.830 | 0.060 | 0.890 |
| その他のクリンカー(2523 10 00 90) | 0.820 | 0.030 | 0.850 |
| 無水アンモニア(2814 10 00) | 2.050 | 0.140 | 2.190 |
| 尿素(3102 10 19) | 1.410 | 0.110 | 1.520 |
| 凝結させた鉄鉱石(2601 12 00) | 0.160 | 0.040 | 0.200 |
| 熱延鋼板(7208) | 2.100 | N/A | 2.100 |
| ボルト・ねじ(7318 15) | 2.800 | N/A | 2.800 |
| アルミニウムの塊(7601) | 0.360 | N/A | 0.360 |
| アルミニウムの板(7606) | 1.730 | N/A | 1.730 |
| 水素(2804 10 00) | 14.030 | N/A | 14.030 |
日本の対EU輸出では、間接排出量が算入される製品はごく一部です。EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象製品(付属書Iのコード)14億4,820万ユーロのうち、鉄鉱石を除く鉄鋼が12億4,589万ユーロ、アルミニウムが1億9,497万ユーロで、合わせて金額ベースで99.5%を占めます(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。
間接排出量を含むセメントと肥料は合わせて734万ユーロ(0.5%)で、凝結させた鉄鉱石の輸入は2025年にありませんでした(Eurostat Comext、2025年)。日本の輸出者の大半にとって、体化排出量の算定は直接排出量の算定とほぼ同じ意味になります。
生産施設が算定の単位になる理由
CBAMは体化排出量を、企業単位や国単位ではなく、生産施設(第3条第30号)単位で算定します。 生産施設とは製品を製造する個々の施設です。同じ国の同じ企業の工場でも、技術、燃料構成、エネルギー効率によって排出原単位は大きく変わります。
トルコの製鉄所5か所から調達するEUの輸入者は、製鉄所ごとに特定体化排出量のデータを入手する必要があります。国単位の平均値は実排出量として認められません。国別や製品別の平均値が使われるのは、デフォルト値の場合だけです。施設ごとに集めるデータは、サプライヤーから集める16項目のデータにまとめています。
特定体化排出量の計算式
特定体化排出量(SEE)は、体化排出量の合計を生産量で割った値で、製品1トン当たりのtCO2eで表します。
実施規則(EU)2025/2547による基本の式は次のとおりです。
SEE =(直接体化排出量+間接体化排出量)÷ 正味生産量(トン)
間接排出量が対象外の部門(鉄鋼、アルミニウム、水素)では間接排出量はゼロとして扱い、式は次のようになります。
SEE = 直接体化排出量 ÷ 正味生産量(トン)
セメントと肥料では、両方の要素を使います。
SEE =(直接体化排出量+間接体化排出量)÷ 正味生産量(トン)
間接体化排出量そのものは、次の式で計算します。
間接体化排出量 = 消費電力量(MWh)× 電力の排出係数(tCO2/MWh)
電力の排出係数は、実際の値を使う条件を満たさない限り、デフォルト値を使います(第7条第4項)。デフォルト値は、実施規則(EU)2025/2621付属書IIに定める原産国の係数です。実際の係数を使えるのは規則の付属書IV第6項に定める場合に限られ、施設と発電源が直接の技術的接続で結ばれている場合と、施設の事業者が第三国の発電事業者と電力購入契約(PPA)を結んでいる場合がこれに当たります。
直接排出量の算定方法
施設の直接排出量は、実施規則(EU)2025/2547付属書II第B.2項に定める2つの方法のいずれかでモニタリングします。 計算に基づく方法は、標準法またはマスバランス法で実施します。測定に基づく方法は、排ガス中の温室効果ガス濃度と排ガス流量を連続測定します。最も正確で信頼性の高い結果が得られる方法を選び、施設の部分ごとに方法を組み合わせることもできます。
標準法では、燃焼による排出量を燃料ごとに次の式で計算します(第B.3.1.1項)。
燃焼排出量 = 活動量データ × 排出係数 × 酸化係数
各項目の意味は次のとおりです。
- 活動量データ:燃料の量に真発熱量を掛けた値(TJ)
- 排出係数:エネルギー単位当たりのCO2放出量(tCO2/TJ)
- 酸化係数:燃料中の炭素のうちCO2に酸化される割合で、保守的な仮定として常に1を使うことができます
標準法のプロセス排出量は、原料ごとに活動量データ×排出係数×転換係数で計算します(第B.3.1.2項)。セメント生産の脱炭酸反応(CaCO3 → CaO+CO2)について、付属書IIは2つの化学量論係数を示しています。分解したCaCO3 1トン当たり0.440トンのCO2(方法A、投入ベース)と、生成したCaO 1トン当たり0.785トンのCO2(方法B、産出ベース)です。
マスバランス法(第B.3.2項)は、投入と産出のすべての原料の炭素含有量を追跡します。同じ実施規則の付属書Iは、銑鉄、直接還元鉄(DRI)、粗鋼のルートで、製品、スラグ、廃棄物に残る炭素についてこの方法を定めています。
クリンカーと大半のセメントのモニタリング上の機能単位は、製品に含まれるクリンカーのトン数です(実施規則(EU)2025/2547第4条)。付属書のデフォルト値とベンチマークは製品1トン当たりで示され、付属書IIIは特定体化排出量を製品の平均クリンカー含有率で調整します。詳しくはCBAMとセメントクリンカーをご覧ください。
CBAM体化排出量の算定手順(5ステップ)
CBAMの対象製品を供給するすべての生産施設に、次の5つの手順が当てはまります。
各手順は、EU域外の生産者が行うデータ収集または計算と、EUの輸入者が確認すべき作業に対応しています。JETROは2026年9月18日の記事で同じ作業を8段階に分けて説明しており、対象製品、統合製品カテゴリ、施設と生産工程、前駆体の特定から始めています。
ステップ1:生産ルートとシステム境界を特定する
製造する製品に当てはまる生産ルートを特定します。生産ルートによって、使う活動量データ、排出係数、計算式が決まります。炭素鋼について、実施規則(EU)2025/2620のベンチマーク表は、高炉・転炉法(BF-BOF)、直接還元鉄を使う電炉法(DRI-EAF)、スクラップ電炉法の3つのルートを区別しています。高炉・転炉法の製鉄所は、すべての燃料投入、プロセス排出、(間接排出量が対象の部門では)電力消費を含む施設の物理的な境界、つまりシステム境界を定めることから始めます。
ステップ2:すべての排出源の活動量データを集める
システム境界内のすべての排出源について、測定した量のデータを集めます。高炉・転炉法の製鉄所の排出源には、高炉のコークス消費、微粉炭の吹き込み、天然ガスの消費、転炉に投入する石灰石、電力消費があります。どの排出源も、生産期間全体をカバーする計量値または信頼できる方法で測定したデータが必要です。
ステップ3:排出係数を掛けて直接排出量の合計を計算する
各活動量データに適切な排出係数を掛けます。一般的な燃料の標準排出係数は、IPCC 2006年ガイドラインに基づき、実施規則(EU)2025/2547付属書II第G項に掲載されています。燃料の継続的なサンプリングと分析に基づく施設固有の排出係数も認められ、多くの場合はより正確です。アルミニウムでは、陽極効果によるパーフルオロカーボン(PFC)の排出も算定し、CF4は地球温暖化係数(GWP)6,630、C2F6は11,100で換算します(CBAMとアルミニウムのPFC)。
ステップ4:間接体化排出量を計算する(セメントと肥料のみ)
セメント工場と肥料工場では、生産期間中の消費電力量(MWh)を測定または推計し、適用される電力の排出係数(tCO2e/MWh)を掛けます。原産国別のデフォルト係数は実施規則(EU)2025/2621付属書IIにあります。直接の技術的接続や電力購入契約による実際の係数には、実施規則(EU)2025/2547付属書II第D.4.3項に定める証拠が必要で、発電と受電を最長1時間単位で照合するスマートメーターのデータを含みます。凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)にも同じ手順を適用します。
ステップ5:正味生産量で割って特定体化排出量を求める
直接排出量と、該当する場合は間接排出量を合計します。その合計を、測定期間中に生産した製品の正味トン数で割ります。この結果が、CBAM申告書と検証報告書に記載する特定体化排出量(tCO2e/t)です。
計算例:トルコ産ポルトランドセメント
この例では、EUの輸入者に供給するトルコの仮想のポルトランドセメント工場について、特定体化排出量を計算します。工場のデータは説明のための仮の数値です。ポルトランドセメント(CNコード 2523 29)は直接排出量と間接排出量の両方が対象です。
2026暦年の生産条件は次のとおりです。
- セメントの正味生産量:50万トン
- クリンカー比率:0.82(クリンカー含有率82%)
- クリンカー生産量:41万トン
- 燃料:石炭(主)、天然ガス(補助)
直接排出源の内訳は次の表のとおりです。
| 排出源 | 量 | 排出係数 | CO2(トン) |
|---|---|---|---|
| 石灰石の脱炭酸(プロセス) | クリンカー410,000 t | 0.525 tCO2/tクリンカー(説明用) | 215,250 |
| 石炭の燃焼(キルン燃料) | 石炭55,000 t | 2.42 tCO2/t石炭 | 133,100 |
| 天然ガス(補助燃料) | 8,500,000 m³ | 0.00202 tCO2/m³ | 17,170 |
| 直接CO2の合計 | 365,520 |
間接排出源(電力)は次のとおりです。
- 消費電力量:7万5,000 MWh
- トルコの電力のデフォルト排出係数:0.420 tCO2e/MWh(実施規則(EU)2025/2621付属書II)
- 電力による間接CO2:75,000 × 0.420 = 3万1,500トン
特定体化排出量の計算は次のとおりです。
SEE =(直接+間接)÷ 生産量 SEE =(365,520 + 31,500)÷ 500,000 SEE = 397,020 ÷ 500,000 SEE = セメント1トン当たり0.794 tCO2
この0.794 tCO2/tは、デフォルト値を大きく下回ります。実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)にはトルコのグレーポルトランドセメント(CNコード 2523 29 00)の国別値がないため、「その他の国と地域」のデフォルト値1.440 tCO2e/t、2026年はマークアップ10%を加えて1.584が適用されます。
2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで、検証済みの実排出量による総コストは0.794 × 82.32 = 製品1トン当たり65.36ユーロ、デフォルト値では1.584 × 82.32 = 製品1トン当たり130.39ユーロです。
無償割当調整を差し引いた正味のコストでは、差はさらに大きくなります。デフォルト値の場合、無償割当調整は0.975 × 1.00 × 0.666(実施規則(EU)2025/2620のColumn Bのベンチマーク)= 0.6494で、残る証書は0.9347枚、製品1トン当たり76.94ユーロです。
実排出量の場合、セメント工程のColumn Aのベンチマークは0.000なので、無償割当調整は同付属書の式4によりクリンカー前駆体から求めます:0.82 × 0.975 × 1.00 × 0.666 = 0.5325。残る証書は0.2615枚、製品1トン当たり21.53ユーロです。この例では、デフォルト値ではなく検証済みの実排出量を使うことで、製品1トン当たり55.41ユーロのコストが減ります。
日本産のグレーポルトランドセメントは事情が異なります。日本には国別のデフォルト値0.890があり、2026年はマークアップ後0.979、無償割当調整0.64935を差し引いて製品1トン当たり0.32965枚、82.32ユーロで製品1トン当たり27.14ユーロです(2026年11月4日に当サイトの計算ツールで計算)。国別値の有無で、デフォルト値のコストは3倍近く変わります。
キャプション:計算例のポルトランドセメントの体化排出量を排出源別に示した図です。石灰石の脱炭酸(プロセスCO2)が約54%、燃料燃焼が約38%、電力が約8%を占めます。
部門別の直接排出量:発生源と適用されるCBAMの値
CBAMの直接排出量は、生産施設の境界内で生じるすべての温室効果ガスの放出で、燃料の燃焼、工程の化学反応、熱の生成、(アルミニウムでは)製錬時のパーフルオロカーボンの放出を含みます。
以下では、部門ごとに排出がどこで生じるかを説明します。
CBAM申告書に入る数値は2種類だけです。施設の検証済みの実排出量か、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)のデフォルト値です。無償割当調整には実施規則(EU)2025/2620のベンチマークを使います。この節の数値はすべてこれらの法定値で、業界の一般的な原単位ではありません。
鉄鋼:直接排出量のみ
鉄鋼の直接排出量は生産ルートで決まります。コークスで鉄鉱石を還元する高炉・転炉法が最も排出原単位が高く、直接還元鉄を使う電炉法がそれに続きます。スクラップ電炉法は還元工程が不要なため最も低くなります。
半製品の炭素鋼(CNコード 7207 11 14)のColumn Bのベンチマークも同じ順で、高炉・転炉法1.364、DRI-EAF 0.475、スクラップ電炉法0.066 tCO2e/tです。付属書Iのデフォルト値はこれを大きく上回り、トルコ(CNコード 7207 11 14)は2.310、中国(CNコード 7207 12 10)は3.169、日本(CNコード 7207 11 14)は2.100です。
電炉製鋼の電力消費は大きいものの、鉄鋼のCBAM体化排出量には含まれません。鉄鋼は付属書IIに記載されているため、実排出量でもデフォルト値でも直接排出量だけが証書の対象です。付属書IIは第72類と第73類の製品を掲げていますが、凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)は掲げていないため、この1品目だけは間接排出量を含みます。
日本の表の鉄鋼の行に記載されたルートは高炉・転炉法(C、F)だけです。このため、デフォルト値を使う限り、日本の電炉メーカーの製品も高炉材と同じ値で評価されます(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.1項)。電炉材の扱いはCBAMと電炉法(EAF)で、鉄鋼の算定全体はCBAM鉄鋼の体化排出量の計算方法で説明しています。
セメント:直接排出量と間接排出量
セメントの最大の排出源は、石灰石をクリンカーにする脱炭酸です。この反応は炭酸カルシウム(CaCO3)を酸化カルシウム(CaO)とCO2に分解するもので、省エネルギーでは取り除けません。2番目の排出源はキルンの燃料です。高炉スラグ、フライアッシュ、焼成粘土などでクリンカーを代替すると、セメントのクリンカー含有率が下がり、セメント1トン当たりのプロセスCO2も下がります。
グレーポルトランドセメント(CNコード 2523 29 00)の法定値は、Column Bのベンチマークが0.666 tCO2e/t、「その他の国と地域」のデフォルト値が間接排出量を含めて1.440 tCO2e/tです。国別のデフォルト値はエジプト1.290、モロッコ0.950、日本0.890です。グレークリンカーの「その他の国と地域」のデフォルト値は1.410です。
アルミニウム:PFCを含む直接排出量
ホール・エルー法による一次アルミニウムの電解製錬では、炭素陽極の消費から直接CO2が、陽極効果からPFC(CF4とC2F6)が排出されます。スクラップを再溶解する二次アルミニウムには、どちらの排出源もありません。アルミニウムの塊(CNコード 7601)のColumn Bのベンチマークは、一次1.423、二次0.091 tCO2e/tです。
一次製錬の最大のエネルギー投入は電力ですが、CBAMはアルミニウムの電力を評価しません。間接排出量は計算の外に置かれ、付属書Iのデフォルト値も直接排出量だけを対象とします。CNコード 7601の例では、アラブ首長国連邦1.870、中国3.000、日本0.360 tCO2e/tです。詳しくはCBAMとアルミニウムの間接排出量をご覧ください。
肥料:N2Oを含む直接排出量と間接排出量
窒素肥料の生産は、窒素と水素からのアンモニア合成から始まります。水素は通常、天然ガスの水蒸気改質で作られ、その過程でCO2が出ます。硝酸アンモニウム用の硝酸の生産ではN2Oが発生し、その地球温暖化係数は実施規則(EU)2025/2547付属書II第G項で265です。N2Oは測定によりモニタリングします(同付属書第B.6.1項)。
Column Bのベンチマークは、無水アンモニア(CNコード 2814 10 00)が1.522、尿素(CNコード 3102 10 19)が0.902 tCO2e/tです。エジプトのデフォルト値はアンモニア2.050、尿素1.390、アンモニアの「その他の国と地域」の値は3.130です。日本の値はアンモニア2.190、尿素1.520です。肥料のデフォルト値は間接排出量を含みます。
CBAMの間接排出量:セメントと肥料
CBAMの間接体化排出量が適用されるのは、セメント、肥料、そして鉄鋼の1品目である凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)で、生産に使った電力の発電時に出るCO2を対象とします。
その他の鉄鋼製品、アルミニウム、水素、電力は規則(EU)2023/956付属書IIに記載され、直接排出量に限られます。この範囲を各国の実施で変えることはできません。
セメントと肥料が間接排出量を含む理由
付属書IIの範囲は、欧州議会と理事会が規則(EU)2023/956で定めたものです。理由として一般に挙げられるのは、セメントキルンと肥料工場では電力が炭素コストの重要な部分を占め、除外すれば炭素集約的で安価な電力網を持つ国の生産者が有利になる、という説明です。石炭火力の電力を使うエジプトのセメント工場が、実際の炭素排出に見合うより低いCBAMの義務で済めば、カーボンリーケージ(炭素漏出)を防ぐというCBAMの目的が損なわれます。
鉄鋼とアルミニウムは付属書IIに記載され、間接排出量は対象外です。その理由としては一般に2つの説明が挙げられます。高炉・転炉法の原料炭やホール・エルー法の陽極といった工程内の排出源が排出量の大部分を占めること、そしてアルミニウムでは電力コストの低い地域に意図的に立地する動きがあり、電力の評価が複雑になることです。
間接排出量の実務での算定
生産施設の間接体化排出量は、次の式で計算します。
間接体化排出量 = Q(電力)× EF(電力)
- Q(電力):期間中に施設で消費した電力量(MWh)
- EF(電力):電力の排出係数(tCO2e/MWh)
排出係数の出どころは、次の2つのいずれかです。
- デフォルト値。 規則の第7条第4項はデフォルト値を原則としています。実施規則(EU)2025/2621付属書IIは原産国ごとに1つの係数を定め、その国の電力網の排出係数の単純5年平均で算出します(同実施規則前文第7項)。トルコ0.420、エジプト0.387、インド0.726、中国0.605 tCO2e/MWhです。
- 実際の値。 規則の付属書IV第6項は、施設と発電源が直接の技術的接続で結ばれている場合、または事業者が第三国の発電事業者と電力購入契約を結んでいる場合に、実際の係数を認めています。証拠は実施規則(EU)2025/2547付属書II第D.4.3項に列挙され、発電と受電を最長1時間単位で照合するスマートメーターのデータを含みます。
こうした接続も契約もなく系統電力を使う施設は、付属書IIのデフォルト値を使います。複数の電源から電力を受ける場合は、実施規則(EU)2025/2547第9条により、各電源の係数を消費量の割合で加重平均します。日本のセメント工場や肥料工場が太陽光などの再生可能エネルギーを電力購入契約で調達しても、上記の証拠がなければ実際の係数は使えません。
これらの係数は、製品として輸入される電力(CNコード 2716 00 00)に使う係数とは別のものです。電力のデフォルト値は規則の付属書IV第1項(d)に定める「CO2排出係数」で、電力網の平均ではなく化石燃料による発電のCO2原単位です。同第4.2項に基づき実施規則(EU)2025/2621付属書IIIに定められ、トルコ0.718、エジプト0.442 tCO2e/MWhなどです。
CBAMの公式デフォルト値をすべて1つのスプレッドシートに収録しています。マークアップ、ベンチマーク、2026年の製品1トン当たりのコスト付きで、英語版をすぐにダウンロードできます。
このお知らせのために保存するのは、メールアドレスだけです。 プライバシーポリシー(英語)
デフォルト値と実排出量:コストの違い
実排出量がデフォルト値の基になる国別平均以下の生産施設では、検証済みの実排出量ではなくCBAMのデフォルト値を使うと、原則として2026年以降のどの年もコストが高くなり、その差は年ごとに広がります。
デフォルト値は製品の種類ごとの国別平均の排出原単位に基づき、その上に義務的なマークアップが加算されます。
実施規則(EU)2025/2621(実施規則(EU)2026/1740による訂正後)のマークアップは、次の表のとおりです。
| 年 | 鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素のマークアップ | 肥料のマークアップ |
|---|---|---|
| 2026年 | 国別平均に+10% | +1% |
| 2027年 | 国別平均に+20% | +1% |
| 2028年以降 | 国別平均に+30% | +1% |
デフォルト値は年を追って不利になります。マークアップは無償割当調整を差し引く前の「総排出量」のデフォルト値に加算され、ベンチマークにはマークアップがないため、マークアップ分は全額が証書価格で評価されます。国別平均より実排出量が低い輸出者は、測定によって年々大きな優位を得ます。平均より高い輸出者はデフォルト値を選ぶ場合もありますが、マークアップが上がるにつれてその余地は狭まります。
2つの方法では、使うベンチマークも違います。実施規則(EU)2025/2620の無償割当調整では、デフォルト値には同付属書第5項のColumn BのデフォルトCBAMベンチマークを、実排出量にはColumn Aのプロセスベンチマークに前駆体に含まれる無償割当を加えたものを使います。このため、両者の正味の差は排出量の差より大きくなることも小さくなることもあります。製品と原産国の組み合わせごとに、両方を試算してください。詳しくはCBAMデフォルト値をご覧ください。
比較例:インド産の高炉・転炉法の熱延鋼板
ドイツの輸入者が、インドの高炉・転炉法の製鉄所から熱延コイル(CNコード 7208)1万トンを2026年第3四半期に輸入する例です。公式の証書価格は1 CO2換算トン当たり82.32ユーロです。
シナリオA:検証済みの実排出量
- SEE(検証済み、説明用):1.78 tCO2/t
- CBAMの総コスト:10,000 × 1.78 × 82.32 = 146万5,296.00ユーロ
- 2026年の正味コスト:10,000 ×(1.78 - 事業者の検証済み報告書に示される無償割当調整)× 82.32
シナリオB:インドのデフォルト値(2026年はマークアップ10%)
- インド産熱延鋼板のデフォルト値:4.280 tCO2e/t(実施規則(EU)2026/1740付属書I、インド、CNコード 7208、生産ルート(C))
- マークアップ10%後:4.280 × 1.10 = 4.708 tCO2e/t
- CBAMの総コスト:10,000 × 4.708 × 82.32 = 387万5,625.60ユーロ
- 無償割当調整:0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575 tCO2e/t(実施規則(EU)2025/2620第5.3項、Column B、ルート(C))
- 2026年の正味コスト:10,000 ×(4.708 - 1.33575)× 82.32 = 277万6,036.20ユーロ
申告する排出量の差は製品1トン当たり2.928 tCO2eで、その全量に証書価格が満額で適用されます。1万トンでは差だけで2万9,280枚の証書、2026年に241万329.60ユーロで、2つの方法の無償割当調整の違いは含みません。2028年からはマークアップ30%でデフォルト値が5.564 tCO2e/tに上がり、差は製品1トン当たり3.784 tCO2eになります。マークアップが上がりCBAM係数が下がるにつれて、測定と検証に投資する動機は強まります。
同じ熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)でも、日本のデフォルト値は2.100で、2026年は2.310から無償割当調整1.33575を差し引いて製品1トン当たり0.97425枚、80.20ユーロです。インド産の277.60ユーロ(製品1トン当たり3.37225枚)の3分の1以下です。
日本産製品のデフォルト値による2026年のコスト
日本の主要なCBAM対象製品をデフォルト値で輸入した場合の2026年のコストは、製品1トン当たり11.21ユーロから144.78ユーロの範囲です(水素を除く)。
次の表は、日本の表のデフォルト値に2026年のマークアップ(肥料1%、その他10%)を加え、無償割当調整(CBAM係数97.5%×部門横断補正係数100%×Column Bのベンチマーク)を差し引いた結果です。2026年11月4日に当サイトの計算ツールで、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロにより計算しました。
| 製品(CNコード) | SEE(マークアップ後) | 無償割当調整 | 証書数(製品1トン当たり) | コスト(製品1トン当たり) |
|---|---|---|---|---|
| グレーポルトランドセメント(2523 29 00) | 0.979 | 0.64935 | 0.32965 | 27.14ユーロ |
| その他のクリンカー(2523 10 00 90) | 0.935 | 0.64935 | 0.28565 | 23.51ユーロ |
| 無水アンモニア(2814 10 00) | 2.2119 | 1.48395 | 0.72795 | 59.92ユーロ |
| 尿素(3102 10 19) | 1.5352 | 0.87945 | 0.65575 | 53.98ユーロ |
| 凝結させた鉄鉱石(2601 12 00) | 0.220 | 0.08385 | 0.13615 | 11.21ユーロ |
| 熱延鋼板(7208 51 20) | 2.310 | 1.33575 | 0.97425 | 80.20ユーロ |
| ボルト・ねじ(7318 15 42) | 3.080 | 1.3299 | 1.7501 | 144.07ユーロ |
| アルミニウムの塊(7601) | 0.396 | 0.088725 | 0.307275 | 25.29ユーロ |
| アルミニウムの板(7606 12 99) | 1.903 | 0.1443 | 1.7587 | 144.78ユーロ |
| 水素(2804 10 00) | 15.433 | 4.961775 | 10.471225 | 861.99ユーロ |
アルミニウムの板(7606)の証書数が塊(7601)の5倍を超えるのは、板のデフォルト値1.730が塊の0.360の約4.8倍あり、どちらも二次アルミニウム(ルートL)の小さなベンチマーク(0.148と0.091)しか差し引かれないためです。貴社の製品とトン数での推計はCBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
一部の日本語の解説には、原産国が不明な場合の値として、日本の値の4倍から9倍の数値(半製品8.230など)が示されています。前駆体の生産国を特定できない場合は、排出原単位が最も高い第三国のデフォルト値を使います(実施規則(EU)2025/2621付属書IV)。これとは別に、独自の表がない国や表にダッシュがある国の製品には、実施規則(EU)2026/1740により差し替えられた付属書Iの「その他の国と地域」の値(CNコード 7207 11 11は3.996、7201は3.480、2601 12 00は0.686、7601は2.203)が適用されます。
複雑な製品と前駆体の体化排出量
複雑な製品は、自らの生産工程の直接排出量(該当する場合は間接排出量)に加えて、前駆体の体化排出量を引き継ぎます。
規則の付属書IV第1項は、複雑な製品を単純な製品以外の製品、つまり体化排出量を持つ投入原料(前駆体)を使って生産する製品と定義しています。
鋼管(CNコード 7304)は複雑な製品です。原料の鋼片や熱延コイルの体化排出量に、造管工程の排出量が加わります。鋼管の輸入者は、鋼材の特定体化排出量と、引抜きや押出しの工程で追加される排出量の両方を知る必要があります。
前駆体の連鎖は2段階に及ぶこともあります。セメントはクリンカーを含み、ねじ(CNコード 7318)などの鉄鋼製品は銑鉄から作った粗鋼を含みます。アンモニアは尿素の前駆体で、尿素は複合肥料の前駆体です。前駆体の各段階について、前駆体の生産施設の実データか、該当するデフォルト値で特定体化排出量を確定します。
日本では、経済産業省が「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月)で、この前駆体の連鎖を扱っています。中小企業の比率が高く商流が複雑な業界のためのガイドラインで、CNコード 7318 15 42について2026年の証書数を1.750としています(CBAM係数97.5%、ベンチマーク1.364)。このページの計算(1.7501)と一致します。
同ガイドラインの円建ての数値(2026年に製品1トン当たり29,139円)は、EU ETSの価格90ユーロ、1ユーロ185円を前提にしています。2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロでは製品1トン当たり144.07ユーロです。JETROは2026年9月18日の記事で、切断や機械加工の工程で前駆体の一部がスクラップになっても、スクラップの体化排出量はゼロとして扱われるため、投入した前駆体の全量を最終製品に算入すると説明しています。
単純な製品は付属書IV第1項で、体化排出量ゼロの投入原料と燃料だけから生産する製品と定義されています。石灰石と燃料から作るセメントクリンカーと、粉鉱から焼結した凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)は単純な製品で、体化排出量はその生産工程の排出量だけです。
高炉の一次鋼は単純な製品ではありません。焼結鉱はそれ自体が付属書Iの製品で銑鉄(7201)の原料になり、銑鉄は粗鋼の原料になるため、各前駆体の体化排出量が鋼材に引き継がれます(付属書IV第3項)。
体化排出量の検証
実排出量で申告する体化排出量には、認定検証機関による第三者検証が必要です(規則(EU)2023/956第8条第1項)。
根拠は委任規則(EU)2025/2551と実施規則(EU)2025/2546で、検証を受けていない実排出量は認められません。デフォルト値による申告には検証は不要です。
検証機関の認定は、EU加盟国の国家認定機関(NAB)が委任規則(EU)2025/2551に基づき、EN ISO/IEC 17029:2019に照らして行います。検証機関は2026年9月1日からCBAM登録簿に登録できます。最初の申告期限は2027年9月30日で、世界中の数千のEU域外の生産施設を13か月で検証する必要があり、最初の検証期間には現地訪問が義務付けられています(実施規則(EU)2025/2546第2条から第4条)。
国家認定機関の登録簿で確認できる認定は、2026年10月13日時点で5件です。EmiCert S.A.(ギリシャのESYD)、Bureau Veritas Italia S.p.A.、RINA Services S.p.A.、SGS ICS Italia S.r.l.(いずれもイタリアのAccredia)、Intertek Certification AB(スウェーデンのSwedac)で、日本の法人は含まれません。2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。
日本の検証機関は、域外からの申請を受け付ける7つの国家認定機関(フランス、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキア、スウェーデン、2026年10月21日の欧州委員会の表)のいずれかに申請します。GX-ETSの登録確認機関であることは、CBAMの検証資格になりません。
検証費用は、欧州委員会の数値ではなく検証サービス各社の市場推計で、施設の複雑さ、製品の種類の数、規模によって生産施設1か所当たり5,000ユーロから5万ユーロです。この範囲では、20施設から調達するEUの輸入者の初回の検証費用は10万ユーロから100万ユーロになります。検証の手順はCBAMの検証、認定の状況はCBAM認定検証機関で説明しています。
体化排出量がCBAM証書の義務に与える影響
各輸入の特定体化排出量は、規則(EU)2023/956第6条、第7条、第22条に基づくCBAM証書の計算に直接入ります。
認可CBAM申告者が納付する証書の総数は、その暦年に輸入したすべてのCBAM対象製品について、(SEE-無償割当調整-第9条の炭素価格分)×輸入した正味トン数を合計したものです。製品ごとの結果がマイナスになる場合はゼロとして扱います。
資金繰りに影響するのが、四半期末の証書保有義務です。2027年から、認可申告者は各四半期末に、その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上に相当するCBAM証書を口座に保有する必要があります(第22条第2項、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)による改正後)。算定には第31条の無償割当調整が考慮されます。2026年の輸入には四半期末の保有義務はありません。
保有義務の算定に使う体化排出量は、マークアップなしのデフォルト値か、前年に同じ製品と原産国について納付した証書数で決めます。保有が不足した認可申告者は通知を受け、1か月以内に不足分の証書を保有する必要があります(第22条第3項)。
2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。納付しなかったCBAM証書1枚につき、EU ETSの超過排出罰金(インフレ調整前で1トン当たり100ユーロ、欧州消費者物価指数で調整)と同額の罰金が科されます(第26条第1項)。
罰金を支払っても証書の納付義務は残ります(第26条第3項)。2026年第3四半期の証書価格82.32ユーロでは、不足は証書1枚当たりインフレ調整前で182.32ユーロのコストになります。
EU域外の輸出者に求められる体化排出量の報告
EU域外の生産者は、施設の境界内のすべての生産工程について、体化排出量をどのように測定、計算、記録するかを定めたモニタリング計画を作成します。
モニタリング計画は、EUの輸入者に提出する検証報告書の裏付け書類です。無料のCBAMモニタリング計画テンプレート(英語)は、計画の最低限の22要素をCSVの1行1要素で整理しています。輸入者側では、CBAM報告テンプレート(英語)が年次申告用に製品行ごとの検証済みの数値をまとめます。
日本の施設事業者に法的な義務はありません。義務を負うのはEUの輸入者またはその間接的通関代理人です。ただし施設事業者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に登録し、検証済みのデータを提供できます(CBAMの事業者用ポータル)。
モニタリング計画には、排出源ごとに次の項目を記載します。
- 測定方法(燃料消費の計量、マスバランス、排ガスの連続測定)
- データ収集の頻度
- 計測機器の校正の予定
- 直接測定ができない場合のデータ推計の手順
- データ管理と記録の保存
事業者の排出量報告書のサマリーは16項目で(実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)、2026年8月14日のガイダンス第3号による3文書の構成で英語により提供します。移行期間中に使われていた任意様式のコミュニケーションテンプレートは、この構成に置き換えられました。日本の輸出者向けの詳細はCBAMで日本の輸出者がEUの輸入者に提供するデータにあります。
排出量のモニタリングの仕組みをまだ持たない輸出者は、測定(と検証費用)に投資するか、マークアップ付きのデフォルト値を受け入れるかを選ぶことになります。2027年以降は経済的に測定が有利になる場面が増えます。実排出量が国別平均のデフォルト値を下回る輸出者は、すぐに投資する動機が最も強くなります。
EU域外の生産者がまず読むべき公式資料は、2026年8月14日に公表されました。10件のガイダンスのうち、EU域外の事業者向けクイックガイドである第2号と、体化排出量の算定方法を扱う第3号です。いずれも2026年の報告年に向けた法的拘束力のない支援資料です。
日本語では、JETROが「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル」(2026年3月)で記入例付きの算定手順を、経済産業省が「炭素国境調整措置」のページ(2026年6月1日更新)で概要と関連資料を公開しています。2026年11月4日時点で、日本の輸出者向けのCBAM専用の補助金は確認できません。生産ルート別のモニタリングの要件はCBAMの対象部門で部門ごとに説明しています。
体化排出量とCBAMの義務全体のつながり
特定体化排出量は、施設単位の排出データをユーロ建ての証書の義務に変える計算の、1つの入力値です。
体化排出量を理解することは必要ですが、それだけでは対応は完結しません。SEEの値を最終的な金額につなぐ要素が、さらに3つあります。
無償割当調整は正味の証書の義務をどう減らしますか
実施規則(EU)2025/2620に定める無償割当調整(SEFA)は、EUの国内生産者がまだ受けているEU ETSの無償割当を反映した量だけ、輸入者が納付するCBAM証書の数を減らします。無償割当調整は製品1トン当たりのSEEから差し引かれます:証書数=max[0,SEE-無償割当調整-炭素価格分]×質量。2026年のCBAM係数は97.5%で、これは無償割当のうち維持される割合です(指令2003/87/EC第10a条第1a項)。
無償割当調整はCNコードと生産ルートごとに、製品の段階で計算します。デフォルト値では、CBAM係数×部門横断補正係数(CSCF、実施決定(EU)2026/1862により2026年から2030年まで100%)×同付属書第5項Column BのデフォルトCBAMベンチマークです。実排出量では、Column Aのプロセスベンチマークに前駆体に含まれる無償割当を加えたものを使います。
必要な証書数は、体化排出量から無償割当調整(CBAM係数×部門横断補正係数×ベンチマーク)を差し引いて求めます。ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。排出量がベンチマークの97.5%を下回る製品は証書が不要になります。CBAM係数は2030年に51.5%まで下がり、2034年からは適用されません。
計算を確認済みの例として、トルコ産の鋼片(CNコード 7207 11 14)をデフォルト値で輸入すると、2026年のマークアップ後のデフォルト値は2.541 tCO2e/tです。無償割当調整は0.975 × 1.00 × 1.364 = 1.3299で、残る証書は製品1トン当たり1.2111枚、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで製品1トン当たり99.70ユーロです。
この調整の仕組みについては、2026年8月14日にDG TAXUDが公表した10件のガイダンスのうち、納付する証書数に対する無償割当調整の計算を扱う第4号が関係します。ほかの文書と同じく、2026年の報告年に向けた法的拘束力のない支援資料です。
第9条の炭素価格控除はどう適用されますか
第三国で、申告した体化排出量について炭素価格が実際に支払われた場合、第9条に基づく別の減額を請求できます。その国で受けられるリベートなどの補償は考慮されます(第9条第1項)。支払った価格を証書数に換算するルールは実施規則に委ねられています(第9条第5項)。
第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)に関する実施規則案(未採択)は2026年5月13日に公表され、排出量取引制度、排出源に課す炭素税、燃料に課す炭素税、混合型の4つの経路を定めています。案では、パリ協定第6条の国際クレジットの利用を確認済み排出量の10%までとしています。意見募集は2026年6月10日に締め切られ、2026年11月4日時点で未採択です。どの国の炭素価格もまだ認められていません。
2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。2026年4月に義務化された排出量取引制度(GX-ETS)は、鉄鋼やセメントにベンチマーク方式で無償割当を行っています(ICAP)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。
地球温暖化対策のための税(CO2 1トン当たり289円、環境省)は、鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭には課されていません(経済産業省の令和9年度税制改正要望)。欧州委員会がGX-ETSを実際に支払われた炭素価格として扱うか、無償割当分をどう評価するかは未解決の論点です。
韓国のK-ETSや英国のUK ETSを含め、第9条で認められた制度はありません。中国の全国排出量取引制度は2025年3月20日の作業計画以降、鉄鋼、セメント、アルミニウム製錬を対象としていますが、排出枠を無償で配分しているため(ICAP)、実際に支払われた炭素価格はありません。
英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに載せましたが、EU CBAMの扱いとは別です。スイス原産の製品は付属書IIIによりCBAMの対象外で、控除は必要ありません。詳しくはCBAMの炭素価格控除とCBAM第9条をご覧ください。
CBAMと関税評価の関係
CBAMの義務は関税と並行して生じ、関税に代わるものではありません。鉄鋼では、2026年7月1日から適用される鉄鋼規則(EU)2026/1384の関税割当と枠外輸入への50%の関税が、CBAM証書の義務と併存します。2つのコストは異なる基準で別々に計算され、関税は課税価格(製品価格に運賃と保険料を加えたもの)、CBAMは体化排出量に基づきます。
日本産の熱延鋼板には、2025年9月26日からEUの確定反ダンピング関税(6.9%から30%)もかかりますが、これもCBAMのコストではありません。輸入コストの全体を把握するには両方を合わせて見る必要があります。製品1トン当たりの総陸揚げコストへのまとめ方は、CBAMの計算方法で説明しています。
CBAMの体化排出量に関するよくある質問
体化排出量とカーボンフットプリントの違いは何ですか
体化排出量とカーボンフットプリントは重なりますが、同じではありません。CBAMの体化排出量は、生産工程の直接排出量と、セメント、肥料、凝結させた鉄鉱石についてはその工程で消費した電力の間接排出量だけを対象とします。 一般的なカーボンフットプリントは、原料の採掘、輸送、廃棄など上流と下流の排出も含みますが、CBAMはそのいずれも対象にしません。
CBAMは体化排出量を法律で定義しており、規則(EU)2023/956第3条第22号の定義が優先します。GHGプロトコルやISO 14067による製品カーボンフットプリントは、CBAMの値として使えません。
CBAMはすべての温室効果ガスを対象にしますか、CO2だけですか
CBAMは、規則(EU)2023/956付属書Iで部門ごとに定める温室効果ガスを対象とします。全部門のCO2に加え、肥料のN2O、アルミニウムのPFC(CF4とC2F6)です。CO2以外のガスは、IPCC第5次評価報告書(AR5)の100年値の地球温暖化係数でCO2換算します:N2O 265、CF4 6,630、C2F6 11,100です。メタンは現在どの部門でも対象外で、対象拡大の提案(COM(2025)989、法律ではありません)も対象ガスにメタンを加えていません。
施設ごとに実排出量とデフォルト値を使い分けられますか
使い分けられます。実排出量とデフォルト値の選択は、輸入者単位や製品単位ではなく、生産施設単位で行います。 EUの輸入者は、データがある施設には検証済みの実排出量を、検証が済んでいない施設や生産者がデータ提供に協力しない施設にはデフォルト値を使えます。証書の義務は区分ごとに計算し、実排出量は検証済みのSEE、デフォルト値は公表値に該当するマークアップを加えた値で、それぞれから無償割当調整を差し引きます。すべての供給元に同じ方法を使う規制上の要件はありません。
輸送による排出はCBAMの体化排出量に含まれますか
含まれません。生産施設からEUの国境までの輸送と物流の排出は、CBAMの体化排出量に含まれません。 システム境界は生産施設の門で終わります。CBAM対象製品をEUに運ぶ船舶、鉄道、トラックの燃料は、製品の実際のカーボンフットプリントには加わりますが、CBAM申告書の特定体化排出量には算入しません。この線引きは、測定の実務上の制約と、規制の範囲を意図的に絞った判断の両方によるものです。日本からEUへの長距離の海上輸送も同様です。
EU域外の生産者が排出データの提供を断った場合はどうなりますか
EUの輸入者は、その施設についてデフォルト値を使わなければなりません。デフォルト値は生産者の協力を必要としません。 欧州委員会は国別、製品分類別のデフォルト値を実施規則(EU)2025/2621で公表しています。輸入者は該当するデフォルト値に、該当するマークアップ(2026年10%、2027年20%、2028年から30%、肥料は各年1%)を加えて使います。
申告がそれ以外の点で完全かつ正確であれば、デフォルト値を使うこと自体に罰則はありません。経済的な影響として、実際の低い排出量を報告した場合より多くの証書が必要になります。
日本の電力の排出係数は、日本産の鉄鋼やアルミニウムのCBAMに影響しますか
影響しません。鉄鋼(凝結させた鉄鉱石を除く)とアルミニウムは付属書IIに記載されているため、電力の間接排出量はCBAMの体化排出量に入りません。 日本の電力網の排出係数や、工場が購入する電力の種類は、これらの製品の証書数を変えません。電力の排出係数が効くのは、日本産のセメント、肥料、凝結させた鉄鉱石で、日本のデフォルト値ではグレーポルトランドセメントの間接排出量が製品1トン当たり0.060 tCO2eです。
GX-ETSで支払った炭素価格は体化排出量から差し引けますか
差し引けません。第9条の炭素価格控除は体化排出量そのものではなく、納付する証書数を減らす仕組みで、2026年11月4日時点で日本の炭素価格は認められていません。 第9条の実施規則は案の段階で未採択です。GX-ETSの無償割当分は、欧州委員会の日本語ガイダンスによればリベートとみなされます。体化排出量は、炭素価格の有無にかかわらず、施設の実際の排出量かデフォルト値で申告します。
キャプション:実施規則(EU)2025/2621のマークアップの段階表です。デフォルト値を使う輸入者の上乗せは2026年10%、2027年20%、2028年以降30%と増え、実排出量を測定する経済的な動機が強まります。
まとめ:CBAMの体化排出量の実務
体化排出量への対応の成否は、次の3点で決まります。
- 特定体化排出量はCBAMの義務全体の土台です。 この段階の誤りは、証書の計算、四半期末の証書保有義務、年次申告へと連鎖します。最初の申告期限である2027年9月30日までに、生産施設単位のデータ収集の手順を整えてください。
- 最新の効率的な技術を使う生産者では、検証済みの実排出量はほぼ常にデフォルト値より少ない証書数になります。 モニタリングの仕組みと第三者検証に投資する経済的な根拠は2026年の時点ですでにあり、2028年以降はさらに強くなります。
- 間接排出量が適用されるのはセメント、肥料、凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)だけで、施設の電源に応じた電力の排出係数で別に計算します。 部門の範囲を取り違えると、鉄鋼やアルミニウムで電力を含めた過大報告や、セメントや肥料で電力を落とした過少報告が起きます。日本の対EU輸出の99.5%(金額ベース、2025年)は直接排出量だけの製品です。
体化排出量の算定は、環境の測定、サプライチェーンのデータ収集、財務上の対応が交わる作業です。計算式は単純ですが、これまで排出量を測定も報告もしたことのないEU域外の生産施設から、信頼性が高く検証可能な入力データを得ることが実務上の課題です。日本の状況全体はCBAMと日本に、算定や検証の支援事業者の無料紹介はCBAMの相談窓口にあります。