CBAMの炭素価格控除(第9条):第三国で支払われた炭素価格と日本のGX-ETS・温対税の扱い

第三国で支払われた炭素価格をCBAM証書から差し引く第9条の実施規則案は、2026年11月4日時点で未採択です。

このページの内容

EU炭素国境調整措置(CBAM。JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)には、第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)という仕組みがあります。原産国で同じ体化排出量に対して炭素価格が実際に支払われている場合に、認可CBAM申告者が納付するCBAM証書の数を減らすものです。根拠は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」の第9条です。

欧州委員会は2026年5月13日、この控除の計算方法を初めて具体的に定める実施規則の作業草案を公表しました。草案は、外国の炭素価格を認める4つの経路、パリ協定第6条に基づく国際クレジットの10%上限、新しい「独立した認証者」による認証の制度を定めています。

この実施規則はまだ案(未採択)です。

意見募集は2026年6月10日に締め切られ、加盟国による委員会手続(コミトロジー)での投票は2026年9月に行われると報じられました。しかし2026年11月4日時点で採択は確認されておらず、EU官報(Official Journal)にも最終文は掲載されていません。以下で説明する規則は、いずれも採択までに変わる可能性があります。9月の投票の報道については、ニュース記事(英語)で詳しく取り上げています。

控除が重要なのは、CBAMが生産国での負担の有無にかかわらず、体化排出量をEU ETSの価格で評価するためです。第9条がなければ、国内で炭素価格をまったく支払っていない生産者も、EU ETSと連結した炭素市場で満額を支払っている生産者も、1 CO2換算トン当たり同じ証書コストを負担することになります。実施規則案は、カーボンリーケージ(炭素漏出)への対策を弱めることなく、この二重負担を防ぐための技術的な仕組みです。

日本の輸出者にとって、この論点は2026年4月に義務化された排出量取引制度(GX-ETS)と直結します。EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象製品(付属書Iのコード)は14億4,820万ユーロで、うち約86%の12億4,590万ユーロが鉄鋼でした(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められていません。

CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。控除を請求するのはEUの認可申告者であり、日本の生産者はCBAMの法的義務を負いません。ただし、控除の証拠となる炭素価格の書類は、生産者の側でしか作成できません。

キャプション:第9条の請求には、リベート控除後に実際に支払われた価格、独立した者による認証、申告書を提出した年(または提出すべきであった年)の後4年目の終わりまでの記録の保存がそろう必要があります。


実施規則案の内容と手続の現状

実施規則案は、製品ごとに実際に支払われた炭素価格の算定方法、ユーロへの換算、証書の減額数への換算、支払いを証明する証拠、その証拠を認証できる者の資格の5つの事項を定めています。

草案の法的根拠は規則(EU)2023/956第9条第5項です。草案は、2025年8月28日から9月25日まで行われた意見募集(call for evidence)を踏まえて作成されました。2026年11月4日時点の手続の状況は、次の表のとおりです。

手続 日付 状況
意見募集(call for evidence) 2025年8月28日~9月25日 終了
作業草案の公表 2026年5月13日 完了(Ref. Ares(2026)4841230)
一般からの意見募集 2026年5月13日~6月10日 終了
加盟国の委員会手続(コミトロジー)での投票 2026年9月と報道 報じられた日程のみ(Carbon Pulseが欧州委員会の担当者の話として報道)。2026年11月4日時点で投票結果は未確認
欧州委員会による採択 2026年11月4日時点で未確認 未採択。EU官報に最終文なし
採択後の適用開始日(予定) 2026年1月1日(遡及適用) 草案第32条

実務上の重要な点は2つあります。第1に、草案は "shall apply from 1 January 2026"(「2026年1月1日から適用する」、当サイト仮訳)と定めています。採択されれば、採択日以降ではなく、本格実施期間の初日から支払われた炭素価格が対象になります。

第2に、草案の内容は現時点では拘束力を持ちません。2026年分について控除を請求する輸入者が根拠にできるのは、規則(EU)2023/956第9条と第3条第29号の一般的な文言だけです。以下で説明する証拠の規則は、まだ根拠になりません。国ごとの適格性と計算例は、CBAM第9条の適格性ガイドで説明しています。

キャプション:2026年9月と報じられた加盟国の投票は、2026年11月4日時点で結果が確認されていません。


外国の炭素価格が認められる4つの経路

実施規則案は、規則(EU)2023/956第3条第29号の「炭素価格」の狭い定義に基づき、外国の炭素価格を4つの実務的な経路で認めます。

欧州委員会の日本語ガイダンスは、炭素価格を「炭素排出量削減計画に基づき、税金、負担金もしくは料金の形で、または温室効果ガス排出量取引制度における排出枠の形で発生する、第三国において支払われるべき金銭的な金額…」と訳しています(「EU域外の施設事業者のためのCBAM実施に関するガイダンス文書」付属書B)。

草案の前文第8項は、4つの経路に共通する条件として、制度に拘束力があり、対象部門のすべての事業者に "without discrimination"(「差別なく」、当サイト仮訳)遵守義務を課していることを求めています。

草案が定める4つの経路は、次のとおりです。

  1. 排出量取引制度。 事業者が排出量に応じて排出枠を充てるキャップ・アンド・トレード型の制度です。草案はこの経路をベースライン・アンド・クレジット型にも広げています。第2条第5項はこれを、原単位の基準を下回る事業者が取引可能なクレジットを得て、上回る事業者がそれを購入する制度と定義しています。前文第10項は、そのクレジットを "equivalent to allowances paid under an emissions trading system"(「排出量取引制度で支払われた排出枠と同等」、当サイト仮訳)として扱います。
  2. 排出源ごとの炭素税、負担金、料金。 施設の事業者が自ら測定した排出量に対して直接支払う課金です。報告期間中の税率変更を反映した税務当局の公式記録で証明します。
  3. 燃料ベースの炭素税。 燃料の炭素含有量に課される税で、多くの場合、施設の事業者ではなく燃料の供給者から上流で徴収されます。前文第9項は、税率が燃料の排出係数に対応していることを条件に、施設が直接支払っていない場合でも申告者がこの価格を請求できるとしています。
  4. 複合型の遵守制度。 対象事業者が複数の方法で義務の一部を果たせる制度で、一般的には固定価格の支払いと炭素クレジットの購入を選べる形です。前文第11項は、事業者が実際に使った遵守方法についての証拠を求めています。

各経路で草案が求める証拠と、日本の制度のうち近いものは次の表のとおりです。右端の列は草案の分類に照らした当サイトの見解であり、欧州委員会の判断ではありません。

経路 通常支払う者 必要な主な証拠 日本の制度で近いもの(当サイトの見方)
排出量取引制度(ベースライン・アンド・クレジット型を含む) 施設の事業者 年間の加重平均オークション価格または流通市場価格と、充てた排出枠またはクレジットの証明 排出量取引制度(GX-ETS)、2026年度から義務化
排出源ごとの税、負担金、料金 施設の事業者 年内の税率変更を含む税務当局の公式記録 該当する制度は見当たりません
燃料ベースの税 燃料の供給者(コストは転嫁) 税率が燃料の排出係数に対応している証拠 地球温暖化対策のための税(温対税)、2028年度からの化石燃料賦課金
複合型の遵守制度 施設の事業者(選んだ方法による) 実際に使った遵守方法の証拠(該当する場合はクレジットの購入記録を含む) GX-ETSで上限価格を支払って不足分に充てる場合の扱いは未定

国際クレジットの10%上限と国内クレジットの扱い

国際的な炭素クレジットが控除に算入されるのは、第三国の制度で報告・確認された排出量の10%までで、パリ協定第6条2項または第6条4項に基づき承認・発行された国際的に移転される緩和成果(ITMO)に限られます。

10%を超えて購入したクレジットは、草案のもとで認められる炭素価格に算入されません。その理由は前文第13項に示されています。欧州委員会は、第三国の生産者に対し、国際的なオフセットでCBAMの負担を下げるのではなく、主に国内で脱炭素を進めることを求めています。そのうえで、審査を経たITMOを限定的な補助手段として残しています。

この10%の上限が適用されるのは、控除の対象となる炭素価格を課している国の外で生まれたクレジットだけです。日本の制度で、二国間クレジット制度(JCM)など海外で生まれたクレジットを遵守に使う場合、草案が採択されれば、第6条2項または第6条4項の単位であることと10%の上限が条件になります。

国内クレジットには、EU独自の上限はありません。第三国の遵守制度が、国内で生まれたクレジットで義務の一部を果たすことを認めている場合、前文第12項はEUの上限を上乗せせず、その国の上限に委ねています。既存の制度の国内上限は、次のように大きく異なります。

  • 南アフリカの炭素税法:2026年1月1日から、プロセス排出と漏えい排出に10%、燃焼排出に15%のオフセット枠(従来は5%と10%、Webber Wentzelによる第2段階改正の分析)
  • 米国カリフォルニア州のCap-and-Invest Program:オフセットの使用は約6%まで
  • 韓国のK-ETS:韓国オフセットクレジットを10%まで認めていましたが、その後5%に厳格化
  • コロンビアの炭素税:国内クレジットで税額の最大50%まで

国内クレジットの上限は、国境で改めて設定されるのではなく、その国の制度の上限がそのまま適用されます。このため、国内のオフセット枠が大きい制度では、一律10%の国際上限から想定されるよりも大きな炭素価格が控除の対象になり得ます。


支払いの証明:輸入者に必要な証拠と認証

支払いは、第三国の事業者が作成し、認定を受けた独立した認証者が認証する炭素価格報告書で証明する必要があり、EUの輸入者による自己申告では足りません。

この認証者はCBAMで新たに設けられる役割で、体化排出量のデータを確認する認定検証機関とは法的に別のものです。日本のGX-ETSの登録確認機関は国内制度上の役割であり、それだけで草案の独立した認証者やCBAMの認定検証機関になるわけではありません。

草案が定める証明の主な要件は、次の5つです。

  • 独立した認証者の認定: 整合規格EN ISO/IEC 17029:2019に基づき、国家認定機関から "certification of the carbon price effectively paid"(「実際に支払われた炭素価格の認証」、当サイト仮訳)という特定の範囲で認定を受ける必要があります。認定の有効期間は最長5年で、毎年の監視審査があります。
  • 重要性の基準: 独立した認証者は、CNコードごとに各製品に割り当てられた1トン当たりの実効炭素価格の5%を重要性の水準とし、認証前に訂正すべき誤りかどうかを判断します。
  • 通貨の換算: 外国の炭素価格は、欧州中央銀行(ECB)のレートに基づき欧州委員会が公表する年間平均為替レートで、ECBのレートがない場合はユーロスタットのデータでユーロに換算します。草案が採択されれば、GX-ETSや温対税の円建ての価格もこの方法で換算されます。
  • 認証ルートは実排出量のみ: 認証された実効炭素価格を使えるのは、製品自体の体化排出量を検証済みの実排出量で算定した場合だけです。デフォルト値を使う場合、規則(EU)2023/956第9条第4項により、年次のデフォルト炭素価格を参照した減額だけが認められます。草案では、供給者自身の認証報告書が得られない場合、前駆体と間接排出量についてデフォルト炭素価格を使うこともできます。
  • リベートは請求額を減らします: 無償割当、基準による免除、税の還付、間接費用の補償は、いずれも「実際に支払われた」炭素価格を減らします。例外は、制度の収入を、施設自身の排出削減を目的とする公的で透明な補助金として還元する場合です。

この条件はCBAMの検証とCBAMのデフォルト値に直結します。デフォルト値で申告する輸入者は、供給者が実際に支払った価格を請求できません。

その場合に第9条第4項に基づいて請求できるのは、年次のデフォルト炭素価格を参照した減額だけです。欧州委員会は2027年からこの価格を定め、CBAM登録簿で公開することができます。2026年11月4日時点で、日本を含むどの国のデフォルト炭素価格も公表されていません。


CBAM証書の減額の計算方法

実施規則案は、認証された実効炭素価格を使う場合と、欧州委員会が公表するデフォルト炭素価格を使う場合の2つの計算式を定めています。

どちらの式も、炭素価格を年間のCBAM証書の参照価格で割ります。参照価格は、輸入年について実施規則(EU)2025/2548に基づき公表されたCBAM証書の価格の平均です。2つの式の違いは、次の表のとおりです。

根拠 計算式 意味
認証された実際の炭素価格 減額=(製品1トン当たり、または1 MWh当たりのユーロ建て実効炭素価格)÷(年間のCBAM参照価格)×申告した製品の数量 実効価格はすでに製品単位で表されているため、そのまま証書数に換算されます
デフォルト炭素価格 減額=(欧州委員会のデフォルト炭素価格、1 tCO2e(CO2換算トン)当たりユーロ)×(申告した特定体化排出量、製品1単位当たりtCO2e)÷(年間のCBAM参照価格)×申告した数量 デフォルト価格はCO2換算トン単位のため、まず製品の排出原単位を掛ける必要があります

簡単な例で説明します。認証された実効炭素価格が製品1トン当たり20ユーロ、年間のCBAM参照価格が1 CO2換算トン当たり75ユーロ、輸入量が1,000トンの場合、減額は(20÷75)×1,000で約267枚です。これは同じ計算の中で差し引かれる無償割当調整を考慮する前の数値で、いずれの数値も説明のための仮定です。

控除は、規則(EU)2023/956の正味の証書数の計算式の中で働きます。必要な証書数=max[0,特定体化排出量-無償割当調整-第9条の炭素価格分]×質量で、製品1トン当たりの無償割当調整はCBAM係数×部門横断補正係数(CSCF)×CBAMベンチマークです(第31条、実施規則(EU)2025/2620)。CBAM係数は2026年が97.5%で、2034年から適用されません(指令2003/87/EC第10a条第1a項)。

2026年の輸入については、CBAM証書の価格は四半期ごとに公表されます(第21条第1a項)。公表済みの価格は第1四半期75.36ユーロ、第2四半期75.28ユーロ、第3四半期82.32ユーロ(2026年10月5日公表)で、第4四半期は2027年1月4日に公表される予定です。このため、草案の計算に使う2026年の年間参照価格は、第4四半期の公表まで確定しません。


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日本の炭素価格は控除の対象になるか:GX-ETSと温対税

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。

どの国の炭素価格もまだ認められていません。日本の主な炭素価格制度を草案の経路に当てはめると、次の表のとおりです(各制度の出典は表内に記載、2026年11月4日確認)。

制度 対象と価格 開始・状況 想定される経路 控除への主な障害
排出量取引制度(GX-ETS) 直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者(経済産業省) 2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化 排出量取引制度 鉄鋼とセメントにはベンチマーク方式で無償割当(ICAP)。欧州委員会のガイダンスでは無償割当はリベートとみなされ、差し引かれます
地球温暖化対策のための税(温対税) 化石燃料全般、CO2 1トン当たり289円(環境省) 2012年10月1日から段階導入、2016年4月1日に最終税率 燃料ベースの税 鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭は免税(租税特別措置法第90条の4の2)
化石燃料賦課金 化石燃料の輸入者などにCO2量に応じて課金、水準は未定(JETRO) 2028年度から、未施行 燃料ベースの税 2026年と2027年の輸入には請求できません
特定事業者負担金(発電部門の有償オークション) 排出量の多い発電事業者(JETRO) 2033年度から、未施行 排出量取引制度 当面は請求できません
東京都・埼玉県の排出量取引制度 主に大規模な建物と事業所(ICAP、埼玉県) 東京都2010年、埼玉県2011年 排出量取引制度 無償割当。埼玉県は罰則のない目標設定型で、前文第8項の拘束力の条件が論点。CBAM対象製品にはほとんど関係しません

GX-ETSと無償割当

欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。GX-ETSは鉄鋼とセメントにベンチマーク方式で排出枠を無償で割り当てるため(ICAP)、実際に支払われた価格になり得るのは、無償割当を超えて購入した排出枠か、不足分に充てるために支払った上限価格だけです。

上限価格の支払いで不足分に充てる仕組みは、野村総合研究所のコラム(2026年2月9日)が説明しています。2026年度は義務化の初年度で、無償割当を超えて支払われる額は現時点で分かりません。JETROも2026年9月18日の記事で、「GX-ETSがEUから「実効的な炭素価格」と認定されるか、無償割当部分をどう扱うか、排出枠価格をどのように証明するか」を論点に挙げています。

温対税と特定石炭の免税

温対税は、化石燃料ごとの税負担がCO2 1トン当たり289円に等しくなるよう税率が設定されています(環境省)。草案の前文第9項は、税率が燃料の排出係数に対応していることを条件に燃料ベースの税の請求を認めるため、設計の面では温対税はこの経路に近い制度です。

ただし、高炉製鉄とセメントの排出の大部分を占める石炭は課税されていません。鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭は石油石炭税が免税で、その上乗せである温対税もかかりません(経済産業省の令和9年度税制改正要望)。請求の余地があるのは、施設が使うそれ以外の燃料にかかった税だけです。JETROの2026年9月18日の記事の表は、温対税を取り上げていません。

英国の判断と日本政府の要望

英国は2026年8月27日、英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リスト16制度の一つに "Japan GX-ETS" を載せました(HMRC)。英国CBAMは独立した税制度で、英国自身も "Emissions covered by free allowances do not qualify for relief"(「無償割当の対象となる排出は軽減の対象外」、当サイト仮訳)としています。これはEU CBAMの扱いとは別の判断であり、ここからEUでの控除を推測することはできません。

経済産業省は2025年5月の「CBAMへの対応に関する委員会」の資料で、「GX-ETS、化石燃料賦課金(GX-サーチャージ)等」を、課金方法にかかわらず考慮するようEUに求めています。2026年11月4日時点で、EUの側でこの要望に応じた決定はありません。

まだ答えの出ていない論点

日本の炭素価格について、まだ答えの出ていない論点は次の4つです。

  • 欧州委員会がGX-ETSを「実際に支払われた」炭素価格として扱うか、無償割当分と上限価格での支払いをどう評価し、排出枠の価格をどう証明させるか
  • 日本の年度(4月から3月)を、CBAMの暦年(1月から12月)にどう対応させるか
  • 上流で課され燃料価格に転嫁される温対税や化石燃料賦課金を、施設の事業者がどう証明するか(草案の前文第9項は請求を認める方向ですが、採択前です)
  • GX-ETSで2026年度の排出分に排出枠を充てる期限、つまり2026年度の炭素コストが実際に支払われる時期

いずれの場合も、証拠書類は申告者からも第三国の当局からも独立した者が認証し(第9条第2項)、申告書を提出した年(または提出すべきであった年)の後4年目の終わりまで保存します(第9条第3項)。日本の制度とCBAMの関係の全体像は、CBAMと日本にまとめています。

デフォルト値で申告する日本産品の場合

デフォルト値で申告する日本産品には、供給者が実際に支払った炭素価格は使えません。日本産熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)を2026年にデフォルト値で輸入する場合、2.100 × 1.10 = 2.310、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575、差し引き製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。

日本のデフォルト炭素価格は定められていないため、この計算から差し引ける第9条の炭素価格分は現時点でありません。2027年以降にデフォルト炭素価格が定められた場合、減額は前掲の第2の計算式で求めます。製品別の内訳は日本の鉄鋼輸出とEU CBAMで説明しています。

貴社の製品とトン数での推計は、CBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。


英国、トルコ、中国、日本:主要供給国の承認状況

2026年11月4日時点で、英国、トルコ、中国、日本のいずれも第9条に基づく欧州委員会の承認を受けておらず、ほかの国も同様です。

草案自体は特定の国の制度を承認するものではなく、将来の判断に使う基準を定めるだけです。各国の最も可能性の高い経路は、次の表のとおりです。

国 想定される経路 状況
英国 排出量取引制度 UK ETSは電力と産業に義務的に適用され、産業の排出枠の一部は無償割当で、EU ETSとは連結していません。承認なし(2026年11月4日時点)
トルコ 排出量取引制度 気候法第7552号に基づくETS規則が2026年8月27日に官報で公布。ICAPによれば試行期間は2026年と2027年の排出が対象で、2026年は報告のみ、2027年排出分の無償割当は100%、最初の排出枠の提出は2028年11月。実際に支払われた価格はまだなく、承認なし(2026年11月4日時点)
中国 排出量取引制度(ベースライン・アンド・クレジット型) 全国ETSは2025年の拡大(2025年3月の作業計画)以降、鉄鋼、セメント、アルミニウム製錬を対象とし、原単位に基づく無償割当で、価格はEU ETSを大きく下回ります。承認なし(2026年11月4日時点)
日本 排出量取引制度(GX-ETS)、燃料ベースの税(温対税) GX-ETSは2026年度から義務化され、鉄鋼とセメントは無償割当。温対税は鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭が免税。承認なし(2026年11月4日時点)

英国の義務的なUK ETSは、構造の面では経路1の拘束力のある取引制度に近い制度ですが、そのことが現時点の控除にはつながりません。英国CBAMの二重負担の分析(英語)のとおり、UK ETSはEU ETSと連結しておらず、第9条による承認を確認する欧州委員会の実施規則もないため、英国産品のEUの輸入者は第9条の減額なしに証書の義務を負います。

トルコの状況を左右するのは、経路の適格性よりも草案第8条です。ETS規則は2026年8月27日から施行されていますが、試行期間中は排出枠の100%が無償で割り当てられます。草案が採択されれば、この無償割当は第8条のリベートとして扱われ、認められる炭素価格はゼロに近づきます(CBAMとトルコ、英語)。

中国の事例からは、草案の最も重要な技術的変更が見えてきます。前文第10項がベースライン・アンド・クレジット型を従来の排出量取引と同等に扱ったことは、原単位方式の全国ETSに長く向けられてきた異論に直接応えるものですが、承認を意味するものではありません。実際に控除を使えるようになるまでには、無償割当、価格水準、欧州委員会の正式な判断という課題が残っています。

ICAPによれば、中国の全国ETSの2025年の流通市場の平均価格はCO2換算トン当たり70.78人民元(約9.85米ドル)で、仮に認められたとしても、相殺できるのは総義務のごく一部にとどまります(CBAMと中国、英語)。日本はトルコと同じく無償割当が論点の中心で、加えて温対税という燃料ベースの税がありますが、鉄鋼とセメントの石炭は免税です。


日本の輸出者が今から準備できること

実施規則がまだ案の段階でも、日本の輸出者は控除に必要な記録を今から整えることができます。

控除を請求するのはEUの認可申告者ですが、証拠を用意できるのは施設の事業者だけです。草案が採択されれば2026年1月1日まで遡って適用されるため、2026年分の記録が後から必要になる可能性があります。準備の手順は次の5つです。

  1. 実排出量の測定と検証を進める: 認証された実効炭素価格を使えるのは、検証済みの実排出量で申告する製品だけです。検証の流れは輸出者のためのCBAM検証で説明しています。
  2. GX-ETSの排出枠の記録を分ける: 無償割当量、追加で購入した排出枠、その価格と日付を、施設と製品(CNコード)ごとに追跡できるようにします。
  3. 燃料ごとの温対税の負担を記録する: 免税の特定石炭と、課税された燃料(重油、天然ガスなど)を分けて記録します。
  4. 年度と暦年の対応を整理する: GX-ETSの2026年度(2026年4月から2027年3月)とCBAMの2026暦年の重なりを、月別に分けられるようにします。
  5. EUの買い手と請求の方針をすり合わせる: 控除を請求するか、デフォルト値で申告するかは輸入者が決めます。2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。

対応策の全体像はCBAM輸出者の対応戦略で、提供するデータは輸出者のCBAMデータ要件で説明しています。算定、検証、炭素価格の書類づくりを支援する事業者の紹介は、CBAMの相談窓口から無料で依頼できます。


よくある質問

実施規則案のもとで、CBAMの炭素価格控除は今使えますか

いいえ。加盟国の委員会手続での投票は2026年9月と報じられましたが、2026年11月4日時点で採択は確認されておらず、証拠、認証、計算に関する規則はいずれも法的拘束力を持ちません。輸入者は規則(EU)2023/956第9条と第3条第29号の一般的な規定に基づいて控除を請求できますが、この草案が示す詳細な証拠の枠組みはまだありません。

輸入者がデフォルト値を使う場合も控除は適用されますか

限られた形でのみ適用されます。認証された炭素価格のルートを使えるのは、検証済みの実排出量で申告する製品だけです。デフォルト値を使う場合、規則(EU)2023/956第9条第4項により、年次のデフォルト炭素価格を参照した減額だけが認められます。欧州委員会は2027年からこれを定め、CBAM登録簿で公開することができますが、2026年11月4日時点でどの国についても公表されていません。

申告期限の2027年9月までに実施規則が採択されなかったらどうなりますか

2026年11月4日時点で採択は確認されていません。9月の投票は、Carbon Pulseが欧州委員会の担当者の話として報じたものです。採択が2027年9月30日の期限の直前またはそれ以降にずれ込んだ場合、控除を請求する輸入者は第9条の一般的な文言に頼り、できる限り十分に証拠を整えることになります。管轄当局は審査の際に、あらゆる請求を確認する権限を持つためです。

外国の生産者が受けた無償割当は控除を減らしますか

はい。無償割当、基準による免除、税の還付、間接費用の補償は、草案第8条のもとで、いずれも「実際に支払われた」炭素価格を減らします。例外は、受益施設自身の排出削減を目的とする、公的で透明な補助金の場合です。草案が採択されれば、GX-ETSの無償割当分もこの規定により差し引かれることになります。

10%の上限はすべての炭素クレジットに適用されますか

いいえ。上限が適用されるのは、パリ協定第6条2項または第6条4項に基づき承認・発行された国際クレジットだけです。第三国が自国の遵守制度の中で使う国内クレジットにはEUの追加の上限はなく、草案はその国の制度が定める上限に委ねています。

日本のGX-ETSで支払った分はCBAMから控除されますか

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。GX-ETSは鉄鋼とセメントに無償割当を行うため、草案が採択されても、控除の対象になり得るのは無償割当を超えて実際に支払った分に限られます。どう評価されるかは、欧州委員会の判断を待つ必要があります。

英国がGX-ETSを認めたので、EUでも控除できますか

いいえ。英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度の暫定リストに載せましたが、英国CBAMは独立した税制度です。EU CBAMの扱いとは別の判断で、EUでの控除の根拠にはなりません。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。