電炉法(EAF)のスクラップ鋼とCBAM:日本の電炉材に実排出量のデータが必要な理由

スクラップ電炉法の熱延鋼板(CNコード 7208)のCBAMベンチマークは0.072 tCO2e/tです。

このページの内容
スクラップはCBAM対象製品ではなく排出量を持ち込まずに電炉へ入り、直接還元鉄(DRI)と銑鉄は体化排出量を持ち込みます。電極、加炭材、ガスバーナーによる直接排出量は算入され、電炉の電力は算入されません。

EU炭素国境調整措置(CBAM。JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)では、スクラップ電炉法で製造した熱延鋼板(CNコード 7208)のベンチマークは製品1トン当たり**0.072 tCO2e(CO2換算トン)**です。高炉・転炉法の1.370の約19分の1にあたり、炭素鋼の生産ルートの中で最も低い値です。

ただし、ベンチマークはコストそのものではなく、体化排出量から差し引く量を決める基準です。ベンチマークが低いからといって、CBAM証書のコストが低くなるわけではありません。

日本では2025暦年に、粗鋼8,067万805トンのうち2,084万185トン(25.8%)が電炉で生産されました(日本鉄鋼連盟の鉄鋼生産統計の時系列、2026年8月分のファイル、2025年の年間値は補正済み、電炉鋼は鋳鋼鋳込を含む)。ところが、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の日本の表には電炉法の行がなく、日本の電炉材もデフォルト値を使う限り高炉材と同じ値で評価されます。

日本産の線材(CNコード 7213、不規則に巻いた熱間圧延の棒)を2026年にデフォルト値で輸入する場合、コストは製品1トン当たり80.68ユーロです(2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで計算)。電炉の低い排出量がEUの買い手のコストに反映されるのは、検証済みの実排出量を提供した場合だけです。

本ページでは、その理由と計算の仕組みを「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」に沿って解説します。

キャプション:スクラップを原料とする電炉法には、CBAMのベンチマーク表で炭素鋼の生産ルートのうち最も低い値が設定されています。


スクラップ電炉法のCBAMベンチマークの値はいくつですか

スクラップ電炉法の炭素鋼のデフォルト値用ベンチマークは、熱延鋼板(CNコード 7208)で製品1トン当たり0.072 tCO2e、半製品と線材・棒鋼の多くのコードで0.066 tCO2eです。

どちらも実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項のColumn Bに、ルート(E)「Carbon Steel based on Scrap/EAF」として記載されています。対象は直接排出量のみです。鉄鋼は規則(EU)2023/956の付属書IIに掲げられているため、電力消費に伴う間接排出量はCBAMの価格付けの対象になりません。

熱延鋼板(CNコード 7208)について、3つの生産ルートのベンチマーク、2026年の差し引き量、およびその価値(2026年第3四半期の公式価格、1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)を比較すると、次の表のとおりです。

生産ルート Column Bのベンチマーク、CNコード 7208(tCO2e/t) 2026年の差し引き量(ベンチマーク × 0.975) 差し引き量の価値(82.32ユーロ) スクラップ電炉法との比
高炉・転炉法(BF-BOF)、ルート(C) 1.370 1.33575 製品1トン当たり109.96ユーロ 19.0倍
直接還元鉄(DRI)を使う電炉法、ルート(D) 0.481 0.46898 製品1トン当たり38.61ユーロ 6.7倍
スクラップ電炉法、ルート(E) 0.072 0.07020 製品1トン当たり5.78ユーロ 1.0倍(基準)

出典:実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項、Column B。差し引き量(無償割当調整)は、ベンチマーク × 2026年のCBAM係数97.5% × 部門横断補正係数100%で求め、申告する体化排出量から差し引きます。

19対1という比は、高炉・転炉法の1.370をスクラップ電炉法の0.072で割った値(19.03)です。これは差し引き量の比であり、証書コストの比ではありません。CBAM証書と体化排出量の関係はEU CBAMの基礎で説明しています。


スクラップ電炉法の体化排出量が少ないのはなぜですか

スクラップ電炉法の排出量が少ないのは、鉄鉱石を金属鉄に還元する工程が、スクラップの元になった製品の製造時にすでに済んでいるからです。

高炉ではコークスで鉄鉱石を還元するため、その燃焼と化学反応から大量のCO2が発生します。スクラップを電炉に投入する場合は、スクラップがすでに金属鉄であるため、この還元工程が要りません。JETROも2026年9月18日の記事で「電炉はスクラップを原料として電力で製造するため、一般的に高炉に比べて排出量が少ない」と説明しています。

電炉は、電極から発生するアーク放電の熱で原料を溶解します。直接排出量の発生源は、黒鉛電極の消耗、溶解初期に使う補助バーナーの燃料(天然ガスなど)、取鍋精錬炉での加熱の3つです。CBAMの法令は、これらの排出係数を定めていません。

公式に示されている目安は、スクラップ電炉法のデフォルト値用ベンチマーク(半製品0.066、熱延鋼板0.072)です。当サイトでは、スクラップ電炉法の直接排出量を例示する際にこの2つの値を使います。


デフォルト値では原産国の表で生産ルートが決まります

デフォルト値を使う場合、生産ルートは原産国の表の該当行に記載されたルートで決まり、輸入者も輸出者も選ぶことはできません。

実施規則(EU)2025/2620付属書第5.1項は、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の国別の行に記載されたルートを用いるよう定めています。スクラップ電炉法のルートを記載している国の表は、アゼルバイジャン、ミャンマー、北マケドニア、フィリピン、タイ、ウズベキスタンの6か国分だけです。

実排出量で申告する場合は、事業者が排出量報告書で施設の生産ルートを報告し、認定検証機関がそれを確認します。

日本のデフォルト値の表に電炉法の行はありません

日本の表で鉄鋼の行に記載されているルートは高炉・転炉法の(C)(炭素鋼)と(F)(低合金鋼)だけで、電炉法のルート(D、E、G、H、J)の行は1つもありません。

日本の表(全283行)のうち鉄鋼の行の内訳は、ルート(C)が103行、(F)が32行、(C/F)併記が6行、ルート記号なしが80行です(実施規則(EU)2026/1740による置き換え後の実施規則(EU)2025/2621付属書I、日本の表を2026年11月4日に集計)。ルート記号のない行には、見出し行(21行)のほか、鉄鉱石、銑鉄、合金鉄、ステンレス鋼などの行が含まれます。

このため、日本の電炉メーカーが製造した線材も、高炉材と同じデフォルト値2.100とルート(C)のベンチマーク1.364で計算されます。日本の粗鋼の約4分の1(2025暦年で25.8%、日本鉄鋼連盟)を占める電炉の製品も、EUに輸出されれば同じ扱いになります。

JETROは2026年9月18日の記事で、米国のデフォルト値が日本より低い一因として、米国の電炉比率の高さを挙げています。ただし、国の表の値は国全体の水準を示すもので、個々の電炉メーカーの排出量を反映したものではありません。

日本からEUに輸出される線材、棒鋼と形鋼はわずかです

EUが2025年に日本から輸入した線材(CNコード 7213)、棒鋼(CNコード 7214)と形鋼(CNコード 7216)は、合わせて約262万ユーロ、約1,375トンでした。

内訳は、線材(7213)が約114万ユーロ(956トン)、棒鋼(7214)が約28万ユーロ(178トン)、形鋼(7216)が約120万ユーロ(約241トン)です(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。

これは、EUが日本から輸入したCBAM対象の鉄鋼製品(第72類と第73類)約12億4,590万ユーロの約0.2%(金額ベース)にあたります(Eurostat Comext、2025年)。日本からの輸出の中心は熱延鋼板(CNコード 7208)などの鋼板類です。詳しくは日本の鉄鋼輸出とEU CBAMをご覧ください。

タイの表にはスクラップ電炉法の行があります

タイは日本と異なり、表にスクラップ電炉法(E)を記載している6か国の1つで、タイ産の線材(CNコード 7213 91 10)はデフォルト値1.920とルート(E)のベンチマーク0.066で計算されます。

その結果、2026年のコストは製品1トン当たり168.56ユーロとなり、日本産の80.68ユーロの約2倍です。差し引き量が0.06435しかないため、デフォルト値が日本より低くても、必要な証書の数は多くなります。

JETROは2026年9月2日、在タイ日系企業向けにバンコクでCBAM実務セミナーを開催し、約140人が参加しました(JETRO、2026年9月11日)。タイなど第三国の拠点からEUに出荷する場合は、同じ鋼材でも原産国の表によって扱いが変わります。

前駆体の扱いや川下製品への配分ルールについては、CBAM 鉄鋼部門ガイドで説明しています。


電炉材のCBAM証書コストはどのように計算しますか

電炉材のCBAM証書コストは4つのステップで計算しますが、デフォルト値を使う場合、電炉の実際の排出量は計算のどこにも反映されません。

計算は、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)で改正された規則(EU)2023/956の第7条と第31条、および実施規則(EU)2025/2620付属書に基づきます。日本の電炉メーカーが製造した線材(CNコード 7213)1万トンを、2026年第3四半期にデフォルト値で輸入する場合の手順は次のとおりです。

  1. 体化排出量を決める。 施設が検証済みの排出量報告書を提供していれば実排出量を、なければ実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)のデフォルト値を使います。日本のCNコード 7213のデフォルト値は2.100(ルート(C))で、2026年のマークアップ10%を加えると2.310になります(マークアップは2027年20%、2028年以降30%)。
  2. 無償割当調整を差し引く。 無償割当調整はCBAM係数 × 部門横断補正係数 × 表の行のルートのベンチマークで求め、0.975 × 1.00 × 1.364 = 1.3299です。2.310から差し引くと、製品1トン当たり0.9801枚のCBAM証書が必要になります。
  3. 輸入量を掛ける。 1万トン × 0.9801 = 9,801枚です。
  4. CBAM証書の価格を掛ける。 2026年の輸入には、EU ETSの排出枠のオークション価格の四半期平均が適用されます(第21条第1a項)。82.32ユーロで計算すると、9,801枚 × 82.32 = 80万6,818.32ユーロ、製品1トン当たり80.68ユーロです。

同じ1万トンをトルコの電炉メーカーから輸入する場合は、トルコのデフォルト値2.310(ルート(C))にマークアップを加えた体化排出量が2.541となります。必要な証書は製品1トン当たり1.2111枚、合計1万2,111枚で、99万6,977.52ユーロ(製品1トン当たり99.70ユーロ)です。トルコの表にもスクラップ電炉法のデフォルト値はありません。

同じ条件で2030年の輸入を計算すると(マークアップ30%、CBAM係数51.5%)、日本産は製品1トン当たり166.91ユーロ、トルコ産は189.38ユーロです。実施規則(EU)2025/2620の前文第10項は2027年以降の輸入品についてベンチマークを更新する予定を示しているため、2027年以降の数値は目安です。

貴社の製品とトン数に応じた推計は、CBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。

実排出量で申告すると差し引く量も変わります

電炉メーカーが検証済みの実排出量を提供すると、2.310の代わりにその施設自身の排出量が使われ、差し引く量もColumn Aのベンチマークに基づく値に変わります。

CNコード 7213の場合、Column Aのベンチマークは製品自体の分が0.038で、これに前駆体である粗鋼の分の無償割当が加わります。粗鋼の値として使う半製品(CNコード 7207 11 14)のスクラップ電炉法のColumn Aの値は0.065です。節約できる額は、デフォルト値との排出量の差に証書価格を掛け、この小さくなった差し引き量の分を調整した額になります。

実排出量の算定式は体化排出量の算定方法(実施規則(EU)2025/2547に基づく)で、鉄鋼の計算例はCBAM 鉄鋼の計算ガイドで説明しています。


電炉材のCBAMコストは2034年までどう変わりますか

デフォルト値で比べるべきなのは炉の種類ではなく原産国の表であり、2026年はルート(C)の日本産線材のほうが、ルート(E)の北マケドニア産やタイ産より安くなります。

次の表は、線材(CNコード 7213)を輸入した場合の製品1トン当たりのコストを、証書価格を82.32ユーロで一定として計算したものです。日本とトルコはルート(C)、北マケドニアとタイはルート(E)が表に記載されています。

年 CBAM係数 マークアップ 日本:2.100、(C)、1.364 トルコ:2.310、(C)、1.364 北マケドニア:1.530、(E)、0.066 タイ:1.920、(E)、0.066
2026年 97.5% 10% 80.68ユーロ 99.70ユーロ 133.25ユーロ 168.56ユーロ
2027年 95% 20% 100.78ユーロ 121.52ユーロ 145.98ユーロ 184.50ユーロ
2028年 90% 30% 123.68ユーロ 146.15ユーロ 158.84ユーロ 200.58ユーロ
2029年 77.5% 30% 137.71ユーロ 160.19ユーロ 159.52ユーロ 201.26ユーロ
2030年 51.5% 30% 166.91ユーロ 189.38ユーロ 160.94ユーロ 202.67ユーロ
2034年から 適用なし 30% 224.73ユーロ 247.21ユーロ 163.73ユーロ 205.47ユーロ

実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)のデフォルト値と実施規則(EU)2025/2620のColumn Bのベンチマークで計算(当サイトの計算ツール、2026年11月4日)。コスト=(デフォルト値 ×(1+マークアップ)-CBAM係数 × ベンチマーク)× 82.32ユーロ。2031年から2033年の部門横断補正係数は定められていません。ベンチマークとデフォルト値は2027年以降に更新される可能性があり、2027年以降の行は目安です。

2026年の北マケドニア産は、デフォルト値がトルコより約3分の1低いにもかかわらず、トルコ産より製品1トン当たり33.55ユーロ高くなります。ルート(E)の差し引き量は製品1トン当たり0.064 tCO2eしかなく、ルート(C)の1.330に遠く及ばないためです。

差し引き量が縮小するにつれて、順位は逆転します。北マケドニア産は2029年にトルコ産を下回り、2030年には日本産も下回ります。CBAM係数が適用されなくなる2034年からはデフォルト値だけで差が決まり、タイ産も日本産を下回ります。

どの国の電炉メーカーにとっても、結論は同じです。デフォルト値を大きく下回る直接排出量という本来の強みは、検証済みの実排出量を提供した場合にのみ価格に反映されます。

キャプション:デフォルト値では、ルート(C)のトルコ産線材が2026年に製品1トン当たり99.70ユーロ、ルート(E)の北マケドニア産が133.25ユーロです。無償割当の段階的廃止に伴い、2029年までに順位が逆転します。


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スクラップの体化排出量がゼロとされる理由と、川下製品への対象拡大案

鉄スクラップ(CNコード 7204)は付属書Iの第72類の項目から除外されており、CBAM対象製品でも前駆体でもないため、体化排出量ゼロとして電炉に投入されます。

使用済み製品に由来する市中スクラップも、自家発生スクラップや加工スクラップも、扱いは同じです。川下製品への対象拡大に関する欧州委員会提案COM(2025)989(法律ではありません)の前文第19項も、規則(EU)2023/956のもとで加工スクラップは「assigned zero-emissions」、すなわち排出量ゼロとされている(当サイト仮訳)と現状を説明しています。

実務上の意味は明確です。電炉の投入物に占めるスクラップの比率を80%から95%に引き上げても、電極や補助燃料などのわずかな排出源が同じ生産量に配分されるだけで、増えたスクラップから追加の排出は生じません。この削減効果が反映されるのも、検証済みの実排出量で申告した場合だけです。

JETROは2026年9月18日の記事で、加工の際に前駆体の一部がスクラップになる場合について「スクラップの体化排出量はゼロとして扱われるため、投入した前駆体の全量が最終製品の体化排出量に組み込まれる」と指摘しています。そのため、歩留まりの悪い工程では製品1トン当たりの体化排出量が大きくなります。

川下製品への対象拡大案ではスクラップの扱いが変わる可能性があります

欧州委員会提案COM(2025)989(法律ではありません)は、2028年1月から、加工段階で発生する鉄鋼とアルミニウムのスクラップを前駆体として扱い、その排出量を製品の体化排出量に算入することを提案しています。

欧州議会は2026年9月15日に交渉方針を採択しました。2026年10月20日の第1回三者協議(トリローグ)では全体の合意に至らず(報道による)、金属スクラップは技術レベルの検討に回された4つの論点の1つとなりました。第2回は2026年11月30日と報じられており、2026年11月4日時点で法案はまだ提案の段階です。

改正が採択され適用されるまでは、スクラップの体化排出量はゼロのままです。詳しくは川下製品への対象拡大とCBAMとスクラップの扱いをご覧ください。


日本の電炉メーカーにとっての電力と炭素価格

鉄鋼は付属書IIに掲げられているため、日本の電炉メーカーが使う系統電力の排出量はCBAMの証書コストに含まれません。

電炉は大量の電力を消費しますが、規則(EU)2023/956では、鉄鋼の価格付けの対象は直接排出量だけです(第7条第1項、付属書II)。例外は凝結させた鉄鉱石(焼結鉱やペレットなど、CNコード 2601 12 00)で、付属書IIに記載がないため間接排出量も算入されます。

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、第三国で支払われた炭素価格の控除に関する実施規則も実施規則案(未採択)の段階にとどまっています。排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化され、直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者が対象です(経済産業省)。

電炉メーカーがGX-ETSの対象になるかどうかは、各社の直接排出量によります。GX-ETSで無償割当された分は、実際に支払われた炭素価格になりません(欧州委員会の日本語ガイダンス:「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」)。補助バーナーの天然ガスなどにかかる地球温暖化対策のための税(CO2 1トン当たり289円、環境省)が控除の対象になるかどうかも、まだ決まっていません。

まだ答えの出ていない論点は、次の3つです。

  • 欧州委員会がGX-ETSを「実際に支払われた」炭素価格として扱うかどうか、無償割当分をどう評価するか
  • 上流で課され燃料価格に転嫁される温対税が、施設の事業者が支払ったものとみなされるかどうか
  • 日本の年度(4月から3月)を、CBAMの暦年にどう対応させるか

英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに掲載しました。英国CBAMは独立した税制度であり、この掲載はEU CBAMの扱いとは別です。詳しくはCBAMの炭素価格控除とCBAMと日本をご覧ください。


よくある質問:電炉材とCBAM

電炉材はCBAMで常に高炉材より安くなりますか

いいえ、常に安くなるわけではありません。デフォルト値では炉の種類は計算に入らず、デフォルト値とルートは原産国の表の行で決まります。日本産の線材(CNコード 7213)は、電炉材でも高炉材でも2026年の輸入で製品1トン当たり80.68ユーロ、トルコ産は99.70ユーロです(証書価格82.32ユーロで計算)。

電炉材が安くなるのは、施設が検証済みの実排出量を提供する場合です。電炉の直接排出量は高炉の数分の1であり、差し引き量を上回る排出には1トンごとに証書価格の全額がかかるためです。19対1という比はベンチマーク(差し引き量)の比であり、コストの比ではありません。

スクラップの調達国は電炉材のCBAMベンチマークに影響しますか

スクラップの調達国は、電炉で製造した最終製品のCBAMベンチマークに影響しません。ベンチマークは、デフォルト値の場合は鋼材の原産国とその国の表に記載されたルートで、実排出量の場合は鋼材を生産した施設の生産ルートで決まります。スクラップをどの国から調達したかは関係がなく、スクラップ自体(CNコード 7204)もCBAM対象製品ではありません。

直接還元鉄(DRI)を使う電炉材にスクラップ電炉法のベンチマークを使えますか

EUの輸入者がベンチマークを選ぶことはできません。デフォルト値では国の表の行に記載されたルートが使われます。DRIを使う電炉法(D)を記載した国の表はないため、CNコード 7208の0.481がデフォルト値の計算で使われることはありません。実排出量の場合は、事業者が施設のルートを報告し、認定検証機関がそれを確認したうえで、そのルートのColumn Aの値が適用されます。

誤ったルートに基づいて申告すると、必要な証書数を過少に計算することになります。第19条の審査で是正される場合があり、納付しなかったCBAM証書1枚につき、EU ETSの超過排出罰金(インフレ調整前で1トン当たり100ユーロ、欧州消費者物価指数で調整)と同額の罰金が科されます(第26条第1項)。

トルコとインドの電炉材には同じベンチマークが適用されますか

デフォルト値では同じです。トルコとインドの表はどちらもルート(C)を記載しており、両国の半製品と線材には高炉・転炉法のベンチマーク1.364に基づく差し引き量が適用されます。日本の表も同じルート(C)です。

ただし、デフォルト値は異なります。半製品(CNコード 7207 11 14)はトルコ2.310、インド4.270、日本2.100で、2026年の輸入で製品1トン当たりそれぞれ99.70ユーロ、277.18ユーロ、80.68ユーロです(証書価格82.32ユーロで計算)。実排出量の場合は、どの国の電炉メーカーも自社の検証済み排出量とスクラップ電炉法のColumn Aのベンチマークを使います。

年間輸入量が50トン以下なら電炉材にCBAMはかかりますか

電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項、規則(EU)2025/2083で追加)。免除は税関申告で申告する必要があります。50トンはCNコードごとの基準ではなく、全部門のCBAM対象製品の合計です。同じ年に電炉材の線材(CNコード 7213)30トンと高炉材の鋼板(CNコード 7208)25トンを輸入した輸入者は基準を超えるため、すべての対象輸入についてCBAMの義務を負います。

CBAMのコストを下げるために電炉材を選ぶべきですか

電炉メーカーから調達してCBAMのコストが下がるのは、その施設が検証済みの実排出量を提供する場合だけです。デフォルト値では、炉の種類にかかわらず、国のデフォルト値とマークアップに基づいて支払うことになります。2026年の線材の場合、日本産で製品1トン当たり80.68ユーロ、トルコ産で99.70ユーロです。

CBAMのコストは、価格、仕様、納期、供給の安定性と並ぶ調達判断の要素の1つであり、その比重は年々大きくなります。同じデフォルト値で計算すると、2030年の輸入ではトルコ産が189.38ユーロ、日本産が166.91ユーロです(ベンチマークは2027年以降に更新される可能性があります)。複数年の供給契約では、検証済みの排出量報告書の提供を求める条項が重要な取引条件になります。

高炭素の高炉材と比べると、電炉材のCBAMコストはどう違いますか

差が最も大きくなるのは、実排出量を提供する電炉メーカーと、デフォルト値で申告される高炉材を比べた場合です。中国産スラブ(CNコード 7207 12 10)のデフォルト値は3.169で、2026年のマークアップとルート(C)のベンチマーク1.364を当てはめると製品1トン当たり177.48ユーロ、2030年の輸入では281.31ユーロです(82.32ユーロ一定、ベンチマークは2027年以降に更新される可能性があります)。

電炉の検証済みの直接排出量はこのデフォルト値の数分の1で、そこからColumn Aに基づく差し引き量を引いた分だけが証書の対象になります。デフォルト値のままの電炉材にはこの利点がなく、たとえばトルコ産の半製品は2026年に製品1トン当たり99.70ユーロです。高炉ルートの詳細は高炉・転炉法(BF-BOF)の鉄鋼とCBAMで説明しています。

日本の電炉メーカーが消費する電力の排出量はCBAMに算入されますか

算入されません。鉄鋼は規則(EU)2023/956の付属書IIに掲げられており、価格付けの対象は直接排出量だけです。電炉が消費する系統電力の間接排出量は、CBAM証書の数に影響しません。例外は凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)です。


電炉材を扱う輸出者と輸入者のための関連ページ

電炉材のCBAM対応は、証書コストだけでなく、認可、体化排出量の報告、検証、申告書の提出にも及びます。主な関連ページは次の5つです。

  • CBAMのデフォルト値:デフォルト値が使われる場面、2026年10%から2028年以降30%のマークアップ、実排出量が求められる理由
  • CBAM 鉄鋼ベンチマーク:実施規則(EU)2025/2620のColumn AとColumn Bの値と、日本製品への適用
  • CBAMの検証:実排出量で申告する場合に必須の第三者検証(第8条第1項)と、初回の現地訪問(実施規則(EU)2025/2546第2条)
  • CBAM 輸出者のデータ要件:事業者の排出量報告書のサマリー(16項目、実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)と英語での提供
  • 輸入者向けCBAM鉄鋼ガイド(英語):認可、2027年9月30日の最初の申告期限、2027年からの四半期末の証書保有義務(その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上)

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データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。