CBAMの肥料部門 2026年:アンモニア、尿素、N2Oと体化排出量の計算方法

CBAMの肥料部門を解説します。

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図:アンモニア(CO2のみ算定)は硝酸、尿素、その他の窒素肥料の前駆体で、硝酸と尿素もその他の窒素肥料の前駆体です。これらはCO2とN2Oを算定し、施用後に土壌から出るN2OはCBAMの対象外です。

EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)の肥料部門では、CO2とN2O(一酸化二窒素)の両方を含む体化排出量に応じてCBAM証書が必要となり、デフォルト値は原産国によって大きく異なります。尿素(CNコード 3102 10 19)のデフォルト値は、エジプトが製品1トン当たり1.390 tCO2e(CO2換算トン)、国別の表がない国が2.720です。

2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で計算すると、エジプト産尿素をデフォルト値で申告した場合のCBAM証書コストは、2026年輸入分で製品1トン当たり43.17ユーロです。日本産尿素(デフォルト値1.520)は、同じ条件で製品1トン当たり53.98ユーロになります。

根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」で、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)により改正されています。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。窒素肥料は6つの製品群に分かれ、製品群ごとにCO2とN2Oの算定ルールが異なります。

本ページでは、対象製品、アンモニア・尿素・硝安・UANの体化排出量の算定方法、算定に含まれるN2O、適用されるデフォルト値、2034年までのコストの推移、ロシアからの供給の変化を順に説明します。あわせて、日本からの輸出の実態と日本の炭素価格の扱いも取り上げます。

キャプション:尿素とアンモニアは、CBAM付属書Iの対象となる窒素肥料のうち、EUへの輸入量が最も多い2製品です。


CBAMの肥料部門の対象範囲

CBAMは、EU域外から輸入される窒素を含む肥料製品を対象とし、製造時の直接排出量(CO2とN2O)と電力消費による間接排出量の両方をCBAM証書の対象に含めます。

間接排出量まで対象となるCBAM部門は、鉄鋼部門の凝集鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)の1品目を除けば、肥料とセメントの2部門だけです。EUの肥料メーカーもEU排出量取引制度(EU ETS)を通じて電力のコストを負担しているため、CBAMで間接排出量も算定に含めることで、競争条件が公平になります。認可、CBAM証書、申告期限など、全部門に共通する仕組みはEU炭素国境調整措置(CBAM)の解説で説明しています。

規則(EU)2023/956付属書Iには、EUの関税分類(CNコード)の第28類と第31類にまたがる肥料の5項目が掲げられています。CNコード 2808 00 00、2814、2834 21 00、3102、3105(3105 60 00を除く)で、一覧はCBAM対象製品リストにあります。同じ項目の中でも、製品群ごとに窒素含有量、製造段階の排出の内訳、デフォルト値が異なります。

付属書Iの5項目は、主に次の6つの製品群に整理できます。

  • アンモニア(無水、水溶液):CNコード 2814 10 00、2814 20 00
  • 硝酸と硫硝酸:CNコード 2808 00 00
  • 硝酸カリウム:CNコード 2834 21 00
  • 尿素(水溶液を含む):CNコード 3102 10
  • 硝酸アンモニウム(硝安、AN)と硝安石灰(CAN):CNコード 3102 30、3102 40、3102 60
  • 尿素硝安液(UAN)と窒素を含む化成肥料:CNコード 3102 80と3105(リンとカリウムだけを含む3105 60 00を除く)

硫酸アンモニウム(3102 21)と硝酸ナトリウム(3102 50)も対象です。これらの製品に共通する成分は窒素で、実施規則(EU)2025/2547(式65)では、各製品の算定が製品1トン当たりの窒素含有量(キログラム)と関連付けられています。CNコード単位の一覧は肥料のCNコード一覧をご覧ください。

欧州委員会の税制・関税同盟総局(DG TAXUD)は2026年8月14日、EU域外の施設事業者と認可CBAM申告者向けに、本格実施期間の肥料部門のガイダンス(ガイダンス第5c号)を公表しました。これは、6部門すべてを扱う本格実施期間の10のガイダンス文書(英語)の一つです。


ハーバー・ボッシュ法と肥料製造の3つの排出源

窒素肥料のCBAMコストを左右する排出源は3つあり、それぞれハーバー・ボッシュ法の製造チェーンの異なる段階で生じます。

ハーバー・ボッシュ法は、窒素と水素からアンモニアを合成する製法です(N2 + 3H2 → 2NH3)。原料の水素の大部分は天然ガスの水蒸気メタン改質(SMR、CH4 + H2O → CO + 3H2)で製造され、この改質工程で出るCO2が第1の、かつ最大の排出源です。なお、モニタリング規則は、石炭などの燃料をガス化する2つ目のルートも定めています(実施規則(EU)2025/2547付属書I第3.7.2.2項)。アンモニアの詳細はアンモニアのCBAMで説明しています。

第2の排出源は尿素に固有です。尿素の合成では、改質工程で回収したCO2をアンモニアと反応させます(CO2 + 2NH3 → CO(NH2)2 + H2O)。このCO2は尿素の分子に取り込まれ、施用後に製品が分解するときに放出されます。CBAMはこの製造段階のCO2を尿素の体化排出量に含めます。このため、尿素(CNコード 3102 10 19)の付属書Iのデフォルト値は、エジプトの製品1トン当たり1.390 tCO2eから、国別の表がない国の2.720まで幅があります。詳しくは尿素のCBAMをご覧ください。

第3の排出源は、硝安(AN)、硝安石灰(CAN)、UANに固有の、硝酸の製造で生じるN2Oです。N2OはCO2換算で計上され、その際の地球温暖化係数はIPCC第5次評価報告書(AR5)の265です。二次・三次のN2O削減触媒を備えた硝酸工場はN2Oの排出がはるかに少ないため、硝安やCANでは、検証済みの実排出量がデフォルト値と大きく異なることがあります。

算定範囲(システム境界)について、1点注意が必要です。農家が窒素肥料を施用したときに土壌から出るN2Oは、CBAMの対象外です。算定されるのは、硝酸の製造段階のN2Oだけです。


肥料のCBAM分野別カード:付属書Iの項目数は5、2026年のデフォルト用ベンチマークは製品1トン当たり1.522 tCO2e、直接排出量は対象、間接排出量は対象、温室効果ガスはCO₂とN₂O(アンモニアはCO₂のみ)。肥料のデフォルト値のマークアップは毎年1%です。2026年にほかの製品に適用される10%とは異なります。
出典:規則(EU)2023/956付属書I・II。ベンチマーク:実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項 · 2026年10月26日時点
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- 5:付属書Iの項目数 (CNコード単位)

- 1.522:2026年のデフォルト用ベンチマーク (製品1トン当たりのtCO₂e。無水アンモニア(CNコード 2814 10 00))

証書の対象となる排出量

- 直接排出量:対象

- 間接排出量:対象

- 温室効果ガス:CO₂とN₂O(アンモニアはCO₂のみ)

肥料のデフォルト値のマークアップは毎年1%です。2026年にほかの製品に適用される10%とは異なります。

肥料のCBAM体化排出量の計算方法

肥料の体化排出量は、窒素含有量を主要な変数とし、実施規則(EU)2025/2547の肥料に固有のルールで算定します。

基礎となるのは、全部門に共通する体化排出量の算定方法で、その上に肥料のルールが加わります。体化排出量の定義は規則(EU)2023/956第3条第22号にあります。

アンモニアの算定は比較的単純です。特定体化排出量は、ハーバー・ボッシュ法の合成で天然ガスの燃焼とプロセスから出るCO2e(CO2換算)の合計を、生産した無水アンモニア1トン当たりで表したものです。無水アンモニア(CNコード 2814 10 00)のデフォルト値は、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)で、製品1トン当たりエジプト2.050 tCO2e、アルジェリア2.080、日本2.190、ロシア連邦2.260、トリニダード・トバゴ2.420、国別の表がない国3.130です。

川下の窒素製品では、各製品に含まれるアンモニアを前駆体として扱い、その排出に製品固有のプロセス排出を加えます。尿素の場合、簡略化した式は次のとおりです。尿素1トン当たりのCO2e=(アンモニアの体化排出量×尿素1トン当たりのアンモニア含有量)+尿素合成で取り込まれるCO2+電力による間接排出量です。

デフォルト値を使う場合、輸入者がこの計算を行う必要はありません。原産国について付属書Iに定められた値がそのまま適用され、たとえばエジプトの尿素は製品1トン当たり1.390 tCO2eで、そのうち0.080が間接排出量です。日本の尿素は1.520で、そのうち0.110が間接排出量です。

エジプトからデフォルト値で輸入した主な肥料製品の2026年の義務を、2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で示すと次のとおりです。

製品 CNコード エジプトのデフォルト値(tCO2e/t) ベンチマーク(Column B) 2026年の証書数(製品1トン当たり) コスト(82.32ユーロ、製品1トン当たり) 主な排出源
無水アンモニア 2814 10 00 2.050 1.522 0.58655 48.28ユーロ 天然ガスの改質
尿素 3102 10 19 1.390 0.902 0.52445 43.17ユーロ 改質のCO2と尿素合成のCO2
硝安(AN) 3102 30 90 2.390 0.767 1.666075 137.15ユーロ 改質のCO2と硝酸のN2O
硝安石灰(CAN) 3102 40 10、3102 40 90 2.050 0.688 1.3997 115.22ユーロ 改質のCO2と硝酸のN2O
UAN 3102 80 00 1.510 0.625 0.915725 75.38ユーロ 尿素と硝安の排出の混合
アンモニア水 2814 20 00 0.620 0.457 0.180625 14.87ユーロ 天然ガスの改質

各行の数値は、法令に定められた方法で計算しています。製品1トン当たりの証書数は、デフォルト値×1.01(肥料のマークアップ)から無償割当調整を差し引いた値です。無償割当調整は、CBAM係数(2026年は97.5%)×部門横断補正係数(100%)×Column Bのベンチマークです(規則(EU)2023/956第31条、実施規則(EU)2025/2620)。

エジプト産尿素では、1.390 × 1.01 = 1.4039、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 0.902 = 0.87945、差し引き製品1トン当たり0.52445枚のCBAM証書で、82.32ユーロでは製品1トン当たり43.17ユーロです。

2026年のCBAM係数は97.5%で、これは無償割当のうち維持される割合です(指令2003/87/EC第10a条第1a項)。必要な証書数は、体化排出量から無償割当調整(CBAM係数×部門横断補正係数×ベンチマーク)を差し引いて求めます。無償割当調整は製品1トン当たりの固定量なので、ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。このため、国別の表がない国の尿素(デフォルト値2.720)は、同じ方法で製品1トン当たり153.75ユーロになります。


肥料のCBAMデフォルト値とマークアップ1%

肥料のデフォルト値に上乗せされるマークアップは、総排出量のデフォルト値に対して1%にとどまり、2026年に鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素に適用される10%を大きく下回ります。

この1%は、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の導入部の表で定められています。デフォルト値は、EUの輸入者が供給者から検証済みの実排出量を得られない場合の代替値です。

実務上は、マークアップによって申告する排出量が1%増え、この増加分はベンチマークを上回る部分に当たるため、証書価格が全額かかります。エジプト産尿素では製品1トン当たり0.0139 tCO2eで、82.32ユーロで約1.14ユーロです。日本産尿素では0.0152 tCO2eで、約1.25ユーロです。コストを大きく左右するのはデフォルト値そのもので、付属書Iの「その他の国と地域(Other Countries and Territories)」の表が適用される尿素は2.720で申告され、エジプトの値のほぼ2倍です。

デフォルト値を使う場合も、負担は小さくありません。エジプト産尿素のデフォルト値とマークアップの合計は製品1トン当たり1.4039 tCO2eで、無償割当調整を差し引く前の金額は、82.32ユーロで製品1トン当たり115.57ユーロです。CBAM係数が下がるにつれて無償割当調整は縮み、2034年からはCBAM係数が適用されません。

価格が変わらなければ、エジプト産尿素のコストは、2026年輸入分の製品1トン当たり43.17ユーロから、2034年以降は115.57ユーロに上がります。マークアップが低いからといって、実排出量の検証に取り組まなくてよいわけではありません。デフォルト値の仕組みはCBAMのデフォルト値で説明しています。

肥料のデフォルト値のマークアップの推移は、次のとおりです。

  • 2026年:算定したデフォルト値に+1%
  • 2027年:算定したデフォルト値に+1%
  • 2028年以降:算定したデフォルト値に+1%

ほかのCBAM部門(鉄鋼、セメント、アルミニウム、水素)では、マークアップは2027年に20%、2028年に30%に上がります。肥料は、現行の実施規則のもとでは期限を定めず1%に据え置かれています。


50トン基準と肥料の輸入者

電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。

この50トン基準は、規則(EU)2025/2083による改正で導入されました。肥料には適用されますが、電力と水素には適用されません。免除は税関申告で申告する必要があります。50トンはすべてのCNコードを合算した輸入者単位の量で、1回の出荷の量ではありません。

EUの農業市場向けに1シーズンで数千トンを調達する流通業者のような大口の輸入者は、50トン基準を大きく超えます。この基準が実際に関係するのは、特殊な肥料を少量輸入する事業者や、複数部門のCBAM対象製品を輸入し、肥料の量がわずかな企業です。日本産の化成肥料のように小口で単価の高い製品を輸入する事業者も、他のCBAM対象製品と合わせて50トンを超えれば義務を負います。合算のルールはCBAMの50トン基準(英語)で説明しています。


2026年から2034年までの肥料のCBAMコストの推移

肥料のCBAMコストは、2026年から2034年まで法令で定められた日程に沿って上がり、無償割当の縮小は2029年から2030年にかけて最も急になります。

2026年の数値だけで計画を立てると、全体像を見誤ります。エジプト産と日本産の尿素(CNコード 3102 10 19)をデフォルト値で輸入した場合の製品1トン当たりのコストを、証書価格を2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで一定として示すと次のとおりです。

年 CBAM係数(維持される無償割当の割合) 無償割当調整(tCO2e/t) エジプト産:証書数 エジプト産:コスト 日本産:証書数 日本産:コスト
2026年 97.5% 0.87945 0.52445 43.17ユーロ 0.65575 53.98ユーロ
2027年 95% 0.85690 0.54700 45.03ユーロ 0.67830 55.84ユーロ
2028年 90% 0.81180 0.59210 48.74ユーロ 0.72340 59.55ユーロ
2029年 77.5% 0.69905 0.70485 58.02ユーロ 0.83615 68.83ユーロ
2030年 51.5% 0.46453 0.93937 77.33ユーロ 1.07067 88.14ユーロ
2031年~2033年 39%、26.5%、14% 2030年より後の部門横断補正係数が定められていないため、数値なし 数値なし 数値なし 数値なし 数値なし
2034年 CBAM係数の適用なし 0 1.40390 115.57ユーロ 1.53520 126.38ユーロ

計算は2026年11月4日に当サイトの計算ツールで行いました。デフォルト値はエジプト1.390、日本1.520、マークアップ1%、Column Bのベンチマーク0.902、部門横断補正係数100%(実施決定(EU)2026/1862)です。

これらの数値は証書価格を一定とした試算で、実際のコストは証書価格によって変わります。また、実施規則(EU)2025/2620の前文第10項は2027年1月1日以降の輸入品についてベンチマークの更新を予定しているため、2027年以降の数値は目安です。

2026年の輸入に適用される証書価格は、EU ETSの排出枠のオークション価格の四半期平均です(規則(EU)2025/2083により改正された規則(EU)2023/956第21条第1a項)。週次価格は2027年の輸入からです(第21条第1項)。

キャプション:2029年から2030年にかけての1年間に、肥料の輸入者のコストはCBAMの段階的導入の中で最も大きく上昇します。


EUの窒素肥料の供給構造の変化:ロシアとエジプト

ロシアは2025年もCBAM対象肥料の最大の輸入元で、492万トン、EU域外からの輸入の24.5%(数量ベース)を占めました。

出典はユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出、付属書Iのコード)で、2023年のロシアの割合は24.1%でした。これにベラルーシの0.3%が加わります。ロシアに続くのはエジプト18.7%、アルジェリア9.1%、中国8.2%、モロッコ7.0%、トリニダード・トバゴ6.3%です。EU域外からの輸入の合計は2,004万トン、83億3,000万ユーロでした。

規則(EU)2025/1227は、2025年7月1日から、ロシアとベラルーシの肥料(項3102と項3105の大部分)に追加の関税を課しました。6.5%の従価税に加えて1トン当たりの関税が課され、その額は40ユーロから45ユーロで始まり、2028年7月からは1トン当たり315ユーロから430ユーロに達する予定です。この関税はCBAMのコストではありません。

尿素への影響がユーロスタットの月次データに表れたのは2026年からです。2025暦年のロシア産尿素(CNコード 3102 10)の輸入は190万トンで、2024年の172万トンを上回りました。2026年1月から7月は11万4,000トンで、前年同期の139万トンから92%減りました。2025年のEU域外からの尿素輸入(数量ベース)は、エジプトが44.3%、ロシアが25.7%、アルジェリアが15.8%でした。貿易の経済面は日本の肥料輸出とEU CBAMで詳しく説明しています。

エジプトのCBAMでの立場は、ロシアと異なります。エジプトの生産者は補助金付きの天然ガスを原料とし、ロシア産にかかる追加の関税も負担しません。エジプトのCBAMの負担は、関税の積み重ねではなく、主に排出原単位とCBAM証書のコストで決まります。部門をまたいだエジプトの状況はCBAMとエジプト(英語)にあります。

負担が排出原単位で決まるため、エジプトの生産者がEUの買い手に渡す施設のデータが重要になります。エジプトの輸出者向けにCBAM業務を明記している6社は、エジプトのCBAMコンサルタント(英語)で比較できます。

ロシアについては、CBAMの負担を別に見る必要があります。EU市場へのアクセスが縮小しても、EUの輸入者がロシア産のアンモニアやUANを調達する限り、CBAM証書のコストは生じます。追加の関税、CBAM証書、2025年に提起されたWTO紛争の関係はCBAMとロシア(英語)とWTO紛争DS639で説明しています。DS639では2026年9月25日にパネルが設置されました。


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日本から見た肥料のCBAM:輸出の実態とデフォルト値

EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象の肥料は1,431.2トン、254万352ユーロで、EU域外からの輸入に占める割合は金額ベースで0.03%、数量ベースで0.01%です。

日本は金額、数量ともに第35位の供給国です(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。2023年の6,036.8トン、443万5,632ユーロから、数量で76%、金額で43%減りました。日本のCBAM対象製品全体(14億4,820万ユーロ)に占める肥料の割合は約0.18%です。

品目別の内訳は次のとおりです(Eurostat Comext、2023年から2025年、製品の正味重量)。

品目群(CNコード) 2023年 2024年 2025年の数量 2025年の金額
化成肥料など(3105、3105 60 00を除く) 989.5トン 913.7トン 1,396.7トン EUR 2,422,704
尿素(3102 10) 5,020.1トン 561.6トン 31.8トン EUR 64,964
その他の窒素肥料(3102 10以外の3102) 26.8トン 9.2トン 2.5トン EUR 899
硝酸(2808 00 00) 0.1トン 1.4トン 0.2トン EUR 51,401
アンモニア(2814) 0.1トン 0トン 0トン EUR 384
硝酸カリウム(2834 21 00) 0.1トン 0トン 0トン EUR 0
合計 6,036.8トン 1,485.9トン 1,431.2トン EUR 2,540,352

アンモニアの2024年と2025年、硝酸カリウムの2024年の数量は0.1トン未満のため0トンと表示されますが、金額は記録されています。各行の数量は0.1トン単位に丸めているため、2023年の行の和(6,036.7トン)は、丸める前の値から求めた合計(6,036.8トン)と0.1トン異なります。硝酸の2025年の0.2トン、51,401ユーロはデータセットの記録どおりです。数量が丸めた値でごく少ないため、この数値から1トン当たりの単価を求めても比較には使えません。

EUが日本から輸入する肥料の中心は、窒素・リン・カリウムの3要素を含む化成肥料(CNコード 3105 20)で、2025年は1,316.3トン、数量の92.0%でした。尿素は2023年の5,020.1トンから2025年には31.8トンへと99.4%減っています。

日本の主な肥料製品のデフォルト値と2026年のコスト

日本には付属書Iに独自の表があり、日本産尿素のデフォルト値1.520は、エジプトの1.390、ロシアの1.470より高く、中国の2.850、国別の表がない国の2.720より低い水準です。

日本の表の主な肥料製品について、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロで計算した結果は次のとおりです(実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)、実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項、2026年11月4日に当サイトの計算ツールで計算)。

製品(CNコード) 直接排出量 間接排出量 デフォルト値(総排出量) ベンチマーク(Column B) 2026年の証書数(製品1トン当たり) 2026年のコスト(製品1トン当たり) 2030年のコスト(製品1トン当たり)
無水アンモニア(2814 10 00) 2.050 0.140 2.190 1.522 0.72795 59.92ユーロ 117.56ユーロ
アンモニア水(2814 20 00) 0.620 0.040 0.660 0.457 0.221025 18.19ユーロ 35.50ユーロ
硝酸(2808 00 00) 2.130 0.060 2.190 0.582 1.64445 135.37ユーロ 157.41ユーロ
硝酸カリウム(2834 21 00) 1.790 0.080 1.870 0.626 1.27835 105.23ユーロ 128.94ユーロ
尿素(3102 10 19) 1.410 0.110 1.520 0.902 0.65575 53.98ユーロ 88.14ユーロ
硝安(3102 30 90) 2.100 0.120 2.210 0.767 1.484275 122.19ユーロ 151.23ユーロ
硝安石灰(3102 40 10、3102 40 90) 1.810 0.110 1.910 0.688 1.2583 103.58ユーロ 129.64ユーロ
UAN(3102 80 00) 1.380 0.090 1.470 0.625 0.875325 72.06ユーロ 95.72ユーロ
化成肥料、窒素10%超(3105 20 10) 0.900 0.100 1.000 0.434 0.58685 48.31ユーロ 64.74ユーロ
化成肥料、窒素10%以下(3105 20 90) 0.610 0.080 0.690 0.319 0.385875 31.77ユーロ 43.84ユーロ

単位は製品1トン当たりのtCO2e。デフォルト値はマークアップ前の値で、計算ではこれに1%を加えます。硝安と硝安石灰の行では、付属書Iに記載された直接排出量と間接排出量の和(2.220と1.920)が総排出量(2.210と1.910)と0.010異なりますが、いずれも付属書Iの記載どおりの値で、計算には総排出量を使います。2030年の列はCBAM係数51.5%、価格82.32ユーロ一定で、ベンチマークは2027年以降に更新される予定のため目安です。

デフォルト値どうしで比べると、2026年の日本産尿素のコストはエジプト産より製品1トン当たり10.81ユーロ高くなります。施設の実排出量が日本のデフォルト値を下回る場合は、検証済みの実測値を使うことでこの差を縮められます。貴社の製品と数量に応じた推計は、CBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。

日本の炭素価格は肥料のCBAMで控除されますか

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。

第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)に関する実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は2026年6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で未採択です。控除の対象は実際に支払われた炭素価格に限られ、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。

日本の主な制度と肥料のCBAMとの関係は、次のとおりです(各制度の出典は括弧内、2026年11月4日確認)。

  • 排出量取引制度(GX-ETS):直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者が対象で(経済産業省)、2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化されました。GX-ETSの排出枠は無償で割り当てられ(ICAP)、無償割当分は実際に支払われた炭素価格には当たりません。
  • 地球温暖化対策のための税(温対税):化石燃料にCO2 1トン当たり289円を上流で課す税です(環境省)。燃料価格に転嫁された税を、アンモニア工場の事業者が支払ったものとみなせるかどうかは未解決です。
  • 化石燃料賦課金:2028年度に導入される予定で、現時点では施行されていません(JETRO)。2026年と2027年の輸入について控除を主張する余地はありません。

英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに載せましたが、これはEU CBAMの扱いとは別の判断です。詳しくはCBAMの炭素価格控除とCBAMと日本をご覧ください。


農業団体の反発:IFAが窒素肥料へのCBAM適用停止を要求

肥料のCBAMをめぐる政治的な圧力は2026年8月に強まりましたが、2026年11月4日時点で肥料の輸入者のCBAMの義務は変わっていません。

2026年8月18日、アイルランド農業者協会(IFA)は、アイルランドの農業大臣に対し、窒素肥料へのCBAMの適用停止を働きかけることと、農家に約束されていた共同出資の支援を実行することを求めました。IFAの農業経営部門の委員長Bill O'Keeffe氏は、輸入窒素肥料へのCBAMについて次のように述べ、農家は追加コストを食品のサプライチェーンに転嫁できないと主張しました。

"will have a severe negative effect on agriculture and food production across the EU and Ireland in particular"(EU全体、とりわけアイルランドの農業と食料生産に深刻な悪影響を及ぼす)(当サイト仮訳)

この要求は、2026年7月の2つの動きに続くものです。欧州議会の環境委員会(ENVI)が、欧州委員会提案COM(2025)989(法律ではありません)にある第27a条の緊急ブレーキ条項を削除し、IFAがその復活を公に求めました。停止の要求は業界の立場であり、立法上の決定ではありません。経緯はIFAの肥料CBAM停止要求(英語)にあります。


肥料のCBAM実務:EUの輸入者が行うこと

肥料の輸入者の金銭的な義務はいつ発生しますか

肥料の輸入者の金銭的な義務は、最初のCBAM申告期限である2027年9月30日に発生します(規則(EU)2025/2083により改正された規則(EU)2023/956第6条第1項)。最初の申告は、本格実施期間の最初の1年である2026年(1月から12月)を対象とします。2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(第6条第1項、第22条第1項)。

CBAM証書は、2027年2月1日から、設立地の加盟国が共通中央プラットフォームで販売します(第20条第1項)。2026年の輸入には四半期末の保有義務はありません。2027年から、認可申告者は各四半期末に、その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上に相当するCBAM証書を口座に保有する必要があります(第22条第2項)。算定はマークアップなしのデフォルト値または前年に納付した証書数に基づき、第31条の無償割当調整が考慮されます。

CBAMの手続きを行うには、EUの輸入者が認可CBAM申告者の地位を得ている必要があります。認可の決定を待つ間に暫定的に輸入を続けるための申請期限は、2026年3月31日でした(第17条第7a項)。認可申告者でない者が50トン基準を超えて肥料を輸入した場合、第26条第2項の罰金が科されます。その額は、納付しなかったCBAM証書1枚につき、第26条第1項の罰金(インフレ調整前で1トン当たり100ユーロ)の3倍から5倍(インフレ調整前で300から500ユーロ)です。

肥料の輸入者は実排出量とデフォルト値をどう選びますか

肥料の輸入者が実排出量とデフォルト値のどちらを使うかは、次の4つの基準で判断します。

  1. 供給者に検証済みの実排出量を求め、製品と原産国ごとのデフォルト値と比べます。
  2. 検証済みの実排出量がデフォルト値とマークアップの合計を下回れば、実排出量を使うことで証書コストが下がります。節約額は、排出量の差に証書価格を掛け、ベンチマークの基準の違いを調整した額です。適用されるベンチマークは、実排出量ではColumn Aに前駆体に含まれる無償割当を加えたもの、デフォルト値ではColumn Bです。
  3. 供給者が硝酸工場でN2Oを削減していれば、硝安とCANの検証済み排出量はデフォルト値を大きく下回る可能性があります。どこまで下がるかは、その工場自身のモニタリングデータでしかわかりません。
  4. 供給者が検証に耐える排出量データを提供できない、または提供しない場合は、1%のマークアップ付きのデフォルト値が適用され、ベンチマークを上回る排出量は全額が証書の対象になります。

肥料のマークアップは1%と小さいものの、デフォルト値が近代的な工場の実排出量を大きく上回ることがあり、国別の表がない原産国では特にその傾向があります。エジプト、アルジェリア、トリニダード・トバゴの供給者と長期の取引関係を持つ輸入者は、今から排出量データの収集を始めるのに有利な立場にあります。

CBAMは肥料に対する炭素税と同じですか

CBAMは、法的な意味での肥料への炭素税、関税、国境での追加課金ではありません。CBAMは、EUの輸入者が、輸入した肥料製品のCO2とN2Oの体化排出量に応じ、EU ETSの価格に連動したCBAM証書を購入する証書制度です。 証書は、申告した体化排出量に対して毎年納付します。

余った証書は、納付した年の10月31日までの請求で買い戻せます。上限は、購入した暦年に第22条第2項に基づき購入義務があった証書数です(第23条第2項)。

CBAMのコストはEU ETSの価格に連動するため、1トン当たりの固定額ではありません。2026年の輸入にはEU ETSの排出枠のオークション価格の四半期平均が適用され(第21条第1a項)、2027年からは週次平均です(第21条第1項)。

2026年の公式価格は第1四半期75.36ユーロ、第2四半期75.28ユーロ、第3四半期82.32ユーロで、デフォルト値のエジプト産尿素は製品1トン当たり39.52ユーロ、39.48ユーロ、43.17ユーロ、日本産尿素は49.42ユーロ、49.36ユーロ、53.98ユーロです。CBAM計算ツールでは、法令に定められた式と公式のデフォルト値、ベンチマークを用いて試算できます。結果は推計です。

第三国の肥料輸出者にCBAMの義務はありますか

第三国の肥料輸出者には、EU CBAMの直接の法的義務はありません。義務を負うのは、EUの認可CBAM申告者(EUの輸入者またはその間接的通関代理人)だけです。日本の肥料メーカーも同じで、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に登録し、検証済みのデータを提供することはできますが、義務ではありません。登録の手順はCBAM事業者用ポータルで説明しています。

ただし、取引上の圧力はあります。EUの輸入者は証書コストを下げるために排出量データを求め、検証済みデータを出せない輸出者は、実排出量を示せる低排出の競合に対して競争力を失います。

輸出者がEUの顧客を支援するための実務としては、硝酸工場へのN2Oの連続モニタリングの導入、ハーバー・ボッシュ法のエネルギー消費量の第三者検証、事業者の排出量報告書とそのサマリー(16項目)の英語での作成があります(実施規則(EU)2025/2547付属書IV)。日本の輸出者向けの詳細は日本の肥料輸出とEU CBAM、輸入者側の手順は輸入者向けCBAM肥料ガイド(英語)にあります。

肥料を施用したときのN2OもCBAMの算定に含まれますか

農家が窒素肥料を土壌に施用したときに出るN2Oは、CBAMの算定に含まれません。硝安、CAN、UANのCBAMの体化排出量に含まれるのは、硝酸の製造段階のN2Oだけです。

施用時のN2Oは、規模によっては気候に大きな影響を与えますが、規則(EU)2023/956と現行の実施規則の対象外です。この境界は部門の算定方法に明記されています。

有機肥料やリン酸肥料もCBAMの対象ですか

項3101の有機肥料はCBAMの対象外で、ばら積みで出荷される単肥のリン酸肥料(項3103)とカリ肥料(項3104)も対象外です。項3105のうち、リンとカリウムの2要素を含む肥料のCNコード 3105 60 00は、付属書Iから明示的に除かれています。

項3105のそれ以外のコードはすべて対象です。判断の基準は窒素含有量ではなくCNコードであり、錠剤状の第31類の製品や重量10kg以下の包装の製品が分類される3105 10 00も含まれます。

日本で肥料のCBAMについて相談できる窓口はありますか

経済産業省は「炭素国境調整措置」のページ(2026年6月1日更新)で概要と関連資料を公開し、JETROは貿易投資相談の窓口、算定実務マニュアル(2026年3月)、セミナーを提供しています。経済産業省の算定ガイドライン(第3版、2026年3月)はねじ・ボルト等が対象で、当サイトが2026年11月4日に確認した経済産業省とJETROの資料に、肥料に特化した算定ガイドラインはありません。

2026年11月4日時点で、日本の輸出者向けのCBAM専用の補助金も確認できません。排出量データの準備や検証の支援事業者の紹介は、CBAMの相談窓口から無料で依頼できます。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。