日本の肥料輸出とEU CBAM:製品別コスト、N2Oの扱い、主要供給国との比較

日本産尿素(CNコード 3102 10 19)のCBAMコストは、デフォルト値を使う2026年輸入分で製品1トン当たり53.98ユーロです。

このページの内容
EU域外の肥料施設の排出量報告書:直接排出量(CO2とN2O)、使用した電力、購入したアンモニアや硝酸のデータを認定検証機関が検証。EUの買い手は実排出量で申告し、報告書がなければデフォルト値に1%を上乗せ。

EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)のもとで、日本からEUに輸出される尿素(CNコード 3102 10 19)は、デフォルト値を使う場合、2026年輸入分で製品1トン当たり0.65575枚のCBAM証書が必要です。2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で、製品1トン当たり53.98ユーロになります。

肥料のデフォルト値に上乗せされるマークアップは毎年1%で、鉄鋼やセメントの10%(2026年)より低く設定されています。日本の尿素のデフォルト値は製品1トン当たり1.520 tCO2e(CO2換算トン)です。エジプトの1.390、ロシアの1.470より高く、中国の2.850や、自国の値を持たない国に適用される2.720より低い水準です。

根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。

EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象の肥料は1,431.2トン、254万352ユーロで、日本からのCBAM対象製品全体(14億4,820万ユーロ)の約0.18%にすぎません(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。数量ベースでは、その92.0%を複合肥料(CNコード 3105 20)が占めます。

本ページでは、対象製品、日本の輸出の実態、N2Oを含む算定方法、製品別コスト、日本の炭素価格の扱い、提供すべきデータと対応策を順に説明します。

キャプション:肥料のCBAMは、天然ガスの改質で生じるCO2と、硝酸の製造で生じるN2Oの両方を対象とします。窒素肥料は、算定の手間が最も大きい部門の一つです。


CBAMの対象となる肥料はどれですか

CBAMの対象となる肥料は、規則(EU)2023/956付属書Iに掲げる5項目で、窒素を含む肥料とその原料です。

5項目は、CNコード 2808 00 00、2814、2834 21 00、3102、3105(3105 60 00を除く)で、EUの関税分類の第28類(無機化学品)と第31類(肥料)にまたがります。2834で対象となるのは2834 21 00(硝酸カリウム)だけで、3105からは窒素を含まない3105 60 00が除かれます。

付属書Iの5項目と、3102の主な製品群は次のとおりです。

  • 2808 00 00:硝酸、硫硝酸(CO2とN2O)
  • 2814 10 00 / 2814 20 00:無水アンモニア、アンモニア水(CO2のみ)
  • 2834 21 00:硝酸カリウム(CO2とN2O)
  • 3102 10:尿素(水溶液を含む)。EUへの輸入量が最も多い製品
  • 3102 30:硝酸アンモニウム(硝安、AN)
  • 3102 40 / 3102 60:硝安石灰(CAN)と関連する複塩
  • 3102 80:尿素硝安液(UAN)
  • 3105:窒素を含む化成肥料(NPK)、リン酸二アンモニウム(DAP、3105 30 00)など。重量10kg以下の包装や錠剤状の肥料(3105 10 00)も含まれます

電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。免除は税関申告で申告する必要があります。この50トン基準は、鉄鋼やアルミニウムなど他のCBAM対象製品と合算した輸入者単位の量で、1回の出荷ごとの量ではありません。

アンモニア(CNコード 2814)は、それ自体がCBAM対象製品であると同時に、すべての窒素肥料の前駆体でもあります。そのため尿素、硝安、UANの輸出者は、アンモニアの製造段階の排出も体化排出量に含めて算定します。対象範囲の全体はEU炭素国境調整措置(CBAM)の解説と肥料のCNコード一覧で確認できます。


日本からEUへの肥料輸出:CBAM対象製品の金額と数量

EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象の肥料は1,431.2トン、254万352ユーロで、EU域外からの肥料輸入に占める割合は金額ベースで0.03%、数量ベースで0.01%です。

日本は金額ベース、数量ベースともに第35位の供給国です(付属書Iの肥料コード、ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。2023年(6,036.8トン、443万5,632ユーロ)と比べると、数量で76%、金額で43%減少しました。品目別の内訳は次の表のとおりです(Eurostat Comext、2023年から2025年)。

品目群(CNコード) 2023年 2024年 2025年の数量 2025年の金額
複合肥料など(3105、3105 60 00を除く) 989.5トン 913.7トン 1,396.7トン EUR 2,422,704
尿素(3102 10) 5,020.1トン 561.6トン 31.8トン EUR 64,964
その他の窒素肥料(3102 10以外の3102) 26.8トン 9.2トン 2.5トン EUR 899
硝酸(2808 00 00) 0.1トン 1.4トン 0.2トン EUR 51,401
アンモニア(2814) 0.1トン 0トン 0トン EUR 384
硝酸カリウム(2834 21 00) 0.1トン 0トン 0トン EUR 0
合計 6,036.8トン 1,485.9トン 1,431.2トン EUR 2,540,352

数量は製品の正味重量で、窒素換算ではありません。2025年の3105の内訳は、3105 20(窒素・リン・カリウムの3要素を含む化成肥料)1,316.3トン、3105 10(10kg以下の包装など)33.6トン、3105 30(DAP)17.9トン、3105 40(MAP)16.7トン、3105 90が12.2トンです。

硝酸の2025年の値(0.2トン、51,401ユーロ)はデータセットのとおりです(2026年11月4日確認)。統計上の単価は1トン当たり約25万7,000ユーロで、EU域外全体の平均(約242ユーロ)とかけ離れています。Comextの数量は100kg単位で記録されるため、ごく少量の取引では単価が価格水準を示しません。

日本の対EU肥料輸出の中心は、汎用の窒素肥料ではなく高単価の化成肥料です。3105 20の2025年の統計上の平均単価(CIF)は、日本産が1トン当たり約1,511ユーロ、EU域外全体が約435ユーロでした(Eurostat Comext、2025年のデータから当サイトが計算)。一方、尿素は2023年の5,020.1トンから2025年には31.8トンへと99.4%減少しました。

EUの肥料市場全体から見れば、ごく小さな規模です。ただしCBAMのコストは輸入量の大小にかかわらず、EUの輸入者が輸入した製品1トンごとに発生します。小口の輸入者でも、他のCBAM対象製品と合わせた年間の累積正味重量が50トンを超えれば義務を負います。


窒素肥料の体化排出量はどのように算定されますか

肥料の体化排出量は、生産工程の直接排出量(CO2とN2O)に、電力消費による間接排出量を加えて算定します。

肥料は規則(EU)2023/956付属書IIに記載されていないため、セメントと同じく間接排出量も証書の算定対象になります。CO2だけを対象とする鉄鋼や、CO2とパーフルオロカーボン(PFC)を対象とするアルミニウムと異なり、肥料では一酸化二窒素(N2O、亜酸化窒素)も対象に含まれます(規則(EU)2023/956付属書I)。体化排出量の定義は第3条第22号にあります。算定の手順は体化排出量の算定方法で説明しています。

ハーバー・ボッシュ法による製造工程

すべての窒素肥料は、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成(N2 + 3H2 → 2NH3)にさかのぼります。原料の水素は主に天然ガスの水蒸気改質(CH4 + H2O → CO + 3H2)で製造され、この改質工程がCO2排出の中心です。アンモニアの詳細はアンモニアのCBAMをご覧ください。

尿素の製造では、改質で回収したCO2を尿素合成(CO2 + 2NH3 → CO(NH2)2 + H2O)に取り込みます。このCO2は、尿素を土壌に施用したときに放出されます。炭素は製造段階で回収され化学的に固定されたものであるため、施用時に放出されるこのCO2もCBAMの算定範囲から外れません。詳しくは尿素のCBAMで説明しています。

N2Oが加わる製品

硝安やUANでは、原料の硝酸を製造する段階でN2Oが発生し、算定に加わります。N2OはCO2換算で計上し、地球温暖化係数にはIPCC第5次評価報告書(AR5)の265を用います。硝酸工場に接触分解によるN2O削減設備を備える事業者は、実測で低いN2O原単位を示すことで、検証済みの体化排出量をデフォルト値より低く抑えられます。

アンモニア(CNコード 2814)はCO2だけが対象で、N2Oは含まれません。肥料を土壌に施用したときに出るN2Oも対象外で、算定されるのは製造段階のN2Oだけです。

日本の主要な肥料製品のデフォルト値

日本には、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)に独自の表があり、肥料の各行に直接排出量と間接排出量が分けて記載されています。主な製品の値は次のとおりです(製品1トン当たりのtCO2e、マークアップ前)。

製品(CNコード) 直接排出量 間接排出量 総排出量(デフォルト値)
無水アンモニア(2814 10 00) 2.050 0.140 2.190
硝酸(2808 00 00) 2.130 0.060 2.190
尿素(3102 10 19) 1.410 0.110 1.520
硝安(3102 30 90) 2.100 0.120 2.210
UAN(3102 80 00) 1.380 0.090 1.470
化成肥料、窒素10%超(3105 20 10) 0.900 0.100 1.000
化成肥料、窒素10%以下(3105 20 90) 0.610 0.080 0.690

出典:実施規則(EU)2026/1740による置き換え後の実施規則(EU)2025/2621付属書I、日本の表(2026年11月4日読み取り)。総排出量の欄が、マークアップを加える前のデフォルト値です。


日本産肥料のCBAMコスト:製品別の計算(2026年と2030年)

CBAMで必要な証書数は、製品1トン当たりの体化排出量から無償割当調整を差し引き、製品の質量を掛けて求めます。

計算式は、証書数=max[0,特定体化排出量-無償割当調整-第9条の炭素価格分]×質量です(規則(EU)2023/956第31条、実施規則(EU)2025/2620)。製品1トン当たりの無償割当調整は、CBAM係数×部門横断補正係数(CSCF)×CBAMベンチマークです。CBAM係数は2026年が97.5%、部門横断補正係数は2026年から2030年まで100%です(実施決定(EU)2026/1862)。

2026年のCBAM係数は97.5%で、これは無償割当のうち維持される割合です。ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。日本の尿素では、1.520 × 1.01 = 1.5352、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 0.902 = 0.87945、差し引き製品1トン当たり0.65575枚のCBAM証書が必要で、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり53.98ユーロです。

日本の主要な肥料製品について、同じ方法で計算した結果を次の表に示します。ベンチマークは実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項のColumn Bの値で、計算は2026年11月4日に当サイトの計算ツールで行いました。

製品(CNコード) 日本のデフォルト値 マークアップ1%後 ベンチマーク(Column B) 2026年の証書数(製品1トン当たり) 2026年のコスト(製品1トン当たり) 2030年のコスト(製品1トン当たり)
無水アンモニア(2814 10 00) 2.190 2.2119 1.522 0.72795 59.92ユーロ 117.56ユーロ
硝酸(2808 00 00) 2.190 2.2119 0.582 1.64445 135.37ユーロ 157.41ユーロ
尿素(3102 10 19) 1.520 1.5352 0.902 0.65575 53.98ユーロ 88.14ユーロ
硝安(3102 30 90) 2.210 2.2321 0.767 1.484275 122.19ユーロ 151.23ユーロ
UAN(3102 80 00) 1.470 1.4847 0.625 0.875325 72.06ユーロ 95.72ユーロ
化成肥料、窒素10%超(3105 20 10) 1.000 1.0100 0.434 0.58685 48.31ユーロ 64.74ユーロ
化成肥料、窒素10%以下(3105 20 90) 0.690 0.6969 0.319 0.385875 31.77ユーロ 43.84ユーロ
10kg以下の包装など(3105 10 00) 0.790 0.7979 0.376 0.4313 35.50ユーロ 49.74ユーロ

2030年の列は、同じデフォルト値、ベンチマーク、価格(82.32ユーロで一定)に、CBAM係数51.5%を当てはめた数値です。肥料のマークアップは2030年も1%です。ベンチマークは2027年以降の輸入品について更新される可能性があるため、2027年以降の数値は目安です。

日本の対EU肥料輸出の中心である化成肥料(3105 20 10)のコストは、価格を82.32ユーロ一定とすると、製品1トン当たり2026年48.31ユーロ、2027年49.20ユーロ、2028年50.99ユーロ、2030年64.74ユーロです(2027年以降はベンチマーク更新の可能性あり)。CBAM係数が適用されなくなる2034年以降は無償割当調整がなくなり、マークアップ後の1.0100全体が対象となるため、同じ価格で83.14ユーロになります。

統計上の平均単価(1トン当たり約1,511ユーロ)と比べると、2026年のコスト48.31ユーロは約3%に当たります。ただし平均単価はEU国境での統計上の価額で、個々の取引価格ではありません。貴社の製品とトン数に合わせた推計は、CBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。

他の供給国と比べた日本のデフォルト値

日本の尿素と無水アンモニアのデフォルト値は、エジプトやアルジェリアより高く、中国や自国の値を持たない国より大幅に低い水準です。

同じ製品を2026年にデフォルト値で輸入した場合のコストを、供給国別に比べると次のとおりです(82.32ユーロ、実施規則(EU)2025/2621および2025/2620、2026年11月4日計算)。

原産国 尿素のデフォルト値 尿素 2026年 尿素 2030年 アンモニアのデフォルト値 アンモニア 2026年 アンモニア 2030年
エジプト 1.390 43.17ユーロ 77.33ユーロ 2.050 48.28ユーロ 105.92ユーロ
アルジェリア 1.410 44.84ユーロ 78.99ユーロ 2.080 50.78ユーロ 108.41ユーロ
ロシア 1.470 49.82ユーロ 83.98ユーロ 2.260 65.74ユーロ 123.38ユーロ
日本 1.520 53.98ユーロ 88.14ユーロ 2.190 59.92ユーロ 117.56ユーロ
トリニダード・トバゴ 1.610 61.46ユーロ 95.62ユーロ 2.420 79.05ユーロ 136.68ユーロ
自国の値のない国 2.720 153.75ユーロ 187.91ユーロ 3.130 138.08ユーロ 195.71ユーロ
中国 2.850 164.56ユーロ 198.72ユーロ 4.360 240.35ユーロ 297.98ユーロ

コストは製品1トン当たり。2030年の列はベンチマークを現行値のまま置いた目安です。

デフォルト値だけで比べると、日本産の尿素はエジプト産より製品1トン当たり10.81ユーロ不利です。日本の施設の実排出量が日本のデフォルト値を下回る場合は、検証済みの実測値を使えば、この差を縮められます。国別のデフォルト値の一覧はCBAMデフォルト値(輸出者向け)にあります。


EUへの主要な肥料供給国とCBAMの影響

ロシア、エジプト、アルジェリアの3か国で、2025年のEU域外からのCBAM対象肥料の輸入2,004万トンのうち52.4%(数量ベース)を占めます。

出典は、ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出)です。この規模と比べると、日本の1,431.2トンはごくわずかです。3か国の状況は次の表のとおりです(2026年10月12日時点)。

国 主な製品 炭素価格 第9条の控除 EUのCBAM対象肥料の輸入、2025年(Eurostat Comext)
ロシア 尿素、アンモニア、その他の窒素肥料と複合肥料 実効的な制度なし なし 492万トン、数量ベースで24.5%。2026年7月1日から、規則(EU)2025/1227により6.5%に加え1トン当たり60ユーロ(3102)または70ユーロ(3105)の関税。アンモニア(2814)は対象外
エジプト 尿素 なし なし 375万トン、18.7%。うち尿素329万トン
アルジェリア 尿素、アンモニア なし なし 182万トン、9.1%

これら以外では、中国(163万トン)、モロッコ(140万トン)、トリニダード・トバゴ(126万トン)が続きます。EU域外の輸出者の対応策全般は、CBAM輸出者ガイドで説明しています。

ロシア:関税とCBAMの二重負担

肥料輸出国の中で、関税とCBAMの負担が最も重く重なるのがロシアです。ロシアは2025年のEUのCBAM対象肥料の最大の輸入元で、492万トン、19億8,000万ユーロ、数量ベースで24.5%でした(Eurostat Comext、2025年)。

規則(EU)2025/1227は、2025年7月1日から、ロシアまたはベラルーシを原産地とする肥料と、両国から輸出される肥料の関税を引き上げました。付属書IIの対象は、窒素肥料(3102)と、3105 20、3105 30、3105 40、3105 51、3105 59、3105 90の複合肥料です。アンモニア(2814)、硝酸(2808)、硝酸カリウム(2834 21 00)は対象外ですが、いずれもCBAM対象製品です。

関税は、6.5%の従価税に、毎年7月1日に引き上げられる1トン当たりの定額を加えたものです(第1条第2項)。

期間 CNコード 3102 CNコード 3105の対象コード
2025年7月1日~2026年6月30日 40ユーロ 45ユーロ
2026年7月1日~2027年6月30日 60ユーロ 70ユーロ
2027年7月1日~2028年6月30日 80ユーロ 95ユーロ
2028年7月1日から 315ユーロ 430ユーロ

累積輸入量が第1期間に270万トン、第2期間に180万トン、第3期間に90万トンに達すると、最高税率が前倒しで適用されます(第1条第3項)。

2025暦年の輸入は減りませんでした。EUは2025年にロシア産尿素を190万トン輸入し、2024年の172万トンを上回りました(Eurostat Comext、2025年)。減少が表れたのは2026年で、1月から7月の輸入は11万4,000トンと、前年同期の139万トンから92%減少しました(Eurostat Comext 月次データ、CNコード 3102 10、2026年10月12日抽出)。

CBAMのコストは、この関税に上乗せされます。ロシアには実効的な国内炭素価格制度がないため、第9条の控除は使えません。ロシアは2025年5月12日にWTO紛争DS639で協議を要請し、2026年9月25日にパネルが設置されました。CBAMに対する唯一の正式なWTO提訴ですが、短期的な救済にはなりません(WTO紛争DS639)。関税、制裁、CBAMの関係はCBAMとロシア(英語)で詳しく説明しています。

エジプト:EU市場への依存と炭素価格の不在

エジプトは2022年、肥料輸出の30.6%をEUに向けていました(世界銀行のデータ、EnterpriseAMが2024年2月6日に報道)。EU側から見ると、エジプトは2025年のEUの尿素輸入で最大の輸入元で、329万トン、13億3,000万ユーロ、EU域外からの輸入の44.3%(数量ベース)でした(Eurostat Comext、CNコード 3102 10、2025年)。

エジプトの尿素(CNコード 3102 10 19)のデフォルト値は1.390です。1%のマークアップ後の1.4039から無償割当調整0.975 × 0.902を差し引くと製品1トン当たり0.52445枚となり、82.32ユーロで43.17ユーロです。2030年輸入分では、CBAM係数51.5%で77.33ユーロになります(価格82.32ユーロ一定)。エジプトには炭素価格制度がないため、第9条で差し引けるものはありません。


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肥料のデフォルト値とマークアップ1%の意味

肥料のデフォルト値のマークアップは毎年1%で、鉄鋼、セメント、アルミニウムの2026年10%、2027年20%、2028年以降30%より大幅に低く設定されています。

マークアップそのものが加えるコストは小さく、日本の尿素では0.0152 tCO2e、82.32ユーロで1.25ユーロです。コストを左右するのは、施設の検証済み排出量と国のデフォルト値との差です。排出量がデフォルト値に近い施設にとって、マークアップを避けるためだけにモニタリングと検証へ投資する利点は大きくありません。

事情が変わるのは、硝酸工場のN2O削減、省エネルギー設備、再生可能電力に投資した施設です。実排出量がデフォルト値を大きく下回れば、検証済みのデータがそのままコスト面の優位になります。マークアップの全体像はCBAMのデフォルト値で説明しています。


日本の炭素価格は肥料のCBAMで控除されますか

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。

第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)に関する実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は2026年6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で未採択です。控除の対象は、実際に支払われた炭素価格に限られ、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。

日本の主な炭素価格制度と、肥料のCBAMとの関係は次のとおりです(2026年11月4日確認)。

制度 対象と価格 開始・状況 肥料のCBAMとの関係
地球温暖化対策のための税(温対税) 化石燃料全般、CO2 1トン当たり289円(環境省) 2012年10月1日から段階導入、2016年4月1日に最終税率 上流で燃料に課される税です。経済産業省の令和9年度税制改正要望が挙げる原料用途の免税は特定石炭(鉄鋼、コークス、セメント製造用)と石油化学原料で、アンモニア原料のガスの扱いは本ページでは確認していません
排出量取引制度(GX-ETS) 直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者(経済産業省) 2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化 GX-ETSの排出枠は無償割当です(ICAP)。鉄鋼、セメント、電力、製紙、石油精製はベンチマーク方式、その他の部門はグランドファザリング方式です。無償割当分は実際に支払われた炭素価格になりません
化石燃料賦課金 化石燃料の輸入者などにCO2量に応じて課金(JETRO) 2028年度から、未施行 2026年と2027年の輸入には何も主張できません

まだ答えの出ていない論点は、次の3つです。

  • 欧州委員会がGX-ETSを「実際に支払われた」炭素価格として扱うか、無償割当分と参考上限取引価格での支払いをどう評価するか
  • 上流で課され燃料価格に転嫁される温対税が、アンモニア工場の事業者が支払ったものとみなされるか
  • 日本の年度(4月から3月)を、CBAMの暦年にどう対応させるか

デフォルト値で申告する場合、2027年から欧州委員会が国ごとに定めることのできる年次のデフォルト炭素価格を参照してのみ控除を請求できます(第9条第4項)。日本についてはまだ定められていません。英国はGX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度の暫定リストに載せました(2026年8月27日)。EU CBAMの扱いとは別です。詳しくはCBAMの炭素価格控除をご覧ください。


日本の肥料メーカーがEUの買い手に提供すべきデータ

EUの輸入者がデフォルト値を避けるには、製品を生産した施設ごとの特定体化排出量のデータが必要です。

日本の肥料メーカーにCBAMの法的義務はありません。証書の購入、申告、納付の義務は、EUの認可CBAM申告者(EUの輸入者またはその間接的通関代理人)が負います。事業者の排出量報告書のサマリーは16項目で(実施規則(EU)2025/2547付属書IV第1.2項)、2026年8月14日のガイダンス第3号による3文書の構成で英語により提供します。

日本の肥料施設が用意するデータは、次の5つの分類にまとめられます。

  1. 施設の識別情報:事業者名、施設名と所在地、UN/LOCODE、小数点以下6桁の地理座標、登録済み施設の場合はCBAM登録簿の固有識別番号
  2. 直接排出量(CO2とN2O):製品1トン当たりのtCO2e。硝酸を使う製品では、N2O削減設備の有無と稼働状況を記録します
  3. 間接排出量:施設の電力消費量と、適用する電力の排出係数。肥料では間接排出量も証書の算定対象です
  4. 前駆体のデータ:購入したアンモニア、硝酸、尿素の量と、その特定体化排出量(自社製造か購入品かの区別を含む)
  5. 炭素価格のデータ(該当する場合):第9条の控除のため、国内制度で実際に支払った炭素価格の書類

モニタリングの単位(機能単位)は、硝酸(2808 00 00)、アンモニア(2814)、複合肥料(3105)では窒素のキログラムです(実施規則(EU)2025/2547第4条)。付属書Iのデフォルト値とベンチマークは製品1トン当たりで記載されています。データ項目の全体は輸出者が提供するデータにまとめています。

事業者用ポータル(O3CI)と検証

CBAM登録簿に登録した事業者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に施設と排出量報告書を一度登録すれば(規則(EU)2023/956第10条)、検証を受けた後、その施設の製品を輸入するすべての認可申告者とデータを共有できます。手順はCBAM事業者用ポータルで説明しています。欧州委員会の予定では、検証報告書は2027年1月からCBAM登録簿で発行されます。

検証は、実排出量で申告する場合に必須で(第8条第1項)、デフォルト値での申告には不要です。CBAM検証機関を認定できるのはEU加盟国の国家認定機関だけです。施設が初めて検証を受ける年には現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条)。

2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。認定は各国の国家認定機関の登録簿で確認できます(2026年10月13日時点で5件)。肥料の輸出者にとっては、各機関が認定を受けた活動区分の違いが重要です。

  • EmiCert S.A.(ギリシャのESYD):11区分すべて
  • RINA Services S.p.A.(イタリアのAccredia):11区分すべて
  • Bureau Veritas Italia S.p.A.(同):輸入電力を除く
  • SGS ICS Italia S.r.l.(同):硝酸、粗鋼と前駆体、未加工アルミニウムを除く
  • Intertek Certification AB(スウェーデンのSwedac):CCUSを除く

硝酸や硝安を製造する日本の施設は、検証機関が硝酸の区分で認定されているかを確認してください。この5件に日本の法人は含まれません。また、GX-ETSの登録確認機関であっても、CBAMの検証資格にはなりません。詳細はCBAM認定検証機関と輸出者のための検証ガイドにあります。


日本の肥料輸出者はCBAMにどう対応すべきですか

日本の肥料輸出者がとれる対応は4つあり、製品の種類、EUへの出荷量、施設の排出原単位によって選び方が変わります。

対応1:実排出量を測定し、検証を受ける。 実排出量が日本のデフォルト値を下回る施設は、初年度からコスト面で有利になります。マークアップは1%と小さいため、効果を決めるのは施設の実排出量そのものです。少量の高単価品を出荷する化成肥料メーカーは、検証費用と節約額を製品ごとに比べて判断することになります。

対応2:硝酸工程のN2Oを削減する。 硝安、UAN、硝酸を含む化成肥料では、硝酸工場のN2O削減設備が体化排出量を直接下げます。日本の硝安(3102 30 90)では、デフォルト値2.210がベンチマーク0.767を製品1トン当たり1.443 tCO2e上回り、2026年の証書数は製品1トン当たり1.484275枚になります。

対応3:低排出のアンモニアと電力に切り替える。 再生可能電力による電解水素から作るアンモニアは直接排出量がほぼゼロです。間接排出量も、直接の技術的接続または電力購入契約がある場合は低く算定できます(規則(EU)2023/956付属書IV第6項)。前駆体として購入するアンモニアの排出量も、製品の体化排出量に入ります。水素についてはグリーン水素のCBAMで説明しています。

対応4:EUの買い手とデータの受け渡しを契約で決める。 認可申告者が2026年分のCBAM申告書を提出し、CBAM証書を納付する期限は2027年9月30日です(第6条第1項、第22条第1項)。どの製品について、いつまでに、どの形式で排出量データを渡すかを、2026年の出荷分から合意しておくと、検証済みの実排出量で申告でき、デフォルト値に頼らずに済みます。

輸出先をEU以外に振り替える場合も注意が必要です。英国では、5部門を対象とする別の税制度である英国CBAMが2027年1月1日に始まり、肥料も対象になります。英国が2026年10月16日に公表した肥料の試算税率はCO2換算トン当たり1.45ポンドで、納税義務は生じない参考値です。英国の税率は無償割当分を差し引いた後の値で、EUのCBAM証書の価格とは直接比較できません。詳細は英国CBAM(英語)にあります。


EUの肥料輸入者から見たCBAM:輸出者との違い

日本の肥料輸出者とEUの肥料輸入者は、同じ取引の両側に立ちます。

輸出者は体化排出量のデータを作り、輸入者はそれを申告し、CBAM証書を保有し、毎年9月30日までに納付します。2027年から、認可申告者は各四半期末に、その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上に相当するCBAM証書を口座に保有する必要があります(第22条第2項)。算定には第31条の無償割当調整が考慮されます。2026年の輸入には四半期末の保有義務はありません。

CBAM証書は、2027年2月1日から、設立地の加盟国が共通中央プラットフォームで販売します。輸入者向けの詳細は輸入者向けCBAM肥料ガイド(英語)にあります。肥料部門全体の背景はCBAM肥料部門ガイドで説明しています。

キャプション:ロシアはCNコード 3102とほとんどの3105に対するEUの関税にCBAMのコストが重なり、エジプトは控除できる炭素価格がないままEU市場への依存度が高い状況です。


第9条の炭素価格控除は肥料の輸出者にどう関係しますか

規則(EU)2023/956第9条により、EUの輸入者は、生産国で実際に支払われた炭素価格について、リベートなどの補償を差し引いたうえで、CBAM証書の納付数の減額を請求できます。実施規則は2026年11月4日時点で案の段階で、どの国の炭素価格も認められていません。

ロシア、エジプト、アルジェリア、トリニダード・トバゴといった主要な肥料輸出国には、控除できる炭素価格がありません。これらの国からの肥料では、EUの輸入者は第9条の減額なしで証書のコストを負い、通常は購入価格の引き下げや契約の見直しで輸出者に転嫁します。仕組みはCBAMの第9条で説明しています。

リン酸肥料やカリ肥料にもCBAMは適用されますか

CBAMの肥料の対象は、窒素を含む製品です。窒素を含まない肥料、たとえば重過リン酸石灰(TSP、CNコード 3103)や塩化カリウム(MOP、CNコード 3104)は、付属書Iの対象外です。リンとカリウムの2要素を含み窒素を含まない肥料(3105 60 00)も明示的に除かれています。

リン酸二アンモニウム(DAP、3105 30 00)や、CNコード 3105のNPK化成肥料は対象です。付属書Iのデフォルト値とベンチマークは製品1トン当たりで記載され、実排出量のモニタリングでは窒素のキログラムが機能単位になります(実施規則(EU)2025/2547第4条)。

CBAMはEUの農家の肥料価格に影響しますか

CBAMの肥料のコストは、EUの輸入者の価格決定を通じて、間接的にEUの農家に及びます。デフォルト値では、エジプト産尿素(CNコード 3102 10 19)は2026年輸入分で製品1トン当たり43.17ユーロ、2030年輸入分で77.33ユーロです(82.32ユーロ一定、2027年以降はベンチマーク更新の可能性あり)。

EU域内のアンモニアと尿素の生産者は、自社の生産品にCBAMの義務を負いませんが、EU排出量取引制度(EU ETS)の対象で、無償割当を超える排出量についてEU ETSの排出枠を購入します。CBAMの段階的導入はEU ETSの無償割当の削減と同じ日程で進むため(指令2003/87/EC第10a条第1a項)、2034年に向けて域内の生産者と輸入品の炭素コストはそろって上がります。

肥料を施用したときのN2OもCBAMの算定に含まれますか

施用時のN2OはCBAMの算定範囲に含まれません。対象は製造段階のN2Oだけで、具体的には硝安やUANの原料となる硝酸の合成で生じるN2Oです。

硝酸を使わない尿素では、N2Oを算定する必要はありません。硝安とUANの輸出者はN2Oを含めて算定し、検証済みの排出量データには、硝酸工場で接触分解による削減設備が設置され稼働しているかを記録する必要があります。

肥料の輸出者はCBAM事業者用ポータルを使えますか

使えます。CBAM事業者用ポータルは、EU域外の施設の事業者のためのCBAM登録簿内のセクションで、欧州委員会はO3CIと呼んでいます。肥料メーカーは自社と各施設を登録し(規則(EU)2023/956第10条)、排出量報告書を一度アップロードして、CBAM登録簿で検証を受けます。

検証済みのデータは、その製品を輸入するすべての認可申告者と共有できます。報告書とサマリーは、実施規則(EU)2025/2547付属書IVに従い英語で作成します。この様式は、移行期間の任意様式であったコミュニケーションテンプレートに代わるものです。欧州委員会の予定では、検証報告書は2027年1月からCBAM登録簿で発行され、最初の申告期限は2027年9月30日です。

CBAMは一部の輸入品だけに適用される国境炭素税ですか

CBAMは税ではなく、一部の輸入品だけに適用される制度でもありません。CBAMは規則(EU)2023/956に基づく証書制度で、付属書Iの製品の輸入全体を対象とし、50トン基準を超える輸入者がCBAM証書を購入し納付します。 2026年の輸入には、EU ETSのオークション価格の四半期平均が適用されます(第21条第1a項)。週次価格は2027年の輸入からです。

CBAMについて日本で相談できる窓口はありますか

経済産業省は「炭素国境調整措置」のページ(2026年6月1日更新)で概要と関連資料を公開し、JETROは貿易投資相談の窓口、算定実務マニュアル(2026年3月)、セミナーを提供しています。2026年11月4日時点で、日本の輸出者向けのCBAM専用の補助金は確認できていません。

日本の状況はCBAMと日本にまとめています。排出量データの準備や検証の支援事業者の紹介は、CBAMの相談窓口から無料で依頼できます。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。