CBAMと脱炭素投資:日本の輸出者はいつ投資を回収できるか

CBAMで脱炭素投資を回収できるかは、検証済みの排出量が無償割当調整をどれだけ上回るかで決まります。

このページの内容
CBAM対象5部門の主な脱炭素の手段(スクラップ電炉法、不活性アノード、クリンカ比率の低減、低炭素アンモニアなど)。低炭素電力が算入されるのはセメントと肥料だけで、どの手段も検証済みの実排出量が前提です。

EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)のもとで、脱炭素投資が日本の輸出者に利益をもたらすのは、検証済みの体化排出量の削減がEUの輸入者のCBAM証書を減らし、輸入者がその分を購入価格に反映して還元するときです。

日本産の熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)をデフォルト値で輸入すると、CBAM証書のコストは製品1トン当たり2026年80.20ユーロ、2030年166.65ユーロです(2026年第3四半期の公式価格、1 CO2換算トン当たり82.32ユーロで一定、2026年10月5日公表。2030年の値は現行のベンチマークによる目安で、2027年以降の輸入品はベンチマークが更新される可能性があります)。論点は脱炭素が割に合うかどうかではなく、どの価格水準で、何年に貴社の投資が採算に乗るかです。

根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」で、本格実施期間は2026年1月1日に始まりました。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。

本ページでは、無償割当の段階的縮小、4つの価格での損益分岐、日本の電炉転換計画とCBAMの関係、データ提出と設備投資の順序を、日本の数値で順に説明します。

キャプション:排出の少ない生産ルートは、CBAM証書の数を決める体化排出量を下げ、EUの輸入者の負担を直接減らします。


CBAMにおける脱炭素は、輸出者にとって何を意味しますか

CBAMにおける輸出者の脱炭素とは、輸出製品1トン当たりの特定体化排出量をデフォルト値や競合他社の検証済み排出量より下げ、EUの輸入者が必要とするCBAM証書の数を減らすことです。

日本の輸出者にCBAMの法的義務はなく、CBAM証書を購入して納付するのはEUの認可CBAM申告者(EUの輸入者またはその間接的通関代理人)です。ただし、コストは取引を通じて輸出者に戻ってきます。検証済みの排出量が低ければ輸入者の証書コストが下がり、その分だけ輸入者は高い価格を支払えます。日本の生産者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に登録し、検証済みのデータをEUの輸入者に提供できます。

証書の購入から納付までの流れと、生産施設の体化排出量データが証書の数を決める仕組みは、EU CBAMの解説で説明しています。脱炭素投資の採算を試算する前に、この関係を押さえておく必要があります。

脱炭素の経済的な利点は2つあります。第一に、デフォルト値を下回る検証済みの実排出量を示せる生産者は、デフォルト値に上乗せされるマークアップを避けられます。マークアップは実施規則(EU)2025/2621により2026年10%、2027年20%、2028年以降30%です(肥料は各年1%)。第二に、競合より体化排出量を実際に下げた生産者は、CBAMコストで競うEUの買い手に対して価格面で優位に立てます。


無償割当の段階的縮小が投資回収期間を決める理由

CBAM係数はEUの生産者が維持する無償割当の割合で、2026年の97.5%から下がり続け、2034年からは適用されません。

輸入者が製品1トン当たりに必要とする証書数は、体化排出量から無償割当調整を差し引いた値です。無償割当調整は、CBAM係数×部門横断補正係数(CSCF)×製品のベンチマークで求めます(規則(EU)2023/956第31条、実施規則(EU)2025/2620)。脱炭素投資は、総コストに一定の割合を掛けて評価するのではなく、この式で年ごとに評価する必要があります。

CBAM係数のスケジュールは指令2003/87/EC第10a条第1a項に定められ、2026年97.5%、2027年95%、2028年90%、2029年77.5%、2030年51.5%、2031年39%、2032年26.5%、2033年14%です。1年で最も大きく下がるのは2029年から2030年(77.5%から51.5%)です。部門横断補正係数は2026年から2030年まで100%です(実施決定(EU)2026/1862)。

日本産の2製品とトルコ産の半製品について、デフォルト値で輸入した場合の製品1トン当たりのコストを年ごとに示すと、次の表のとおりです(82.32ユーロで一定、2026年11月4日に当サイトの計算ツールで計算)。

輸入年 CBAM係数 マークアップ 日本産熱延鋼板(7208 51 20、デフォルト値2.100) 日本産ボルト・ねじ(7318 15 42、デフォルト値2.800) トルコ産半製品(7207 11 14、デフォルト値2.310)
2026年 97.5% 10% 80.20ユーロ 144.07ユーロ 99.70ユーロ
2027年 95% 20% 100.31ユーロ 169.92ユーロ 121.52ユーロ
2028年 90% 30% 123.23ユーロ 198.59ユーロ 146.15ユーロ
2030年 51.5% 30% 166.65ユーロ 241.82ユーロ 189.38ユーロ
2034年 適用なし 30% 224.73ユーロ 299.64ユーロ 247.21ユーロ

デフォルト値は実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)、ベンチマークは高炉・転炉法(ルートC)のColumn Bの値(熱延鋼板1.370、ボルト・ねじと半製品1.364)です。実施規則(EU)2025/2620の前文第10項は2027年1月1日以降の輸入品についてベンチマークの更新を予定しているため、2027年以降の数値は目安です。2034年からは何も差し引かれません。

無償割当調整は製品1トン当たりの固定量です。このため、ベンチマークを上回るCO2換算トンは初年度から全額が証書の対象となり、ベンチマークより上で1トン削減するごとに証書1枚分が節約されます。上がり続けるコストに先手を打てるか、後手に回るかは、2026年と2027年の投資判断で決まります。

投資回収は証書価格にも左右されます。2026年のCBAM証書の公式価格は、第1四半期75.36ユーロ、第2四半期75.28ユーロ、第3四半期82.32ユーロ(2026年10月5日公表)です。2030年の価格は分からないため、以下のシナリオでは1 CO2換算トン当たり50ユーロから100ユーロを、当サイトが選んだ計画用の前提として使います(予測ではありません)。

価格が10ユーロ上がるごとに、検証済み排出量から削減した1 CO2換算トンの価値も10ユーロ上がります。データ提出、価格転嫁、輸出先の分散など脱炭素以外の選択肢は、EU域外の輸出者のためのCBAMで扱っています。脱炭素は実現まで最も時間がかかりますが、CBAM係数が下がるほど効果が大きくなるため、最も持続的な競争優位につながります。


損益分岐分析:脱炭素投資はいつ回収できますか

脱炭素投資の損益分岐点は、年間の証書コスト削減額が投資の年換算資本コストに等しくなる点です。

次の試算は高炉・転炉法(BF-BOF)の鉄鋼を参照例とし、排出原単位を製品1トン当たり約2.0 tCO2(CO2トン)と置きます。これは例示で、デフォルト値でもベンチマークでもありません。DRIを使う電炉法への部分的な転換や水素吹き込みにより、検証済みの特定体化排出量を2.0から1.2 tCO2/tへ40%下げると仮定します。以下、削減量はtCO2e(CO2換算トン)で表します。

EU向けの輸出量は年10万トン、投資の年換算資本コストは15年償却で年500万ユーロと置きます。これら4つの前提はいずれも、計算方法を示すために当サイトが選んだ例示で、実在のプロジェクトのデータではありません。4つの証書価格で年間の節約額と投資コストを比べると、次の表のとおりです。

証書価格(1 CO2換算トン当たり) 検証済みの削減量 製品1トン当たりの節約額(削減量×価格) 10万トンでの年間節約額 年500万ユーロの年換算コストを賄えるか
50ユーロ 0.8 tCO2e/t 40.00ユーロ 400万ユーロ 賄えない
75ユーロ 0.8 tCO2e/t 60.00ユーロ 600万ユーロ 賄える
82.32ユーロ(2026年第3四半期の公式価格) 0.8 tCO2e/t 65.86ユーロ 659万ユーロ 賄える
100ユーロ 0.8 tCO2e/t 80.00ユーロ 800万ユーロ 賄える

前提:EU向け輸出量は年10万トン、年換算の投資コストは年500万ユーロ。削減前と削減後の数値はいずれも検証済みの実排出量で、削減分はすべて無償割当調整より上にあるものとします。価格は簡略化のため一定です。

この表から分かることは3つです。まず、節約は2030年を待たずに生じ、無償割当調整より上で削減した検証済みの1 CO2換算トンごとに、毎年、満額の価格で証書1枚分が節約されます。次に、公式価格82.32ユーロでは、想定した削減は年659万ユーロに相当し、年換算コスト500万ユーロを上回ります。最後に、50ユーロでは年400万ユーロに下がり、CBAMの節約だけでは投資を回収できません。

表の節約額は上限値:無償割当調整による制約

上の表の節約額は上限で、削減した1 CO2換算トンが証書1枚を減らすのは、施設の検証済み排出量が無償割当調整を上回っている間だけです。

CBAMの式では、証書の数はゼロを下回りません。無償割当調整はCBAM係数とともに毎年縮小し、デフォルト値で評価する半製品では2026年が1.3299 tCO2e/t(0.975×ベンチマーク1.364)、2030年が0.70246(0.515×1.364)です。2030年の値は現行のベンチマークによるもので、後の年に更新される可能性があります。

日本産の熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)に当てはめると、この下限の効果が分かります。次の表は、検証済みの実排出量を高炉・転炉法のColumn Bのベンチマーク(1.370)と比べた簡易推計です(82.32ユーロ、2026年11月4日に当サイトの計算ツールで計算)。

検証済みの実排出量(tCO2e/t) 2026年の証書数(製品1トン当たり) 2026年のコスト 2030年の証書数(製品1トン当たり) 2030年のコスト
2.0 0.66425 54.68ユーロ 1.29445 106.56ユーロ
1.6 0.26425 21.75ユーロ 0.89445 73.63ユーロ
1.2 0 0.00ユーロ 0.49445 40.70ユーロ

実排出量にはマークアップを加えません。実排出量での正式な計算では、Column Aのプロセスベンチマークに前駆体に含まれる無償割当を加えた量を差し引くため、施設ごとの結果はこの推計と異なります。排出量の3つの値は例示です。

2.0から1.2への削減は、2030年には製品1トン当たり65.86ユーロ(0.8×82.32)の節約になりますが、2026年には54.68ユーロにとどまります。1.2は2026年の無償割当調整1.33575を下回り、証書がもともとゼロになるからです。無償割当調整に近い施設では、削減の一部が後の年にしか効きません。

セメント、肥料、アルミニウムでの数値

同じ考え方はセメント、肥料、アルミニウムにも当てはまりますが、節約額は部門ごとのデフォルト値とベンチマークで変わります。

ポルトランドセメント(グレー、CNコード 2523 29 00)のデフォルト値用ベンチマークは0.666 tCO2e/t、「その他の国・地域」のデフォルト値は1.440です。製品1トン当たりの節約額は鉄鋼より小さいものの、輸出量の多い生産者には無視できない額です。

日本の国別表のデフォルト値は0.890(直接排出量0.830、間接排出量0.060)で、2026年輸入分は製品1トン当たり27.14ユーロ、2030年輸入分は67.01ユーロです(82.32ユーロ、当サイトの計算ツール。2027年以降の輸入品はベンチマークが更新される可能性があるため、2030年の値は目安です)。

ただし、EUが2025年に日本から輸入したセメントは480万ユーロ、5,701トン、肥料は250万ユーロ、1,431トンにとどまります(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。尿素(CNコード 3102 10 19)のデフォルト値用ベンチマークは0.902 tCO2e/tで、デフォルト値はエジプト1.390、「その他の国・地域」2.720、日本1.520です。

グリーンアンモニアのルートでは、直接排出量がほぼゼロになります。ただし肥料は間接排出量も算定に含み、電解に使う電力は、直接の技術的接続か電力購入契約(PPA)で調達しない限り、国の電力網の排出係数で計算されます(規則(EU)2023/956付属書IV第6項)。このため、再生可能電力を契約または直接接続で確保できる生産者ほど、このルートの採算は良くなります。

キャプション:クリンカ比率の引き下げと代替燃料への転換は、CBAM証書の計算の元になる体化排出量を下げます。


どの脱炭素ルートがCBAMの負担を最も減らしますか

CBAM対象部門の体化排出量を減らす主な経路は4つあり、CBAMでの回収額は、削減量、必要な資本、導入までの期間で決まります。

多くのCBAM対象の輸出者に当てはまる4つの経路は、次のとおりです。

  • セメントキルンの燃料転換とクリンカ比率の引き下げ:石炭をバイオマスや廃棄物由来燃料に置き換えると燃焼由来の排出が減り、高炉スラグ、フライアッシュ、焼成粘土などの混合材を増やすと石灰石の脱炭酸による排出が減ります。排出の内訳は燃焼由来が約40%、脱炭酸由来が約60%とされます(おおよその業界の数値です)。例示として、セメント1トン当たり0.2から0.3 tCO2の削減(出典のない想定範囲で、付属書の値ではありません)は、削減した排出が無償割当調整より上にある範囲で、82.32ユーロで製品1トン当たり16.46ユーロから24.70ユーロの節約になります。
  • 鉄鋼のDRIを使う電炉法への転換:天然ガス(またはグリーン水素)による直接還元鉄(DRI)を電炉で溶かすと、高炉・転炉法の約2.0 tCO2/tから、天然ガスDRIでは0.9から1.4 tCO2/t、水素DRIでは0.3から0.5 tCO2/tに近づきます。これらはおおよその業界の数値で、デフォルト値やベンチマークではありません。必要な資本は施設ごとに大きく異なるため、目安ではなくエンジニアリング調査で見積もる必要があります。節約額で見ると、検証済みの1.5 tCO2/tの削減は、削減した排出が無償割当調整より上にある範囲で、82.32ユーロで製品1トン当たり最大123.48ユーロに相当します。
  • 肥料メーカーのグリーンアンモニア:天然ガスを使うハーバー・ボッシュ法から電解によるグリーン水素に切り替えると、尿素の直接排出量はほぼゼロになります。デフォルト値では、エジプト産の尿素(CNコード 3102 10 19、デフォルト値1.390)は82.32ユーロで2026年輸入分が製品1トン当たり43.17ユーロ、2030年輸入分が77.33ユーロ(現行のベンチマークによる目安で、2027年以降の輸入品は更新される可能性があります)、「その他の国・地域」のデフォルト値2.720で評価される尿素は2026年に153.75ユーロです。検証済みの排出量が無償割当調整以下なら、証書はゼロになります。再生可能電力の安い地域(モロッコ、チリ、オーストラリア、中東の一部)は、この転換で最も有利な立場にあります。
  • アルミニウム製錬の再生可能電力:アルミニウムは付属書IIの製品で、CBAMは直接排出量だけを対象とし、アルミニウムのデフォルト値も直接排出量です(間接排出量の欄は「N/A」)。このため、再生可能電力への切り替えは現時点でCBAM証書を減らしませんが、買い手のスコープ3目標や、将来CBAMが間接排出量に広がる場合には意味を持ちます。製錬でCBAMに効くのは、アノード消費とPFCの管理による直接排出量の削減を、検証済みの実排出量で示すことです。未加工アルミニウム(CNコード 7601)のデフォルト値は、アラブ首長国連邦1.870、中国3.000、日本0.360(ルートL)です。

日本産のアルミニウム板(CNコード 7606 12 99、デフォルト値1.730)は、2026年輸入分で製品1トン当たり144.78ユーロです(82.32ユーロ、当サイトの計算ツール)。アルミニウム製品は、EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象製品14億4,820万ユーロのうち1億9,280万ユーロを占めます(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。電力の間接排出量の扱いはアルミニウムの間接排出量で説明しています。

生産ルートを変えると、差し引かれる量も変わります

高炉・転炉法から電炉法へ転換すると、体化排出量だけでなく、差し引かれる無償割当調整も小さくなるため、CBAMでの節約は削減量そのものより小さくなります。

ベンチマークは生産ルートごとに定められています。熱延鋼板(CNコード 7208)のColumn Bの値は、高炉・転炉法(C)1.370、DRIを使う電炉法(D)0.481、スクラップ電炉法(E)0.072です(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項)。ルートごとの検証済み排出量を例示として置き、Column Bで簡易推計すると次のとおりです(CNコード 7208 51 20、82.32ユーロ、当サイトの計算ツール)。

生産ルート 検証済みの実排出量(例示、tCO2e/t) 2026年のコスト(製品1トン当たり) 2030年のコスト(製品1トン当たり)
高炉・転炉法(C) 2.0 54.68ユーロ 106.56ユーロ
DRIを使う電炉法(D) 0.9 35.48ユーロ 53.70ユーロ
スクラップ電炉法(E) 0.5 35.38ユーロ 38.11ユーロ

この推計では、2.0から0.5への転換(1.5 tCO2e/tの削減)による節約は、2026年に製品1トン当たり19.30ユーロ、2030年に68.45ユーロで、1.5×82.32=123.48ユーロを大きく下回ります。2030年の値は現行のベンチマークによる目安です。実排出量での正式な差し引き量はColumn Aのプロセスベンチマークと前駆体の無償割当で決まるため、施設ごとに試算する必要があります。ルートごとの仕組みは電炉法(EAF)で説明しています。

日本の高炉から電炉への転換計画とCBAM

日本製鉄とJFEスチールは2025年4月と5月に、GX推進法に基づく政府支援を受けて、高炉から電炉への大型転換の投資を決定しました。

日本製鉄(Nippon Steel)は2025年5月30日、GX推進法に基づく「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業(事業Ⅰ(鉄鋼))」への採択を受けて、3か所の電炉投資を決定したと発表しました。内容は次の表のとおりです(日本製鉄ニュースリリース、2025年5月30日)。

拠点 投資内容 投資額 政府支援額(上限) 生産能力 生産開始
九州製鉄所八幡地区 電炉1基新設 6,302億円 1,799億円 約200万トン/年 2029年度下期
瀬戸内製鉄所広畑地区 電炉1基増設 1,400億円 428億円 約50万トン/年 2029年度下期
山口製鉄所(周南) 電炉1基改造・再稼働 985億円 287億円 約40万トン/年 2028年度下期
合計 電炉3基 8,687億円 2,514億円 約290万トン/年 2029年度まで

年度は日本の会計年度(4月から翌年3月)です。投資額には高級鋼製造、物流、電源などの付帯・関連設備を含みます。生産開始の時期は2025年5月30日の発表によるものです。八幡地区の電炉転換工事は2026年4月15日に着工しました(日本製鉄ニュースリリース、2026年4月15日)。

JFEスチール(JFE Steel)は、西日本製鉄所倉敷地区に革新電気炉を導入します。同社の発表(2025年4月10日)によれば、投資額は3,294億円、政府支援額の上限は1,045億円、生産能力は年200万トン程度、稼働は2028年度第1四半期の予定です。日刊工業新聞(ニュースイッチ、2025年4月27日)によれば、高炉1基を置き換え、CO2排出量を年約260万トン減らす見込みです。

これらの電炉材がCBAMで低く評価されるのは、検証済みの実排出量を提供した場合だけです。日本のデフォルト値の表には電炉法(D、E)の行がなく、鉄鋼の行に記載されたルートは高炉・転炉法(C、F、C/F)だけです(ステンレス鋼などの行はルートの記載なし、実施規則(EU)2025/2621付属書I)。検証済みデータがなければ、電炉で作った熱延鋼板もデフォルト値2.100と高炉・転炉法のベンチマークで、2026年輸入分は製品1トン当たり80.20ユーロと評価されます。

日本のEU向け数量で見ると

CBAMの節約はEU向けに輸出する数量にしか生じないため、日本の大型脱炭素投資をCBAMの節約だけで回収することはできません。

EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象の鉄鋼製品は80万9,223トン(鉄鉱石を除く第72類と第73類、Eurostat Comext、2025年)で、2023年の185万9,395トンから56%減っています。仮にこの全量で検証済み排出量を製品1トン当たり0.8 tCO2e下げ、そのすべてが無償割当調整より上にあるとすると、節約額は82.32ユーロで年約5,329万ユーロです(当サイトの単純計算で、上限の値です)。

日本製鉄とJFEスチールの電炉計画は生産能力の合計が年約490万トンで、2025年のEU向け数量はその約6分の1です。日本製鉄は、投資回収の予見性を確保するうえでの最大の課題として、「CO2削減価値」が適正に評価され対価が支払われるGXスチール市場の形成を挙げています(2025年5月30日)。CBAMは、EU向けの出荷でその価値に値段が付く経路の一つです。

日本の炭素価格(GX-ETS、温対税)は脱炭素の価値を変えますか

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。

第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)は、生産国で実際に支払われた炭素価格の分だけ、EUの輸入者の証書の義務を減らす仕組みです。2026年11月4日時点で実施規則は未採択で、どの国の炭素価格も認められていません。要件と計算方法はCBAMの第9条で説明しています。

排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化されましたが、鉄鋼とセメントにはベンチマーク方式で無償割当が行われます(ICAP)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。地球温暖化対策のための税(CO2 1トン当たり289円、環境省)は、鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭を免税としています(経済産業省の令和9年度税制改正要望)。

このため、第9条の控除は日本の高炉材やセメントにとって脱炭素の代わりにはなりません。脱炭素は、炭素価格の有無にかかわらず、証書の数そのものを減らします。日本の制度ごとの扱いはCBAMの炭素価格控除にまとめています。


CBAMニュースレター(英語)

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データ提出と脱炭素投資は、どちらを先に進めるべきですか

輸出者は、検証済みの実排出量データの提出と脱炭素の設備投資のどちらを優先するかを決める必要があり、短期間で回収でき初期費用も小さいのはデータ提出です。

データ提出は6か月から18か月、設備投資は3年から10年ほどかかるのが目安です(当サイトの見立てで、出典のある数値ではありません)。2つは両立しますが、まず検証済みデータで現在の排出量を示し、その後に残る負担を設備投資で減らすのが基本の順序です。輸出者が順序を判断するための5つの手順は、次のとおりです。

  1. 予備比較を行う:施設が自らモニタリングした排出量を、該当するデフォルト値とマークアップの合計と比べます。中国産スラブ(CNコード 7207 12 10)のデフォルト値は3.169 tCO2e/tで、2026年のマークアップを加えると3.4859、無償割当調整(0.975×1.364=1.3299)を差し引くと製品1トン当たり2.1560枚、82.32ユーロで177.48ユーロです。同じ計算で、日本産の半製品(CNコード 7207 11 14)はデフォルト値2.100、マークアップ込み2.310、0.9801枚、80.68ユーロです。高炉・転炉法の鉄鋼のおおよその業界の原単位1.8から2.1 tCO2e/tは参考にすぎず、節約は自社のデータと実排出量の方法(Column Aと前駆体の無償割当)で試算します。
  2. 検証費用を年換算する:検証サービス各社は、施設1か所、報告期間1回当たり5,000ユーロから5万ユーロを提示しています(市場推計)。認定検証機関は、EU加盟国の国家認定機関がEN ISO/IEC 17029:2019に照らして認定した機関です。年10万トンの輸出者なら製品1トン当たり0.05ユーロから0.50ユーロで、中国産スラブの177.48ユーロや日本産半製品の80.68ユーロと比べて小さな額です。
  3. データ提出後に残る負担を見積もる:実排出量がデフォルト値を下回っても絶対値としては高い場合、2030年のCBAM係数と想定価格で残る証書コストを計算します。これが脱炭素投資で減らすべき負担です。
  4. 脱炭素ルートの資本コストを見積もる:該当するルートの資本コストを、想定する設備の耐用年数で年換算します。
  5. 損益分岐年を求める:年間の証書コストの節約の累計が、年換算資本コストの累計を上回る年を求めます。保守的なEU ETSの価格前提でも損益分岐が2034年より前に来るなら、投資は経済的に合理的です。

手順1の算定には、JETROの「EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル」(2026年3月)と、経済産業省の「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン 第3版」(2026年3月)が使えます。同ガイドラインはCNコード 7318 15 42について2026年の証書数を1.750としており、当サイトの計算(1.7501)と一致します。

同ガイドラインの円建ての数値(製品1トン当たり2026年29,139円、2034年60,606円)は、EU ETSの価格90ユーロ、1ユーロ185円を前提にしています。82.32ユーロで一定とすると、ユーロ建てで2026年144.07ユーロ、2034年299.64ユーロです。貴社の製品とトン数での推計はCBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。

この分析の前提として、体化排出量の算定方法を理解しておく必要があります。特定体化排出量は、証書価格を掛ける前に無償割当調整を差し引く元の数値だからです。


CBAMの脱炭素に関するよくある質問

排出量を減らせば、CBAMの証書コストは必ず下がりますか

検証済みの体化排出量を減らすと、排出量が無償割当調整を上回っている範囲で、EUの輸入者が購入する証書の数が減ります。無償割当調整は製品1トン当たりの固定量(CBAM係数×部門横断補正係数×ベンチマーク)なので、それより上で1 CO2換算トン減らすごとに、毎年、証書1枚分(2026年第3四半期の公式価格で82.32ユーロ)が節約されます。

無償割当調整以下の製品はもともと証書がゼロで、CBAM係数が下がるまで追加の削減はCBAMの節約を生みません。輸入者のコストが下がれば、貴社の製品に高い価格を支払う余地が生まれます。

CBAMで脱炭素投資を正当化できる最低限の削減量はありますか

一律の最低限はなく、損益分岐は輸出量、資本コスト、証書価格、検証済み排出量が無償割当調整をどれだけ上回るかで決まります。年間の節約額は、(無償割当調整より上での削減量、tCO2e/t)×(年間輸出量、トン)×(証書価格)で求め、投資期間の累計が総資本支出を上回る必要があります。年10万トンの鉄鋼輸出者なら、検証済みの0.5 tCO2e/tの削減は、82.32ユーロで年最大約412万ユーロに相当します。

EU域外の輸出者は、脱炭素の代わりに第9条の控除を使えますか

第9条の控除と脱炭素は、別々の役割を持つ別々の仕組みです。第9条は、生産国で実際に支払われた炭素価格の分だけ証書の義務を減らしますが、体化排出量そのものは減らしません。2026年11月4日時点で実施規則は案の段階で、どの国の炭素価格も認められていないため、どの輸出者もまだ頼れません。

脱炭素は体化排出量の数値そのものを下げるため、輸出国に炭素価格があるかどうかにかかわらず証書の義務を減らします。日本、トルコ、インド、中国などの輸出者は、検証済みの実排出量データと脱炭素投資でCBAMの負担を減らすことになります。

脱炭素投資による削減は、デフォルト値での申告と別の扱いを受けますか

必要なCBAM証書の数は、製品1トン当たりのtCO2eで表す特定体化排出量から無償割当調整を差し引いて計算します。排出量が低い理由が、検証済みの実排出量がたまたまデフォルト値を下回ったことでも、低炭素技術への投資でも、規則上の扱いは変わりません。

ただし無償割当調整は生産ルートと前駆体の構成で変わるため、検証済み排出量が同じ2つの施設が同じ数の証書を求められるとは限りません。設備投資による脱炭素の利点は、到達する排出量の絶対水準にあり、規則上の優遇にあるわけではありません。

EU ETSの価格が下がると、CBAMでの脱炭素の価値は下がりますか

証書価格が下がると、同じ削減量による年間の節約額は価格に比例して減り、損益分岐は後ろにずれます。指令(EU)2023/959により、EU ETSの上限は2024年から2027年まで年4.3%、2028年から年4.4%の線形係数で縮小し、供給は絞られますが、価格は市場で決まり、上がることも下がることもあります。

公式のCBAM証書価格は、2026年第2四半期の75.28ユーロから第3四半期の82.32ユーロに上がりました。輸出者は、現在の公式価格に加え、50ユーロのような保守的な価格でも脱炭素の採算を試算すべきです。

脱炭素による節約が認められるには、どの検証手順が必要ですか

脱炭素による証書の削減には、検証済みの実排出量データが前提です。EUの輸入者は、生産者が自己申告した低い排出量を使えません。データは、EU加盟国の国家認定機関が委任規則(EU)2025/2551に基づきEN ISO/IEC 17029:2019に照らして認定した検証機関が検証し、施設が初めて検証を受ける年には現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条から第4条)。

検証機関は、活動量データの正確さ、排出係数の妥当性、実施規則(EU)2025/2547に基づく計算方法の正しさを確認します。検証済みデータが提出され、認可申告者に受け入れられるまでは、実際の排出量にかかわらずデフォルト値が適用されます。現地訪問の要件と域外施設の検証の進め方はEU域外の生産者のためのCBAM検証で説明しています。

脱炭素投資の途中で、CBAMの輸出戦略はどう変わりますか

5年から10年の脱炭素計画に取り組む輸出者は、完了後だけでなく投資期間中のCBAMの負担も管理する必要があります。CBAMの輸出者戦略では、その間の選択肢を扱っています。

選択肢は3つです。デフォルト値を下回る排出量による節約を今すぐ得るための検証済みデータの提出、工事の進捗に合わせて部分的な改善を毎年検証できるかの確認、そして当年のCBAMコストではなく、無償割当の段階的縮小が続く期間全体のコストの推移を反映したEU向け契約価格の設定です。投資期間中に契約価格を調整しなければ、脱炭素の資本コストと、減りつつも残るCBAM証書のコストを同時に負担することになります。

複数の工程を経る製品の体化排出量はどう算定しますか

CBAM対象の前駆体を使う製品(クリンカから作るセメント、未加工アルミニウムから作るアルミニウムの形材など)の体化排出量には、前駆体の体化排出量を含めます。算定方法は実施規則(EU)2025/2547に定められ、前駆体を別の施設で作る場合は、その上流の施設から体化排出量のデータを入手する必要があります。

一貫生産の生産者では、システム境界は生産に関わるすべての工程を含みます。生産工程の特定の段階で排出を減らしたときの経済効果を試算する前に、CBAMの計算方法を確認してください。

EU ETSの炭素価格は第9条の控除額に影響しますか

第9条の控除額は、申告する体化排出量について生産国で実際に支払われた炭素価格から、リベートなどの補償を差し引いた額に基づきます。EU ETSの価格は控除額に直接は入らず、CBAM証書の価格を決めます。証書価格が上がるほど、一定の国内炭素価格が義務に占める割合は小さくなります。

ICAPによれば、韓国のK-ETSの2025年の流通市場の平均価格は9,393ウォン(6.60米ドル)で、2026年第3四半期の証書価格82.32ユーロを大きく下回り、韓国の鉄鋼は100%の無償割当を維持しているため、実際の支払いはわずかです。日本のGX-ETSも鉄鋼とセメントに無償割当を行っています。2026年11月4日時点で、どの国の炭素価格も認められていません。脱炭素は、証書価格と控除の両方がかかる排出量そのものを減らします。

CBAMのための脱炭素と、EU市場の要件のための脱炭素は同じですか

CBAMのための脱炭素は、より広い低炭素化の一部です。特定体化排出量を減らすとCBAM証書の義務は減りますが、それだけでEUの他の市場要件、企業の持続可能性に関する約束、サプライチェーンのデューデリジェンス義務を満たすわけではありません。

一方で、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)の対象となるEUの買い手や、自主的なネットゼロ目標を掲げる買い手は、取引先の選定にスコープ3の削減基準を使うことが増えています。CBAMの経済的な理由で行った脱炭素投資は、CBAM証書のコストとは別に、こうした基準を使うEUの買い手に対する競争力も高めます。

日本政府の脱炭素支援は、CBAMのコストを下げますか

GX推進法に基づく設備投資の支援は第9条の炭素価格ではなく、CBAM証書の数を直接は減らしません。CBAMのコストが下がるのは、支援を受けて建てた電炉などで作った製品の検証済み実排出量が下がり、それがEUの輸入者の申告に使われる場合だけです。

両社の2025年の発表では、日本製鉄の3基とJFEスチールの1基の電炉は、2028年度から2029年度下期にかけて生産を始める計画です。それまでの期間は、既存設備の実排出量の検証とスクラップ配合の工夫が、CBAMの負担を減らす現実的な手段です。日本の状況はCBAMと日本にまとめています。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。