
EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)で、グレーポルトランドセメント(CNコード 2523 29 00)に適用される**デフォルトベンチマークは製品1トン当たり0.666 tCO2e(CO2換算トン)**です。一方、国別の値が定められていない原産国には、「その他の国・地域」のデフォルト値1.440 tCO2eが適用されます。
2026年第3四半期のCBAM証書の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で計算すると、デフォルト値1.440のセメントのコストは、無償割当調整を差し引いた後で製品1トン当たり76.94ユーロになります。エジプト産(デフォルト値1.290)は63.36ユーロ、モロッコ産(同0.950)は32.57ユーロです。
日本産のグレーポルトランドセメントには日本独自のデフォルト値0.890が定められており、同じ条件で計算すると製品1トン当たり27.14ユーロです。この値は、独自の値を持つ94の国・地域の中でエチオピア(0.850)、コスタリカ(0.860)に次いで低く、ナミビアや台湾と同じ水準です。
セメントには、ほかの部門と異なる点が2つあります。1つは、クリンカーの製造で石灰石が分解する際に、使用するエネルギーの種類にかかわらずCO2が発生することです。もう1つは、直接排出量と間接排出量の両方がCBAM証書の対象となる2部門の1つ(もう1つは肥料)であることです。
根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。本ページでは、対象となるCNコード、体化排出量の算定方法、2026年以降のコスト、主な供給国の状況と日本産の位置づけを順に解説します。
キャプション:ロータリーキルンでは、石灰石を焼成してクリンカーを製造する工程でCO2が発生します。CBAMにおけるグレーセメントのベンチマークは製品1トン当たり0.666 tCO2eです。
CBAMセメント部門の対象製品とCNコード
CBAMのセメント部門は、第25類に分類されるクリンカー、ポルトランドセメント、アルミナセメント、その他の水硬性セメントを対象とし、デフォルト値とベンチマークはCNコードごとに定められています。
実務では、クリンカーと完成セメントの区別が重要です。クリンカー(CNコード 2523 10 00)は高温で焼成された粉砕前の中間製品で、石灰石の脱炭酸による工程排出はこの段階で発生します。
ただし、デフォルト値はクリンカーの含有量に比例して並んでいるわけではありません。「その他の国・地域」の表では、アルミナセメント(2.030)とグレーポルトランドセメント(1.440)のほうが、グレークリンカー(1.410)より高い値です。
ポルトランドセメント(白色はCNコード 2523 21 00、その他は2523 29 00)は、クリンカーに石こうを加えて粉砕したものです。混合セメントでは、高炉スラグやフライアッシュなどの混合材によってクリンカーの割合が下がり、体化排出量の合計も減ります。
クリンカー比率の低い混合セメントは、検証済みの実排出量で申告することで、体化排出量の低さを示すことができます。クリンカーとセメントの比率は、事業者の検証済みの排出量報告書の記載項目です。
規則(EU)2023/956付属書Iに掲げるセメントのCNコードと、それぞれのデフォルトベンチマーク、「その他の国・地域」と日本のデフォルト値は、次の表のとおりです。
| CNコード | 製品 | デフォルトベンチマーク(Column B、tCO2e/t) | 「その他の国・地域」のデフォルト値(マークアップ前、tCO2e/t) | 日本のデフォルト値(マークアップ前、tCO2e/t) |
|---|---|---|---|---|
| 2523 10 00 | セメントクリンカー | グレー0.666、白色0.859 | グレー1.410、白色1.370 | グレー0.850、白色は「-」(「その他」の1.370) |
| 2523 21 00 | 白色ポルトランドセメント | 0.859 | 1.450 | 「-」(「その他」の1.450) |
| 2523 29 00 | その他のポルトランドセメント(CEM IからCEM V) | 0.666 | 1.440 | 0.890 |
| 2523 30 00 | アルミナセメント | 2026年から2027年は0.717、2028年から2030年は0.686 | 2.030 | 1.940 |
| 2523 90 00 | その他の水硬性セメント(スラグセメント、過硫酸塩セメント) | グレー0.666、白色0.847 | グレー1.370、白色1.490 | グレー0.850、白色は「-」(「その他」の1.490) |
ベンチマーク:実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項。デフォルト値:実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の総排出量(直接排出量と間接排出量の合計)。付属書Iは、クリンカーとその他の水硬性セメントをTARICコードでグレーと白色に分けています。日本の表の「-」の行には「その他の国・地域」の値が適用されます。
上流の前駆体である焼成カオリン質粘土(CNコード ex 2507 00 80)も、セメント部門の対象です。このため付属書Iのセメント部門の項目は6つあり、各項目の文言はCBAM対象製品リストに掲載しています。
コンクリートブロックやプレキャストパネルなど、第68類に分類されるセメントの川下製品は付属書Iに含まれないため、CBAMの義務の対象外です。川下製品への対象拡大に関する欧州委員会提案(COM(2025)989、法律ではありません)も、2026年10月12日時点では鉄鋼製品とアルミニウム製品だけを対象としています。
EU炭素国境調整措置(CBAM)の概要で説明しているとおり、セメントの輸入者は、認可の取得、CBAM証書の購入、年1回のCBAM申告という一連の義務を負います。2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。
欧州委員会(税制・関税同盟総局)は2026年8月14日、EU域外のセメント生産者と認可CBAM申告者向けに、本格実施期間のセメント部門ガイダンス(ガイダンス第5a号)を公表しました。これは同日に公表された本格実施期間向けの10のCBAMガイダンス文書(英語)の1つで、10文書全体で6部門すべてを扱っています。
セメントの工程排出を技術で取り除けない理由
セメントの工程排出を避けられないのは、石灰石の分解反応(CaCO3 → CaO + CO2)が化学的に決まったものであり、燃料の転換やエネルギー効率の改善では変わらないためです。
脱炭酸(カルシネーション)と呼ばれるこの工程排出は、セメントの炭素排出の約60%を占めます。キルンでの燃料燃焼が約35%、粉砕や搬送の電力消費が残りの約5%です。この内訳は一般的な概算であり、実際には施設ごとに異なります。
脱炭酸は、主に仮焼炉(プレカルシナー)とキルンの入口付近で、約800℃から900℃の温度域で進みます。主原料の石灰石(CaCO3)に含まれるCO2は、分解温度に達するとガスとして放出され、その後キルン内の1,400℃から1,500℃の高温でクリンカーが焼成されます。再生可能エネルギーへの切り替えや熱効率の改善では、この排出源をなくすことはできません。
キルンの燃料をすべてグリーン水素に切り替えたセメント工場でも、脱炭酸だけでクリンカー1トン当たり約0.52 tCO2を排出します。これは2006年IPCCガイドライン(第3巻第2章)のデフォルト排出係数です。
工程排出を減らす方法は2つしかありません。高炉スラグやフライアッシュなどの混合材でクリンカーを置き換える方法と、二酸化炭素回収・貯留(CCS)でキルンの排ガスからCO2を回収する方法です。
この点でセメントクリンカーは、技術の改善によって製品1トン当たりの体化排出量を徐々に下げられる鉄鋼やアルミニウムとは、構造的に異なります。普通ポルトランドセメント(CEM I、クリンカー95%から100%)は、一般的なセメントの中で体化排出量が最も高くなります。
高炉スラグセメント(CEM III、クリンカー5%から64%)では、スラグが新たな脱炭酸を伴わずにクリンカーを置き換えるため、体化排出量は1トン当たり0.40 tCO2程度まで下がります(概算であり、デフォルト値ではありません)。
実施規則(EU)2025/2547のもとで、クリンカーとセメントの比率が申告にどう反映されるかは、CBAMの体化排出量の算定方法で説明しています。検証済みの実データが提供されない場合、輸入者は生産国のデフォルト値を使用します。
付属書Iにはトルコのグレーポルトランドセメントの独自の値がなく(行は「-」)、「その他の国・地域」の1.440 tCO2eが適用されます。これは間接排出量を含む総排出量の値で、2026年のマークアップ10%を加えると1.584になります。
一方、トルコのセメント業界団体は、会員企業のグレークリンカーの排出量を1トン当たり約0.88 tCO2と報告しています。クリンカーのデフォルト値はマークアップ込みで1.551と、これより約76%高い水準です。それだけ、実排出量を測定して検証を受ける経済的な動機も大きくなります。
日本産のグレーポルトランドセメントには独自の値0.890があり、2026年のマークアップを加えても0.979にとどまります。ベンチマーク0.666との差は0.313で、トルコ産に適用される1.584とベンチマークとの差(0.918)の約3分の1です。

このインフォグラフィックのテキスト版
- 6:付属書Iの項目数 (CNコード単位)
- 0.666:2026年のデフォルト用ベンチマーク (製品1トン当たりのtCO₂e。ねずみ色クリンカーとねずみ色ポルトランドセメント)
証書の対象となる排出量
- 直接排出量:対象
- 間接排出量:対象
- 温室効果ガス:CO₂
間接排出量が対象となるのは、セメントと肥料の2分野だけです。
CBAMにおけるセメントの体化排出量の算定方法
セメントの体化排出量は、実施規則(EU)2025/2547の式64に従い、最終製品のクリンカーとセメントの比率に基づいて算定します。
算定は2段階で行います。まず前駆体であるクリンカーの体化排出量を求め、次にその排出量を、投入したクリンカーから生産されたセメントに比例して配分します。前駆体の扱いの詳細はCBAMにおけるクリンカーの体化排出量で説明しています。
セメントは、直接排出量と間接排出量の両方がCBAM証書の対象となる2部門の1つです。直接排出量は、石灰石の脱炭酸とキルンでの燃料燃焼によるCO2です。間接排出量は、粉砕機、ファン、コンベア、制御システムなど、生産工程全体で消費した電力に相当するCO2です。
間接排出量まで対象とするのは、EUのセメント生産者が、間接的な電力コストについてEU ETSの補償を受けていないためです。輸入品だけ間接排出量を除外すれば、CBAMが防ごうとしている競争条件の不均衡が生じます。
日本のグレーポルトランドセメントのデフォルト値0.890のうち、付属書Iが参考として示す間接排出量は0.060(直接排出量0.830)です。拘束力があるのは総排出量の値だけです(実施規則(EU)2026/1740前文第10項)。
実排出量で申告する場合、体化排出量は規則(EU)2023/956第8条に基づき、認定検証機関の検証を受ける必要があります。2026年10月13日時点で、3つの国家認定機関(ギリシャのESYD、イタリアのAccredia、スウェーデンのSwedac)が認定した5つの検証機関が確認されていますが、日本の法人は含まれていません。
2026年10月23日時点で、欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です。CBAM検証機関を認定できるのはEU加盟国の国家認定機関だけで、GX-ETSの登録確認機関であることはCBAMの検証資格になりません。一覧はCBAM認定検証機関にまとめています。
セメントの体化排出量の申告に必要な3つの入力値は、次のとおりです。
- クリンカーとセメントの比率:出荷する製品のクリンカーの質量比(例:CEM Iで0.92)
- クリンカー製造施設の特定直接排出量:生産したクリンカー1トン当たりのtCO2で、石灰石の脱炭酸と燃料燃焼を含む値
- 電力消費による特定間接排出量:生産したセメント1トン当たりのtCO2で、生産国の電力の排出係数で計算した値
検証済みの実データがない場合、輸入者は原産国のデフォルト値を使用します。セメントのデフォルト値のマークアップは、2026年の10%から2027年に20%、2028年以降は30%へと引き上げられ、デフォルト値の利用は年々不利になります。
セメントのCBAMコスト:EUの輸入者が2026年に支払う額
2026年のセメントのCBAMコストは、体化排出量から無償割当調整を差し引いた証書数に、CBAM証書の価格を掛けて求めます(規則(EU)2023/956第31条、実施規則(EU)2025/2620)。
無償割当調整は、CBAM係数×部門横断補正係数(CSCF)×CBAMベンチマークで求めます。2026年のCBAM係数は97.5%で、これは無償割当のうち維持される割合です。部門横断補正係数は2026年から2030年まで100%です(実施決定(EU)2026/1862)。
国別の値がない原産国のグレーポルトランドセメントでは、デフォルト値1.440に2026年のマークアップ10%を加えて1.584となります。無償割当調整は0.975 × 0.666 = 0.64935で、差し引き製品1トン当たり0.93465枚のCBAM証書が必要となり、82.32ユーロで製品1トン当たり76.94ユーロです。
無償割当調整で総コストの97.5%が相殺されるのは、排出量がベンチマークとちょうど同じセメントだけです。ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。
日本産について同じ計算をすると、0.890 × 1.10 = 0.979から無償割当調整0.64935を差し引いて製品1トン当たり0.32965枚、82.32ユーロで27.14ユーロです。無償割当調整前の総コスト80.59ユーロのうち、約34%を支払うことになります。
デフォルト値で輸入したグレーポルトランドセメントのCBAMコストを、4つの原産国の主な年について次の表に示します。ベンチマークはすべて0.666 tCO2e、証書の価格は82.32ユーロで一定と仮定しています(当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。
| 年 | CBAM係数(維持される無償割当) | デフォルト値のマークアップ | 「その他の国・地域」(デフォルト値1.440) | エジプト(1.290) | モロッコ(0.950) | 日本(0.890) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026年 | 97.5% | 10% | 76.94ユーロ | 63.36ユーロ | 32.57ユーロ | 27.14ユーロ |
| 2028年 | 90% | 30% | 104.76ユーロ | 88.71ユーロ | 52.32ユーロ | 45.90ユーロ |
| 2030年 | 51.5% | 30% | 125.87ユーロ | 109.82ユーロ | 73.43ユーロ | 67.01ユーロ |
| 2034年 | 適用なし | 30% | 154.10ユーロ | 138.05ユーロ | 101.67ユーロ | 95.24ユーロ |
製品1トン当たりのコスト=(デフォルト値×(1+マークアップ)-CBAM係数×0.666)×82.32ユーロ。部門横断補正係数は100%です(実施決定(EU)2026/1862)。2034年からは無償割当調整がありません。出典:デフォルト値は実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)、ベンチマークは実施規則(EU)2025/2620、CBAM係数は指令2003/87/EC第10a条第1a項。2027年以降の輸入品では、ベンチマークが更新される可能性があります。
表を読む際の注意点は2つあります。1つ目はトルコ産の扱いです。トルコ産セメントの輸入者は2026年にデフォルト値1.584(「その他の国・地域」の1.440にマークアップ10%)を使用し、82.32ユーロで計算すると、製品1トン当たり無償割当調整前で130.39ユーロ、調整後で76.94ユーロです。
2つ目は、証書の価格が固定ではないことです。公式価格は、2026年第1四半期の75.36ユーロから第3四半期には82.32ユーロに上昇しました。価格が10ユーロ変動するごとに、2026年のコストは製品1トン当たり、デフォルト値1.440のセメントで9.35ユーロ、日本の0.890のセメントで3.30ユーロ変動します。
Argusが報じた計算例を見ると、出荷単位ではデフォルト値と実排出量の差がどれほど大きくなるかがわかります。ウクライナ産グレーポルトランドセメント1万トンを2026年に輸入する場合、コストはデフォルト値1.51 tCO2e/tで約66万3,000ユーロ、検証済みの実排出量0.91 tCO2e/tで約19万5,000ユーロです(いずれも証書の価格を約75ユーロとしたArgusの計算)。
差し替え後の付属書Iでは、ウクライナのこのセメントの値は1.380で、2026年のマークアップ込みでは1.518です。Argusの例では、同じ出荷で約46万8,000ユーロの差が生じており、その原因は検証済みの排出量がないことだけです。
国別のデフォルト値とマークアップの仕組みはCBAMのデフォルト値で説明しています。2027年9月30日の申告に向けた検証の日程を含む、セメントの詳しい分析はニュース記事セメントのデフォルト値の落とし穴(英語)にあります。
9月30日までに十分なCBAM証書を納付しなかった場合、納付しなかったCBAM証書1枚につき、EU ETSの超過排出罰金(インフレ調整前で1トン当たり100ユーロ、欧州消費者物価指数で調整)と同額の罰金が科されます(第26条第1項、規則(EU)2025/2083による改正)。罰金を支払っても証書の納付義務は残ります(第26条第3項)。
認可CBAM申告者でない者が義務を果たさずに製品を輸入した場合は、その3倍から5倍(インフレ調整前で300から500ユーロ)の罰金が科されます(第26条第2項)。
キャプション:デフォルト値1.440のグレーポルトランドセメントのCBAMコストは、証書価格を82.32ユーロで一定とした場合、製品1トン当たり2026年の76.94ユーロから2034年には154.10ユーロに上がります。
日本のセメント製品別のデフォルト値とコスト
付属書Iの日本の表では、グレークリンカー、グレーポルトランドセメント、アルミナセメント、グレーの水硬性セメントの4品目に独自の値があり、白色の3品目には「その他の国・地域」の値が適用されます。
日本の表の値で2026年、2028年、2034年に輸入した場合の製品1トン当たりのコストは、次の表のとおりです(82.32ユーロ一定、当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。
| 製品(CNコード) | デフォルト値(tCO2e/t) | ベンチマーク(Column B) | 2026年の証書数(製品1トン当たり) | 2026年 | 2028年 | 2034年 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| グレークリンカー(2523 10 00 90) | 0.850 | 0.666 | 0.28565 | 23.51ユーロ | 41.62ユーロ | 90.96ユーロ |
| 白色クリンカー(2523 10 00 10) | 1.370(「その他」) | 0.859 | 0.669475 | 55.11ユーロ | 82.97ユーロ | 146.61ユーロ |
| グレーポルトランドセメント(2523 29 00) | 0.890 | 0.666 | 0.32965 | 27.14ユーロ | 45.90ユーロ | 95.24ユーロ |
| 白色ポルトランドセメント(2523 21 00) | 1.450(「その他」) | 0.859 | 0.757475 | 62.36ユーロ | 91.53ユーロ | 155.17ユーロ |
| アルミナセメント(2523 30 00) | 1.940 | 0.717(2028年から0.686) | 1.434925 | 118.12ユーロ | 156.79ユーロ | 207.61ユーロ |
| グレーの水硬性セメント(2523 90 00 90) | 0.850 | 0.666 | 0.28565 | 23.51ユーロ | 41.62ユーロ | 90.96ユーロ |
| 白色の水硬性セメント(2523 90 00 10) | 1.490(「その他」) | 0.847 | 0.813175 | 66.94ユーロ | 96.70ユーロ | 159.45ユーロ |
2028年はマークアップ30%、CBAM係数90%、2034年はマークアップ30%で無償割当調整なし。2027年以降の輸入品ではベンチマークが更新される可能性があるため、2028年と2034年の数値は目安です。
同じCNコード 2523 90 00でも、2026年のコストは、グレーに分類されれば製品1トン当たり23.51ユーロ、白色なら66.94ユーロと、約2.8倍の差があります。日本からEUへのセメント輸出はほぼすべてがこのコードに該当するため、10桁のコードでの分類の確認がコストを大きく左右します。
貴社の製品とトン数に応じた推計はCBAM計算ツールで確認できます。結果は、規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
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EUへのセメント供給国:トルコが首位に立つ理由
2025年、トルコはEU域外からのセメントとクリンカー(付属書Iのコード)の輸入の43.0%(数量ベース)を占め、611万6,887トン、4億3,660万ユーロを供給しました。
トルコの供給量は2023年の332万トンから増えています(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。2位以下はウクライナ13.3%、アルジェリア11.9%、エジプト11.6%、チュニジア6.7%です。
EU域外からの輸入は合計1,423万5,854トン、10億7,572万ユーロで、数量の約半分にあたる714万7,931トンがクリンカーでした(Eurostat Comext、2025年)。
トルコが首位に立つ背景には、南欧の主要な輸入市場に近いこと、国内需要に比べてセメントの生産能力が大幅に余っていること、これまで炭素価格の負担がなく生産コストが低かったことがあります。
トルコは2026年8月27日に排出量取引制度規則を公布しましたが、2026年から2027年までのパイロット期間中は排出枠を100%無償で割り当てます。このため2026年10月12日時点で、トルコの生産者は、EUの輸入者が第9条で控除できる炭素価格を支払っていません。
トルコのセメント業界団体が報告する会員のグレークリンカーの排出量約0.88 tCO2/tは、2026年のマークアップ込みのクリンカーのデフォルト値1.551 tCO2e/tを大きく下回ります。そのためトルコの生産者には、計測システムを整備して認定検証機関に検証を依頼する経済的な動機が、どの輸出国よりも強くあります。
外部の支援を希望する生産者は、トルコのCBAMコンサルタント(英語)の一覧から依頼先を探せます。一覧には7社を掲載しており、うち6社は自社のウェブサイトでCBAM関連のサービスを明示しています。
トルコセメント生産者協会(Türkçimento)は、現在のデフォルト値の構造のもとでは、CBAMがトルコ産セメントに対する事実上の非関税障壁になるおそれがあると警告しています。付属書Iにはトルコのグレークリンカーの値がないため、「その他の国・地域」の1.410(2026年のマークアップ込みで1.551)が適用されます。
これに対し、Türkçimentoの会員が移行期間中に報告した排出量は約0.88 tCO2/tです。同協会(最高経営責任者:Volkan Bozay氏)は、デフォルト値によってクリンカー1トン当たりの炭素コストが約20ユーロから約80ユーロに上がると試算しています。
エジプトには付属書Iに独自の値があり、グレーポルトランドセメントで1.290(マークアップ前)と、トルコ産に適用される1.440を下回ります(エジプトのセメント輸出(英語))。供給量の少ないモロッコにも、独自の値0.950があります。
アジアの供給国と日本のセメント輸出
日本からEUへのCBAM対象のセメント輸出は2025年に479万8,244ユーロ、5,701トンと小規模ですが、ほぼすべてが高単価のCNコード 2523 90 00の製品です。
日本のシェアは金額ベースで0.45%(第19位)、数量ベースで0.04%(第23位)です(Eurostat Comext、2025年)。2023年の663万4,145ユーロ、8,523トンから減少しました。JETROも2026年9月18日の記事で、日本のセメント(クリンカー含む)の対EU輸出を480万ユーロと紹介しています。
金額の99.9%を占めるCNコード 2523 90 00(その他の水硬性セメント)では、日本は金額ベースでボスニア・ヘルツェゴビナ、ウクライナ、チュニジアに次ぐ第4位です。同コードの日本産(479万2,908ユーロ、5,693.7トン)の平均単価は製品1トン当たり約842ユーロで、同コードのEU域外平均(約111ユーロ)の約7.6倍です(金額÷数量で算出)。
アジアの主な供給国について、EUの輸入量とグレーポルトランドセメントのデフォルト値によるコストを比べると、次の表のとおりです(Eurostat Comext、2025年。82.32ユーロ、2026年11月4日計算)。
| 原産国 | EUのセメント・クリンカー輸入量(2025年) | EU域外輸入に占める割合(数量ベース) | グレーポルトランドセメントのデフォルト値(tCO2e/t) | 2026年のコスト(製品1トン当たり) |
|---|---|---|---|---|
| ベトナム | 11万3,611トン | 0.8%(第11位) | 1.440(付属書Iの表にセメントの行がないため「その他」) | 76.94ユーロ |
| 中国 | 3万1,747トン | 0.22%(第20位) | 1.420 | 75.13ユーロ |
| 日本 | 5,701トン | 0.04%(第23位) | 0.890 | 27.14ユーロ |
| インドネシア | 42トン | 0.01%未満 | 1.440(付属書Iの表にセメントの行がないため「その他」) | 76.94ユーロ |
| 韓国 | 0トン(金額222ユーロ) | 0% | 0.940 | 31.66ユーロ |
日本産のデフォルト値は、表の5か国の中で最も低い水準です。ただし、EUの統計からは具体的な製品名がわからないため、日本の高単価製品がどの特殊セメントにあたり、10桁のコードでグレーと白色のどちらに分類されるかは、各社のデータで確認する必要があります。日本の状況全体はCBAMと日本にまとめています。
CBAMに対するEUのセメント業界の立場
EUのセメント業界は、CBAM対象の6部門の中で最も強くCBAMを支持しています。
Heidelberg Materials、Cemex、Holcimなどの大手生産者は、EU ETSの価格を支払うEUの生産者と、同等の炭素コストを負ってこなかったEU域外の生産者との競争条件をそろえる仕組みとして、一貫してCBAMを支持しています。セメントは生産を域外に移して炭素コストを避けることが難しく、輸入セメントは同じ市場でEU産と直接競合します。
この支持の背景には、セメント部門の脱炭素化の手段が限られていることもあります。脱炭酸による排出は工程と切り離せないため、EUの生産者は効率の改善だけでは炭素コストを減らせません。CBAMは、輸入品にも同等のコストを課すことで、この不均衡を是正します。
日本の炭素価格はセメントのCBAMコストから控除できるか
2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。
第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)に関する実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で未採択です。控除の対象は実際に支払われた炭素価格に限られ、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。
日本の主な制度とセメントのCBAMとの関係は、次のとおりです(2026年11月4日確認)。
- 地球温暖化対策のための税(温対税):税率はCO2 1トン当たり289円です(環境省)。ただし、セメント製造用の輸入特定石炭は石油石炭税と温対税が免除されており(経済産業省の令和9年度税制改正要望)、キルンの主な燃料である石炭には課税されていません。
- 排出量取引制度(GX-ETS):2026年度(2026年4月から2027年3月)から、直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者を対象に義務化されました(経済産業省)。セメントにはベンチマーク方式で無償割当が行われ(ICAP)、欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。
- 化石燃料賦課金:2028年度から導入予定で、まだ施行されていません(JETRO)。2026年と2027年の輸入について控除を主張する余地はありません。
デフォルト値で申告する場合は、欧州委員会が2027年から国ごとに定めることができる年次のデフォルト炭素価格を参照して、控除を請求できます(第9条第4項)。2026年11月4日時点で、日本についてはまだ定められていません。
英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに載せましたが、これはEU CBAMでの扱いとは別の問題です。未解決の論点はCBAMの炭素価格控除で説明しています。
CBAM対象の6部門におけるセメントの位置づけ
セメントは、最大の排出源が燃料の転換では避けられない工程排出であることと、直接排出量と間接排出量の両方がCBAM証書の対象となる2部門の1つであることから、6部門の中で独特の位置を占めています。
たとえばCBAMの鉄鋼部門では直接排出量だけが証書の対象となり、電炉法で消費する大量の電力はCBAMの義務から外れます。セメントにはこの除外がなく、生産に使う電力はすべて申告する体化排出量に含まれます。
このためセメントの算定は範囲が広く、石炭火力の比率が高い国のエネルギー多消費型のセメント工場ほど、負担が重くなります。間接排出量も対象となるもう1つの部門はCBAMの肥料部門です。
CBAMとセメントに関するよくある質問
EUの輸入者やEU域外のセメント輸出者が、CBAM対応の準備でよく直面する疑問にお答えします。
CBAMの対象となるセメントクリンカーのCNコードは何ですか
セメントクリンカーのCNコードは2523 10 00で、後にどの種類のセメントに粉砕されるかにかかわらず、中間製品であるクリンカーはすべてこのコードに含まれます。クリンカーは混合材で希釈されていないため、検証済みの実排出量で比べると、1トン当たりの脱炭酸によるCO2は、そこから製造するセメントより多くなります。
ただしデフォルト値では、「その他の国・地域」の表でアルミナセメント(2.030)とグレーポルトランドセメント(1.440)がグレークリンカー(1.410)を上回ります。クリンカーを輸入してEU域内でポルトランドセメントに粉砕する輸入者も、輸入時にクリンカーの体化排出量を申告します。
2025年のEUの輸入量が多かったコードは、上位から2523 10 00(クリンカー、714万7,931トン)、2523 29 00(その他のポルトランドセメント、576万5,759トン)、2523 21 00(白色ポルトランドセメント、72万4,021トン)です(Eurostat Comext DS-045409、2026年10月12日抽出)。8桁のコードの一覧はセメントのCBAM対象CNコード一覧に、個別の製品はCNコード検索ツールで確認できます。
セメントのベンチマーク0.666 tCO2e/tはどのような値で、どう使われますか
0.666 tCO2e/tは、グレーポルトランドセメント(CNコード 2523 29 00)とグレークリンカーのデフォルトのCBAMベンチマークで、実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項に定められています。白色ポルトランドセメントと白色クリンカーは0.859です。
ベンチマークは排出係数ではなく、無償割当調整を決める値です。2026年にデフォルト値で輸入する場合、マークアップ込みのデフォルト値から、製品1トン当たり0.975 × 0.666 = 0.64935 tCO2eを差し引きます。
「その他の国・地域」のデフォルト値1.440のセメントでは、1.584から0.64935を差し引いて製品1トン当たり0.93465枚となり、82.32ユーロで76.94ユーロです。日本の0.890では0.32965枚、27.14ユーロです。
実排出量で申告する場合は、Column Aのプロセスベンチマークに、前駆体のクリンカーに含まれる無償割当調整を加えて差し引きます。差し引く量は製品1トン当たりの固定量なので、ベンチマークを上回る排出量は全額が証書の対象です。
50トン基準以下のセメント輸入にもCBAMは適用されますか
いいえ。電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(規則(EU)2023/956第2a条、付属書VII第1項、規則(EU)2025/2083による改正)。免除は税関申告で申告する必要があります。
50トンは、輸入者ごと・暦年ごとに、すべてのCNコードと原産国を合算して判定します。たとえば1暦年にポルトランドセメント30トンと鉄鋼25トンを輸入した輸入者は、合計で50トンを超えるため、両方の製品についてCBAMの義務を負います。基準は年間の質量であり、1回当たりの輸入金額ではありません(金額による基準は、規則(EU)2025/2083による改正前の規定です)。
トルコ産セメントのCBAMコストは、ベンチマークから想定されるより高くなりますか
はい。デフォルト値で輸入するトルコ産セメントには、2026年は「その他の国・地域」の1.440にマークアップ10%を加えた1.584が適用されます。82.32ユーロで計算すると、製品1トン当たり無償割当調整前で130.39ユーロ、調整後(ベンチマーク0.666、CBAM係数97.5%)で76.94ユーロです。
トルコのセメント業界団体が報告するクリンカーの排出量約0.88 tCO2/tと、マークアップ込みのクリンカーのデフォルト値1.551との差は、トルコの生産者がCBAM登録簿に登録し、認定検証機関に検証を依頼し、検証済みの実データをEUの顧客に提供する直接的な経済的動機になります。トルコの状況はCBAMとトルコ(英語)で説明しています。
クリンカー比率の低い混合セメントは、CBAMで別に扱われますか
検証済みの実排出量で申告する場合は、扱いが異なります。混合セメントの主な排出源は含まれるクリンカーなので、クリンカー比率が低いほど体化排出量は低くなります。概算(デフォルト値ではありません)では、クリンカー約20%の高炉スラグセメント(CEM III/B)が1トン当たり約0.17から0.19 tCO2、CEM Iが約0.81から0.83 tCO2です。
実排出量で申告する場合、クリンカーとセメントの比率は、報告期間についての事業者の検証済み排出量報告書に記載されます。デフォルト値の場合は、比率にかかわらず付属書Iのセメント1トン当たりの値が適用されます。高炉セメントのような低クリンカー製品の排出量の低さを示せるのは、検証済みの実データだけです。
EUのセメント輸入者は、原産国で支払われた炭素価格を控除できますか
制度上は可能です。規則(EU)2023/956第9条は、原産国で実際に支払われた炭素価格について減額を認めています。ただし2026年11月4日時点で、どの国の炭素価格も第9条で認められておらず、実施規則も案の段階です。
トルコの排出量取引制度のパイロット期間は排出枠が100%無償で、エジプトには炭素税も排出量取引制度もないため、両国からのセメントの輸入に控除は生じません。日本についても、2026年11月4日時点で温対税とGX-ETSのいずれも認められていません。
デフォルト値を使う場合、控除を請求できるのは、欧州委員会が2027年から第9条第4項に基づいて定めることのできる年次のデフォルト炭素価格を参照する場合だけです。CBAM計算ツールでは、炭素価格と証書の価格のシナリオを試せます。計算結果は公式デフォルト値とベンチマークに法定の計算式を当てはめた推計であり、拘束力のある数値はCBAM申告書に記載される数値です。
日本のセメント生産者にCBAMの義務はありますか
ありません。CBAM証書の購入、CBAM申告、証書の納付の義務を負うのは、EUの認可CBAM申告者(またはその間接的通関代理人)です。ただし、EUの買い手がデフォルト値の適用を避けるため、施設単位の検証済みデータを求めることがあります。
日本の生産者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に施設のデータを登録し、検証を受けたうえで、複数のEUの買い手と共有することができます。手順はCBAMの事業者用ポータル、輸出者としての対応はセメントのEU CBAM(輸出者向け)で説明しています。算定や検証を支援する事業者の紹介は、CBAMの相談窓口から無料で依頼できます。