
EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)での水素のコストは、EUの輸入者がデフォルト値で申告するか、検証済みの実排出量で申告するかで決まります。水素(CNコード 2804 10 00)のデフォルト値は、多くの国で製品1トン当たり10.820 tCO2e(CO2換算トン)です。2026年輸入分のCBAM証書のコストは、2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ)で製品1トン当たり571.32ユーロになります。
日本には独自の表があり、日本産の水素のデフォルト値は14.030 tCO2eで、韓国、インドと同じ値です。同じ条件で、日本産は製品1トン当たり861.99ユーロ、独自の表がない国に適用される「その他の国・地域」の17.740は1,197.94ユーロです。一方、検証済みの直接排出量が製品1トン当たり4.96 tCO2e以下の水素は、2026年に証書が必要ありません。
根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。本ページでは、水素の対象範囲、グレー水素とグリーン水素の排出の仕組み、デフォルト値と実排出量のコスト差、日本企業への影響、実務の手順を順に説明します。
キャプション:生産ルートによって直接CO2排出量は変わります。ただしCBAMで生産ルートの違いが効くのは、輸入者が検証済みの実排出量で申告する場合だけです。
CBAMは水素の輸入に何を求めますか
CBAMは、CNコード 2804 10 00の水素について直接排出量だけを対象とし、50トン基準の適用除外はありません。
電力と水素を除くCBAM対象製品では、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。水素にはこの免除がなく(第2a条第4項)、本格実施期間が始まった2026年1月1日から、このCNコードで輸入されるすべての水素に証書の義務が生じます。このコードは、付属書Iの42項目の1つです(CBAM対象製品リスト)。
水素は規則(EU)2023/956付属書IIに掲げられているため、算定されるのは直接排出量だけです(第7条第1項)。電気分解で消費する電力の発電に伴う排出は間接排出量(第3条第34号)で、算定に入りません。工程で消費する熱と冷却は直接排出量に含まれます(第3条第21号)。
委任規則(EU)2023/1184による再生可能な非生物起源燃料(RFNBO)の認証は、再生可能エネルギー法の制度です。CBAMの算定の入力ではなく、デフォルト値の代わりにもなりません。CBAMの全体像はEU炭素国境調整措置の解説で説明しています。
第2a条第4項は水素と電力を50トン基準から除外していますが、理由は示していません。2026暦年の輸入分の最初のCBAM申告書の提出期限は2027年9月30日で(第6条第1項)、CBAM証書の販売は2027年2月1日に始まります(第20条第1項)。法的な義務は2026年1月から生じていますが、実際の支払いは2027年になります。
欧州委員会の税制・関税同盟総局(DG TAXUD)は2026年8月14日、本格実施期間の10本のガイダンス文書の1つとして、水素の部門別ガイダンス(ガイダンス第5b号)を公表しました。対象はEU域外の水素生産者と認可CBAM申告者です(10本のCBAMガイダンス文書、英語)。
モニタリング規則はどの水素の生産ルートを対象にしていますか
水素のモニタリング規則は実施規則(EU)2025/2547付属書I第3.6項にあり、システム境界を定めているのは水蒸気改質・部分酸化とスチームクラッキングの2つのグループです。
同項の対象は "the production of pure hydrogen or mixtures of hydrogen with nitrogen usable in ammonia production"(純水素、またはアンモニア製造に使える水素と窒素の混合物の製造、当サイト仮訳)です。システム境界は、水蒸気改質と部分酸化(第3.6.2.1項)とスチームクラッキング(第3.6.2.2項)について定められています。電気分解には独自の項がありません。
それでも、電解水素が実排出量で申告できないわけではありません。同付属書第3.1項は、付属書に記載のない生産ルートで作られたCBAM対象製品を部門横断の規則の対象とすると定めています。法的拘束力のない2026年8月14日のガイダンス第3号は、水素の生産ルートとして "Electrolysis of water and Chlor-Alkali electrolysis"(水の電気分解と食塩電解、当サイト仮訳)を挙げています。水素が複数の副産物の1つである場合、排出量はモル比で配分します(付属書III第A.2.1項)。
グレー水素とCBAM:排出の仕組み
天然ガスの水蒸気改質(SMR)によるグレー水素の直接排出量は水素1トン当たり約9から12 tCO2ですが、これは工学上の推計値で、CBAMのデフォルト値ではありません。
水蒸気改質は、水素の製造方法として最も一般的です。中心となる反応はCH4 + H2O → CO + 3H2で、生じた一酸化炭素は水性ガスシフト反応(CO + H2O → CO2 + H2)によって追加の水素とCO2になります。グレー水素の製造では、どちらのCO2も通常は大気に放出されます。これが体化排出量が高くなる原因です。
水素のデフォルト値は、生産ルートではなく原産国ごとに、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)に定められています。エジプト、モロッコ、チリ、英国、オーストラリアなど多くの国は10.820、サウジアラビアは13.450、日本、韓国、インドは14.030、米国と中国は26.640、独自の表がない国は17.740です。
これらは直接排出量だけの値です。マークアップは2026年10%、2027年20%、2028年以降30%で、無償割当調整を差し引く前に加算されます。デフォルト値で申告し続ける輸入者のコストは、実測と第三者検証に投資しない限り毎年上がります。
CBAMの算定に含まれるグレー水素の直接排出源は、次の3つです。
- 改質炉で行うメタンの一次改質から出るCO2
- 一酸化炭素をCO2と追加の水素に変える水性ガスシフト反応から出るCO2
- 残ったメタンと一酸化炭素をエネルギー回収のために燃焼する、圧力スイング吸着(PSA)のパージガスから出るCO2
デフォルト値ではなく検証済みの実排出量で申告できれば、輸入者の経済的なメリットは大きくなります。削減できる額は、マークアップ付きのデフォルト値と検証済みの数値との差に証書価格を掛けた額です。水素のベンチマークはColumn A(実排出量)とColumn B(デフォルト値)のどちらも5.089 tCO2eで、申告方法によって変わりません。
10.820のデフォルト値は2026年に11.902として申告されるため、検証によって1 tCO2e減らすごとに、製品1トン当たり82.32ユーロを削減できます。日本産の14.030は2026年に15.433として申告されます。体化排出量の算定方法はCBAMの体化排出量で説明しています。

このインフォグラフィックのテキスト版
- 1:付属書Iの項目数 (CNコード単位)
- 5.089:2026年のデフォルト用ベンチマーク (製品1トン当たりのtCO₂e。水素(CNコード 2804 10 00))
証書の対象となる排出量
- 直接排出量:対象
- 間接排出量:対象外
- 温室効果ガス:CO₂
水素は、量にかかわらず50トン基準の免除の対象外です(第2a条第4項)。
グリーン水素とCBAM:コストをゼロにできる条件
検証済みの直接排出量がゼロのグリーン水素は、CBAM証書が必要ありません。その根拠は事業者の検証済みの排出量報告書で、委任規則(EU)2023/1184によるRFNBOの認証ではありません。
グリーン水素は水の電気分解(2H2O → 2H2 + O2)で作られ、この反応自体はCO2を出しません。付属書IIの製品である水素では直接排出量だけが算定されるため、電解槽を動かす電力は、電源が何であっても計算に入りません。ただし、施設で燃やす燃料や、工程で消費する熱と冷却は直接排出量に含まれます。申告するのは、これらを含めて検証機関が確認した数値です。
重要なのは、輸入者が検証済みの実排出量を申告できるかどうかです。できなければ原産国のデフォルト値が適用され、そのデフォルト値はグリーン水素でもグレー水素でも同じです。
委任規則(EU)2023/1184は、水素が再生可能エネルギー指令上のRFNBOと認められるために、電気分解に使う再生可能電力が同時に満たすべき3つの要件を定めています。これらは再生可能エネルギー目標や買い手にとっては重要ですが、CBAM申告書には関係しません。3つの要件は次のとおりです。
- 追加性(第5条):再生可能電力の発電設備は、水素製造設備の運転開始の36か月前以降に運転を開始したものである必要があります。2028年1月1日より前に運転を開始する水素製造設備については、第11条によりこの要件が2038年1月1日まで猶予されます。
- 時間的相関(第6条):2029年12月31日までは、水素を再生可能電力と同じ暦月に製造する必要があります。2030年1月1日からは、同じ1時間の中で製造する必要があります。
- 地理的相関(第7条):再生可能電力の設備は、電解槽と同じ入札区域、前日市場の電力価格が電解槽のある入札区域と同じか高い相互接続された入札区域、または相互接続された洋上入札区域にある必要があります。入札区域がない場合、EU域外の生産者は同等の概念を使えます(前文第3項)。
キャプション:RFNBOの3要件は再生可能エネルギー指令の制度です。CBAMで数えるのは水素製造の直接排出量だけです。
3つの要件を満たせばRFNBOとして認証されますが、CBAMでの扱いを決めるのは別の事実です。水素が付属書IIの製品であることと、電気分解の反応がCO2を出さないことです。検証済みの数値が0.975 × 5.089 = 4.96 tCO2e以下であれば、2026年に納付する証書はありません。これはDG TAXUDが2026年8月14日のガイダンス第1号で示したゼロ下限(証書数はゼロを下回らない)によるもので、検証が前提です。
日本の「低炭素水素等」の基準はCBAMの検証に代わりますか
日本の水素社会推進法の「低炭素水素等」の基準は日本の制度で、CBAMの検証にもデフォルト値の代わりにもなりません。
「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(令和6年法律第37号、2024年5月24日公布)は、低炭素水素等を、製造に伴って排出されるCO2の量が「一定の値以下」であることなどの要件を満たす水素等と定めています(第2条第1項、e-Gov法令検索、2026年11月4日確認)。具体的な値は経済産業省令に委ねられています。
この基準はEUのRFNBO認証と同じく、CBAMとは別の制度です。CBAMで証書を減らせるのは、EU加盟国の国家認定機関が認定した検証機関が、実施規則(EU)2025/2547の方法で確認した直接排出量だけです。日本の基準を満たした水素も、検証済みの実排出量がなければ日本のデフォルト値14.030で評価されます。
製品1トン当たり571ユーロのコスト差:計算の内訳
デフォルト値で申告する水素と検証済みの排出量がほぼゼロの水素のコスト差は、2026年輸入分で製品1トン当たり571ユーロ以上で、日本産のデフォルト値では861.99ユーロです。
次の表は、5つのデフォルト値の水準について、2026年第3四半期の公式価格82.32ユーロでの2026年の証書数とコストを示します。各行はデフォルト値に10%のマークアップを加え、無償割当調整0.975 × 1.00 × 5.089 = 4.961775 tCO2eを差し引いています(CBAM係数97.5%、部門横断補正係数100%、ベンチマーク5.089)。計算は2026年11月4日に当サイトの計算ツールで行いました。
| 原産国(付属書Iの表) | デフォルト値(tCO2e/t H2) | マークアップ10%加算後 | 2026年の証書数(製品1トン当たり) | コスト(82.32ユーロ) | 無償割当調整前のコスト |
|---|---|---|---|---|---|
| モロッコ、チリ、エジプト、英国 | 10.820 | 11.902 | 6.940225 | 571.32ユーロ | 979.77ユーロ |
| サウジアラビア | 13.450 | 14.795 | 9.833225 | 809.47ユーロ | 1,217.92ユーロ |
| 日本、韓国、インド | 14.030 | 15.433 | 10.471225 | 861.99ユーロ | 1,270.44ユーロ |
| その他の国・地域 | 17.740 | 19.514 | 14.552225 | 1,197.94ユーロ | 1,606.39ユーロ |
| 米国、中国 | 26.640 | 29.304 | 24.342225 | 2,003.85ユーロ | 2,412.31ユーロ |
日本産の計算は、14.030 × 1.10 = 15.433、無償割当調整4.961775を差し引いて製品1トン当たり10.471225枚のCBAM証書、82.32ユーロで製品1トン当たり861.99ユーロです。貴社の数量での推計はCBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
生産ルートが効くのは実排出量で申告する場合だけです。次の表の直接排出の強度は説明用の工学上の目安で、デフォルト値ではありません。そのため、コストは計算していません。
| 生産ルート | 製法 | 直接CO2の目安(tCO2/t H2) | 検証済みの実排出量で申告した場合の2026年の扱い |
|---|---|---|---|
| グレー | SMR、CCSなし | 約9から12 | 4.961775を上回る排出に証書が必要 |
| ブルー | SMR+CCS | 約1から3 | 4.96以下なら証書は不要 |
| ターコイズ | メタン熱分解 | 約0から1 | 4.96以下なら証書は不要 |
| ピンク | 原子力電力による電気分解 | 約0 | 4.96以下なら証書は不要 |
| グリーン | 再生可能電力による電気分解 | 約0 | 4.96以下なら証書は不要 |
見出しの571ユーロは、最も多くの国に適用される10.820のデフォルト値での2026年のコストです。10.820 × 1.10 = 11.902、4.961775を差し引いて6.940225枚、82.32ユーロを掛けて571.32ユーロです。直接排出量ゼロが検証されれば負担はないため、モロッコやチリのような原産国では571.32ユーロ、日本産では861.99ユーロ、独自の表がない国では1,197.94ユーロがそのままコスト差になります。
2027年以降、日本産の水素のコストはどう変わりますか
価格を82.32ユーロで一定とすると、日本産の水素のデフォルト値でのコストは、2026年の製品1トン当たり861.99ユーロから2030年には1,285.69ユーロに上がります。
マークアップが2027年20%、2028年以降30%に上がり、CBAM係数が下がるためです。次の表は、日本の14.030と、最も多くの国に適用される10.820について、年ごとの証書数とコストを示します(82.32ユーロ一定、当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。
| 輸入年 | マークアップ | CBAM係数 | 日本(14.030)の証書数 | 日本のコスト(製品1トン当たり) | 10.820のコスト(製品1トン当たり) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026年 | 10% | 97.5% | 10.471225 | 861.99ユーロ | 571.32ユーロ |
| 2027年 | 20% | 95% | 12.00145 | 987.96ユーロ | 670.86ユーロ |
| 2028年 | 30% | 90% | 13.6589 | 1,124.40ユーロ | 780.88ユーロ |
| 2029年 | 30% | 77.5% | 14.295025 | 1,176.77ユーロ | 833.25ユーロ |
| 2030年 | 30% | 51.5% | 15.618165 | 1,285.69ユーロ | 942.17ユーロ |
| 2034年以降 | 30% | 適用なし | 18.239 | 1,501.43ユーロ | 1,157.91ユーロ |
2034年からはCBAM係数が適用されず、マークアップ付きのデフォルト値全体に価格がかかります。実施規則(EU)2025/2620の前文第10項は2027年以降の輸入品についてベンチマークの更新を予定しているため、2027年以降の数値は目安です。
ブルー水素(SMRと炭素回収・貯留(CCS)の組み合わせ)は、排出量では中間に位置します。検証済みの残余直接排出量が4.96 tCO2e以下であれば、グリーン水素と同じく2026年に証書は不要です。ただし、そのためには検証済みの実排出量が必要です。デフォルト値で申告する場合、ブルー水素もグレー水素と同じ原産国の値になります。
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CBAM係数は2026年の水素の正味コストにどう影響しますか
デフォルト値での水素のCBAMの負担は初年度から大きく、EU法が定めたスケジュールに沿って2034年まで増えていきます。
2026年のCBAM係数は97.5%で、これは指令2003/87/EC第10a条第1a項に基づき無償割当のうち維持される割合です。輸入者が支払う排出量の割合ではありません。必要な証書数は、体化排出量から無償割当調整(CBAM係数×部門横断補正係数×ベンチマーク)を差し引いて求めます。ベンチマークを上回る排出量は、マークアップ分も含めて全額が証書の対象です。
水素の無償割当調整は、2026年には製品1トン当たり4.961775 tCO2eの固定量です。それを上回る排出量は、すべて証書の対象になります。CBAM係数は2029年に77.5%、2030年に51.5%へ下がり、2029年から2030年にかけての引き下げ幅がスケジュールの中で最大です。部門横断補正係数は2026年から2030年まで100%です(実施決定(EU)2026/1862)。
3年以上の供給契約を検討する輸入者にとって重要なのは、2026年の数値だけでなく全体の推移です。82.32ユーロ一定では、10.820のデフォルト値は2026年の571.32ユーロから2029年833.25ユーロ、2030年942.17ユーロに、日本の14.030は861.99ユーロから2029年1,176.77ユーロ、2030年1,285.69ユーロに上がります。
認可CBAM申告者の地位をまだ申請していない輸入者には、別のリスクもあります。本格実施期間中の暫定的な輸入を認める申請の期限は2026年3月31日でした(第17条第7a項、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)により挿入)。認可申告者以外の者には、納付しなかった証書1枚につき第26条第1項の罰金の3倍から5倍(インフレ調整前で300から500ユーロ)が科されます(第26条第2項)。
水素の輸入を誤って免除扱いにしないよう、水素が年間50トンの適用除外の対象外であることをCBAMの50トン基準(英語)でご確認ください。
コスト差は水素の調達・輸出戦略にどう影響しますか
デフォルト値の水素と検証済みの低排出水素のコスト差は、排出量を証明できる生産者をふるい分ける構造的な要因となり、マークアップの上昇と無償割当の段階的な廃止によって2034年まで広がります。
EUの水素の輸入は現在ごく少量です。EU域外からのCNコード 2804 10 00の輸入額は、2023年120万ユーロ、2024年260万ユーロ、2025年680万ユーロです(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。2025年の数量は元データの誤りが明らかなため、金額だけを示します。
日本からの水素の輸入は、2023年3,000ユーロ、2024年89ユーロ、2025年0ユーロです(Eurostat Comext、2025年)。JETROも2026年9月18日の記事で、日本からEUへの水素と電気の輸出実績は確認されなかったとしています。日本企業にとって水素のCBAMが関係するのは、直接の輸出よりも、次の3つの場面です。
- EU子会社が水素を輸入する場合:50トン基準がないため、1トンでも輸入すれば認可CBAM申告者の地位と証書が必要です。
- 日本の施設が将来EUに水素を出荷する場合:検証済みの実排出量がなければ、日本の14.030で評価され、2026年に製品1トン当たり861.99ユーロです。
- 水素を前駆体として使う製品を輸出する場合:アンモニア、尿素、直接還元鉄の体化排出量には、原料の水素の排出が含まれます(次の節)。
欧州会計検査院は特別報告書11/2024のプレスリリースで、"the Commission set overly ambitious targets for the production and import of renewable hydrogen, i.e. 10 million tonnes each by 2030"(欧州委員会は再生可能水素の生産と輸入について、2030年までにそれぞれ1,000万トンという過度に野心的な目標を設定した、当サイト仮訳)と述べ、EUがこの目標を達成する可能性は低いとしています。
グレー水素の調達先を持つEUの輸入者にとって、CBAMの負担は一定のペースではなく、年によって大きく増えます。最も大きく増えるのは、CBAM係数が77.5%から51.5%に下がる2029年から2030年にかけてです。グリーン水素への切り替え、ブルー水素の移行期契約、検証済みの排出量測定は、目標とする移行時期よりかなり前に計画する必要があります。
EU域外の輸出者にとっての機会は明確です。検証済みで直接排出量がほぼゼロの水素は、2026年第3四半期の価格で、10.820のデフォルト値で申告される水素に対し製品1トン当たり571.32ユーロ、日本の14.030に対し861.99ユーロのコスト優位を持ちます。価格が変わらなければ、2034年からはそれぞれ1,157.91ユーロと1,501.43ユーロに広がります。
日本の炭素価格は水素のCBAMで控除されますか
2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。
第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)の実施規則案は2026年5月13日に公表され、2026年11月4日時点で未採択です。控除の対象は実際に支払われた炭素価格だけで、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。
排出量取引制度(GX-ETS)は2026年度(2026年4月から2027年3月)から、二酸化炭素の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者に義務化されました(経済産業省)。欧州委員会がGX-ETSを実際に支払われた炭素価格として扱うか、無償割当分をどう評価するかは未解決です。詳しくはCBAMの炭素価格控除をご覧ください。
英国では、英国CBAMという別の税制度が2027年1月1日に始まり、水素を含む5部門の直接排出量に課税します。英国が2026年10月16日に公表した水素の試算税率はCO2換算トン当たり9.24ポンドで、納税義務を生じない参考値です。これはEU CBAMとは別の制度です(英国CBAM、英語)。
肥料と鉄鋼の前駆体としての水素
水素は取引される製品であるだけでなく、アンモニア、尿素、水素還元鉄に体化排出量を持ち込む上流の前駆体でもあり、肥料と鉄鋼のEUの輸入者にも関係します。
水素は、ハーバー・ボッシュ法によるアンモニア合成(N2 + 3H2 → 2NH3)の主原料です。アンモニア(CNコード 2814)とその下流の尿素(CNコード 3102 10)などの窒素肥料はCBAMの対象製品で、その体化排出量には水素の製造に伴う排出が含まれます。アンモニアの原料をグレー水素からグリーン水素に切り替えると、下流の肥料の輸入者のCBAMの負担が下がります。
日本の表のデフォルト値は、無水アンモニア(CNコード 2814 10 00)が2.190、尿素(CNコード 3102 10 19)が1.520です。肥料のマークアップは毎年1%で、2026年輸入分の証書数は製品1トン当たりそれぞれ0.72795枚と0.65575枚、82.32ユーロで59.92ユーロと53.98ユーロです(当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。詳しくはアンモニアのCBAMをご覧ください。
水素を使う直接還元鉄(水素DRI)は、低排出の鉄鋼を生産する新しいルートです。水素DRIでは鉄鉱石を一酸化炭素ではなく水素で還元します(Fe2O3 + 3H2 → 2Fe + 3H2O)。グリーン水素によるDRIの直接排出はゼロに近く、直接還元鉄(CNコード 7203)とその下流の鉄鋼製品の輸入者の証書義務を直接減らします。鉄鋼の生産ルートとベンチマークはCBAM 鉄鋼部門ガイドで説明しています。
モニタリング規則には、対象外となる場合が1つあります。実施規則(EU)2025/2547付属書I第3.6.1項は、"the consumption of synthesis gas or of hydrogen as precursor within refineries or organic chemical installations, where hydrogen is exclusively used within those plants and not used for the production of goods listed in Annex I to Regulation (EU) 2023/956"(製油所や有機化学施設の中で前駆体として消費される合成ガスや水素で、それらの施設の中だけで使われ、規則(EU)2023/956付属書Iの製品の製造に使われないもの、当サイト仮訳)を対象としていません。
CBAMは輸入量にかかわらずすべての水素に適用されますか
CBAMは量にかかわらずすべての水素の輸入に適用されます。鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料に適用される年間50トンの適用除外から、水素は外されているためです。
規則(EU)2025/2083で改正された規則(EU)2023/956第2a条の50トン基準は、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料について、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下の輸入を免除します。電力と水素は明示的に除外されており、2026年にグレー水素を1トン輸入しただけでも、CBAM証書の義務が生じます。
第2a条第4項は、この除外を1行で定めています。50トン基準の条文は "shall not apply to imports of electricity or hydrogen"(電力または水素の輸入には適用しない、当サイト仮訳)とされ、規則はそれ以上の理由を示していません。
水素の輸入者がとるべきCBAMの実務手順
CNコード 2804 10 00の水素をEUに輸入する者がとるべき実務の手順は4つで、排出量の証拠に厳しい要求がかかる点で他の部門と異なります。
水素の輸入に特有の4つの手順は次のとおりです。
- デフォルト値か実排出量かを決める:付属書Iで原産国のデフォルト値を確認します(多くの国は10.820、日本は14.030、独自の表がない国は17.740)。それより低い値で申告するには、事業者の検証済みの排出量報告書を入手します。グレー水素やブルー水素では、改質炉のCO2、シフト反応のCO2、PSAのパージガスの排出を含む実際の工程データに基づく必要があります。電解水素では、部門横断の規則に沿って施設の直接排出量を記録し、その値はゼロにもなり得ます。RFNBOの書類や日本の低炭素水素等の基準はその代わりになりません。
- 実排出量を使う場合は認定検証機関に依頼する:検証は実排出量で申告する場合にだけ必要で(第8条第1項)、実施規則(EU)2025/2546に基づき、EU加盟国の国家認定機関が認定した検証機関が行います。国家認定機関の登録簿で確認できる認定は2026年10月13日時点で5件(ギリシャのESYD、イタリアのAccredia、スウェーデンのSwedacによる)で、2026年10月23日時点で欧州委員会の認定検証機関リストは未公表です(CBAM認定検証機関)。
- 認可CBAM申告者の地位を申請する:水素には50トン基準がないため、すべての輸入者に地位が必要です。2026年3月31日までに提出した申請では、決定が出るまで暫定的な輸入が認められました(第17条第7a項)。地位なしで輸入する者には、納付しなかった証書1枚につき第26条第1項の罰金(インフレ調整前で1トン当たり100ユーロ)の3倍から5倍が科されます(第26条第2項)。
- 2027年2月1日からの証書調達を計画する:CBAM証書は、2027年2月1日から設立地の加盟国が共通中央プラットフォームで販売します。2027年から、認可申告者は各四半期末に、その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上に相当するCBAM証書を口座に保有する必要があります(第22条第2項)。算定には第31条の無償割当調整が考慮されます。2026年の輸入には四半期末の保有義務はありません。
輸入者の義務全体(認可、登録簿への登録、体化排出量の算定、証書の納付)は、水素の輸入者向けCBAMガイド(英語)で説明しています。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。
グリーン水素ならCBAMのコストは完全になくなりますか
検証済みの実排出量で申告する場合に限ります。電気分解の反応はCO2を出さず、水素は直接排出量だけを数える付属書IIの製品なので、CNコード 2804 10 00で検証済みの実排出量ゼロを申告する輸入者には納付する証書がありません。実施規則(EU)2025/2547は電気分解のシステム境界を定めていないため、同付属書I第3.1項の部門横断の規則が適用されます。
委任規則(EU)2023/1184のRFNBO認証ではこの結果は得られず、検証済みの実排出量がなければ原産国のデフォルト値が適用されます。82.32ユーロで、10.820のデフォルト値は2026年に製品1トン当たり571.32ユーロ、日本の14.030は861.99ユーロです。
義務そのものもなくなりません。輸入者は認可申告者である必要があり、2026暦年の輸入分のCBAM申告書を2027年9月30日までに提出し、申告書を提出した年の後4年目の終わりまで記録を保存します(第7条第6項)。認証の詳細はグリーン水素とCBAMをご覧ください。
ブルー水素はCBAMでグレー水素と同じ扱いですか
デフォルト値では同じです。付属書Iのデフォルト値は原産国ごとに定められ、生産ルートを区別しないため、検証されていないブルー水素はグレー水素と同じ値で申告されます。検証済みの実排出量では異なり、SMRとCCSで作るブルー水素は、回収後の残余直接排出量で申告されます。その値が4.96 tCO2e(0.975 × ベンチマーク5.089)以下であれば、2026年に証書は不要です。
ブルー水素で重要なのは、CCSの回収率を示す検証済みの実排出量のデータです。輸入者がCCSの効率を自己申告することはできず、実施規則に基づく第三者検証が必要です。82.32ユーロで、10.820のデフォルト値なら製品1トン当たり571.32ユーロ、日本の14.030なら861.99ユーロと、ゼロとの差がそのまま検証の価値になります。グレー水素のコストと国別の影響はグレー水素とCBAMで説明しています。
EU ETSの価格は水素のCBAMコストを直接決めますか
はい。規則(EU)2025/2083で改正された規則(EU)2023/956第21条により、CBAM証書の価格はEU ETSの価格から算式で決まります。2026年の輸入にはEU ETSのオークション価格の四半期平均が適用されます(第21条第1a項)。2026年第1四半期は75.36ユーロ、第2四半期は75.28ユーロ、第3四半期は82.32ユーロです。週次価格は2027年の輸入からです(第21条第1項)。
82.32ユーロでは、10.820のデフォルト値の水素は製品1トン当たり571.32ユーロですが、第2四半期の75.28ユーロでは522.46ユーロです。日本産では第2四半期に788.27ユーロです。製品1トン当たりの証書数(2026年に10.820で6.940225枚、日本の14.030で10.471225枚)は価格で変わらないため、コストは価格に比例して動きます。価格の推移はCBAM価格トラッカーとEU ETSの炭素価格(英語)で確認できます。
少量の水素の輸入者は50トン基準でCBAMを避けられますか
避けられません。水素は、規則(EU)2025/2083で改正された規則(EU)2023/956第2a条の年間50トンの適用除外から明示的に外されています。CNコード 2804 10 00で輸入されるすべての水素がCBAMの対象で、輸入者の規模、輸入の頻度、年間の量は関係ありません。電力も同じく除外されています。
50トン基準が水素にも適用されると考えていた輸入者は、認可申告者の地位と2026年輸入分の証書義務を早急にご確認ください。2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。
水素の輸入者はグリーン水素への切り替えを今始めるべきですか、2030年まで待つべきですか
複数年の供給契約を持つ輸入者には、早めの対応が有利です。コストの推移は市場の不確実性ではなく、法令で決まったスケジュールで決まるからです。デフォルト値での2026年のコストは、82.32ユーロで10.820なら製品1トン当たり571.32ユーロ、日本の14.030なら861.99ユーロで、価格が変わらなくても2030年にはそれぞれ942.17ユーロと1,285.69ユーロに上がります。マークアップが30%に達し、CBAM係数が51.5%に下がるためです。
2024年や2025年に結んだ長期のグレー水素契約を持つ輸入者は、供給者が検証済みの実排出量を提供しない限り、この推移をすべて負担します。年ごとのコストはCBAM計算ツールで価格のシナリオを変えて確認できます。法定の算式を公式デフォルト値とベンチマークに当てはめた推計で、拘束力のある数値はCBAM申告書に記載される数値です。日本の状況はCBAMと日本にまとめています。