
EU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)の対象となるセメントクリンカーでは、石灰石の脱炭酸だけでクリンカー1トン当たり約0.52 tCO2が発生します。この値は2006年IPCCガイドライン(第3巻第2章)のデフォルト排出係数によるものです。脱炭酸による排出は工程排出で、省エネでは減らせません。
グレークリンカーに「その他の国・地域」のデフォルト値1.410 tCO2e(CO2換算トン)が適用される場合、2026年第3四半期のCBAM証書の価格(公式値:1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で計算したコストは製品1トン当たり74.22ユーロです。日本産には独自のデフォルト値0.850があり、同じ条件で計算すると製品1トン当たり23.51ユーロです。
根拠となる法令は「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。
セメントは、2026年1月1日に始まった本格実施期間の対象6部門の1つです(EU CBAMの基礎)。クリンカー(CNコード 2523 10 00)は、混合材でまだ薄められていないため、セメント関連製品の中で炭素集約度が最も高い中間製品です。
日本からEUへのクリンカーの輸出は、2025年に1,590ユーロとごくわずかです。ただしクリンカーは、その他の水硬性セメント(CNコード 2523 90 00)の前駆体です。この製品では、日本は金額ベースでEUへの供給国の第4位です。本ページでは、排出の内訳、2026年以降のコスト、日本の炭素価格の扱い、実排出量で申告するかどうかの判断を順に説明します。
キャプション:キルン内の脱炭酸帯では温度が900℃に達し、炭酸カルシウム(CaCO3)が酸化カルシウム(CaO)とCO2に不可逆的に分解します。
クリンカーの炭素集約度がセメント関連製品で最も高い理由
セメントクリンカーは、石灰石(CaCO3)をロータリーキルンで900℃超に加熱し、酸化カルシウム(CaO)とCO2に不可逆的に分解して得る中間製品で、この工程で出るCO2はエネルギー管理では避けられません。
クリンカー1トンの製造には約1.28トンの石灰石が必要です。燃料の燃焼分を除いても、石灰石の脱炭酸だけでクリンカー1トン当たり約0.52 tCO2が発生します。この量は原料の化学組成で決まります。
標準的な乾式キルンで製造するクリンカーの排出源は、総排出量に占める割合の大きい順に次の3つです。
- 石灰石の脱炭酸(工程排出):総CO2の約60%。 原料の炭酸カルシウムの含有量で化学的に決まり、カルシウム分の多い石灰石を使うキルンほど脱炭酸によるCO2が増えます。
- キルンでの燃料燃焼:総CO2の約35%。 石炭、石油コークス、代替燃料を燃やし、クリンカーの焼成に必要な1,450℃までキルンを加熱します。低炭素燃料への転換で減らせる部分です。
- 電力消費:総CO2の約5%。 CBAMではセメントの直接排出量と間接排出量の両方がコストの対象になるため、粉砕や搬送に使う電力の排出も含まれます。
日本のデフォルト値0.850の排出源別内訳
日本のグレークリンカーのデフォルト値0.850は、直接排出量0.82と間接排出量0.03の合計です。
出典は実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の日本の表です。付属書Iは直接排出量を脱炭酸と燃料に分けていないため、次の内訳は、IPCCの係数0.52を当てはめて当サイトが試算した目安です。
| 排出源 | 製品1トン当たり(tCO2e) | 0.850に占める割合 |
|---|---|---|
| 石灰石の脱炭酸(2006年IPCCガイドラインの係数) | 0.52 | 約61% |
| 燃料燃焼(直接排出量0.82から脱炭酸分を差し引いた残り) | 0.30 | 約35% |
| 電力(付属書Iの間接排出量) | 0.03 | 約4% |
| 合計(付属書Iの総排出量) | 0.85 | 100% |
この目安は、上で示した約60%、約35%、約5%という一般的な内訳とほぼ一致します。日本産クリンカーのデフォルト値の約6割は、燃料をすべて切り替えても残る脱炭酸による分です。
完成セメントの体化排出量を決めるクリンカー比率
完成セメントに含まれるクリンカーの割合(クリンカー比率)によって、クリンカーの排出量のうちどれだけが最終製品に移るかが決まります。
欧州規格EN 197-1の区分では、普通ポルトランドセメント(CEM I)のクリンカーは95%から100%、高炉スラグセメント(CEM III)は5%から64%です。日本のJIS R 5211の高炉セメントでは、高炉スラグの分量がA種で5%を超え30%以下、B種で30%を超え60%以下、C種で60%を超え70%以下です。
実排出量で申告する場合、クリンカー比率は、実施規則(EU)2025/2547に基づく事業者の検証済み排出量報告書に記載されます。デフォルト値で申告する場合は、セメント1トン当たりの付属書Iの値が適用され、クリンカー比率は計算に関係しません。
2026年のクリンカーのCBAMコストはどう計算しますか
EUの輸入者は、輸入したクリンカーの体化排出量から無償割当調整を差し引いた分のCBAM証書を納付する必要があり、2026年の無償割当調整はグレークリンカー1トン当たり0.64935 tCO2eです。
計算式は、証書数=max[0,特定体化排出量-無償割当調整-第9条の炭素価格分]×質量です(規則(EU)2023/956第31条、実施規則(EU)2025/2620付属書)。無償割当調整は、CBAM係数97.5%×部門横断補正係数(CSCF)100%(実施決定(EU)2026/1862)×グレークリンカーのベンチマーク0.666で求めます。
2026年のCBAM係数97.5%は、無償割当のうち維持される割合です。無償割当調整は製品1トン当たりの固定量なので、ベンチマークを上回る排出量は、デフォルト値のマークアップ分も含めて、2026年から全額が証書の対象になります。
2026年の輸入には、EU ETSの排出枠のオークション価格の四半期平均が適用されます(第21条第1a項)。2026年第3四半期は1 CO2換算トン当たり82.32ユーロです。週次価格が適用されるのは2027年の輸入からです(第21条第1項)。
グレークリンカーの原産国別コスト(2026年、デフォルト値)
同じグレークリンカーでも、2026年のコストは日本産の製品1トン当たり23.51ユーロから、インド産の76.94ユーロまで3倍以上の差があります。
デフォルト値で申告した場合の2026年のコストを原産国別に比べると、次の表のとおりです。デフォルト値は実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の総排出量を用い、計算は2026年11月4日に当サイトの計算ツールで行いました。
| 原産国 | デフォルト値(tCO2e/t) | マークアップ10%込み | 証書数(製品1トン当たり) | コスト(82.32ユーロ、製品1トン当たり) |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 0.850 | 0.935 | 0.28565 | 23.51ユーロ |
| モロッコ | 0.900 | 0.990 | 0.34065 | 28.04ユーロ |
| 韓国 | 0.920 | 1.012 | 0.36265 | 29.85ユーロ |
| エジプト | 1.270 | 1.397 | 0.74765 | 61.55ユーロ |
| アルジェリア | 1.280 | 1.408 | 0.75865 | 62.45ユーロ |
| 中国 | 1.390 | 1.529 | 0.87965 | 72.41ユーロ |
| 「その他の国・地域」(トルコ、ベトナム、タイ、インドネシアに適用) | 1.410 | 1.551 | 0.90165 | 74.22ユーロ |
| インド | 1.440 | 1.584 | 0.93465 | 76.94ユーロ |
日本の0.850は、グレークリンカーに独自の値を持つ88か国の中で、コスタリカ、エチオピアと並んで最も低い値です。ベトナム、タイ、インドネシアの表にはグレークリンカーの独自の値がなく、「その他の国・地域」の1.410が適用されます。
デフォルト値は原産国ごとに決まります。日本企業の海外工場で生産したクリンカーをEUに出荷する場合、適用されるのはその工場の所在国の値で、日本の0.850は使えません。白色クリンカー(2523 10 00 10)は日本の表が「-」のため「その他の国・地域」の1.370が適用され、2026年のコストは製品1トン当たり55.11ユーロです。
日本産グレークリンカーのコスト推移(2026年から2034年)
日本産グレークリンカーのコストは、マークアップの上昇とCBAM係数の低下により、2026年の製品1トン当たり23.51ユーロから2034年以降の90.96ユーロへと上昇します。
価格を82.32ユーロで一定とし、日本のデフォルト値0.850で計算した年ごとの数値は次のとおりです(当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。比較のため、「その他の国・地域」の1.410の場合のコストも示します。
| 輸入年 | マークアップ | CBAM係数 | 特定体化排出量 | 無償割当調整 | 証書数(製品1トン当たり) | 日本産のコスト | 「その他」1.410のコスト |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2026年 | 10% | 97.5% | 0.935 | 0.64935 | 0.28565 | 23.51ユーロ | 74.22ユーロ |
| 2027年 | 20% | 95% | 1.020 | 0.6327 | 0.3873 | 31.88ユーロ | 87.20ユーロ |
| 2028年 | 30% | 90% | 1.105 | 0.5994 | 0.5056 | 41.62ユーロ | 101.55ユーロ |
| 2029年 | 30% | 77.5% | 1.105 | 0.51615 | 0.58885 | 48.47ユーロ | 108.40ユーロ |
| 2030年 | 30% | 51.5% | 1.105 | 0.34299 | 0.76201 | 62.73ユーロ | 122.66ユーロ |
| 2034年以降 | 30% | 適用なし | 1.105 | 0 | 1.105 | 90.96ユーロ | 150.89ユーロ |
CBAM係数は指令2003/87/EC第10a条第1a項によります。実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項のベンチマークは2026年から2030年の生産年について定められており、2031年から2033年の値はないため表から除いています。同規則の前文第10項では2027年1月1日以降の輸入品についてベンチマークを更新する予定が示されているため、2027年以降の数値は目安です。
日本産グレークリンカーを2026年に1,000トン輸入する場合、必要な証書は285.65枚、コストは2万3,514.71ユーロです。貴社の製品とトン数に合わせた推計はCBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。
キャプション:「その他の国・地域」のデフォルト値1.410の場合、価格を82.32ユーロで一定とすると、グレークリンカーのコストは2026年の製品1トン当たり74.22ユーロから2034年以降は150.89ユーロに上がります。2027年から2033年の数値は現在のベンチマークによるもので、更新される可能性があります。
実排出量での申告が有利になる分かれ目
検証済みの実排出量がマークアップ込みのデフォルト値を下回る場合に限り、実排出量で申告するとデフォルト値よりコストが下がります。
日本産グレークリンカーの場合、その分かれ目は2026年が製品1トン当たり0.935 tCO2e、2027年が1.020、2028年以降が1.105です。価格82.32ユーロでは、排出量が0.1 tCO2e下がるごとにコストが製品1トン当たり8.232ユーロ減ります。
実排出量で申告する場合、差し引く量はA列(Column A)のプロセスベンチマークに基づきます。グレークリンカーのA列の値も0.666で、B列(Column B)と同じです(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項)。CBAMの体化排出量の算定方法はCBAMの体化排出量で詳しく説明しています。
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日本からEUへのクリンカーとセメントの輸出
EUが2025年に日本から輸入したクリンカー(CNコード 2523 10 00)は1,590ユーロ、0.1トンにすぎず、日本のセメント部門の対EU輸出はほぼすべてがその他の水硬性セメント(CNコード 2523 90 00)です。
EUが2025年に日本から輸入したCBAM対象のセメント(付属書Iのコード、クリンカーを含む)は480万ユーロ、5,701トンで、EU域外からの輸入に占める割合は金額ベースで0.45%(第19位)、数量ベースで0.04%(第23位)です(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。JETROも2026年9月18日の記事で、セメント(クリンカー含む)の対EU輸出を480万ユーロとしています。
日本産の主力であるCNコード 2523 90 00の輸入は、2025年に479万2,908ユーロ、5,693.7トンでした。EU域外からの同コードの輸入に占める割合は、金額ベースで8.49%(第4位)、数量ベースで1.12%(第7位)です(Eurostat Comext、2025年)。
金額を数量で割った単価は、日本産が1トン当たり約842ユーロ、EU域外からの同コードの輸入全体では約111ユーロです。日本産は少量・高単価の製品が中心のため、販売価格に占めるCBAMのコストの比率は小さくなります。
日本の表では、グレーの水硬性セメント(2523 90 00 90)のデフォルト値もクリンカーと同じ0.850(ルートA)で、2026年のコストは製品1トン当たり23.51ユーロです。白色(2523 90 00 10)は日本の表が「-」のため、「その他の国・地域」の1.490が適用されます。白色かグレーかを分ける10桁のTARICコードの区分が、コストを大きく左右します。
EU域外からのクリンカーの輸入は2025年に714万7,931トンで、トルコが45.4%、アルジェリアが20.3%、エジプトが18.9%を占めます(数量ベース、Eurostat Comext、2025年)。日本の輸出者向けの分析はCBAM 日本のセメント輸出にまとめています。
省エネだけではクリンカーの排出をなくせない理由
燃料転換と電化で減らせるのは燃料燃焼の約35%と電力の約5%にとどまり、約60%を占める脱炭酸の排出には効果がありません。
脱炭酸はCBAMのセメント部門における中心的な課題です。クリンカーの工程排出を減らす方法は4つあり、2026年時点の状況は次のとおりです。
- クリンカー代替: 高炉スラグ、フライアッシュ、焼成粘土などの混合材でクリンカーを置き換え、完成セメントのクリンカー比率と製品1トン当たりの体化排出量を下げる方法です。2026年時点で商業的に最も普及している方法です。
- 二酸化炭素回収・貯留(CCS): キルンの排ガスからCO2を回収して地中に貯留する方法で、クリンカーの含有量を下げずに脱炭酸の排出を相殺できる唯一の方法です。
- 代替原料: カルシウム分の少ない原料を使い、クリンカー1トン当たりの化学量論的なCO2発生量を下げる方法です。クリンカーの品質規格があるため、配合の選択肢は限られます。
- キルン加熱の電化: 再生可能エネルギー由来の電力でキルンを加熱すれば、燃料燃焼によるCO2(約35%)はなくなりますが、脱炭酸の分は残ります。
焼成粘土(CNコード ex 2507 00 80の焼成したカオリン質粘土)自体もCBAM対象製品です。日本の表は「-」のため、「その他の国・地域」の0.280が適用されます。焼成粘土のベンチマークはクリンカーと同じ0.666で(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項)、2026年の無償割当調整は0.975×0.666=0.64935です。マークアップ込みの0.308はこれを下回るため、2026年の証書数はゼロです(当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。
混合材の比率が高い供給者や、CCSを部分的に導入した供給者からクリンカーを調達する輸入者は、検証済みの実排出量で低い排出量を示せます。CBAM係数は2026年の97.5%から下がり、2034年からは適用されなくなるため、実排出量で申告する経済的なメリットは年々大きくなります。
日本の炭素価格はクリンカーのCBAMコストを減らせますか
2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、控除の実施規則も案の段階です。
第三国で支払われた炭素価格の控除(第9条)に関する実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は2026年6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で未採択です。控除の対象は実際に支払われた炭素価格に限られ、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。
欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。クリンカーの製造に関係する日本の制度と第9条との関係は、次の表のとおりです(2026年11月4日確認)。
| 制度 | 対象と価格 | 開始・状況 | クリンカーのCBAMとの関係 |
|---|---|---|---|
| 地球温暖化対策のための税(温対税) | 化石燃料全般、CO2 1トン当たり289円(環境省) | 2012年10月1日から段階導入、2016年4月1日に最終税率 | セメント製造用の輸入特定石炭は免税(経済産業省の令和9年度税制改正要望)。キルンの主な燃料である輸入石炭(特定石炭)には課されていません |
| 排出量取引制度(GX-ETS) | 直接排出量が前3年度平均で10万トン以上の事業者(経済産業省) | 2026年度(2026年4月から2027年3月)から義務化 | セメントはベンチマーク方式で無償割当(ICAP)。無償割当分は実際に支払われた炭素価格とはみなされません |
| 化石燃料賦課金 | 化石燃料の輸入者などにCO2量に応じて課金(JETRO) | 2028年度から、未施行 | 2026年と2027年の輸入について控除を主張できるものはありません |
未解決の論点は次の3つです。
- 欧州委員会がGX-ETSを「実際に支払われた」炭素価格として扱うか、無償割当分をどう評価するか(JETROも同じ論点を挙げています)
- 日本の年度(4月から3月)を、CBAMの暦年にどう対応させるか
- 上流で課され燃料価格に転嫁される温対税や化石燃料賦課金が、施設の事業者が支払ったものとみなされるか
欧州委員会は2027年から国ごとに年次のデフォルト炭素価格を定めることができ、デフォルト値で申告する場合はこれを参照して控除を請求できます(第9条第4項)。2026年11月4日時点で、日本についてはまだ定められていません。
英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに載せました。英国CBAMは5部門を対象とする独立した税制度で、無償割当分は軽減の対象外です。これはEU CBAMの扱いとは別で、英国の判断からEUでの控除を推測することはできません。詳しくはCBAMの炭素価格控除をご覧ください。
クリンカー輸入へのCBAMの適用とセメントとの境界
クリンカー(CNコード 2523 10 00)は、それ自体がCBAM対象製品であると同時に、ポルトランドセメントや混合セメントの体化排出量に含まれる前駆体でもあります。
クリンカーを直接輸入するEUの輸入者は、クリンカーの体化排出量の全量についてCBAMの義務を負います。ポルトランドセメント(CNコード 2523 29 00)を輸入して実排出量で申告する場合は、事業者の検証済み排出量報告書に記載されたクリンカー比率がCBAMの義務に反映されます。デフォルト値の場合はセメント1トン当たりの付属書Iの値が適用されます。
セメントの全CNコードを含むCBAM対応の全体像はCBAM セメント部門ガイドで説明しています。
CBAMでセメントクリンカーに該当するCNコードは何ですか
セメントクリンカーは、規則(EU)2023/956付属書IのCNコード 2523 10 00に該当します。第25類に属し、混合前・粉砕前のクリンカーだけに割り当てられた唯一のCNコードです。デフォルト値の表は、このコードをTARICコードで白色クリンカー(2523 10 00 10)とグレークリンカーを含むその他のクリンカー(2523 10 00 90)に分けています。
デフォルトのCBAMベンチマークは、グレークリンカーが0.666 tCO2e/t、白色クリンカーが0.859です。「その他の国・地域」のグレークリンカーのデフォルト値は1.410でベンチマークの2倍を超え、日本は0.850です。2026年はマークアップ10%が加わります。一覧はCBAM セメントのCNコードをご覧ください。
クリンカーの輸入に50トン基準は適用されますか
50トン基準はクリンカーの輸入にも適用されます。電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)による改正)。免除は税関申告で申告する必要があります。
この基準は出荷ごとではなく輸入者ごとに適用され、すべてのCNコードと原産国の輸入量を合計して判定します。クリンカー以外のCBAM対象製品も合計に含まれます。
トルコ産のクリンカーはCBAMの対象外ですか
トルコ産のクリンカーはCBAMの対象外ではありません。トルコは2025年にEU域外からのセメントとクリンカーの輸入の43.0%(数量ベース)を供給し、クリンカーだけでは45.4%、324万8,587トンです(Eurostat Comext、2025年)。トルコの2026年から2027年の排出量取引のパイロット制度は排出枠を100%無償で割り当てるため、2026年11月4日時点で、EUの輸入者が第9条で控除できる炭素価格はありません。
付属書Iにはトルコのグレークリンカーの値がないため、「その他の国・地域」の1.410(2026年のマークアップ込みで1.551)が適用されます。価格82.32ユーロで計算すると、コストは無償割当調整前で製品1トン当たり127.68ユーロ、調整後で74.22ユーロです(ベンチマーク0.666、CBAM係数97.5%)。同じ条件の日本産は、調整前で76.97ユーロ、調整後で23.51ユーロです。
クリンカー輸入者の最初のCBAM申告の期限はいつですか
2026年分のCBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の期限は、2027年9月30日です(規則(EU)2023/956第6条第1項、第22条第1項)。輸入者は、2026年中に輸入したすべてのクリンカーの体化排出量を記録し、対応する証書を期限までに納付する必要があります。
記録は、申告書を提出した年(または提出すべきであった年)の4年後の年末まで保存する必要があります(第7条第5項、第7条第6項、第9条第3項)。CBAM証書は、2027年2月1日から、設立地の加盟国が共通中央プラットフォームで販売します(第20条第1項)。最初の期限までに購入と納付に使える期間は約8か月です。
クリンカーの輸入者はデフォルト値を使えますか
クリンカーの輸入者は2026年にCBAMのデフォルト値を使えますが、コストは小さくありません。デフォルト値に加えるマークアップは、実施規則(EU)2025/2621により2026年10%、2027年20%、2028年以降30%です。2026年のトルコ産はマークアップ込みで1.551となり、無償割当調整0.64935を差し引くとコストは製品1トン当たり74.22ユーロです。日本産は0.935で、同じく23.51ユーロです。
トルコのセメント業界団体が報告する会員のグレークリンカーの排出量約0.88 tCO2/tは業界団体の数値で、検証済みの実排出量ではないため、ここでは計算に使いません。実排出量による節約額は、施設ごとの検証済み排出量で決まります。マークアップが倍になる2027年より前に、供給者と検証の準備を始めることをお勧めします(CBAMのデフォルト値、輸入者の手順はセメント輸入者向けCBAMガイド(英語))。
脱炭酸はすべてのセメントの種類に同じ影響を与えますか
脱炭酸はクリンカーを使うすべてのセメントに影響しますが、完成セメントへの影響はクリンカー比率によって変わります。CEM I(クリンカー95%から100%)は脱炭酸の負担をほぼそのまま負い、CEM II(混合セメント、クリンカー65%から94%)は混合材の分だけ体化排出量が下がり、CEM III(スラグセメント、クリンカー5%から64%)で最も大きく下がります。
混合セメントをEU市場に供給する輸出者は、純粋なポルトランドセメントの供給者に比べて、CBAMのコスト面で大きく有利です。日本の高炉セメントのようにスラグの比率が高い製品も、実排出量で申告すれば低い体化排出量を示せます。
日本のクリンカーやセメントの生産者にCBAMの義務はありますか
日本のクリンカーやセメントの生産者に、CBAMの法的義務はありません。CBAM申告書の提出とCBAM証書の納付の義務は、EUの認可CBAM申告者(輸入者またはその間接的通関代理人)が負います。生産者は、CBAM登録簿内の事業者用ポータル(O3CI)に施設を登録し、検証済みのデータを提供できます。
検証は実排出量で申告する場合に必須で(第8条第1項)、施設が初めて検証を受ける年には現地訪問が必要です(実施規則(EU)2025/2546第2条)。CBAM検証機関を認定できるのはEU加盟国の国家認定機関(NAB)だけです。各国の国家認定機関の登録簿で確認できる認定は2026年10月13日時点で5件で、欧州委員会の認定検証機関リストは2026年10月23日時点で未公表です。
日本の検証機関は、域外からの申請を受け付ける7つの国家認定機関のいずれかに申請します。GX-ETSの登録確認機関であることは、CBAMの検証資格になりません。詳しくはCBAM認定検証機関とCBAMと日本をご覧ください。算定や検証の支援事業者の紹介はCBAMの相談窓口から無料で依頼できます。