高炉・転炉法(BF-BOF)の鉄鋼とCBAM:ベンチマーク1.370 tCO2e/tの意味と日本産鋼材のコスト

高炉・転炉法(BF-BOF)の熱延鋼板(CNコード 7208)のCBAMベンチマークは1.370 tCO2e/tです。

このページの内容
コークスと焼結鉱・ペレットを高炉に入れて銑鉄をつくり、銑鉄とスクラップを転炉で粗鋼にする流れの図。CO₂は高炉と転炉で発生し、CBAMは直接排出量を算定、前駆体の体化排出量は次の製品に引き継がれます。

高炉・転炉法(BF-BOF)の熱延鋼板(CNコード 7208)に適用されるEU炭素国境調整措置(CBAM、JETROや欧州委員会の和訳では「炭素国境調整メカニズム」)のデフォルト値用ベンチマークは、製品1トン当たり**1.370 tCO2e(CO2換算トン)**です。この値は実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項に定められており、炭素鋼の生産ルートの中で最も高い値です。

ベンチマークそのものはコストではありません。体化排出量から差し引く無償割当調整の基礎となる値で、2026年の差し引き量は製品1トン当たり1.33575 tCO2eです。これを2026年第3四半期の公式価格(1 CO2換算トン当たり82.32ユーロ、2026年10月5日公表)で換算すると、製品1トン当たり109.96ユーロに相当します。

日本産の熱延鋼板を2026年にデフォルト値で輸入する場合、製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書が必要で、コストは製品1トン当たり80.20ユーロです。同じ条件で、中国産は178.63ユーロ、インド産は277.60ユーロです。本ページでは、ベンチマークとデフォルト値の違い、日本の電炉材も高炉ルートで評価される理由、2034年までのコスト推移、日本の炭素価格の扱いを順に解説します。

キャプション:高炉・転炉法の生産ルートの模式図です。鉄鉱石とコークスの投入から粗鋼の生産までの工程ごとに、主な排出源を示しています。


高炉・転炉法のCBAMベンチマーク1.370 tCO2e/tは何を表していますか

1.370 tCO2e/tは、熱延鋼板(CNコード 7208)のルート(C)「高炉・転炉法による炭素鋼」に適用されるColumn Bのデフォルト値用ベンチマークで、デフォルト値で申告する場合の無償割当調整を決める値です。

この値は輸入者が申告する排出量ではなく、高炉材のすべての製品に共通する値でもありません。同じルート(C)でも、半製品(CNコード 7207 11 14、7207 12 10)と棒鋼は1.364、冷延鋼板(CNコード 7209)は1.458、めっき・被覆鋼板(CNコード 7210)は1.491です。実施規則(EU)2025/2620の前文第10項によると、これらの値はEU排出量取引制度(EU ETS)のベンチマークの推計に基づくもので、2027年1月1日以降の輸入品には更新値を適用する予定です。

ベンチマークが重要なのは、そこから差し引き量が決まるためです。製品1トン当たりの無償割当調整は「CBAM係数×部門横断補正係数(CSCF)×ベンチマーク」で求め、2026年は0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575 tCO2eです。CBAM係数は指令2003/87/EC第10a条第1a項に、部門横断補正係数は実施決定(EU)2026/1862に定められています。

高炉材の体化排出量は、この差し引き量を大きく上回ります。日本の熱延鋼板のデフォルト値は2.100、マークアップ後は2.310 tCO2eで、中国は3.187、インドは4.280です(実施規則(EU)2025/2621付属書I)。ベンチマークを上回る排出量には、1トンごとに証書価格の満額がかかります。そのため、高炉材の2026年の負担を、総コストに小さな一定割合を掛けて求めることはできません。

CBAMの根拠法令は、「炭素国境調整メカニズム(CBAM)を規定する、2023年5月10日の欧州議会および理事会規則(EU)2023/956」です。CBAMは、規則(EU)2023/956に基づき、EUの輸入者に対し、輸入品の体化排出量に応じたCBAM証書の購入と納付を求める、EU ETSの価格に連動した証書制度です。全体像はEU CBAMの解説にまとめています。

高炉材の計算方法は2通りあります。デフォルト値で申告する場合は、付属書Iのデフォルト値にマークアップを加え、Column Bのベンチマークを差し引きます。実排出量で申告する場合は、検証済みの排出量から、Column Aのプロセスベンチマーク(CNコード 7208では0.044)と前駆体に含まれる無償割当を差し引きます。どちらが有利かは施設によって異なるため、両方を試算する必要があります。


CBAMで高炉・転炉法はどのように区分されますか

デフォルト値で申告する場合、生産ルートは製鉄所ごとに判定されず、原産国の付属書Iの表に記載されたルートで決まります。

実施規則(EU)2025/2620付属書第5.1項は、実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)の国別の行に記載された生産ルートを使うよう定めています。中国、インド、トルコ、韓国、日本、ウクライナの表では、ルート記号のある鉄鋼の行はすべて高炉・転炉法で、炭素鋼は(C)、低合金鋼は(F)です。

スクラップ電炉法を記載している表は、アゼルバイジャン、ミャンマー、北マケドニア、フィリピン、タイ、ウズベキスタンの6つだけです。実排出量で申告する場合は、事業者が施設の生産ルートを報告し、認定検証機関がそれを確認します。

熱延鋼板のベンチマークは、各ルートの排出特性を反映して、ルートごとに大きく異なります。次の表は、CNコード 7208のColumn Bの値、それぞれの2026年の差し引き量、2026年第3四半期の公式価格での価値を示しています(実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項)。

生産ルート(第5.3項の凡例) Column Bのベンチマーク、CNコード 7208(tCO2e/t) 2026年の差し引き量(ベンチマーク × 0.975) 差し引き量の価値(82.32ユーロ換算)
(C)高炉・転炉法による炭素鋼 1.370 1.33575 製品1トン当たり109.96ユーロ
(D)直接還元鉄(DRI)を使う電炉法による炭素鋼 0.481 0.46898 製品1トン当たり38.61ユーロ
(E)スクラップ電炉法による炭素鋼 0.072 0.07020 製品1トン当たり5.78ユーロ

3つのルートの全体像と、熱延コイルから川下製品へ前駆体の体化排出量が引き継がれる仕組みは、CBAM 鉄鋼部門ガイドで説明しています。

日本の電炉材もデフォルト値では高炉・転炉法として評価されます

日本の表の鉄鋼の行には電炉法のルートが1つもないため、日本の電炉メーカーの製品も、デフォルト値では高炉・転炉法のベンチマークで計算されます。

日本の表(283行)の鉄鋼の行のうち、ルート記号があるのは(C)103行、(F)32行、併記(C/F)6行で、電炉法の(D)(E)(G)(H)(J)の行はありません(実施規則(EU)2026/1740による置き換え後の実施規則(EU)2025/2621付属書I、日本の表を2026年11月4日に集計)。ルート記号のない行は、鉄鉱石、銑鉄、合金鉄、ステンレス鋼などです。

デフォルト値で申告する限り、この仕組みは日本の電炉材に有利に働く面があります。ルート(C)の1.370は同じCNコードのスクラップ電炉法の値(0.072)の19倍で、差し引き量も19倍になるからです。一方、申告する排出量は高炉材と同じ日本のデフォルト値(熱延鋼板で2.100)にマークアップを加えた値です。

電炉材の実排出量がこれを大きく下回る場合は、実排出量への切り替えを検討する価値があります。ただし、実排出量で申告すると差し引く量の基準もColumn Aと前駆体の無償割当に変わるため、両方の計算結果を比較してください。電炉法の扱いはCBAMと電炉法(EAF)で詳しく説明しています。


高炉・転炉法の工程と付属書Iの対象製品

高炉・転炉法の主な中間製品は、凝結させた鉄鉱石、銑鉄、半製品の3つで、いずれも付属書Iの対象製品として前駆体になります。

JETROは2026年9月18日の記事で、高炉ルートの熱延鋼板(CNコード 7208)を例に、焼結工場、高炉、転炉、熱間圧延の各工程と前駆体の流れを図解しています。各工程の付属書Iの製品について、日本のデフォルト値とベンチマークを並べると次の表のとおりです(実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)、実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項)。

工程 製品(CNコード) 日本のデフォルト値(総排出量、tCO2e/t) Column B(デフォルト値用) Column A(実排出量用)
焼結・ペレット工場 凝結させた鉄鉱石(2601 12 00) 0.200(直接0.16、間接0.04) 0.086 0.086
高炉 銑鉄(7201 10 11) 1.960 1.210(ルート記号なし) 1.089
転炉・連続鋳造 半製品、スラブ(7207 12 10) 2.100(ルートC) 1.364(C) 0.188(C)
熱間圧延 熱延鋼板(7208 51 20) 2.100(ルートC) 1.370(C) 0.044

凝結させた鉄鉱石(焼結鉱やペレット)は付属書IIに記載がないため、鉄鋼部門で唯一、間接排出量も算定に含まれます。2025年のEUの日本からの鉄鉱石輸入はゼロでした(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。

日本の銑鉄(CNコード 7201 10 11)を2026年にデフォルト値で輸入すると、1.960 × 1.10 = 2.156、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.210 = 1.17975、差し引き製品1トン当たり0.97625枚のCBAM証書が必要で、82.32ユーロ換算で製品1トン当たり80.36ユーロです(当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。CNコード別の一覧はCBAM 鉄鋼のCNコードにあります。


日本産と中国産で高炉材のCBAMコストはどれだけ違いますか

コストを左右するもう一つの要素はデフォルト値で、日本の熱延鋼板のデフォルト値2.100 tCO2e/tは、中国の3.187を大きく下回ります。

日本産の熱延鋼板(CNコード 7208 51 20)の2026年の計算は、2.100 × 1.10 = 2.310、無償割当調整 0.975 × 1.00 × 1.370 = 1.33575、差し引き製品1トン当たり0.97425枚のCBAM証書、2026年第3四半期の価格82.32ユーロで製品1トン当たり80.20ユーロです。無償割当調整を差し引く前のコストは製品1トン当たり190.16ユーロです。

中国のデフォルト値は、スラブ(CNコード 7207 12 10)が3.169、熱延鋼板(CNコード 7208)が3.187です。2026年のマークアップ10%を加えると熱延鋼板の申告排出量は3.5057 tCO2e、差し引き量は1.33575で、製品1トン当たり2.16995枚の証書が必要です。82.32ユーロ換算で製品1トン当たり178.63ユーロ、無償割当調整を差し引く前では288.59ユーロです。

同じ熱延鋼板を2026年にデフォルト値で輸入した場合の原産国別のコストは、次のとおりです(82.32ユーロ、当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。

原産国 デフォルト値(tCO2e/t) マークアップ後(2026年) 証書数(製品1トン当たり) コスト(製品1トン当たり)
日本 2.100 2.310 0.97425 80.20ユーロ
韓国 2.118 2.3298 0.99405 81.83ユーロ
英国 2.420 2.662 1.32625 109.18ユーロ
トルコ 2.428 2.6708 1.33505 109.90ユーロ
中国 3.187 3.5057 2.16995 178.63ユーロ
インド 4.280 4.708 3.37225 277.60ユーロ

マークアップ付きのデフォルト値と製鉄所の検証済み排出量との差が、実排出量で申告する経済的な理由になります。検証済み排出量がマークアップ後のデフォルト値を0.1 tCO2e下回るごとに、82.32ユーロ換算で製品1トン当たり8.23ユーロの差が生じます。ただし、実排出量で申告すると差し引きの基準もColumn BからColumn Aと前駆体に変わるため、その調整は別途計算します。

この差は、マークアップが2027年に20%、2028年以降に30%へ上がるにつれて広がります。施設の排出量データから製品1トン当たりの数値を求める方法は、CBAMの体化排出量の算定で説明しています。デフォルト値とマークアップの全体はCBAMデフォルト値にあります。


高炉・転炉法の鉄鋼で対象になるのは直接排出量だけです

高炉・転炉法の鉄鋼は規則(EU)2023/956付属書IIに記載されているため、CBAMで価格が付くのは直接排出量だけです。

生産工程で消費する電力による間接排出量は除外されます。EUの鉄鋼メーカーは電力の間接コストについてEU ETSの補償を受けており、それとの均衡を保つための制度上の判断です。このため、付属書Iの鉄鋼製品のデフォルト値では、間接排出量の欄が「N/A」となっています。部門内の唯一の例外は、付属書IIに記載のない凝結させた鉄鉱石(CNコード 2601 12 00)です。

CBAM申告書で報告する体化排出量の排出源は2つです。主な排出源は高炉で還元剤として消費するコークスなどから出るCO2で、次いで転炉で溶銑中の炭素が酸化して出るCO2です。補機、圧延機、構内物流を動かす電力は、CBAMの計算に含まれません。

圧延鋼板(CNコード 7208から7212、熱延コイルと冷延コイルを含む)の輸入者は、上流の粗鋼生産の体化排出量を、マスバランスによる配分で引き継ぎます。銑鉄(CNコード 7201)と半製品(CNコード 7207)は付属書Iの対象製品で、棒鋼、線材、線(CNコード 7213から7217)も対象です。


高炉材のCBAM対応:EUの輸入者の手順と日本の輸出者の役割

高炉材を輸入するEUの輸入者は、規則(EU)2025/2083(CBAM簡素化規則)で改正された規則(EU)2023/956に基づき、決まった順序でCBAM証書の義務を履行します。

日本の鉄鋼メーカーや商社にCBAMの法的義務はなく、義務を負うのはEUの輸入者またはその間接的通関代理人です。輸出者の役割は、手順2の検証済みデータを提供することです。EUの輸入者がとる4つの手順は、実行順に次のとおりです。

  1. 認可CBAM申告者の資格を取得します。CBAM登録簿で申請し、管轄当局が認可します。認可を待つ間も暫定的に輸入を続けるための申請期限は、2026年3月31日でした(第17条第7a項)。
  2. 輸出元の高炉・転炉法の施設から検証済みの体化排出量データを入手します。検証済みデータがない場合は、付属書Iのデフォルト値にマークアップを加えて使います。
  3. 2027年から、各四半期末に、その暦年の初めから輸入した製品の体化排出量の50%以上に相当するCBAM証書を口座に保有します(第22条第2項)。算定には第31条の無償割当調整が考慮されます。CBAM証書の販売は2027年2月1日に始まり、2026年の輸入には四半期末の保有義務はありません。
  4. 2026年分のCBAM申告書を2027年9月30日までに提出し、必要な数のCBAM証書を納付します(第6条第1項、第22条第1項)。

納付しなかったCBAM証書1枚につき、EU ETSの超過排出罰金(指令2003/87/EC第16条第3項、インフレ調整前で1トン当たり100ユーロ、欧州消費者物価指数で調整)と同額の罰金が科されます(第26条第1項)。認可申告者以外の者が義務を守らずに輸入した場合は、その3倍から5倍(インフレ調整前で300から500ユーロ)です(第26条第2項)。

四半期末の保有不足には1トン当たりの罰金はありません。管轄当局が申告者に通知し、申告者は1か月以内に不足分を補います(第22条第3項)。日本の施設がデータを共有する方法はCBAM事業者用ポータル(O3CI)で説明しています。

キャプション:中国産の熱延鋼板(CNコード 7208)をデフォルト値で輸入した場合の製品1トン当たりのCBAMコストは、証書価格を82.32ユーロで一定とした場合、2026年輸入分の178.63ユーロから、CBAM係数が適用されなくなる2034年以降は341.06ユーロに上がります。


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高炉材のCBAMコストは2034年までどう上がりますか

デフォルト値で高炉材を輸入する場合、2026年のコストは今後で最も低い水準であり、長期計画にそのまま使うと判断を誤ります。

輸入者の負担を押し上げる要因は2つあります。デフォルト値のマークアップは2026年の10%から2027年に20%、2028年以降に30%へ上がります。指令2003/87/EC第10a条第1a項に定める無償割当の維持割合であるCBAM係数は、2026年の97.5%から2030年には51.5%に下がり、2034年からは適用されなくなります。

次の表は、熱延鋼板(CNコード 7208、ルート(C)のベンチマーク1.370)をデフォルト値で輸入した場合の製品1トン当たりの純コストを、4つの原産国について示しています(証書価格82.32ユーロ一定、当サイトの計算ツール、2026年11月4日計算)。

年 CBAM係数 マークアップ 差し引き量(tCO2e/t) 日本(2.100) トルコ(2.428) 中国(3.187) インド(4.280)
2026年 97.5% 10% 1.33575 80.20ユーロ 109.90ユーロ 178.63ユーロ 277.60ユーロ
2027年 95% 20% 1.30150 100.31ユーロ 132.71ユーロ 207.69ユーロ 315.66ユーロ
2028年 90% 30% 1.23300 123.23ユーロ 158.33ユーロ 239.56ユーロ 356.53ユーロ
2029年 77.5% 30% 1.06175 137.33ユーロ 172.43ユーロ 253.66ユーロ 370.63ユーロ
2030年 51.5% 30% 0.70555 166.65ユーロ 201.75ユーロ 282.98ユーロ 399.95ユーロ
2034年以降 適用なし 30% 0 224.73ユーロ 259.83ユーロ 341.06ユーロ 458.03ユーロ

CBAM係数の最も大きな下げ幅は2029年から2030年にかけての77.5%から51.5%で、どの原産国でもコストは製品1トン当たり29.32ユーロ上がります。部門横断補正係数は2030年までしか100%と定められていないため(実施決定(EU)2026/1862)、2031年から2033年のコストは算出できません。

実施規則(EU)2025/2620の前文第10項は2027年以降の輸入品についてベンチマークの更新を予定しているため、2027年以降の行は目安です。貴社の製品とトン数での推計はCBAM計算ツールで確認できます。規則(EU)2025/2621および2025/2620の公式デフォルト値とベンチマークに基づく推計です。拘束力のある数値は貴社のCBAM申告書に記載される数値です。


日本の炭素価格は高炉材のCBAMコストを減らせますか

2026年11月4日時点で、日本の炭素価格はEU CBAMの第9条で認められておらず、第三国で支払われた炭素価格の控除に関する実施規則も案の段階です。

実施規則案は2026年5月13日に公表され、意見募集は2026年6月10日に締め切られましたが、2026年11月4日時点で未採択です。どの国の炭素価格もまだ認められていません。控除の対象は実際に支払われた炭素価格に限られ、リベートなどの補償は差し引かれます(第9条第1項)。欧州委員会の日本語ガイダンスは「排出量取引制度の場合、無償割当はリベートとみなされる」と説明しています。

高炉材にとって特に重要な点は2つあります。第一に、地球温暖化対策のための税(CO2 1トン当たり289円、環境省)は、鉄鋼、コークス、セメント製造用の輸入特定石炭を免税としています(経済産業省の令和9年度税制改正要望)。高炉の排出の大部分を占める石炭には、温対税が課されていません。

第二に、2026年度(2026年4月から2027年3月)に義務化された排出量取引制度(GX-ETS)は、鉄鋼にベンチマーク方式で排出枠を無償割当しています(ICAP)。このベンチマークはGX-ETSの割当の基準で、CBAMのベンチマーク(実施規則(EU)2025/2620)とは別のものです。無償割当分は、実際に支払われた炭素価格には当たりません。

まだ答えの出ていない論点は、次の3つです。

  • 欧州委員会がGX-ETSを「実際に支払われた」炭素価格として扱うか、無償割当分と上限価格での支払いをどう評価するか(JETROも2026年9月18日の記事で同じ論点を挙げています)
  • 日本の年度(4月から3月)を、CBAMの暦年(1月から12月)にどう対応させるか
  • 上流で課され燃料価格に転嫁される温対税や、2028年度に始まる化石燃料賦課金が、施設の事業者が支払ったものとみなされるか

デフォルト値で申告する場合、2027年から欧州委員会が国ごとに定めることのできる年次のデフォルト炭素価格を参照して控除を請求できます(第9条第4項)。日本についてはまだ定められていません。

英国は2026年8月27日、GX-ETSを英国CBAMの適格炭素価格制度(QCPS)の暫定リストに載せましたが、これはEU CBAMの扱いとは別の判断です。詳しくはCBAMの炭素価格控除とCBAMと日本をご覧ください。


よくある質問

高炉・転炉法の鉄鋼に適用される2026年のCBAMベンチマークはいくつですか

高炉・転炉法の鉄鋼のデフォルト値用ベンチマークは、CNコードによって異なります。熱延鋼板(CNコード 7208)は製品1トン当たり1.370 tCO2e、半製品(CNコード 7207 11 14、7207 12 10)と棒鋼は1.364、冷延鋼板(CNコード 7209)は1.458、めっき・被覆鋼板(CNコード 7210)は1.491です。

これらの値は実施規則(EU)2025/2620付属書第5.3項のColumn Bに、ルート(C)の値として記載されています。デフォルト値で申告し、原産国の付属書Iの行にルート(C)が記載されている場合に適用されます。

高炉・転炉法のCBAMベンチマークに電力の排出量は含まれますか

含まれません。高炉・転炉法の鉄鋼は規則(EU)2023/956付属書IIに記載されており、価格が付くのは直接排出量だけです。生産工程での電力消費は、鉄鋼のCBAMの計算から除外されます。

実排出量と1.370のベンチマークのどちらを使うのがよいですか

この2つは二者択一の関係にはありません。輸入者が選ぶのは実排出量とデフォルト値のどちらで申告するかで、どちらの方法でもベンチマークに基づく量が差し引かれます。デフォルト値では、マークアップ付きの付属書Iのデフォルト値(2026年の日本産熱延鋼板で2.310、中国産で3.5057)から、1.370に基づく差し引き量を引きます。

実排出量では、検証済みの排出量から、Column Aのベンチマークと前駆体に含まれる無償割当を引きます。実排出量で申告すればマークアップはかかりません。デフォルト値ではマークアップ分にも満額の証書が必要なため、マークアップが2027年に20%、2028年以降に30%へ上がるほど、検証を受ける動機は強まります。供給者ごとに両方を試算してください。検証と提出の手順は鉄鋼輸入者のCBAM対応(英語)にあります。

中国と日本の高炉材のデフォルト値はいくつですか

実施規則(EU)2025/2621付属書I(実施規則(EU)2026/1740により差し替え)は、中国のスラブ(CNコード 7207 12 10)を3.169、熱延鋼板(CNコード 7208)を3.187 tCO2e/tとし、いずれもルート(C)です。2026年のスラブの輸入では、マークアップ後3.4859、差し引き量0.975 × 1.364 = 1.3299、証書は製品1トン当たり2.1560枚で、82.32ユーロ換算で製品1トン当たり177.48ユーロ(無償割当調整を差し引く前は286.96ユーロ)です。

日本のスラブと熱延鋼板は、いずれも2.100(ルートC)です。2026年のスラブの輸入では、マークアップ後2.310、差し引き量1.3299、証書は製品1トン当たり0.9801枚で、製品1トン当たり80.68ユーロです。

高炉・転炉法のルートに当たるCNコードはどれですか

ルート(C)は、第72類と第73類の炭素鋼のコードに記載されています。半製品(7207)、圧延鋼板(7208から7212)、棒鋼、線材、線(7213から7217)が含まれます。銑鉄(7201)にはルート記号のない単一のベンチマークがあります。デフォルト値では、ルートは製鉄所の判定ではなく、原産国の付属書Iの行で決まります。ベンチマークの一覧と計算はCBAM 鉄鋼ベンチマーク2026年にあります。

高炉材にも50トン基準は適用されますか

適用されます。電力と水素を除き、輸入者ごとに暦年の累積正味重量が50トン以下であれば義務が免除されます(第2a条、付属書VII第1項)。この50トン基準は、高炉材を含む鉄鋼にも適用されます。

基準はすべてのCNコードと原産国を合算して判定するため、鉄鋼はセメント、アルミニウム、肥料と合わせて数えます。この基準は規則(EU)2025/2083で挿入された規定で、免除を受けるには税関申告でその旨を申告する必要があります。

高炉・転炉法のベンチマークは2026年以降に変わりますか

実施規則(EU)2025/2620の値は2026年の輸入品に適用されます。同規則の前文第10項は、2026年から2030年のEU ETSの最終ベンチマークに基づく更新値を、2027年1月1日以降の輸入品について予定しています。2026年11月4日時点で、欧州委員会のCBAM法令ページに改正規則は掲載されていません。

炭素鋼の行は単一の値ですが、合金鋼とステンレス鋼の行には、すでに2026年から2027年と2028年から2030年の別々の値が記載されています。これとは別に、デフォルト値のマークアップは実施規則(EU)2025/2621により2026年の10%から2027年に20%、2028年以降に30%へ上がります。


補足:高炉・転炉法と他の生産ルートでCBAMの扱いはどう違いますか

1.370のベンチマークは、同じCNコードのスクラップ電炉法の値(0.072 tCO2e/t)の19倍で、ルート(C)の行では差し引き量も19倍になります。デフォルト値で申告する限り、この点はルート(C)を記載する原産国に有利に働きます。高炉メーカーへの圧力は、むしろ高いデフォルト値から生じます(CNコード 7208で中国3.187、インド4.280)。

EUは2025年にトルコから約743万トン、インドから約401万トン、日本から80万9,223トンのCBAM対象の鉄鋼(第72類と第73類の付属書I製品)を輸入しました(ユーロスタット(Eurostat)Comext DS-045409、2025年(2026年10月12日抽出))。日本からの金額は12億4,590万ユーロで、EU域外からの輸入に占める割合は金額ベースで2.04%、第13位です。3か国の表はいずれもルート(C)を記載しています。

日本からの主な高炉系の品目は、熱延鋼板(CNコード 7208、2億1,673万ユーロ、34万6,721トン)、冷延鋼板(7209、1億1,888万ユーロ)、めっき・被覆鋼板(7210、9,436万ユーロ)です(Eurostat Comext、2025年)。

2026年11月4日時点でどの国の炭素価格も第9条で認められていないため、これらの原産国から調達する輸入者に控除はありません。トルコの排出量取引の試行制度(2026年から2027年)は、2026年8月27日公布の排出量取引制度規則と炭素市場委員会の2026年9月3日・10月1日の決定に基づき、100%無償割当です(2026年10月12日時点)。

施設単位の排出量報告書から製品1トン当たりの数値を求める手順と、川下製品の前駆体の配分は、CBAM 鉄鋼の算定ガイドで説明しています。日本の鉄鋼製品別のコストと輸出者の対応策は日本の鉄鋼輸出とEU CBAMにまとめています。

英国の高炉材は第9条の控除を受けられますか

2026年11月4日時点で受けられません。英国はEU ETSと連結していない独自の英国排出量取引制度(UK ETS)を運用しており、CBAMの適用除外国でもありません。UK ETSを含め、どの国の炭素価格も規則(EU)2023/956第9条で認められておらず、第三国で支払われた炭素価格に関する実施規則は案の段階です。

英国の高炉施設から調達するEUの輸入者は、第9条の控除がない前提で計画する必要があります。英国の熱延鋼板(CNコード 7208)のデフォルト値は2.420 tCO2e/tで、2026年の輸入では82.32ユーロで製品1トン当たり109.18ユーロです。

高炉材はCBAMの迂回防止の対象になりますか

規則(EU)2023/956は、迂回のおそれのある国や生産ルートを名指ししていません。第27条は迂回を、CBAMの義務を避けること以外に十分な理由や経済的な正当性のない慣行から生じる貿易パターンの変化と定めています。例として、付属書Iの対象外になるよう製品をわずかに変えること、50トン基準を下回るよう輸入を人為的に分割することの2つを挙げています。欧州委員会はこうした慣行を監視し、調査を開始できます。

欧州委員会提案COM(2025)989(法律ではありません)が採択されれば、低いデフォルト値の適用を受けるためにサプライチェーンを人為的に調整することも迂回行為に含まれることになります。欧州議会は2026年9月15日に交渉方針を採択し(賛成464、反対50、棄権159)、2026年10月20日の第1回三者協議(トリローグ)では全体合意に至っていません。輸入者は製品の原産地と排出量の記録を残してください。詳しくはCBAMの迂回防止をご覧ください。


データ出典:規則 (EU) 2023/956 · 規則 (EU) 2025/2083(オムニバス)· 実施規則 2025/2621 · EEX経由のEU ETSデータ。法的助言ではありません。